571.模擬戦が、終わって、その一。
コロシアムの大歓声がなんとか収まった頃、俺は仲間たちとともにユーフェミア公爵をはじめとした『高貴なる騎士団』の皆さんを訪ねた。
激戦を労うためだ。
ユーフェミア公爵たちは、大きな控え室に入って、『セイリュウ騎士団』の皆さんと一緒にいた。
これから懇談をする予定だったようだ。
テーブルがセットされ、お茶とお茶菓子も用意されている。
戦いが終わって、親交を深めようということだろう。
さすがユーフェミア公爵……抜かりがない。
素晴らしいことだと思う。
そういう様子を見るのは……なんか嬉しい。
俺たちは、そこにお邪魔するかたちになってしまったのだ。
俺たちは、まずは、ユーフェミア公爵たち『高貴なる騎士団』の皆さんに挨拶し、労いの言葉をかけた。
そして、『セイリュウ騎士団』の皆さんにも挨拶をする。
まずは全員で会釈をする程度の挨拶をした。
個別の挨拶はこれからだ。
当然、まずは騎士団長のマリナさんから挨拶をする予定だ。
俺たちは挨拶のタイミングを計っていたが、まずは身内の皆さんが改めて話をする感じなので、そのまま様子を窺うことにした。
「おばあさま、相変わらず見事な槍捌きでしたわ」
「今回こそ、お母様が勝つと思ったんですけど、さすがですわね、おばあさま」
「やっぱりおばあさまを倒すのは、私しかいないですもの。それまで負けないでくださいね」
セイバーン家の三姉妹シャリアさん、ユリアさん、ミリアさんが、祖母であるマリナ騎士団長に楽しそうに話かけた。
「あんたたちもいい試合だったね。成長したね。やっぱり好きな男ができると違うんだね。急に成長しちゃって、ハハハハハハ」
マリナ騎士団長が豪快に笑った。
そして、一瞬俺に視線が突き刺さったのは……なぜだろう……?
「まぁおばあさまったら」
「否定は致しませんが」
「もっと強くなれる気がしてます」
三姉妹は、少し頬を赤らめながら、嬉しそうにマリナさんを取り囲んだ。
なんか……四姉妹みたいに見えますけど……。
雰囲気が、めっちゃキャッキャしてる感じなんですけど……。
「お母様、相変わらずですわね。当分騎士団長も続けそうですわね」
今度は、実の娘アンナ辺境伯が声をかけた。
「アンナ、よく来たね。お前の弓に、今のお前が表れていたよ。よく頑張ったね」
マリナさんは、少し涙ぐんでいるようだ。
「お母様、ありがとうございます……」
アンナ辺境伯が、言いながらマリナさんに抱きついた。
そして涙をこらえ、少し嗚咽が漏れた。
ピグシード辺境伯領を壊滅の危機に追い込んだ悪魔の襲撃による悲劇を乗り越え、女辺境伯として頑張ってきた。
愛するご主人を失い、多くの領民を失い、領内の全ての貴族を失い、それでも領民のために、領の再建のために泣かずに頑張ってきた。
そんなアンナ辺境伯も、実の母親に会って優しい言葉をかけられて、気が緩んだのかもしれない。
「よしよし。アンナは私の誇りだよ。ときには泣いてもいいさ」
マリナさんは、めっちゃ優しいお母さんだった。
今日の戦いを見ていて、厳しい印象しか受けなかったが、今は娘を思う優しい母親の顔をしている。
普段からアンナ辺境伯から受けるなんとも言えない優しい感じは、お母さん譲りだったようだ。
「おばあさま、お久しぶりです」
「おばあさま、タリアです」
今度は、アンナ辺境伯の娘……ピグシード家の長女ソフィアちゃんとタリアちゃんが挨拶をした。
「ソフィア、タリア、大きくなったね。あんたたちの話もユフィから聞いてるよ。すごいね。領城に現れた『正義の爪痕』とも戦ったんだろう? それに良い友達もできたみたいじゃないか」
これまた優しいおばあさんの顔だ。
「はい、おばあさま。私……お母様を支えられるように強くなります!」
「私もお姉様と一緒にお母様を支えます! お友達や動物たちも助けてくれるんです」
ソフィアちゃんとタリアちゃんは、嬉しそうに言った。
おそらく友達というのは、今や親友と言っていいリリイ、チャッピー、そして『ドワーフ』の天才少女ミネちゃん、ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんのことだろう。
リリイとチャッピーはタリアちゃんと同じ八歳だし、ドロシーちゃんはソフィアちゃんと同じ十三歳だ。
ちなみに『ドワーフ』のミネちゃんは、九歳なのだ。
前にニアやサーヤに聞いたが、妖精族の歳の取り方は独特なようだ。
妖精族は、十五歳までは普通の人族と同じように成長するらしい。
それ以降は、外見の成長が遅くなり、十年で一歳くらいの感じで成長していくとのことだ。
そして、十五歳を過ぎた妖精族の年齢は、『鑑定』しても『不明』となるらしい。
もっとも、本人が確認する自分のステータスには、『年齢』は表示されているそうだ。
それと、本人が意図的に年齢を明示しようと思っていると、『鑑定』に表示されることもあるそうだ。
ニアの『基本ステータス』で、『年齢』が『不明』と表示される理由が一応わかった。
浄魔や霊獣の仲間たちの『年齢』も『不明』と表示されるが、これと似たような原理があるのかもしれない。
ただ浄魔や霊獣たちは、本人たちにも、自分の年齢がよくわからないらしい。
ある意味……年齢という概念を超越している存在なのかもしれないが……。
サーヤが百二十八歳というのは、最初に自己申告で教えてくれたから、わかったんだよね。
妖精族の百二十八歳は、この計算によれば、見た目年齢的には二十六歳くらいということになる。
確かにサーヤは、そのぐらいに見える。
ただニアと違って落ち着いているから、もう少し年上にも見えるんだけどね。
ニアさんは、十八歳ぐらいに見えるから……もしかしたら四十五歳くらいなのかもしれない。
最初に出会った時に、俺をおじさんと言っていたが……実年齢としては、俺と同じくらいなのかもしれない。
人族だったら、おばさんと言われる年齢じゃないか!
ニアは、いまだに年齢を公開してくれないが……多分俺の読みは合っているはずだ。
タリアちゃんが“動物たち”と言ったのは、領城で彼女たちを守っている『ペット軍団』というか『見守りチーム』の動物たちのことだろう。
『マジックスライム』のプヨちゃん、『オカメインコ』のピーちゃん、『リス』のモグちゃん、『アライグマ』のスリちゃん、『アルマジロ』のマルちゃんたちだ。
この子たちは、ソフィアちゃん、タリアちゃんの専属護衛兵のようなものだが、彼女たちは友達と思って仲良くしているのだ。
見た目がペットなので、比較的どこにでも連れて行くことができるのだが、今回は領城で留守番をしてもらっているようだ。
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