625.山が、動いた!
『正義の爪痕』の首領を捕らえ、彼が死んだことにより、『正義の爪痕』による襲撃はもうないと考えられる。
だが、仲間たちには、引き続き警戒態勢を取るように指示をして、待機してもらっている。
念の為の処置だが……雰囲気的にも、もう襲撃はなさそうだ。
首領が出てきた第三波で、終わりと考えていいだろう。
もっとも、危険が全て去ったと考えるのは早計だ。
俺が恐れているのは、首領だったニト少年が言っていた……『魔法機械神』と彼らが呼んでいる殲滅兵器のことだ。
古代文明『マシマグナ第四帝国』が作った、対『魔物人』用の殲滅兵器らしい。
ニト少年の話が本当なら、人の魔物化を検知してシステムが再起動し、襲ってくる可能性がある。
しかも、そのシステムとやらが暴走したままだとすれば、無差別に全ての人を殺傷するらしい。
ということで、まだ警戒を緩めるわけにはいかないのだ。
今のところは、何の気配もないが。
想像でしかないが……首領であったニト少年が、できるだけ多くの人間を魔物化しようとしていたということは、数がポイントなのかもしれない。
人の魔物化を検知して、システムを再起動させるためには、ある程度の数が必要なのではないだろうか。
そう考えると……俺たちが、奇しくも異物混入ワインの流布を防いだために、『正義の爪痕』が予定していたよりも、はるかに魔物化する人の数が減ったはずだ。
そうだとすれば、システムが再起動しないで、このまま終わってくれる可能性もかなりあると思っている。
というか……そう願いたい。
その辺のことも含めて、俺は『魔盾 千手盾』の顕現精霊『付喪神 スピリット・シールド』のフミナさんに訊いてみることにした。
彼女は、失われた古代文明『マシマグナ第四帝国』の末期に活躍した『勇者団』……九人の勇者の一人『守りの勇者』だった人の残留思念だからだ。
彼女はさっき、天然発言で言い間違いをして、恥ずかしさのあまり盾の中に戻ってしまっていたのだが、話しかけて再び顕現してもらった。
フミナさんは未だに頬を赤らめて、うつむいていて可愛い感じだ。
俺がフミナさんに改めて質問しようと思ったその時、思いもしないところから念話が入った。
念話をくれたのは、竜羽山脈の『飛竜の里』に住む飛竜たちだった。
『飛竜の里』は、俺の愛機ともいえる『飛竜』のフジの故郷でもある。
里のみんなも、全員俺の『絆』メンバーになっているので、念話が使えるのだ。
彼らによると……つい今し方、山脈の東端の裾野にある小さな山が一つ浮上して、飛び去ったというのである。
竜羽山脈は、セイバーン公爵領とピグシード辺境伯領の領境にある山脈で東西に伸びている。
その西の裾野には、俺たちの秘密基地『竜羽基地』があるのだが、反対側の東の裾野の小山が浮上して、飛び去ったということらしい。
にわかには信じがたい、驚くべき報告である。
何体かの飛竜たちが、追いかけようとしたらしいのだが、猛烈なスピードで南の方に飛び去ったと言うのだ。
南の方というと……まさにこっちの方面なのだが……もはや嫌な予感しかしない。
そして、俺の『第六感』スキルもそう告げている。
(みんな、警戒して! おそらくやばい奴が来る!)
俺は、仲間たちに『絆』通信のオープン回戦で、警戒を促した。
そして、このコロシアム中にいるユーフェミア公爵たちにも警戒を呼びかけた。
避難している人たちにも、動揺しないように注意しつつ警戒を促そうとしたところで……それは来てしまったようだ。
肌で感じる……
北の上空から、猛烈なスピードで接近する気配が伝わってくるのだ。
そして、それはすぐに現れた!
なんだあれは……?
巨大な山型の物体だ。
表面にあった土砂が落ちて、元々の素材が現れている。
超巨大な渦巻きだ……
ヤドカリだ!
円錐形のヤドカリの貝の部分のような印象だ……。
よく見ると……下のところにヤドカリの本体のようなパーツがある。
頭と足がついているのだ。
ただ頭は……ヤドカリの頭というよりは、蛇みたいだ。
あのメカヒュドラの機械のヒュドラ首と同じような感じだ。
それが、前後左右の四方向についている。
さしずめ四つ首のヤドカリというところか。
足パーツも四方向にあるから、足の数はかなりありそうだ。
なんだ……?
貝殻の上の部分……先っぽの方から、無数の小さな物体が放出されている……。
ん……遠いから小さく見えるが、実際はそれなりの大きさがあるっぽい。
『視力強化』スキルで捉えているが、さらに意識を集中して目を凝らす——
……虫っぽい……虫の脚のようなものが六本付いたロボット……魔法機械のようだ。
人型の上半身に腕が六本ついている。
上半身と頭に該当する部分は、全身甲冑みたいなフォルムになっている。
もしかして……あれが殲滅兵なのか?
問答無用で攻撃してくるのか……
今ここには、もう『魔物人』はいない。
すべて倒したからだ。
それなのに殲滅兵を放出しているということは……首領が言っていたように暴走したままということだろう。
そうだとすると、ここにいる全ての人々が標的か……
「あれは……帝国が開発していた最新型人造迷宮……移動型ダンジョンです! あれが殲滅兵器になっていたなんて……。私が知っていた殲滅兵器は、あの虫型の魔機ですが……移動型ダンジョン自体も殲滅兵器化しているかもしれません。単なる母船ではない可能性があります。そしておそらく……あれを動かすための生体コアになっているのが、ニコです……」
フミナさんが俺のそばに来て教えてくれた。
「あれを止める方法は、わかりますか?」
「すみません。そこまでは分りません。ただ……生体コアであるニコを救い出せば、あの移動型ダンジョン自体は、機能を停止すると思います。殲滅兵たちは、そのまま殺戮を続けるかもしれません。先に殲滅兵たちを倒してしまわないと、多くの人が命を失ってしまいます」
フミナさんは、悲痛な表情になり拳を握り締めた。
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