651.国王陛下と、王妃殿下。
『セイセイの街』でも『魔物人』が発生してしまったが、『アラクネロード』のケニーが全て倒して死者は出なかった。
『セイセイの街』でも、犯罪奴隷だけでなく一般人からも魔物化する人が出て、結局二十五体もの『魔物人』が現れていたのだ。
ユーフェミア公爵からは、手薄になっていた『セイセイの街』を救ってくれたと改めて感謝された。
『セイセイの街』で魔物化した人の身元調査は、『セイセイの街』の衛兵隊で行うということなので、死体を衛兵に引き渡すように、ケニーに指示しておいた。
テレサさんをはじめとした『光柱の巫女』のみなさんは、『セイセイの街』の人々のケアをする為に、街に戻ることになった。
ここに集まってくれているメンバーは、みんなしばらくの間……少なくとも『大勝利祭』をやっている三日間は、『コロシアム村』に残って、協力してくれることになった。
アンナ辺境伯もエレナ伯爵も、自分の領の仕事もあるが残って支援してくれるようだ。
まぁ転移の魔法道具があるから、領都に戻ろうと思えばいつでも戻れるから、最低限の仕事はできるというのもあるのだろう。
『セイリュウ騎士団』の皆さんも、しばらく留まるようだ。
そして、ビャクライン公爵一家も残ってくれるようである。
打ち合わせが一段落ついたところで、一旦休憩となった。
ユーフェミア公爵が退室し、すぐに戻ってきた。
誰かを連れてきたようだ。
ユーフェミア公爵の後から現れたのは、品のいい感じの中年の男性と女性だ。
それほど着飾ってもいないが、それなりの身なりなので貴族かもしれない。
あれ……なんとなく……見覚えがある。
確か『コロシアムブロック』で、避難民の中から『魔物人』が出たときに、怪我人の対応に協力してくれた避難民だった気がする……。
素早い動きで、怪我人を全員避難させてくれた人たちだと思う。
中年の男女と老人と若い女性の四人が協力してくれていたが……ここにいるのは、そのうちの中年の男女二人だ。
「「「陛下!」」」
「お、お父様、お母様!」
二人に気づいたアンナ辺境伯たちが、突然跪いた。
そして、第一王女のクリスティアさんが、お父様お母様と呼んだが……ということは……
「皆さん、堅苦しいのはやめましょう。非常事態です。皆さんの武勇、全て見させてもらいました。よく我が民を守ってくれました。感謝いたします」
金髪のナイスミドルな感じの男性が、優しく微笑みながら穏やかに言った。
「お父様……どうして?」
クリスティアさんが、呆然としている。
「クリスティア、よくやったよ。まさかお前がコウリュウ様に選ばれるとは……感無量とはこのことだね……」
お父様と呼ばれた男性は、途中から涙ぐんだ。
「あなた、皆の前で泣いてどうするんです。まったくしょうがないわね。クリスティア、ほんとによくやったわ……」
朱色の髪の優しそうな女性が、クリスティアさんを抱き寄せた。
「お母様……」
クリスティアさんは、涙ぐんでいる。
「すまないね、みんな、驚かしちまって。国王陛下と王妃殿下は、実は昨日から密かに来ていたのさ。どうしてもクリスティアが出る模擬戦が見たいって、駄々をこねられてね。普段なら一蹴して断るところだが、エルサまで頼み込むもんだから、しょうがなく転移の魔法道具で連れて来ちまったのさ。『正義の爪痕』の襲撃が予想されるから、危険だって言ったんだけどね。普段は慎重なエルサが、直感的に行くべきだと感じると譲らないもんだから、私も折れちまったのさ。あくまでお忍びということで、二人は一般人になりすまして普通の席で観戦してたんだ。宿も普通の宿に泊まってね。襲撃のときも、コロシアムで避難民と一緒に避難エリアでおとなしくしてたってわけさね」
ユーフェミア公爵が、事情を説明してくれた。
やはり国王陛下と王妃殿下だったらしい。
「それでは、あのコロシアムの避難エリアにいたのですか!?」
クリスティアさんが驚いて尋ねた。
