506.『主柱五神』と、『日の神十神』
せっかくの機会なので、『総合教会』で祀っている神様について、ユーフェミア公爵に尋ねてみた。
多神教ということで、いろんな神様がいるのだが、『総合教会』がメインで祀っている神様は決まっているらしい。
人々に、一般的に崇められているメジャーな神様なのだろう。
『総合教会』では、『主柱五神』と『日の神十神』を祀っていて、その他の神は任意に祀ってもいいことになっているらしい。
『総合教会』の本部は、『王都コウリュウド』にあって、基本的に『コウリュウド王国』でのみ活動しているようだ。
ただ、様々な神を一斉に祀るという『総合教会』のような仕組みは、他国にもあって、似たような宗教組織があるそうだ。
そして、過去には『マシマグナ第四帝国』にも、同様の仕組みの宗教組織があったと記録されているらしい。
それ以前の文明については、残っている資料が少なくわからないようだ。
『コウリュウド王国』では、政教分離が浸透していて、教会は権力を持っていないが、国民には事実上、『信教の自由』が保障されているようだ。
ただ悪魔崇拝は禁止されており、反逆罪と同等の重い罪になるとのことだ。
周辺国には、宗教国家や宗教組織が政治と密接に関わっている国もあり、そのような国では『信教の自由』は無いに等しいらしい。
『総合教会』が祀っている『主柱五神』というのは……
主神である『精霊神アウンシャイン』
『竜神アウンドラゴ』
『海神アウンオーシャ』
『地母神アウンガイア』
『生命神アウンライフ』
という神で、神々の中でも上位神とされているらしい。
武官や兵士などには『竜神アウンドラゴ』が人気があるそうだ。
海兵や船乗りや漁師には『海神アウンオーシャ』が人気があるらしい。
農業や商売を営む者は『地母神アウンガイア』を信仰する者が多いらしい。
長生きや子供の成長などは『生命神アウンライフ』に祈るのだそうだ。
主神である『精霊神アウンシャイン』は、広く信仰されているとのことだ。
信仰心の厚い者は、朝晩に祈りを捧げるようだが、この際、『アウンシャイン様』と名前を言うだけでも感謝と祈りが通じるとされているらしい。
他国には、『シャイン教』という『精霊神アウンシャイン』を最高神として崇める宗教もあるそうだ。
『日の神十神』というのは、曜日に対応した神のようだ。
曜日といっても、元いた世界のように、月曜日などは存在しない。
この世界の一週間は、七日ではなく十日だからね。
曜日の代わりに、『一の日』という呼び方をする。
毎月一日、十一日、二十一日が『一の日』なのである。
一か月は三十日で、一月から十二月まで三十日と決まっている。十三月は五日だけの特別な月だ。
『日の神十神』は、この一から十の日に対応した神様だとのことだ。
そしてそれぞれに対応する魔法があって、その魔法の守護神とされているそうだ。
ただこれについては、学者の間で見解が分かれていて、本来の神の性質ではなく、後から人為的に割り振られた性質ではないかと考える説もあるようだ。
その理由の一つが、対応する魔法の中に『生活魔法』というものがあり、現代では失われた魔法とされているものだかららしい。
それぞれの魔法が、神の本来持つ性質によるものならば、失われるということはないはずだが、『生活魔法』のスキルは、現代においては発現する者がいないとのことだ。
ただ『植物魔法』も人間に発現することはほとんどなく、妖精族に発現することが多いため、『生活魔法』も同様なのではないかと考え、失われていないとする説もあるそうだ。
曜日と神と魔法の関係は、次のようになるらしい。
一の日の神……『日曜神テラス』……光魔法の守護神
二の日の神……『月曜神ツクス』……闇魔法の守護神
三の日の神……『火曜神スサス』……火魔法の守護神
四の日の神……『水曜神セオス』……水魔法の守護神
五の日の神……『木曜神ヤマス』……植物魔法の守護神
六の日の神……『金曜神エビス』……生活魔法の守護神
七の日の神……『土曜神トヨス』……土魔法の守護神
八の日の神……『風曜神カザス』……風魔法の守護神
九の日の神……『雷曜神ミカス』……雷魔法の守護神
十の日の神……『時曜神オモス』……時空間魔法の守護神
この中に登場しない『家魔法』や『契約魔法』など他の魔法については、対応する神様がいないのか気になって、ユーフェミア公爵に聞いてみた。
だが、その点については知らないそうだ。
ただ、おそらく何かしら対応する神はいるだろうとのことだ。
守護神とまではいかなくても、得意とする神が存在すると考える方が自然なようだ。
◇
少しして、衛兵への聞き取り調査に行っていたセイバーン公爵家長女のシャリアさんが戻ってきた。
そのタイミングで、みんなで夕食をとることにした。
今日の夕食は、この守護屋敷の料理人たちが作ってくれた大皿料理だ。
