573.模擬戦が、終わって、その三。
「マリナ様、この度、ヘルシング伯爵領の領主になりましたエレナ=ヘルシングと申します」
エレナさんはそう言って、片膝をついて貴族の礼をとった。
「エレナ伯爵、そう堅苦しくしなくて大丈夫だよ。領の異変に気付き、よく救ってくれたね。そして、女領主をやる決断をして、立派だよ。『ヴァンパイアハンター』の実力もしっかり見せてもらった。気に入ったよ。これからは私も力になるから、困ったことがあったら言いな」
マリナさんはそう言って、片膝をついているエレナさんを立たせてハグした。
「私は、ヘルシング伯爵領で執政官をしております、キャロライン=クルースと申します」
今度はキャロラインさんが挨拶をした。
「クルース卿、あんたもかしこまらなくていいよ。キャロラインと呼ばせてもらうよ。あんたも強かったね。さすが『ヴァンパイアハンター』ってところだね。ただ……あんたからは、何か特別なものを感じるけど……なんだろうねぇ……」
マリナさんは、キャロラインさんも同様に立たせた。
少し不思議そうな顔をしている。
もしかしたら、キャロラインさんが『聖血鬼』であることに気づいているのか……。
いや……もし『鑑定』スキルを持っていたとしても、俺が偽装ステータスを貼り付けてあるから、わからないはずだ。
たぶんマリナさんは、直感的に何かを感じているだけだろう。
いずれにしても鋭い人だ。
マリナさんの身内や知人の挨拶が終わって、やっと俺たちの挨拶の順番が回ってきた感じだ。
「お義母様、こちらが妖精女神のニア様です」
ユーフェミア公爵が、ニアを紹介してくれた。
「ニア様、はじめまして。マリナ=セイバーンと申します。我が国の人々を守っていただき、ありがとうございます。深く感謝いたします」
マリナさんは、片膝をついて貴族の礼をとった。
何か違和感が半端ない。
相手がニアだから、ついそう感じてしまう。
「いいのよ。できることをやっただけだし。マリナ様は強いのね。美人だし。友達になりましょ。仲良くしてくださいね」
ニアがいつものように、お気楽に答えている。
そして、なんとなく上から目線な感じなんですけど……。
でも……ニアなりに、ちょっとは気を使ってるのかなぁ……。
“仲良くしてくださいね”と言ったからね。普通なら“仲良くしてね”って言ってるところだから。
まぁただの偶然かもしれないけどね。
「妖精族のニア様とお友達になれるなんて、本当に光栄です。長生きした甲斐があります」
マリナさんは、嬉しそうに微笑んだ。
そんなマリナさんをニアは気に入ったようで、俺を差し置いて『アメイジングシルキー』のサーヤと『ドワーフ』のミネちゃんを紹介した。
妖精族を優先したようだ。
この国の人たちは、全ての妖精族を神聖視しているらしいからね。
中でも、羽妖精は、より特別っぽいけど。
この国に限らず、この世界ではほとんどの人族や亜人族は、妖精族に畏敬の念を持っているようだ。
「一度に三人も妖精族の皆さんと知り合えて、本当に幸せです。みなさんの活躍や『フェアリー商会』のお話は、ユフィやシャリアから聞いてます。セイバーン領も同様に守護をお願いします」
マリナさんは、改めてニア、サーヤ、ミネちゃんの妖精トリオにお願いしていた。
守護もなにもないと思うんだけど……。
ピグシード辺境伯領もヘルシング伯爵領も、守護するとか後見するとかいっても、特に何かをしているわけではないからね。
「わかりました。愛する旦那様が、知り合った方との縁を大切にして、お助けするという方針ですので、今後もそれに従うつもりです。もちろん、もうお友達ですから、旦那様と共にできることは協力させていただきます」
サーヤは、そう言いながら微笑んだ。
それを聞いてマリナさんは、お礼を言うとともに、なぜか俺を二度見した……。
何この感じ……。
サーヤが“愛する旦那様”とか言ったから、結婚していると思われたのかな……。
「ミネは、グリムさんとずっと一緒にいるから、任せてなのです! グリムさんの大事な人は、ミネの大事な人でもあるのです。族長のおじいちゃんも、お父さんもお母さんも、ミネはグリムさんのお嫁さんになったと思って諦めてくれたのです。だから、もう勝手に出かけても怒られないのです! グリムさんといると、美味しいものがいっぱい食べられるのです! どんなに美味しい食べ物でも負けないのです! 今のところ最強は、カレーライス氏なのです!」
今度はミネちゃんが、胸を叩いてマリナさんに宣言した。
それはいいのだが……言ってることが滅茶苦茶すぎて、よくわからないんですけど……。
ずっと一緒にいると約束した記憶はないし……。
族長もお父さんもお母さんも、諦めちゃ駄目でしょうよ!
大体、お嫁に来るという話は初耳だし……。
子供特有の、パパと結婚するとか、先生と結婚する的な発想だとは思うが……。
ミネちゃんも、勝手に出かけるのやめようよ。ちゃんと行き先を告げてから来てほしい。
そして“カレーライス氏”って……ツッコミどころが多すぎて、逆にツッコめないわ!
マリナさんは、ミネちゃんの不思議発言にも動じず、丁寧にお礼を言って、再度俺に視線を向けた。
なんか……一瞬だったが、また呆れたような顔をされた気がするが……。
何か誤解していないだろうか……幼女と結婚する約束はしていないんですけど……。
俺は無実なんですけど……声を大にして叫びたい! ……トホホ。
マリナさんは、ニアたちと盛り上がりだした。
そして何故か俺は放置され、リリイやチャッピーをはじめとした仲間たちが次々に紹介された。
『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナ、『兎亜人』のミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキー、『アラクネロード』のケニーの人型分体、『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビー顕現体といったメンバーだ。
ケニーとナビーも、今回は一緒だ。
なんか……だんだんみんなで盛り上がって、女子会みたいな楽しい感じになってきている。
そして最後まで、俺と『魚使い』のジョージが残されてしまった。
俺たち男の立場っていったい……トホホ。
同じ男なのに、『兎亜人』のワッキーは、ミルキーたちを紹介する流れで、一緒に紹介され、輪の中に入っている……裏切り者め……。
それでも次にはジョージが紹介され、なんとか輪に入っていた。
結局……俺だけ取り残された……トホホ。
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