564.模擬戦第二戦、パーティー戦、その一。
五対五のパーティー戦が、いよいよ始まった!
『高貴なる騎士団』パーティーは、作戦通りセイバーン家長女のシャリアさんと次女のユリアさんがタンクとして大盾を前面に出し、臨戦態勢を取った。
突っ込むのではなく、待ち構えるようだ。
様子を見るという意味もあるのだろう。
剣で戦う第一王女のクリスティアさんと護衛官のエマさんが、盾の後方の左右にスタンバイし、中央にはセイバーン家三女のミリアさんが槍を構え臨戦態勢をとっている。
対する『セイリュウ騎士団』パーティーは……なんと、弓士のユミルさん以外の全員が、攻撃態勢で突進している。
ユミルさんは、前方を走る同僚騎士たちの間を縫うように、矢を連射している。
機械かと思うほど、無駄のない動きで連射速度が速い。
“矢継ぎ早”とは、まさにこのことだ。
だがこの矢は、当然のごとく大盾を構えているシャリアさんとユリアさんに弾かれる。
そんなことは気にも留めず、ユミルさんは連射を続けている。
これによって、盾の後方でスタンバイしているクリスティアさん、エマさん、ミリアさんが動きづらい状況になっている。
牽制の役割を果たしているようだ。
その間に、接近した騎士たちは、攻撃を仕掛ける。
ん……攻撃対象がばらけている……。
おそらく……あらかじめ誰が誰と戦うかということを、決めてあるのだろう。
自分の攻撃対象に、躊躇なく打ち込んでいる。
どうやら……この人たち……連携して戦う気はないようだ。
事前に各自のターゲットが決めてあって、各個撃破する作戦なのかもしれない。
ほとんど個人戦じゃないか……。
個人戦を五組同時にやっているような感じだ。
てか……そういう戦い方するなら、パーティー戦にした意味がないと思うんだけど……。
でもまぁ……それも一つの戦法ではあるけどね。
個人の武が際立っているセイリュウ騎士だからこそできる戦法だろうが……。
やはり……侮れない……一筋縄ではいかないようだ。
現に『高貴なる騎士団』パーティーは、予定していた戦い方ができなくて、浮き足立っている。
戦闘陣形が崩されてしまったのだ。
陣形の柱であるタンク役のシャリアさんとユリアさんが、タックルを受け体勢を崩してしまっていた。
戦闘開始当初は様子見という意味もあって、大盾の固定杭を打ち込んでいなかったから、強力なタックルに押されてしまったのだ。
弾き飛ばされるほどではなかったが、体勢が崩れて陣形が乱れたことによって、メンバーがばらけてしまった。
タックルを放ったのは、格付け第三位の斧士ログアクスさんと第四位の斧士バトアークスさんの腕力コンビだ。
長手斧使いのログアクスさんは、シャリアさんをターゲットにしているようで、タックルの後体勢を整えると、長手斧をシャリアさんに向けた。
戦斧使いのバトアークスさんは、ユリアさんをターゲットにしているようだ。
そして、第五位の槍士ランスンさんは、同じく槍を使うミリアさんを標的として突きを放っている。
第六位の剣士スウォードさんは、エマさんと鍔迫り合いをしている。
剣と剣が激しく火花を散らしている。
二刀流のクリスティアさんには、矢が降り注いでいる。
第七位の弓士ユミルさんによるものだ。
彼女のターゲットはクリスティアさんのようで、最初の牽制の攻撃の後は、クリスティアさんに打ち込んでいるのだ。
ユミルさんは、さっきもアンナ辺境伯と競ったばかりなのに、疲れ知らずで矢を射っている。本当に凄い。
クリスティアさんは、矢を弾くので精一杯の状態にされている。
完全に、セイリュウ騎士たちのペースだ。
彼らの狙い通りに戦いが進み出している。
それぞれの戦う場所が離れていっている……おそらく意図的にやっているのだろう。
連携させずに孤立させ、一対一で勝負を決めるつもりのようだ。
俺もそうだが、スタジアムの観衆もパーティー戦の連携攻撃とか、そういうものを期待していたはずだ。
