553.仮面女性剣士の、正体。
会場は、未だに大歓声で揺れている。
優勝した仮面女性剣士ことリオン選手は、スタジアムの四方に向かって手を振り声援に応えている。
惜しくも敗れたタンク巨漢戦士ことヌリカベン選手は、顔を焼かれているので、治療室に運ばれた。
表彰式は、明日の大会四日目に行われる。
本日の午前中は、このまま小休止となる。
そして午後は、待望の特別イベントがある。
騎士団の模擬試合だ。
セイバーン公爵軍が誇る『セイリュウ騎士団』と、ユーフェミア公爵が非公式に組織した大会限定の特別騎士団『高貴なる騎士団』が模擬戦を行うのだ。
今大会の目玉企画である。
お昼にはまだ少し早いが、試合に出るユーフェミア公爵たちのことを考えて、少し早めの昼食をとることにした。
昼食はいつものように、このスタジアム内の特別個室でみんなで取る予定だ。
大皿料理を頼んである。
みんな大好きな『カレーライス』は、昨夜も食べたが、今夜も食べたいという要望が出ていて、夜はカレーの予定だ。
昼もカレーでいいという意見が多く出ていたが、模擬試合に出る人がいるので食べ過ぎては困るという理由で我慢してもらった。
これから食べはじめようとしていた時に、騒がしい声とともにドアが開いた。
「い、痛い! 痛いってば! ちょっと離しなさいよ!」
声の主は、先程の仮面女性剣士リオンさんだった。
セイバーン家三女のミリアさんが片腕をがっちりホールドし、引きずるように連れてきている。
「ちょっと! いい加減に離してよ、ミリア! あんたいつの間にこんな怪力になったのよ! ……まさか、またレベルが上がったの?」
リオンさんは必死に抗議しているが、ミリアさんは聞く耳を持たず強引に引きずってユーフェミア公爵とアナレオナ夫人の前に立たせた。
「アナレオナ叔母様! な、なぜここに……」
リオンさんは、アナレオナ夫人を見て驚きの声を上げた。
「あなた……まさか……ミアカーナなの?」
アナレオナ夫人の問いかけに、リオンさんは下を向いた。
「ミア、観念しな! ちゃんと挨拶して!」
連行してきたミリアさんはそう言いながら、リオンさんの仮面を外した。
「こりゃぁ驚いた! ほんとにミアカーナなのかい!? しばらく見ない間に大人っぽくなったね。胸も大きくなって……ミリア、抜かされちゃったじゃないか! ハハハ」
ユーフェミア公爵は驚きつつも、笑顔になった。
そして豪快に笑った。
「ミアカーナ、まさかあなただったとは……。久しぶりね。ほんとに大人っぽくなったわ」
今度は、第一王女のクリスティアさんが声を震わせた。
少し涙ぐんでいるようだ。
「クリスティア姉様!」
リオンさんは、飛び込むようにクリスティアさんに抱きついた。
姉様って……まさか妹じゃないよね……?
完全に取り残されている俺たちに、ユーフェミア公爵やミリアさん、そして本人が事情を教えてくれた。
それによると……なんとリオンさんは……
スザリオン公爵家の長女だった。
本当の名前は、ミアカーナ=スザリオンというらしい。
年齢は、会場アナウンスでは二十五歳ということだったが、本当はミリアさんと同じ成人したての十五歳とのことだ。
ビャクライン公爵夫人のアナレオナさんは、スザリオン公爵家の出身で現スザリオン公爵の妹にあたるので、ミアカーナさんの叔母にあたることになる。
同じくスザリオン公爵の妹であり、アナレオナ夫人の姉のエルサーナさんが王妃であり、クリスティアさんの母親なので、クリスティアさんとミアカーナさんはいとこ同士ということになるようだ。
それで姉様と呼んだのだろう。
ということは、ミアカーナさんはハナシルリちゃんとも、いとこ同士ということになる。
もちろんシスコン三兄弟ともだ。
そして、ミアカーナさんとセイバーン家三女のミリアさんは同じ歳で、親友というかライバルなのだそうだ。
スザリオン公爵領とセイバーン公爵領は比較的近く、交流が盛んだと前に聞いていたが、二人は幼なじみのようなものらしい。
ミリアさんは、火魔法と剣を投げつけるという滅茶苦茶な戦い方を見て、ミアカーナさんだと気づいたのだそうだ。
それで試合終了後すぐに訪ねて、連行してきたということのようだ。
ミアカーナさんによれば……
両親の許可を得ずに飛び出してきて、勝手に参加したらしい。
それゆえに偽名を使い、出身もコバルト侯爵領と偽ったようだ。
セイバーン公爵領で行われる特別な武術大会の話を聞いて、観戦したいと思い、密かに訪れたとのことだ。
飛竜に乗って来たらしい。
そして、腕試しがしたくなり、思わず参加を申し込んでしまったのだそうだ。
剣は元々持っていたものだが、身に付けていた軽鎧や仮面は『セイセイの街』の武具店で購入したものらしい。
ミアカーナさんは、クリスティアさんに抱きついたまま後ろに隠れるようなかたちで、アナレオナ夫人とユーフェミア公爵の顔を交互に窺っている。
「ミアカーナ……まったく、あなたは相変わらずお転婆なのね。兄様、今頃泣いてるんじゃないかしら」
アナレオナ夫人は、腰に手を当てて呆れ顔をしている
「大丈夫よ。ちゃんと手紙を残してきたから……」
クリスティアさんの後ろから顔をちょこんと出して、ミアカーナさんが答えた。
この子も手紙を残して、勝手に飛び出してきたようだ……。
書き置きをして、勝手に飛び出すパターン……多すぎるんですけど……。
この世界の家出のパターンなのだろうか……。
そういえば……このパターン……元祖はニアだったような気がする。
手紙を残して家出同然に飛び出したと言っていたような……。
そんなことを思い出しつつ……ニアの方に視線を送ると……
「なによ! 文句あるわけ!?」
となぜかキレられた。
俺の心が読めたのだろうか……こういう以心伝心は微妙すぎるので、やめてもらいたい……。
「ミアカーナ、怒らないからちゃんと出てきな。優勝おめでとう。いい勝負だったよ。劣勢の中、よく逆転したね」
ユーフェミア公爵がそう言って褒めると……
「おばさま……おばさま……う、うえぇぇん」
予想外の賛辞が嬉しかったのか、ミアカーナさんは泣きながらユーフェミア公爵の胸に飛び込んだ。
「まったく、この子はしょうがないねぇ」
ユーフェミア公爵は優しく頭を撫でてあげた。
「確かにいい戦いだったね。今度は、おじさんと戦おう! ワハハハ」
いい雰囲気だったところに、ビャクライン公爵の全く空気を読まない脳筋な発言が飛び出した。
だが、すぐにアナレオナ夫人の肘鉄が強襲し……「ぐほっ」という呻き声とともに静かになった。
全員が今の発言がまるでなかったかのように、完全スルーしている……残念。
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