572.模擬戦が、終わって、その二。
「マリナ様、ゲンバイン家のドロシーです。お久しぶりです」
今度は、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんが挨拶をした。
「ドロシー、大活躍してるみたいじゃないかい、天才少女! 会えて嬉しいよ」
マリナさんはそう言って、ドロシーちゃんを抱きしめた。
ドロシーちゃんも、嬉しそうな顔をしている。
「マリナおばあさま。お久しぶりです。ミアカーナです」
今度は、スザリオン公爵家長女のミアカーナさんが挨拶をした。
直接の血縁関係は無いはずだが、“おばあさま”と呼んでいるようだ。
よく交流しているからかもしれない。
「おお、ミアカーナ、聞いたよ。あんた仮面をつけて武術大会に出場して、優勝したんだって。ホントに面白い子だね。どうだい、楽しかったかい?」
マリナさんは、愉快そうにミアカーナさんの肩に手をかけた。
満面の笑みだ。
「ええ、楽しかったですわ。私もおばあさまのように、強くなりますわ! それから……おばあさま、私も好きな人ができましたの! だからミリアにも決して負けませんの!」
ミアカーナさんは、トキメキ顔をしつつ拳を握った。
恋する乙女の顔で、ハッとするくらい可愛いのだが……なぜにグーパンチポーズ?
顔とポーズがいまいち合っていない……残念!
「ほほう……男になんて興味がなかったあんたが……。ハハハ、クリスティアに続いて、ミアカーナまで目覚めちまったのかい? その男ってのはもしかして……ミリアたちと一緒かい?」
マリナさんは、驚きながら笑っている。
最後は、悪戯な顔でミアカーナさんとミリアさんを交互に見ている。
「そうなんです! やっぱりミリアとは、永遠のライバルなんですわ! 私たちは離れられない運命ですの!」
ミアカーナさんは、笑いながらミリアさんの腕を組んだ。
ミリアさんは、迷惑そうに腕を振り払おうとしていたが、ミアカーナさんは強引にしがみついていた。
争っているように見えて、相変わらず仲良しの雰囲気がだだ漏れだ。
もうただの仲良しコンビじゃないか……『ミリミアペア』とでも名付けるか……。
そして、ここでもなぜか、俺はマリナさんから一瞬視線を向けられた。
なんだろうこの感じ……。
まだ挨拶もできていないし……。
「マリナおばあさま、私は殿方に興味がなかったわけではありませんわ。そういう気持ちになる殿方が現れなかっただけですもの……」
今度は名前を出されてしまった第一王女のクリスティアさんが、話に入った。
彼女も直接の血縁ではないはずだが、やはり“おばあさま”と呼ぶようだ。
「そういう気持ちになれる人と出会えたってことは、いいことだね。国王陛下は複雑な気持ちだろうけどね」
そう言ってマリナさんは、クリスティアさんの肩を抱いた。
「マリナ様、お久しぶりです。エマです。敬愛するマリナ様とユーフェミア様の試合が見れて幸せです」
今度は、王国近衛騎士団で格付け第三位の実力を持つ護衛官のエマさんが挨拶をした。
「エマ、久しぶりだね。相変わらずクリスティアと一緒にいるんだね、今日の戦いもいい動きだったよ。エマらしい献身的な戦いぶりだったね。エマは、ずっとクリスティアといるつもりなんだろう? 嫁も一緒に行くのかい?」
マリナさんはエマさんの献身的な戦いを褒めつつ、ちょっと悪戯っぽく尋ねた。
確か……エマさんは、元々クリスティアさんと幼なじみの仲良しだと言っていた。
これからもずっと一緒にいたいというのは、この二人の家族のような雰囲気からも確かに見て取れる。
よく考えたら、この二人も親友コンビのようだ。
『クリエマペア』といったところか……まぁ無理矢理名前をつけてもしょうがないけどね。
それにしても……一緒に嫁に行くのは、ちょっと違う気がするが……。
「そ、それは……」
「もちろんですわ! エマとは、これからも一緒です! 同じ人を好きになって、やはり一緒にいる運命だと確信しました! 一緒に嫁ぐ予定です!」
言い淀んだエマさんの言葉にかぶせるように、クリスティアさんが宣言した。
しかも、めちゃめちゃ嬉しそうに。
確信を持って断言しているが……クリスティアさん、こんなキャラだったかな……?
