659.ギャップと暴露で、ぶち壊し。
「はは。かしこまりました。『コウリュウド王国』の国王の名にかけて全力を尽くします」
コウリュウ様からの言葉と神託を受けて、ソフトな印象の国王陛下が、厳しい顔つきで力強く答えた。
「コウリュウ様、一つだけお聞かせください。『救国の英雄』とは誰なのでしょうか?」
国王陛下が慌てた感じで言葉を繋げた。
「ふふふ、それはもうわかっているのであろう。己が目で確かめたのではないのか?」
「ではやはり、シンオベロン卿で間違いないのですね?」
「あなたがすべきことは、彼を助けることです。あなたもまた『救国の英雄』の下に集いし力の一つなのです。『救国の英雄』は仕方ないにしても、『大勇者』については時が来るまで伏せてあげたらどうですか? 『魔の時代』を恐怖の時代ではなく、多彩な彩りの時代にするには、彼の自由な行動が一つの鍵になります」
「はは、しかと承りました」
「それでは、私はしばし休むとしましょう。私が守り育てたシキの子供たちよ、あなた達の自由な発意に……輝きに期待します。…………おおっと、戻ってきたし。コウリュウ様ってば、いいこと言ってたし。オーナーは、束縛しちゃダメな人だし。うちもオーナーを放し飼いにしてるって感じだし。ああそれから、コウリュウ様ってば……あんな感じで神様っぽいこと言ってるけど、本当はお茶目で可愛い奴なんだし。さっきもウチが知ってる『ランダムチャンネル』の情報を聞いて、落ち込んでたし。その情報が聞きたいかし? ええっと……別の世界でも神獣様たちは結構有名なんだし。でも四神が有名で、真ん中にいるはずのコウリュウ様はあまり知られてなくて人気ないんだし。なぜか仲間外れにされて、ぼっちって感じなわけ。ぶっちゃけ、エゴサーチって感じでそれを教えてあげちゃったら、コウリュウ様めっちゃへこんだんだし。神様なのに超うけるんですけどー。可愛いところあるから、慰めてやったし。ウチと一緒になったから、これからはメジャーの仲間入りだし! メジャーリーグでも全然通用しちゃうから、まじウケる! 何なら二刀流で行くし! うちは修行してオリョウちゃんみたいに、西洋タイプと東洋タイプの二つのドラゴンフォームを身に付けるし! これも一つの二刀流だし! まじまんじ! あっ、わかったし、ゴメンだし……てか、コウリュウ様ってば、めっちゃ怒ってっからもう話すのやめとくし。あー、はいはい。わかったし、深く謝罪って感じ、まじまんじ」
何この感じ……せっかくのコウリュウ様の神様らしい厳かな言葉が……ぶち壊しじゃないか!
そして……国王陛下がめっちゃ微妙な顔になっている……。
そして、ニアはめっちゃ笑っている。
そしてキンちゃん! コウリュウ様の威厳をなくしちゃダメでしょうよ!
なに二人のやりとりを暴露してるわけ?
まぁ面白かったからいいけどさ。
てか……神様でもへこむんだろうか……?
かなり親しみがわいたけどね。
少なくとも……キンちゃんに対して怒っていることは確かっぽいから、怒りはするわけよね。
そして言っとくけど、俺はキンちゃんに放し飼いにされてるわけじゃないですから!
やっぱりコウリュウ様とキンちゃんの入れ替わりのギャップが激しすぎて……いろんな意味で面白いけど……いろんな意味で全てが台無しだ!
コウリュウ様は、俺が『救国の英雄』だとか『大勇者』だと暴露しておいて、俺には直接話しかけてこないんだよな……。
どうして?
ホッとするような……寂しいような……この微妙な気持ちはなに?
