648.炊き出しで、絶叫アナウンス!
『光柱の巫女』の三人は、避難している人々に声かけてまわっている。
彼女たちも相当疲れていると思うので、俺は休むように声をかけた。
「皆さん、ありがとうございました。お陰で避難した人たちに、大きな被害が出ずに済みました。お疲れでしょう。どうぞ、一旦休んでください」
「まぁグリムさん、私たちこそお礼を言わせてください。人々を守って下さり、ありがとうございました」
「そうです。あなたの力なくば、どうなっていたかわかりません。ありがとうございます」
「多くの人が無事で、本当に良かったと思います。感謝します」
老巫女のサーシャさん、熟女巫女のアリアさん、新人巫女のテレサさんが、それぞれに俺に感謝を伝えてくれた。
彼女たちのあのスキルと、皆を落ちつかせてくれた行動には、本当に助けられた。
俺の方こそ、何度でも感謝したいくらいなのだ。
そんな彼女たちに、お礼を言われると恐縮してしまう。
それにしても……テレサさんが、だいぶ疲労しているように見える。
もしやと思いレベルを尋ねてみると……やはりジャンプアップしていた。
彼女は直接戦闘していないが、人々を守る『精霊のささやき』というスキルを何度か使っていた。
それもあり、経験値が入ったのだろう。
テレサさんは、元々レベル14だったようだが、20も上がって34になっている。
これだけ上がれば、『レベルアップ疲労』の状態になっているはずだ。
サーシャさんは、7つ上がって42になっている。
アリアさんも、7つ上がって44になっている。
『従者獣』の赤ちゃんパンサー、サクラ、ツバキ、アスターは、皆レベル1だったが、26になっている。
この子たちも、『レベルアップ疲労』でぐったりしている。
ちなみに父パンサーのグッドはレベル28だったが、5つ上がって33になっている。
母パンサーのラックはレベル25だったが、5つ上がって30になっている。
俺はテレサさんたちに、『レベルアップ疲労』という状態について説明し、休む以外回復する手段がないので、ゆっくり休んでほしいと伝えた。
(あるじ殿、『セイセイの街』は大きな被害は出ておりません。『セイセイの街』の炊き出しはどういたしますか?)
『アラクネロード』のケニーから念話が入った。
彼女は『セイセイの街』で出現してしまった『魔物人』の対処をしてくれていたのだ。
ケニーの素早い行動のお陰で、大きな被害が出なくて済んだようだ。
(ケニー、ありがとう。いつもながらの素早い、いい働きだったね。『セイセイの街』でも炊き出しをやった方がいいから、人を送るよ)
(はい、こちらでも、できる手配をしておきます)
ケニーが、張り切っている感じが伝わってくる。
なんとなくだが……また人差し指をツンツンさせていそうな雰囲気が伝わってきた。
可愛いやつめ。
うっかりしていたが、『セイセイの街』での炊き出しをするスタッフがいなかった。
俺はすぐに『アメイジングシルキー』のサーヤに念話を繋ぎ、人の手配を頼んだ。
といっても、この『コロシアム村』にいるスタッフを分けて、『セイセイの街』に行ってもらうしかないんだけどね。
人手が足りなくなるが、いつものように一般の人々から手伝ってくれる人を募集すればいいだろう。
今度は、『セイリュウ騎士団』団長のマリナさんとセイリュウ騎士のみなさんが、俺のところにやって来た。
避難している人たちの状況確認などを、先頭に立って行ってくれていたのだ。
アンナ辺境伯の実母でユーフェミア公爵の義母でもあるマリナ騎士団長が、俺をマジマジと見ている……。
また品定めされているのだろうか……上から下まで舐めるように見られているが……。
「あんたには、言いたいことが山ほどあるけどね……。とにかく、このセイバーン公爵領を救ってくれて、感謝する。我々『セイリュウ騎士団』だけでは、とても守りきれなかった。まさか……ここまで強かったとはね……脱帽だよ。改めて、認めるよ。救国の英雄、グリム=シンオベロン卿」
マリナ騎士団長が、そう言って手を差し出した。
流れ的に俺も手を差し出して、握手をした。
ただ、マリナさんの話しぶりは、少し呆れたような感じでもあり、何故かダメな子を見る感じでもあり……複雑な感じだった。
やっぱり……色々とやりすぎちゃったかなぁ……。
それに……救国の英雄って……
なんか神託にも出てきてたけど……俺だと断定するのはやめてほしいんですけど……。
そしてなぜか騎士たちが、俺の前で跪いている。
まぁ俺というよりはニアに跪いているのかなぁと思ったが……雰囲気的に俺を見ている感じなのだ……はて……?
よくわからないが、いずれにしろ俺たちに感謝してくれているようだ。
領民を守る存在であるセイリュウ騎士としては、それに力を貸してくれた俺たちに敬意を表してくれているのだろう。
◇
しばらくして、炊き出しの準備が整った。
既に『コロシアム村』中に、いい匂いが漂っている。
炊き出しとして、人々に振る舞うのは……『カレーライス』だ!