「そうなの。この人ったら、自分も戦うって何度も飛び出しそうになって、止めるのが大変だったのよ。あんな状況の中で、いきなり国王が現れたらもっと混乱するっていうのに……。必死で止めたよ」
王妃殿下が、少し呆れた感じで言った。
「私だって、十分戦力として戦えたのだがな……」
国王陛下が、少し悔しそうな表情を見せた。
「だから、あなた、何度言ったらわかるの! そういう問題じゃないって言ってるでしょ!」
王妃殿下が半ギレ気味だ。
なんか国王陛下も……ビャクライン公爵と同じで……完全に尻にしかれている気がするが……。
もともと姉であるユーフェミア公爵や娘のクリスティアさんには、頭が上がらないような話を聞いていたが、当然のごとく奥さんにも尻にしかれている感じだ。
国王なのに……この国の男っていったい……というか女性が強すぎるのか……。
「陛下、よくぞご無事で。しかし、よく我慢できましたな、ワッハハ」
今度は、ビャクライン公爵が口を挟んできた。
そういえば、ビャクライン公爵は国王陛下と同じ四十二歳で、幼なじみであり親友とのことだった。
「そうなんだよ、タイガ、お前みたいに戦いたかったんだけどね……」
国王陛下は、ビャクライン公爵に微笑みながらそう言うと、自ら近づいてハグをした。
国王陛下は、外見はビャクライン公爵と全く違う細身の優男的な感じなのだが、意外と脳筋なんだろうか……。
「姉様、ご無事で何よりです」
今度は、ビャクライン公爵夫人のアナレオナさんが声をかけた。
王妃殿下は、元スザリオン公爵家の長女でアナレオナ夫人の実の姉でもあるとのことだった。
さっきユーフェミア公爵が、エルサと呼んでいたが、それは愛称のようで正式にはエルサーナさんというらしい。
ユーフェミア公爵と同じ四十四歳で、親友とのことだった。
「ありがとう、アナ。あなた達一家の活躍もしっかり見てましたよ。それにしても、ハナシルリちゃん、大きくなったわね。おいで……」
王妃殿下は、アナレオナ夫人にそう答えながら、ハナシルリちゃんを抱き上げた。
「王妃様、お久しぶりです」
ハナシルリちゃんは、抱きかかえられながら可愛く挨拶をした。
「まぁ……前に会った時はまだ小さかったのに、覚えてくれているのかしら。それにしても、よくがんばったわね。ハナちゃんは、一番小さな巫女様ね」
王妃殿下はそう言って、優しくハナシルリちゃんの頭を撫でてあげている。
「国王陛下、王妃殿下、ご挨拶申し上げます。スザリオン家のミアカーナです」
今度は、スザリオン公爵家長女のミアカーナさんが挨拶をした。
「やあ、ミアカーナ、大きくなったね。君なら『スザクの巫女』の大役を立派に果たせると思うよ。この国を、この世界を頼むよ」
国王陛下は。優しく声をかけた。
「はい、全身全霊で務めさせていただきます」
ミアカーナさんは、強い決意で答えていた。
「ミアカーナ、大人っぽくなったわね。ずいぶん女らしくなって……。胸まで立派になっちゃって。あなたの成長が嬉しいわ。こんなに綺麗になったら、キシュクも心配でしょうね」
王妃殿下が、我が子を見るような眼差しをミアカーナさんに向けている。
「伯母様、ありがとうございます。父は口うるさいだけですわ。伯母様からも言ってください」
ミアカーナさんは、少しイタズラな笑顔を見せた。
話の感じからすると……ミアカーナさんの父親の現スザリオン公爵がキシュクさんという名前なのだろう。
そして王妃殿下のエルサーナさんの弟で、ビャクライン公爵夫人のアナレオナさんの兄になるようだ。
最初の挨拶で雰囲気がくだけたからか、ミアカーナさんは途中から王妃殿下を伯母様と呼んでしまっているが、特に問題は無いようだ。
本来なら厳格にすべきところかもしれないが、国王陛下も王妃殿下もユーフェミア公爵と同じで、あまり格式にはこだわらないみたいだ。
そこら辺がゆるい感じだと俺も助かるので、少しほっとした。
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