65.燃える、闘拳。
3人称視点です。
『赤の下級悪魔』たちを牽制しているマンティスチームの中で、一体の『マナ・ボクサー・マンティス』が“一対一”の状況を作り出す。
そして、もう一体の『マナ・ボクサー・マンティス』がその状況を維持できるようにフォローする。
バトルジャンキーな『マナ・ボクサー・マンティス』は、レベル差を気にも止めず“タイマン勝負”を挑もうとしていた。
『マナ・ボクサー・マンティス』は、『ボクサーカマキリ』が魔物化したものである。
『ボクサーカマキリ』は、鎌腕の下方部分がボクサーのグローブのように大きく広がっている。
そして、このグローブ付きの鎌をボクサーのファイティングポーズのように構えると、パンチの如き動きで、鎌攻撃を繰り出すトリッキーな戦士なのである。
『赤の下級悪魔』もタイマンを挑まれていることを理解したらしく、舌舐めずりしながら、余裕の笑みを浮かべる。
『マナ・ボクサー・マンティス』は、ファイティングポーズからの踏み込みと同時に、ジャブを繰り出す……
……が、『赤の下級悪魔』は避けるどこか、筋肉の塊のような腕で敢えて受け止める。
そして、動きを止めたところに、火炎放射を浴びせる。
『マナ・ボクサー・マンティス』は、鎌腕でガードして、辛うじて顔への直撃を避ける。
だが、その隙を狙っていた『赤の下級悪魔』が、鎌腕のガードごと殴りつける。
土煙を上げながら吹き飛ぶ『マナ・ボクサー・マンティス』……
だが……闘志は消えていない。
バトルジャンキーは、伊達じゃない。
鋭く『赤の下級悪魔』を睨み付けると、首を傾げながらゆっくりと立ち上がる。
炎のような眼光を放ちながら……。
嗜虐の笑みを浮かべ近づいてくる『赤の下級悪魔』に対し、再びファイティングポーズをとる。
どんな状況であろうと『マナ・ボクサー・マンティス』に、ギブアップの文字は無い。
折れぬ心で戦うのみなのだ。
『マナ・ボクサー・マンティス』は一度目を閉じ、精神統一する。
静かに目を開けると、火炎に昇華した眼光で、膝を曲げスクワットのような動きをする。
……やがて……体から蒸気を発する。
その蒸気は次第に、半透明の炎のような形状になる。
そして鎌腕のグローブ部分が赤い炎を纏う。
首には、まるで赤いタオルのような炎のアーチがかかる。
これは、種族固有スキル『燃える闘拳』によるものであった。
一時的に攻撃力を上昇させ、“燃える闘志”をそのまま“燃える拳”として放つ『マナ・ボクサー・マンティス』の必殺技だった。
『赤の下級悪魔』は、先程と同じように、炎を纏った拳を避けずに受ける。
——バスンッ
——ボウンッ
——ザキュリッ
だが、燃える拳の打撃は、通常の倍以上の威力とともに、炎属性で受け止めた『赤の下級悪魔』の腕を燃やす。
そして、パンチの引き際には、鎌による引きの斬撃が加わった。
この種族固有スキル『燃える闘拳』は、威力を増した“打撃”と炎による“燃焼”攻撃、そして鎌による“斬撃”という一石三鳥の攻撃なのであった。
殴り飛ばされた『赤の下級悪魔』は、燃える腕から黒い血を流す。
『マナ・ボクサー・マンティス』は、好機を逃さず追撃をかける。
種族固有スキル『燃える闘拳』のもう一つの必殺技コマンドを使うつもりなのだ。
発動真言を発しながらコンビネーション攻撃を繰り出す。
——発動真言とともに放つジャブの三連撃
「1」——シュッ
「2」——シュッ
「3」——シュッ
——そして最後の発動真言とともに、渾身の右ストレートを放つ!
「ダーー!」
全身全霊を込めた一撃が炸裂した時、首に下がる炎のタオルが一際大きく燃え上がった。
全霊の気合の発露であった。
『赤の下級悪魔』は再度、宙に飛び力なく横たわる。
瀕死の状態だが、かろうじて息だけはあるようだ。
ここで『マナ・ボクサー・マンティス』は、トドメの完了真言を叫ぶ!
「——元気ですか! 」
この完了真言とともに、『赤の下級悪魔』は内部から爆散し、霞となって消滅した。
この完了真言により、『赤の悪魔』の体内に蓄積されたジャブ三連撃と右ストレートのエネルギーが、一気に加速膨張し、内部から破壊したのだった。
おそらく、プロレス好きの主人グリムが見ていたら、『それボクサーじゃないでしょ』とツッコミを入れたに違いない……。
そして、『元気ですか?』と尋ねられることで、トドメをさされるという皮肉な結果に晒された悪魔に同情したかも……しれない……。
勝利した『マナ・ボクサー・マンティス』は満足そうに両手を合わせると、フォローしてくれていた、もう一体の『マナ・ボクサー・マンティス』とタッチするような仕草を見せる。
役割を交代して、もう一体仕留めるようだ。
どうやら二体とも、バトルジャンキーらしい。
そしてその後、交代した一体が、同様に『赤の下級悪魔』を屠ったことは言うまでもない。
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