554.フラグって言っちゃ、ダメでしょ!
「ミアカーナねぇね、ハナシルリです。私もねぇねのように、強くてかっこいい人になりたいです」
ハナシルリちゃんはそう言うと、ミアカーナさんに天使のような笑顔を向けた。
俺的には、中身が三十五歳の“残念さん”だと知っているので、微妙な感じなのだが……。
この場にいるみんなは、とろけるようにニヤけた。
確かに中身を知っている俺でも、ニヤけたくなるような天使顔だからね。
そしてそんな挨拶をされた当の本人、ミアカーナさんは……
「まぁハナシルリ、大きくなったわねぇ。ほんとに可愛いわ。食べちゃいたいくらい!」
そう言いながら、ハナシルリちゃんを抱き上げ、ほっぺにチューをした。
「姉様、か、かっこよかったです」
「姉様、すごかった……」
「……姉様のお嫁さんになりたい」
今度は同じいとこのシスコン三兄弟が声をかけた。
一部変な発言をしているのは、末弟のサンガくんだ。
「まぁ、イツガ、ソウガ、サンガ、あなたたちも大きくなったわね。ふふ、相変わらず仲良し兄弟ね」
そう言うとミアカーナさんは、三兄弟の頭を撫でてあげた。
三兄弟は、真っ赤になって固まっていた。
ほんとにこの三兄弟……強い美人に弱いようだ。
「ミアカーナ姉様、お久しぶりです。ドロシーです。さっきの試合、興奮しちゃいました!」
今度は、ゲンバイン公爵家長女のドロシーちゃんが挨拶をした。
「まぁドロシー、久しぶりね。クリスティア姉様たちと一緒に仕事をしているんでしょ。さすが天才ね。羨ましすぎるわ」
ミアカーナさんは、ドロシーちゃんとハグをした。
「ほんと、あんたのお転婆は変わらないね。まぁ今日の試合は、そのお転婆ぶりが出てて面白かったけどね」
「お転婆ぶりは、昔からミリアといい勝負だったけど……今じゃぁ、お転婆具合と胸の大きさは勝ったんじゃない?」
「ちょっと! ユリア姉様!」
ミアカーナさんに声をかけたセイバーン家三姉妹の長女のシャリアさんと次女のユリアさんに、三女のミリアさんが抗議した。
「シャリア姉様、ユリア姉様、お久しぶりです。やっぱり胸の大きさは、私の勝ちよね。女らしさでは、私の完全勝利ね! 後は戦闘ね……ミリアはまたレベルを上げたみたいだけど、あたしだって負けないわ。これからもっと強くなるし、もっと胸も大きくなるから!」
ミアカーナさんは、胸に手を添えてドヤ顔をミリアさんに向けた。
そんな挑発を受けたミリアさんは、ほっぺを膨らましてミアカーナさんを睨みながら近づいていっている。
なんか……ヤンキー同士が顔を接近させながらガンを飛ばし合ってる状態に似てるけど……。
そしてお笑い芸人だったら、このままキスしちゃうパターンだけど……さすがにそれはないよね?
……密かな期待をしつつ……見守ったが……さすがにキスはなかった……。
“喧嘩腰の言い合いからキスでオチる”っていうお笑いのパターンを、誰か教えてくれないかなぁ……。
おじさん同士のキスは見たくないけど……この子たちならいいかな……。
ダメだ! 普通に可愛すぎてお笑いにならない……残念。
二人は睨み合っているが、険悪なムードどころか……仲良しな雰囲気が伝わってくる。
そして、そのうちお互いに耐えられなくなったのか、吹き出してしまった。
なんかお互いに、ライバルと言いつつ、絡み合ってジャレあっているだけのようだ。
やはり親友なのだろう。
微笑ましく見ていた俺に、ハナシルリちゃんから念話が入った。
(ねぇねぇ、これで四公爵家が揃っちゃったけど……これって何かのフラグじゃない? ビジョンは今のところ見えないけど、なんかムズムズするのよね。女の勘ね……」
そんな縁起でもないことを言ってきた。
フラグって……お願いだから、そんなことを考えるのはやめてほしい。
本当になっちゃったら、どうするのよ!?
俺は自分に言い聞かせる意味も込めて……ハナシルリちゃんに念話を返した。
(フラグかもしれないけど、それは作戦通りに『正義の爪痕』が誘き寄せられるってことだよ。ハハハ……)
俺は、念話しながら思わず苦笑いしてしまった。
女の勘と言われ一瞬ビビったが、まぁ元々『正義の爪痕』を倒すための作戦なんだから、何か起きるのが当たり前で、事前の準備もしてあるし大丈夫だろう。
ちなみにハナシルリちゃんとは、一昨日の晩と昨夜も密かに話をしているので、今まで起こった事や今回の作戦についても説明済みなのだ。
(そうね。いずれにしろ、これから一勝負あるってことよね。ついに私もチートバトルデビューだわ!)
