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630.映し出された、勇姿。

三人称視点です。

 グリムが『五神絶対防御陣』による防御障壁の外で、必死に隕石を回収している頃、防御障壁の中でも、戦いが続いていた。


 グリムの仲間たちは、指示された通りに『共有スキル』にセットされた『アイテムボックス』スキルを使って、大量に投下された機械の殲滅兵を回収していた。


 ところが、この機械の殲滅兵の大量投入と隕石群の落下という未曾有の事態に、恐怖に駆られ魔物化してしまう人が再発しまっていたのだ。


 『コロシアム村』全域で、散発していた。

 中央にある『コロシアムブロック』でも、東西南北の各ブロックでも同様に魔物化が起きていたのである。

 さらには『セイセイの街』でも、魔物化する人間が現れていた。

 戦力が手薄な『セイセイの街』には『アラクネロード』のケニーが急行し、対処にあたっていた。


「このままでは……どんどん魔物化してしまう人が増えてしまいます。みんなに希望を与えなくては……」

「そうね。また人々に声を届けましょう」

「はい。私たちは、私たちにできることをやりましょう」


 『光柱の巫女』のテレサ、サーシャ、アリアが、『従者獣』のアスター、サクラ、ツバキとともに動き出す。

 人々に言葉を届けるために……。


 五神獣の化身と五神獣の巫女が見える『コロシアムブロック』は、比較的魔物化が抑えられているが、そうでないエリアはやはり不安に駆られる人が多いのだ。

 そこで、東西南北の各ブロックに移動して、安心するように声を届けようと考えたのだった。


 『従者獣』の『祈りのブレス』に乗せれば、多くの人に言葉を届けることができるが、それでも範囲に限界がある。

 それゆえに、手分けして各ブロックを回ることにしたのだ。


 そしてこれを、『クイーンピクシー』となったニアが支援する。


 ニアは、未だに人型サイズを維持しているので、人を抱えて飛ぶことができるのだ。

 老巫女のサーシャと熟女巫女のアリアを両脇に変え、空を飛んで移動を助けた。


 新人巫女のテレサは、『ドワーフ』の少女ミネが魔法ポケットから出した『浮遊戦艦ミニトマト改』に乗って、南ブロックに向かった。


 改良され『浮遊戦艦ミニトマト改』と名称が改められた飛竜船と同型の船は、ホバー機能が強化され、飛竜なしでもある程度の高さまで上昇することができるようになっていた。

 五メートルから八メートル程度は、上昇できるのである。

 そして推進装置も強化され、飛行するように移動することも可能になっていた。


 『ドワーフ』の天才ミネと人族の天才ドロシーによる研究開発の成果であるが、まだ完全なものではなかった。

 飛行するように移動するには、ホバーの出力調整と推進力の調整が必要で、補助するために操作を担当する者が必要になっていたのだ。


 その操作を担当しているのは、ピグシード辺境伯家の姉妹ソフィアとタリアだった。

 これに本来は、操舵士としてドロシーが加わるのだが、彼女は『神獣の巫女』となっている為に、担当できていない。

 代わりに、攻撃担当のミネが操舵を担当していた。


 彼女たちは、秘密基地『竜羽基地』において、密かに、“遊び”という名の操船訓練を行っていたのだ。


 改良されたホバー船『浮遊戦艦ミニトマト改』のスピードを活かし、『南ブロック』で人々に声を届けた後は、『セイセイの街』に向かって、声を届ける予定なのである。



 再び起きてしまった人の魔物化に、五神獣の巫女たちも歯がゆい思いをしていた。


 彼女たちと『化身獣』たちは『五神絶対防御陣』の強度を保つために、今の陣形から離れることができないのだ。


「人々を落ち着かせなくては……大丈夫という希望を持たせなくては……」


 『コウリュウの巫女』第一王女のクリスティアが、焦りの言葉を漏らした。


「あー、もしもし、クリスティアちゃん、多分大丈夫と思うし! なんか、うちに新しい『固有スキル』来ちゃったし! コウリュウ様が応援してくれたみたいだし! 口うるさいけど結構いい神様だし! まじアゲアゲ、まじまんじ! ちょっとやってみるかし。……ええ、はいはい、了解だし。うちのスキルの力を増幅させるのに、みんなの力を借りるようにコウリュウ様が言ってるし、よろしくだし。『五神獣の巫女』と『化身獣』のみんな、発動真言(コマンドワード)を言ってほしいし! あー、はいはい。わかったし。コウリュウ様、意外と細かいし……。心で強く念じながら唱えてほしいって感じ。これまじな話。発動真言(コマンドワード)は……『映し出せ! 希望の勇姿!』だし。あとは、うちがやるから、そこんとこよろしくだし! まじまんじ」


 コウリュウの『化身獣』キンちゃんの説明を、頭の中に響くそれぞれの神獣が補足した為に、皆なんとかこの説明を飲み込むことができたのであった。


 そして、息を合わせて発動真言(コマンドワード)を唱える!