国王陛下が目を閉じて、がんばって気持ちの整理をつけているようだ。
ギャップに苦しんでいるのかもしれない……。
そして目を開けると、俺のほうに近づいてきた。
「君が『救国の英雄』であり、『大勇者』なんだね?」
国王陛下は、コウリュウ様に断定されたにもかかわらず、敢えて俺に訊いてきた。
俺の口から聞きたいのだろう。
「はい……一応『称号』や『職業』の欄に『救国の英雄』と『大勇者』というのは、入っているのですが……」
この展開で嘘をつくわけにはいかないので、正直に答えた。
そして密かに、いつも貼っている偽装ステータスを上書きして、『救国の英雄』『大勇者』が表示されるように作り替えた。
『鑑定』スキルを持っている人が、鑑定するかもしれないからね。
「わかった。君を『救国の英雄』として……この世界を救う英雄として、『コウリュウド王国』が全面的に支援しよう。安心しなさい、支援といっても何も強制することはないよ。君が自由に活動することができる環境整備を、少し手伝うぐらいしかできないだろう。あとは君がこの国や人々に対してしてくれたことに、正当な報酬を払うことくらいだ。構えなくていい。それから……『大勇者』であるということは、コウリュウ様が言っていたように、当面は内密にするということでいいのかな?」
国王陛下が、国王らしい威厳で俺にそう言ってくれた。
この人は、ちゃんとするときはカリスマ性を発揮する人のようだ。
「はい、私に何ができるかわかりませんが、少なくとも目の前にいる人たち、出会う人たちを救うということだけは、今まで通り続けていこうと思います。『大勇者』の件は、ぜひ極秘事項にしてください。『救国の英雄』ということや私の存在自体も……あまり目立ちたくないので配慮していただければと思います」
俺は、一応要望を伝えてみた。
「あいわかった。だが……これほど多くの人々の前で大活躍をしたのだ、全く情報を流さないというわけにもいくまい。逆に変な憶測が飛ぶ恐れがある。グリム=シンオベロン卿が『光柱の巫女』にもたらされた神託に出てくる『救国の英雄』なのではないか、という程度の情報は流さざるを得ないと思うぞ」
国王陛下の判断では、全てを隠すということは難しいようだ。
俺は苦笑いをするしかなかった。
「それについては、私に考えがある。それにしても……あんたってやつは……『勇者』様にだってお目にかかれないっていうのに……飛び越えて『大勇者』だって!? もう開いた口が塞がらないね。それでいて本人は相変わらず、存在を知られたくないとかのん気なことを言ってんだからねぇ……」
ユーフェミア公爵が呆れたような感じで、俺と国王陛下にそう言った。
「姉様、考えというのは……」
国王陛下が、期待に満ちた顔をしている。
てか……改めて思うけど……国王陛下って、お姉さんのユーフェミア公爵のことが大好きだよね……? シスコンじゃね?
「それはね、今回ここで起きた襲撃事件を英雄譚にして、吟遊詩人たちに配るのさ。それを演目にして、あちこちで大々的に演じてもらうのさ。どうせこれだけの騒ぎだ、口を封じることなんてできない。それこそ陛下が言ったように、情報を出し渋ったら逆に変な噂が出かねない。だから起きたことを正直に物語にするのさね。あれだけのことを吟遊詩人が語ったら、みんな脚色されて大げさになっているって思うさね。実際自分の目で見なきゃ信じられないようなことが、いっぱい起きたからね。隕石を消したり、伝説の魔物を倒したり従えたり、『亜竜ヒュドラ』を倒したわけだからね」
ユーフェミア公爵は、そう言いながら最後の方で、また俺に呆れたような視線を送った。
「なるほど! さすが姉様です。あえて情報を積極的に出すんですね。しかもほぼ真実の情報を。逆にそれが凄すぎるから、聞いた人が脚色された情報で、話し半分ぐらいに受け取る。そういうことですね!?」
国王陛下が感動している。
そしてお姉ちゃんラブな熱視線を送っている。
やっぱりシスコンだな!
「そうさね。どうだい、グリム? ここは積極策がいいと思うけどね」
ユーフェミア公爵は、ニヤっとしながら俺に問いかけた。
よくわからないが……確かに噂が変に一人歩きするよりは、ねじ曲げにくいように一斉に吟遊詩人に広めてもらった方がいいのかもしれない。
「わかりました。ではその方針でお願いします」
俺は、ユーフェミア公爵に任せることにした。
「よし、それじゃぁ、あんたんとこのアグネスとタマルを借りるよ。弟子のギャビーとアントニオもね。それと我が領の文官チームで、ストーリーを作るから。そこは任せときな!」
ユーフェミア公爵は男前な顔をした後、少し悪い笑みを浮かべた。
なんか変なこと考えてないよね?
吟遊詩人のアグネスさんとタマルさん、ギャビーさんとアントニオくんも今日は同席しているので、早速明日からユーフェミア公爵の指示に従ってもらうように話をした。
「しかしまぁ……規格外だとは思ってたけど……『大勇者』ときたか……」
話が終わったのに、ユーフェミア公爵は独り言のように呟いた。
そして何故か……キョトンとしている俺を見て、またダメな子供を見るような眼差しになった……はて?
読んでいただき、誠にありがとうございます。
ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。
評価していただいた方、ありがとうございます。
次話の投稿は、9日の予定です。
もしよろしければ、下の評価欄から評価をお願いします。励みになります。
よろしくお願いします。