ちょっとだけいつもと違うような気もするが……相手がマリナさんだからだろうか……。
それにしても……なぜ親友と同じ人を好きになったことを喜んでいるのだろう……普通ドロドロの愛憎劇が始まるパターンだと思うけど……大喜びで“一緒に嫁ぐ”というのは……発想がぶっ飛びすぎていて、苦笑いしか出てこない……。
そしてなぜか、ここでもマリナさんの視線が俺に向いた。
さらには呆れたような表情で、軽くため息をつかれたのだが……なぜに?
どんどんいたたまれない気持ちになっていくのはなぜだろう……トホホ。
「マリナおば様、お久しぶりです。アナレオナです。相変わらずお見事でした。さらに強くなったんじゃありません?」
今度は、ビャクライン公爵夫人のアナレオナさんが挨拶をした。
「アナレオナ、久しぶりだねぇ。会えて嬉しいよ。あんたとエルサーナは、子供の頃よく遊びに来てたから、実の娘のようなもんだからね」
マリナさんは、優しい眼差しでアナレオナさんの手を握り、肩を撫でた。
エルサーナさんは、アナレオナさんの姉で王妃様のことだ。
クリスティアさんの母親でもある。
「マリナ様、ご健在ぶりを拝見できて、嬉しく思います。ワハハハ、どうですか、私と一戦? ……ぐふっ」
ビャクライン公爵は愉快そうに笑ったが、脳筋発言によりアナレオナ夫人の肘鉄を食らっていた。
「タイガ、相変わらずだね。アナレオナも、こんな大きな子供がいたんじゃ本当に大変だね。またコテンパンになりたきゃ、いつでも相手してやるよ。せっかく来たんだ、しばらくゆっくりしていきな。『セイリュウ騎士団』に稽古をつけてやっておくれよ」
マリナさんは、駄目な子供を見るような目つきをしつつも、最後には優しい口調になっていた。
「お、お久しぶりです。イツガ=ビャクラインです」
「ソウガ=ビャクラインです」
「サンガです」
シスコン三兄弟も順番に挨拶した。
ガチガチに緊張しているようだ。
やっぱりこの子たちは、綺麗で強い女性に弱いようだ。
たとえそれが、かなりの熟女であっても……。
ある意味、ブレないシスコン三兄弟に……俺は敬意を表したい……将来有望かもしれない……なんのこっちゃ……。
「おお、坊主たち、大きくなったね。イツガは覚えているようだね。これからが楽しみだね。父上のように強く、母上のように賢くなるんだよ」
マリナさんは、三兄弟の頭をぐりぐり撫でながら優しく微笑んだ。
「マリナおばあさま、私はハナシルリ=ビャクラインです。かっこいいおばあさまが、ちゅきになりました」
最後にハナシルリちゃんが挨拶をした。
最後は、“好き”を“ちゅき”と可愛く言い間違えて、キラースマイルをした。
俺は、中身が三十五歳と知っているから、あざとい攻撃とわかるが……普通は可愛すぎてイチコロだ。
案の定、マリナさんを始め周りの人たちは、全員、可愛さに心を奪われニヤニヤしている。
「おやぁ、賢そうな子だね。ハナシルリちゃん、初めてだね。ほんとに可愛い子だね……。抱っこさせてくれるかい?」
セイバーン領最強のマリナ騎士団長も、ハナシルリちゃんの可愛さに完落ちしたようだ。
マリナさんは、顔をゆるゆるにして、両手を広げた。
そこにハナシルリちゃんは、可愛く頷きながら抱きついた。
そして抱きかかえられ、甘えるように首に巻きついている。
マリナさんの母性を、完璧に鷲掴みにしたようだ。
美熟女騎士団長が、ただの優しいおばあちゃんになっている。
恐るべしハナシルリ=ビャクライン……。
味方でよかった……。
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