60.ニアと、緑の悪魔
俺が広場に戻ると、ニアが『緑の悪魔』と対峙していた。
今のところ、五分にやり合っているようだ。
俺が手助けすることも考えたが、ニアのレベルなら互角に戦えるはずだし、ニアを信じて戦いを見守ることにする。
「ヒヒヒ、妖精族か……さぞかし美味いだろうなぁ……」
「あー気持ち悪い! あんたなんか、一瞬で灰にしてやるわ!」
「先程から一瞬が何回も過ぎてるようだなぁ……お前のようなチビではいかに魔法が使えようと……わしには効かんのだ! ヒヒヒ……」
筋肉をムキムキさせながら、嗜虐の笑みで挑発する『緑の悪魔』。
ニアの放つ風魔法の『風弾』や種族固有スキルの『ピクシーショット』は、的確に『緑の悪魔』を捉えているようだが、瞬殺することはできないようだ。
そのため、再生能力の高い『緑の悪魔』がすぐに再生してしまうのだ。
緑の悪魔が両腕を激しく回転させ風の渦を巻き起こす。
そしてそのまま高速の渦をニアに対して解き放つ。
『赤の悪魔』が火炎攻撃中心だったのに対し、『緑の悪魔』は筋肉による物理攻撃と、筋力を生かした風攻撃が主体らしい。
ニアは素早く躱すが、余波の激しい風圧で飛ばされてしまう。
その隙に、『緑の悪魔』が地面を大きく踏みつけ粉砕する。
細くなった石畳が宙に舞い、それを力任せの両腕の振りで風圧とともに、一斉発射する。
石つぶての弾丸が、面攻撃となってニアを襲う。
圧倒的広範囲の石つぶてで、逃げ場がないと感じたのか、ニアはあえて受けるようだ。
「風盾、雷盾」
魔法盾の重ねがけで、かろうじて自分に当たる範囲の石つぶてを防ぐ。
風盾を突破した石つぶても、雷盾に阻まれ、ニアは無事なようだ。
ニアは、疲弊した魔法盾を解くと、もう一度、魔法盾の重ねがけをして、何やら構えを取る。
どうやら考えがあるようだ……
と思ったのだが……『緑の悪魔』に向けて両手を振っている。両手バイバイ状態だ。
何のつもりなのか……挑発でもしているのか……
いや……よく見ると……手を振っている十本の指先から、わずかに紫電がほとばしっている。
「サンダーアロー乱れ打ち」
『聴力強化』スキルで研ぎすまされた俺の聴力が、ニアの呟きを拾う。
どうやら雷魔法系の種族固有スキルを使うらしい。
いつものように、おちゃらけポーズだからといって油断してはならないようだ。
俺も初めて見る技だ。
ニアは、刹那に高く舞うと、両手の指先を『緑の悪魔』に向けて振り下ろす。
各指先から、稲妻でできた矢が射出される———
超加速した雷矢が乱れ飛び、『緑の悪魔』を穿つ。
そしてニアは、連続発射でもう一度繰り返す。
避け切れない矢の連撃が、緑の悪魔の体、手足を消し飛ばし蒸発させる。
……後には、頭部だけが虚しく転がっている。
というより、頭部だけを守ったのだろう。
どうもこの悪魔は、頭部があれば再生可能らしい。
頭部の目は未だ怪しく光っている。
ニアが、迷わず次の行動に出る。
トドメは……やはりあれを使うらしい……
『如意輪棒』を取り出すと、大きくしながら片端を両手で持って構える。
そして地面に着地する。
おお、あの構えだ……やっぱり、あれで締める気らしい……
そう、バッティングだ。
俺が名付けた“ピクシーホームラン”を放つに違いない。
今の『緑の悪魔』は頭だけだから、ニアでも地面に踏ん張ったバットスイングで届くサイズだ。
『如意輪棒』が長く伸び、緑悪魔の頭部を打撃するのに丁度いい長さで止まる。
「待て……待て待て……少し話そうではないか……そうだいいことを教えてやろう……」
『緑の悪魔』が、再生の時間を稼ごうとするが、ニアは全くお構いなしだ。ガン無視である。
精神統一なのか一度目を閉じた後、軽く息を吐く。
そしてニアは、両手を絞るように引き構える。
腰の入った良いフォームだ。
そして……なんと……片足を上げた?……“ 一本足打法”だと!
その姿は、俺が子供の頃憧れた、世界のホームラン王そのものじゃないか!
“一本足打法”なんていつの間に…… いやニアが知るはずないし……恐ろしい偶然なのか……ニア侮れない奴……。
そしてニアは、豪快にフルスイングする!———
カキーンッ——
なぜか、本当の打球音のような乾いた音を発しながら緑悪魔の頭部が空高く飛んでいく。
まさに弾丸ライナーだ!
俺は、『視力強化』スキルを使って『緑の悪魔』の頭部を目で追った。
どうやら、ニア渾身の一撃は、クリティカルヒットだったらしく、空中で液体になることも無く、霞となって消えてしまった。
『如意輪棒』の使い方が、これで正しいかのように思える破壊力だ……
この使い方で正しいはずは無いのだが……。
それにしても、今日も“ピクシーホームラン”は絶好調のようだ。
“一本足打法”のお陰か、飛距離も延びているような気がする……別に飛距離は勝負とは関係ないのだが……。
「ニア、お疲れ様。すごかったね」
俺はニアに近寄り、労いの言葉をかける。
「当たり前よ! 軽く一捻りだわ!」
『如意輪棒』をバトントワリングのように回しながら、爽やかな笑顔を作るニア。
改めて周りを見ると、残っていた衛兵たちと、つかまっている盗賊たちが口をあんぐりさせて固まっていた。
どうやらニアの圧倒的な強さを目の当たりにし、半ば放心状態のようだ。
これでニアは、大分目立つことになってしまったが……
まぁ、もともと“妖精女神”とか言われていたし、俺が目立つよりはいいだろう。
「ニア、街の様子を見に行こう! 」
「オッケー! 急ぎましょう! 」
街の住人に被害が出ていないか心配だ。
俺たちは急いで広場を後にした。
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