ところが乱戦というか、個人戦の様相で……全く予想だにしない展開になっている。
まぁこれも面白いけどね。
パーティー戦は殲滅戦だから、全員が戦闘不能になった時点で勝敗が決する。
セイリュウ騎士たちは、仮に誰かが負けることがあっても、残った者が潰せばいいと考えているのだろう。
「コウリュウド式伝承斧技! 龍爪! ヤァァァァーー!」
長手斧使いのログアクスさんが、叫び声をあげながらシャリアさんに技を打ち込んだ。
この技は、前にも見たことがある。
『ナンネの街』奪還戦の時には、ピグシード軍のシュービル近衛隊長が出した必殺技だ。
シュービル隊長も、ログアクスさん同様長手斧を使っていた。
振り下ろし、斬り上げ、更なる振り下ろしという三連続の攻撃だ。
シャリアさんは大盾で初撃を受け止め、下からの二撃目も大盾で受けたが強烈な攻撃に盾がはじかれそうになった。
そして三撃目が襲ってくる軌道になんとか盾を戻し、ガードすることはできた。
だがバランスを崩していたので、踏ん張ることができず大きく吹き飛ばされてしまった。
「コウリュウド式伝承斧技! 龍牙! トォォォォ!」
戦斧使いのバトアークスさんも、ユリアさんを仕留めにかかった。
巨漢を苦にすることなく、高くジャンプすると空中で回転しながら斧を振り下ろした!
俺も初めて見る必殺技だ。
——ゴオンッ
ユリアさんは、大盾で真正面から受けた。
だが技の勢いが強く、後方に転がされてしまった。
ちょうどシャリアさんが吹っ飛ばされていたところに転がり、奇しくも合流するかたちとなった。
いや……たぶん偶然じゃない。
シャリアさんが飛ばされるのを見て、同じ場所にわざと転がったのだろう。
二人は、一瞬目線を合わせ頷くと、次の行動に移った。
最初の戦闘陣形のように、二人並んで大盾を構え壁を作ったのだ。
この体勢でまた攻撃を受けるつもりなのだろうか……
シャリアさんとユリアさんを追撃してきたログアクスさんとバトアークスさんが、それを見て、最初と同じように弾こうとタックルを仕掛ける。
まるでラガーマンだ。
というか……迫力が……重戦車のようにも見える。
——バゴンッ
——バゴンッ
二人はほぼ同じタイミングでタックルした。
だが……今度は盾は弾かれることなく壁状態を維持している。
今回はおそらく、固定用の杭を差し込んでいたのだろう。
大盾でタックルを防がれた二人は、体に負担がかかり少し動きが止まった。
杭で固定したとはいえ、シャリアさんとユリアさんも衝撃を受け、同じように少し動きが止まった。
そこに……
「姉様!」
「「ミリア!」」
槍使いのランスンさんと突き合いをしていた三女のミリアさんが、シャリアさんたちの後方から走り込んできたのだった。
そして、姉たちに声をかけながら、飛び越えるようにジャンプした!
「龍風! トアッー!」
着地と同時に、ミリアさんが突き出した槍は、風を巻き起こしながら標的を捉えた。
大盾にもたれかかっていたログアクスさんとバトアークスさんは、流血している。
それぞれの右肩と両足ふくらはぎから、血を流しているのだ。
そう……ミリアさんは必殺技を出して、この二人を差し貫いたのだ。
高速の六連撃は、セイリュウ騎士の鎧をも貫通してしまったようだ。
これは、ミリアさんの必殺技で『コウリュウド式伝承槍技 龍風』だろう。
『ナンネの街』奪還戦の時に、見た技だ。
高速の六連撃を放つ技だが、ミリアさんのレベルが上がったことでスピードと威力がさらに上がったようだ。
連続する“突きと戻し”で、周囲に風が巻き起こるという特徴も持っている。
それにしても、本当に刺している……。
もちろん急所は外しているのだろうが……。
それと回復薬で回復できるという前提での攻撃だろう。
まぁ手加減する余裕なんてないしね。
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