604.隠れていた、構成員。
俺は、ニアを捕まえた『正義の爪痕』の構成員を見つけ出すために、再度『波動検知』をかける……
集中……『正義の爪痕』構成員……
…………ダメだ。
検知できない……ん……まてよ……なんとなく違和感を感じるところが……何かゆらぎのようなものを感じる……あそこか!?
何もない空間だが……可能性にかけるしかない!
俺は違和感を感じた空間に、『魔法鞭』を放った!
ビュウンッ——
——べチンッ
「ぎゃあぁぁぁ」
当たりだったようだ。
悲鳴とともに空間が揺らいだ。
正確には空間が揺らいだというよりも、透明になっている構成員が倒れたために違和感が出たということだ。
俺は高速移動で近づき、見えない構成員を手探りで捕まえる——
……無事に取り押さえた。
確かにローブのようなものを着ている
無理矢理引き剥がすと……『正義の爪痕』の構成員が現れた。
見慣れたデザインの服だ。
「よくもニアを!」
俺は、怒りに任せて胸ぐらをつかんだ。
そして強烈な怒気を放ってしまったらしく、構成員が泡を吹いて気絶してしまった。
それを無理やりビンタで起こした。
「ニアを閉じ込めた魔法道具はどこだ?」
「わ、私ではない……。私はトランクの担当なんだ……」
なんだと!
……確認すると、確かにこいつはトランクを持っている。
『波動鑑定』すると……『名称』が『箱庭ファーム タイプセパレート』となっている。
俺が持っている『箱庭ファーム』と同系列の魔法道具だ。
これは、中の亜空間を二つから六つに分割して使うことができるらしい。
俺が持っているものの上位機種なのだろう。
ただ『階級』は、俺の持っている『箱庭ファーム』と同じで『究極級』だ。
「おい、このブロックに他にも隠れている構成員がいるのか?」
「う、うう……く、苦しい……」
いかん……思わず力が入って、首をしめていたようだ。
「いったい何人いるんだ?」
「ん……二人……」
俺の怒気が強すぎたのか、また構成員は気を失ってしまった。
まだ二人も隠れてるのか……
構成員が着ていたローブを『波動鑑定』すると……『名称』が『隠密のローブ』となっている。
そして、『階級』が『究極級』となっている。
『隠れ蓑のローブ』が『極上級』だったから、上位互換のようだ。
予想通り、姿を消すだけではなく気配も消すことができ、かつ認識阻害機能まであるらしい。
やはり普通に『波動鑑定』を使っても、検知できないようだ。
今やったように、慎重に違和感を探るしかない。
そう思った時だ——
「きゃっ」
突然少女が現れて、俺に抱きついた……。
なんだ!? 転移で現れたのか?
「あぁ、よかった! 戻れた! グリムゥ」
少女は俺に抱きついてきた……。
この聞きなれた声……そして一瞬見えた顔は……見慣れた美少女顔……。
え……ニア?
俺は抱きついている少女を引き剥がし、顔を覗き込んだ。
「ニア? ニアなのか?」
「そうよ! 私よ。お待たせ! 人間サイズになって、ニアちゃん再登場よ!」
おお、この残念な感じ……やっぱりニアだ!
ほんとに人間サイズになっている……。
そして、羽もない……。
……どういうこと?
訳がわからないが……でもニアが戻ってくれてよかった。
「よかった、ほんとにニアなんだな。よかった……」
俺は思わずニアを抱きしめてしまった。
そして自分でもよくわからないが、涙がポロポロ流れている。
あぁ……ほんとによかった。
今までこんなに心がざわついたことはない。
ニアは、やはり俺にとって特別な存在なのだ。
この世界に来て、最初に仲間になってくれたのがニアだ。
どこの誰ともわからないおじさんだった俺を助け、仲間になってくれた。
ニアがいなかったら、どうなっていたかわからない。
そんな思いがこみ上げて、つい号泣してしまった。
「ちょ、ちょっと……。気持ちはわかったから……。いつまで抱きしめているのよ……。このままじゃ……私の心臓が……持たないのよ……」
ニアの抗議で我に帰り、抱きしめている状態から解放した。
なぜかニアは、真っ赤になっている。
顔から蒸気が出ている感じすらするが……。
いつもの残念美少女顔が、こんなにも愛おしく感じるとは……。
あぁ……でもほんとによかった。
『エンペラースライム』のリン、『ミミックデラックス』のシチミ、『ワンダートレント』のレントン、『龍馬』のオリョウも、嬉しそうに集まってきた。
みんな、ニアの帰還にホッとするとともに喜んでくれている。
それにしても……ニアはどうやって、脱出したのだろう?
そして人間のような姿になっているわけは……?
「ニアは、どうやって脱出してきたの?」
「それはね……ふふ。クラスチェンジしたのよ……」
ニアがドヤ顔で、残念ポーズをした。
おお、残念ポーズ……人間サイズで見ると、一層残念感が増すな……。
左手を腰に当て、右手人差し指を突き上げている。
ニアは、クラスチェンジしたのか……。
クラスチェンジしたことと、脱出したことがどう関係しているのかはまだわからないが……。
『ロイヤルピクシー』から『クイーンピクシー』に変わったらしい。
ニアの現在のレベルは63で、『ミノタウロスの小迷宮』で合宿した時より1上がっている。
だが、レベル60を超えた時点で、既に『クイーンピクシー』へのクラスチェンジは発生していたのだ。
ただ『ロイヤルピクシー』でいる方が身に付きやすいスキルもあるはずと考え、実行を見送っていたのだ。
実際、今までにニアは、『通常スキル』を四つも取得している。
『薬草検知』『薬草調合』『魔法薬調合』『状態異常反射』の四つだ。
これらはおそらく、『ロイヤルピクシー』の状態でいるときに取得しやすいスキルなのだろう。
『薬草検知』『薬草調合』『魔法薬調合』は、薬師なら身に付きそうなものだが、実際はなかなか身に付かないらしい。
これらのスキルを持っている薬師は、ほとんどいないようだ。
スキル自体が、レアスキルに近い高性能なものらしい。
そして『状態異常反射』も、かなり取得が難しい反射系のスキルだ。
ニアがクラスチェンジを保留していたのには、もう一つ理由があった。
それは、以前、『土の大精霊 ノーム』のノンちゃんから、クラスチェンジするタイミングは、いずれ自分でわかるというアドバイスを受けていたからだ。
ニアは、そのクラスチェンジのタイミングが、今だと感じたらしい。
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