509.テレサの、のぞみ。
テレサさんを、子供たちが心配そうに見守っている。
「みんな大丈夫よ。テレサさんは、神様から認められて、お仕事をもらったのよ。『光柱の巫女』っていう神様のお手伝いをするすごい仕事をもらったの。それに、精霊神アウンシャイン様が守ってくださる『加護』もくれたのよ。だから心配しないで!」
ニアはそう言って、子供たちに安心するように言った。
子供たちも、少しホッとしたようだ。
ニアにちょっと聞いてみたら、ニアは『光柱の巫女』という存在を知っていたようだ。
そしてニアの話では、この国を震撼するような大きな出来事かもしれないとのことだ。
人族にとっては、大変な出来事のはずだとのことだ。
よくわからないが……かなりの出来事らしい。
そして、一緒に見ていた『花色行商団』の人たちも、衝撃を受けている。
「まさか、『光柱の巫女』様が誕生する瞬間に立ち会うなんて……いったい……」
団長のルセーヌさんも、言葉を失っている感じだ。
「あゝ……私はどうしたら……」
テレサさんも突然のことに、どうしていいかわからず戸惑っている感じだ。
「あの……僭越ですが……『光柱の巫女』が誕生し、その場で神託を受けたという事実は、国を揺るがすような出来事だと思います。まずはユーフェミア様に、ご一報入れてはいかがでしょうか……」
ルセーヌさんが、冷静にアドバイスしてくれた。
確かにその通りだ。
「そうね! じゃぁ私がひとっ飛びで行ってくるわ! グリムは、テレサさんについていてあげて。また変なことしちゃダメだからね!」
ニアはそう言って、俺に軽いジト目を向けてから飛び立ってしまった。
最後の言葉……結構傷つくんですけど……。
◇
少しして、ユーフェミア公爵が駆けつけてくれた。
ニアから大体の話は聞いてくれたようだ。
「テレサ、大丈夫だったかい? 突然のことで驚いたろう。大丈夫だから、もう一度ゆっくり起きたことを話してくれるかい? その後、どうするのが一番いいか一緒に考えよう」
ユーフェミア公爵は、テレサさんのことを気遣いつつ、優しく話しかけた。
すっかりお母さん目線だ。
よく考えたら、シャリアさんやユリアさんと同じ年頃なんだよね。
改めてテレサさんの話を聞いたユーフェミア公爵は、大きく深呼吸をした後に、ゆっくりと話し出した。
ユーフェミア公爵によると、やはり『光柱の巫女』はとても貴重な存在らしく、その出現は政教分離が浸透している『コウリュウド王国』でも、大きな出来事になるそうだ。
『コウリュウド王国』では、約三十年ぶりの出現とのことだ。
『コウリュウド王国』には、『光柱の巫女』は『総合教会』本部にいる二人しかいないらしい。
政教分離が浸透しているとは言え、お告げや神託があった場合には国王に連絡が来るし、『総合教会』と王家はある程度の繋がりがあるようだ。
ユーフェミア公爵も『総合教会』については、一般の人よりはかなり知識を持っているらしい。
『総合教会』にいる二人の『光柱の巫女』のうち一人は、八十六歳の高齢の巫女で、本部のご意見番的なポジションの人らしい。
もう一人は四十四歳で、ユーフェミア公爵とは旧知の仲とのことだ。
『光柱の巫女』は、建前上は、行動の自由が保障され、教会に縛られないらしい。
だが、教会は事実上縛ろうとする場合もあるようだ。
権威として利用するためらしい。
ユーフェミア公爵は、今の『総合教会』本部の運営をしている者たちが、どういう考えを持っているのかは、よくわからないそうだ。
教会に縛ろうとする可能性もあるので、気をつけた方がいいとのことだ。
まぁテレサさんが問題なければ、今までと違って教会本部に高待遇で迎えられるというのは悪いことではないと思うけどね。
やはり重要になるのは、本人の意思だよね。
「テレサ、あんたはこれからどうしたい?」
ユーフェミア公爵が、ズバリ訊いた。
もっとも、テレサさんとしても突然のことで、どうしたいも何もないかもしれないけどね。
「私は、ただ……この子たちと暮らしたいだけです。この子たちを、育てたいだけです……」
「そうかい……さて、どうしたもんかね……。普通なら間違いなく王都の『総合教会』本部に呼ばれるところだねぇ……。公爵領とはいえこの小さな街のシスターを続けさせてもらえるかどうか……可能性は低いだろうね。まぁ神託の内容自体が、自由にしていいということだから、本部も強制するわけにはいかないだろうけどね……」
「私は……本部に行きたいとは思いません。子供たちが安心して暮らせる場所を作りたいだけなのです。一体どうすれば……」
「そうさねぇ……しばらくこのままにしといてやりたい気もするけどねぇ……。『総合教会』に関してはどうでもいいが、神託が出ている以上、国王に伝えないわけにもいかないしねえ……」
珍しくユーフェミア公爵も悩んでいるようだ。
「別にいいんじゃない、言っちゃえば。そして今まで通りに、ここに居ればいいのよ。だって神託の内容自体が、好きにしなさいってことなんだから! それを大々的に人々に知らせしちゃえばいいのよ! 神託の内容を広めて、そのときにテレサちゃんの意向も一緒に広めちゃえばいいのよ。テレサちゃんが、ここに居たいって宣言しちゃうの! そしたら教会本部も強制できないでしょ! 意向を無視して、王都に召喚するなんて、民が許さないでしょ!」
ニアは、両手を広げて何を悩んでるのか全くわからないと言いたげに、ズバッと言った。
いつものように、ニアの深く考えない発想だが……今回はなんか……凄くいい気がする。
不思議な説得力がある……。
「ハハハ、そうだねぇ……。ニア様の言う通りだね。悩んでもしょうがない、そうしよう! 神託に従うべきだね。テレサがここに居たいって言うなら、居るべきだ。国王には、私が連絡を入れる。『領都セイバーン』にある『総合教会』の支部にも使いを出すよ。それから、もし嫌でなければ、私が後見人となってあんたを守るけど……どうだい?」
ユーフェミア公爵は、ニアの発言に何か吹っ切れたようで、いつもの感じに戻ったようだ。
「はい。ありがとうございます。よろしくお願いします」
テレサさんは、迷いなく返事をした。
知り合ったばかりだが、ユーフェミア公爵のことを信頼しているようだ。
「わかった。じゃぁ私は連絡の手配をしてくるよ。国王に連絡を入れた後は、神託の内容をこの街の人たちから広めようじゃないか!」
ユーフェミア公爵は、そう言ってすぐに出て行った。
この様子を見ていた『花色行商団』の人たち、特に団長のルセーヌさんは、なにか感動している感じだ。
「こ、こんな……為政者がいるなんて……『光柱の巫女』になっても、利用するどころか保護しようとするなんて……」
ルセーヌさんは、ポロポロと大粒の涙を流していた。
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