ハナシルリちゃんが、ノリノリでそんなことを宣言した。
確かに、作戦通りに『正義の爪痕』が現れてくれればいいんだけど……なんで戦う気になってるわけ!?
中身はともかく体は四歳児だし、レベル5のままですから!
いくら『共有スキル』で、いろんなスキルを使えるようになったからって、戦っちゃダメでしょうよ!
ハナシルリちゃんは、異世界転生したものの『固有スキル』も現時点では微妙な感じで、歯がゆい思いをしていたらしい。
異世界に来たからには、“チートで無双”をやりたかったそうだ。
その気持ちはわかるけどね。
俺も最初はレベル1で、スキルもわけわかんなくて、ノーチート状態だと思って絶望的な気持ちになったからね。
そんなハナシルリちゃんが俺と出会って、『共有スキル』が使えることによって、チートと言っていい状態になってしまったのだ。
一昨日の夜も昨夜も、かなりのハイテンションだった。
もっとも四歳児の体なので、睡眠衝動には勝てないらしく、あまり長話はできなかったけどね。
ハナシルリちゃんのハイテンションを考えると、さっきの発言は、もしかしたら本気かもしれない……ちょっと怖いんですけど……。
それから彼女は、既に天才幼女としてビャクライン公爵領では評判になっているらしいのだが、本人的にはやりたくてもできないことが多く、悶々としていたのだそうだ。
その点でも、『フェアリー商会』を一緒にやらせてもらえれば、いろいろ進められると力が入っていた。
さすがに領政に直接関与するのは、いくら公爵の娘でも四歳児には難しい。
だが、商売を通じて領民を幸せにしたり、領を豊かにすることはできると考えているとのことだった。
それ故に、『フェアリー商会』を一緒にやらせてほしいと、本気でお願いされたのだ。
外見は四歳児だが、中身は三十五歳で、本人曰く“バリバリのキャリアウーマン”だったらしいから、アイデアもいろいろあるだろうし、商売をやりたいという気持ちはよくわかる。
俺も商売をやって、この世界の人たちが喜んでくれている姿を見るのは、なんともいえない幸福感を味わえるからね。
特に美味しいものを食べて喜んでいる姿を見るのは、たまらなく嬉しいんだよね。
ただ彼女は、今後もビャクライン家で育つわけだし、自分で商会を作ればいいんじゃないかという話もしてみたが……
「いやよー。みんなでやるから楽しいんじゃない。私も混ぜてよー。だいたい、四歳児が先頭に立ってできるわけないでしょ! ビャクライン公爵領とは距離があるけど、念話で連絡できるし、もちろん私にも転移の魔法道具くれるわよねぇ?」
そんなふうに言われてしまった。
転移の魔法道具の話をした時から……狙っていたようだ。
まぁどっちみち渡そうと思っていたからいいけどね。
そして、よく考えてみたら確かに彼女の言う通り、一緒にやった方が楽しいよね。
同じ日本人としての感覚で、打ち合わせができるしね。
ジョージも含めて三人で話した方が、閃くことも多いし、思い出すことも多いだろう。
実際ジョージのお陰で『寿司』が食べれたし、ハナシルリちゃんのお陰で『カレーライス』が食べれたからね。
ということで、俺は改めて了承したのだ。
そして何故か……最初の仕事が『カレーライス』専門店になってしまった。
『フェアリー商会』飲食事業本部の新たなブランドとして、カレー専門のお店を出すことになったのだ。
『フェアリー亭』やメイド風喫茶『フェアリーキッス』で、メニューに加えればいいと思ったのだが……。
それはそれとして、カレー専門店は別に作った方が面白いという意見がハナシルリちゃんから出され、ジョージも賛同したのだ。
もちろん、ニアやサーヤたち商会の幹部メンバーも賛成してくれた。
というか……それほど『カレーライス』が絶大なる支持を得ていたのだ。
そしてなぜか……カレーショップの名前まで決まってしまった。
『フェアリーカレー』になる気がしたが……というか俺がつけたら『フェアリーカレー』にしていたと思うが……ハナシルリちゃん発案で全く違う名前になった。
カレー専門店のブランド名は……『イセイチ』になった。
これは……この異世界で一番のお店、一番の食べ物にするという決意を込めたらしい。
それは良いのだが……俺的には……どう考えても某大手有名カレーチェーンのパクリだと思うんだけど……
まぁ同じ名前じゃないから……オマージュということにしておこう……。
ビャクライン公爵的には、『カレーライス』はハナシルリちゃんが考案した特別な料理ということになっているから、『フェアリー商会』で販売して大丈夫かと尋ねてみたが、「どうとでもなるわ」と悪い笑みを浮かべていた。
ほんとに……四歳児のあどけない可愛い顔で、悪い笑みを浮かべるのはやめてほしい……。
というか……本当にビャクライン公爵は、手玉にとられている……残念。
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次話の投稿は、27日の予定です。
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