「「「映し出せ! 希望の勇姿!」」」


「ありがとうだし! なんか……力が漲ってくるし! どんどんアゲアゲって感じ。……あー、はいはい。わかったし、急かさないでほしいし。コウリュウ様ってば、過保護だし……そんなにうちのことが好きなんだかし。じゃぁ、うちの新スキル発動だし! 放送局(ブロードキャスター)! コマンド望遠撮影!」


 キンちゃんが発動真言(コマンドワード)を唱えた数秒後、『五神絶対防御陣』で張られた防御障壁の内側が、巨大なスクリーンのようになって、ある男の戦う姿を映し出していた。


 それは、防御障壁の外で必死に隕石群を回収しているグリムの姿だった。


 キンちゃんが、新たに取得した『固有スキル』の『放送局(ブロードキャスター)』の能力を、『五神獣の巫女』と『化身獣』の力を合わせることによって増幅し、防御障壁が展開している全域に映像が映し出されているのだった。


 『放送局(ブロードキャスター)』は、自分が視聴した映像と音声をリアルタイム、もしくは記録して、映し出すことができるという能力なのである。

 技コマンドの『望遠撮影』は、遠くの映像や音声を拾えるというもので『視覚強化』スキル、『聴覚強化』スキルよりも、さらに映像や音が拾える技能なのだ。


 キンちゃんは、このスキルを使って遥か上空で展開しているグリムの戦いを見て、それを投影したのである。


 ただ通常は、これほど広大なエリアで、しかも見やすいように何箇所にも画像を投影するということはできない。


 それを可能とする為に『五神獣の巫女』と『化身獣』の力を合わせて、スキルの力を増幅させたのだった。


『固有スキル』は、魂の願望の表れである可能性が高いのだが、『ライジングカープ』のキンちゃんは、自分の持っている『固有スキル』の『ランダムチャンネル』の情報を仲間たちにも見せたいと強く思っていた。

 その思いが『固有スキル』となって現れたのだった。

 もっとも、この固有スキル化には、神獣コウリュウが密かに力を貸していたのであった。


 突如、防御障壁の内側に映し出された映像に、人々は皆、一様に驚いている。

 もちろん、キンちゃん以外の他のメンバーも驚きを隠せないでいる。


「これでいいかし。オーナーの戦ってる姿を見れば、みんな安心するし。あの隕石もあっという間に瞬殺バイバイだし! あとは、クリスティアちゃんの出番だし。クリスティアちゃんの声が、全域に届くようにしてあげるし。各地で投影されてる映像から、声が出るって感じ。まじすごくね! 超うけるんですけど。あー、はいはい、ごめんだし、すぐやるし。クリスティアちゃん、思いをぶつけちゃえばいいっしょ。リポーター指名! クリスティア=コウリュウド!」


 キンちゃんが、もう一つの技コマンド『リポーター』を発動した。

 この技コマンドは、任意の者を指名し、その者の言葉を映像に乗せて届けることができるというものである。


 戸惑っていたクリスティアだが、意を決したように口を開いた!


「みなさん、私はコウリュウド王国第一王女のクリスティア=コウリュウドです。心配しないでください! 皆さんは、私たちが必ず守ります。五神獣の皆様方が力を貸してくれています。皆さんを守っているこの光の防御障壁が、その力です。建国神話の約束通り、我らの危機に顕現してくださったのです。そして、この映像を見てください! 無数の隕石に対処し、消し去っているこの勇姿……私のグリムさんがいる限り、絶対、大丈夫です! 安心してください! 恐怖に支配されてはなりません。絶望すると、魔物に変わってしまう恐れがあります。光柱の巫女様もおっしゃっていたように、恐怖を抱いたとしても同時に希望を持ってください。希望を失わないでください。どうかこのグリムさんの姿を見て、皆さんも自分の心と戦ってください! 心の中の恐怖やマイナスの感情を、この隕石だと思って、グリムさんのように消してください!」


 第一王女の必死の語りかけは、人々の心に届いたようで、恐怖が和らぎ落ち着きを取り戻していった。


 クリスティア本人は、思わず“私のグリムさん”と人々の前で言ってしまったことには、全く気づいていない。

 そして、この状況でそのことに突っ込む者も、いなかったのである。


 人々は、妖精女神の相棒で『凄腕』と呼ばれていたグリムを、古の英雄譚に出てくる勇者を見るような気持ちで見ていた。

 人の身でありながら、縦横無尽に空を動き、巨大な隕石を次々と消していくという姿は、新たな英雄譚そのものだったのである。


 グリムが、次々に隕石を消していくという不可思議映像は、一般の人にとっては、神の力もしくは神通力のように見えていたのである。

 まさか隕石を収納スキルで回収しているとは、夢にも思っていなかったのである。


 ただ逆に、この……この世のものとは思えない光景が、恐怖にさらされた人々に強大な安心感を与えたのだった。



 グリム本人は、まさか自分の行動がテレビ中継のように映像として映されているとは露知らず……誰も見ていないだろうと思って、遠慮なしの動きをしていたのであった。


 通常であれば、このグリムの動きは、一般人には捉えられない。

 だが、映像はあくまでキンちゃんの目を通したものであり、キンちゃん自身が目で追えているので、映像もそのような映像になっているのである。


 キンちゃんの新たな『固有スキル』の力によって、人々は落ち着きを取り戻し、再度始まってしまった魔物化の波は、収まりつつあった。






読んでいただき、誠にありがとうございます。

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評価していただいた方、ありがとうございます。


次話の投稿は、11日の予定です。


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[一言] > リポーター指名! クリスティア=コウリュウド!  滝川クリスティアかな?
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