実は、もともと大会四日目の全日程が終了した午後に、訪れている全ての人々に振る舞おうと思って準備していたのだ。
カレーを作る為の大量の材料を確保してあったので、そのまま炊き出しで使うことにした。
美味しいものを食べて、元気を出してもらいたいからね。
当初から用意してあった大鍋を使って、各ブロックでカレーを作り、避難している人たちに振る舞う。
容器は、竹の粉末に『カミラの木』の樹液から作った溶液を混ぜて作った『竹プラスチック』の器とスプーンとコップが大量に用意してある。
使い捨てのプラスチック製の器やコップに似てるので、『竹プラスチック』という名前にしたが、強度はそれなりにあるので、実際はかなりの回数使えると思う。
これは『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんに教えてもらった『魔竹』を使って作る方法だが、普通の竹でも作れるのだ。
『魔竹プラスチック』よりも強度は落ちるが、こういう炊き出しには向いてるんだよね。
もう各ブロックでは、食べ始めている頃だと思う。
ここ『コロシアムブロック』でも、配給を受けた人からもう食べだしている。
食べ始めた人のところから、歓声のようなものが上がっている。
『カレーライス』の美味しさに、衝撃を受けているようだ。
なんだか……少しずつだが、武術大会を観戦していた時の熱狂のような感じに近くなっている気がする。
————皆様! 突然の悪の組織の襲撃、さぞ怖かったことでしょう。でも我々は耐え抜きました!
————ユーフェミア公爵閣下や『セイリュウ騎士団』を始めとした我々領民の守り手の皆様の奮戦、『光柱の巫女』様方、そして我が国の護国の神獣様の力を得た『神獣の巫女』様方、『化身獣』様方のお力により守られました!
————そして何よりも妖精女神のニア様と『救国の英雄』グリム=シンオベロン騎士爵閣下の人知を超えた神の如き活躍で、我々は無事にまた食事をすることができています!
————今回提供されています……黙っていられないほどの美味しさのこの『カレーライス』という食べ物、これもグリム様の手配によるものであります!
————すみません皆様、シンオベロン騎士爵閣下とお呼びせずに、思わずグリム様とお呼びしてしまいました。そう……私の心はすでにグリム様のものです! これからは親しみを込めて、勝手にグリム様とお呼びさせていただきます! 勝手な宣言で本当にすみません!
————さあ気を取り直して、この『カレーライス』ですが、考案したのはビャクライン公爵家長女で、このたび『神獣の巫女』にもなられましたハナシルリ様とのことです!
————ビャクライン公爵閣下によれば、体が熱くなり元気になる最高の料理とのことです! 戦士の料理とのことですが……戦士でない我々にも最高の料理なのです!
————いえ、我々も皆……心の恐怖と戦う戦士と言っていいでしょう! 我々も戦士として堂々と食べましょう!
————私も一口いただきました! そして感動に打ち震え、黙っていられなくなったのです! この感動を皆さんにお伝えねば……そんな思いを抑えきれず、思わず声をあげてしまったのです! す、すいません、涙も止まりません。
————皆さん、この美味しさを胸に刻みましょう! 無事に生き残れた感謝を胸に刻みましょう! 我々は、そう歴史の証言者なのです! 是非この『カレーライス』を堪能してください!
————そしてなんと今回皆様にお配りしているこの不可思議な軽くて割れない器、これはすべて持ち帰って構わないとのことでございます!
————皆さん、新たな記念品として、ぜひ大事に持ち帰ってください!
————それではぁぁぁ、カレーライスゥゥゥ、ファイトォォ、レディィィィ、ゴォォォ!
突然、拡声の魔法道具を使って、あのリングアナウンサーのようなアナウンス担当の人が、絶叫しだした。
半分泣きながらの感じなんだけど……。
話の感じを聞いている限り、彼は美味しさに我慢できなくて、話し出したみたいだけど……。
興奮しすぎて……なんか色々とおかしいこと言っている気がするが……大丈夫だろうか?
そしてここでも勝手に『救国の英雄』って言うのは、本当にやめてほしい……。
なんか勝手な認定が進んでしまっている……。
それにしても……このリングアナ状態のスタッフ、やっぱり面白いな。
彼のお陰で……みんなの雰囲気がさらに明るくなり、熱気が高まった。
先程までの襲撃の恐怖を忘れるくらい、一気に盛り上がった雰囲気になった。
戦後処理が落ち着いたら、本気でスカウトしてみようかな……。
それにしても……今回の炊き出しを……『カレーライス』ファイトにしてしまっていた。
もうお約束な感じになってきたが……みんながフードファイターみたいになっても困るんだよね。
それに、そんなアナウンスをされると、本家フードファイターのミネちゃんが、うずうずしてると思うんだよね。
そう思ってミネちゃんを探すと……やはりうずうずしているようだ。
ミネちゃんは、配給の手伝いをして人々に配る作業をしている。
まだ本人は食べれていないので、かなりうずうずしてる感じだ。
ちょっとクネクネしてしまっている。
自分も食べたいだろうに、人々に配給しているのは偉い。
適当なところで切り上げさせて、食べられるようにしてあげよう。
『カレーライス』の美味しさのお陰もあって、怯えて、疲労していた人たちも、今はみんな元気になっている。
やはり美味しい食べ物の力って、偉大だ!
そこかしこで、『カレーライス』を絶賛する声が響いている。
ミネちゃん風に言うと……『カレーライス氏、大活躍!』と言ったところだ!
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