通常のディナーは、フランス料理のコースのように順番に給仕されるらしいが、慣れないと大変だろうというユーフェミア公爵の気遣いで、大皿料理になったようだ。
好きな料理を、使用人たちが給仕してくれるというスタイルだ。
給仕付きのビュッフェのようなものだ。
これなら行商団の人たちやバロンくんや衛兵隊のモルタ班長も、気兼ねなく食べられるだろう。
だが……犬耳の少年のバロンくんは、あまり食が進んでいないようだ。
食べ盛りで沢山食べそうな気がしたが、意外と小食なんだろうか……。
「バロン、どうしたんだい? 食べなきゃ強くならないよ」
ユーフェミア公爵も、同じことを思ったらしい。
「あの……僕はあまり食べなくてもいいので……少し孤児院に持って帰ってもいいでしょうか? 他の子たちに食べさせたいんです」
バロンくんは、神妙な顔でユーフェミア公爵に申し出た。
「なんだ、そういうことかい。だったら心配はいらないよ。いっぱい食べな! もうそろそろ来るんじゃないかねえ……」
ユーフェミア公爵はそう言うと、ニヤッとした。
「失礼いたします。ユーフェミア様、お連れいたしましたが、こちらにお通ししてよろしいのでしょうか? 湯浴みさせて服を着替えさせた方が良いかと存じますが……」
代官さん入ってきて、ユーフェミア公爵にお伺いを立てた。
「そうだね……湯浴みしたら時間がかかっちまうから、そのまま連れておいで」
「は、はい……か、かしこまりました」
代官さんは、本当にいいのかという疑問顔を見せたが、ユーフェミア公爵の無言の圧を感じたようで、すぐに了承した。
代官さんが一旦出て、まもなく大勢の子供たちが現れた。
「み、みんな!」
バロンくんが驚いている。
「バロンにい!」
「バロン兄ちゃん!」
「「「兄ちゃん!」」」
子供たちが一斉にバロンくんの名前を呼んだ。
同じ孤児院の子供たちのようだ。
そして最後に、緊張気味のシスターが現れた。
子供たちもそうだが、シスターもつぎはぎだらけのボロボロの服を着ている。
だがどことなく……清らかなオーラをまとっている気がする。
清貧というのを絵に描いたような存在に思える。
そしてシスターは、とても若く見える。
二十前後じゃないだろうか。
金髪の優しい顔つきの美人だ。
「テレサ姉ちゃん!」
バロンくんが嬉しそうな声を上げた。
「バロン!」
シスターは、バロンくんに視線を向けた後に、ユーフェミア公爵に会釈をした。
「ユーフェミア公爵様、お招きいただきありがとうございます。私どものような者が、このような場所にお邪魔してよろしいのでしょうか?」
シスターは、緊張した面持ちでユーフェミア公爵に尋ねた。
「気にしなくて大丈夫だよ。今日は、バロンがすごく頑張ったからね。そのご褒美のおすそ分けさね。さあ、子供たち、遠慮しないでいっぱい食べな!」
ユーフェミア公爵はそう言って、子供たちに微笑んだ。
完全にお母さんの顔になっている。
いつもの凛々しい顔と違い、優しい顔だ。
子供たちは、一瞬嬉しそうな表情になったが、シスターとバロンくんを交互に見て戸惑っている感じだ。
許可待ちだろうか……。
「みんな、それではいただきましょう。お行儀よくするのよ」
「「「はーい」」」
シスターの言葉に、子供たちが一斉に返事をし、がっつきだした。
給仕の使用人たちが、少しずつ料理を皿に盛って準備してくれていたのだ。
四、五歳くらいの小さな子供が二人いるので、みんなで食事をしているテーブルの隣に小さな子供用の特別の席が設けらた。
そして、専用の使用人も配置された。
だがその様子を見て、リリイとチャッピーが目配せをして席を立つと、その子たちのお世話を始めた。
“母性本能”というか……“お姉さん本能”が疼いたらしい。
旺盛な食欲を抑えるとは……最近のこの二人の“お姉さん本能”は、かなりすごい。
俺はそんな様子を微笑ましく見ながら、食事を堪能した。
ステーキは上質の牛肉だった。
子供たちには、小さくカットして提供されていた。
スープは、『コーンスープ』だった。
久しぶりに『コーンスープ』が飲めて、ちょっとテンションが上がってしまった。
子供が食べやすいように、野菜を小さくカットして炒めた『野菜炒め』のようなものも出てきて、美味しかった。
角切りにしたジャガイモが入った『オムレツ』も、ハーブを使った絶妙な味付けだった。
他の料理も、どれも繊細な味付けで美味しかった。
行商団の子供たちと孤児院の子供たちは、夢中になって食べていた。
そして緊張していた表情も、最後には満面の笑顔になっていた。
やっぱり美味しいものを食べると、幸せな気持ちになるよね。
それにしても、ユーフェミア公爵の気配りは凄い。
バロンくんを気遣い、事前に孤児院の子供たちを招待していたなんて……本当にすごいと思う。
そして孤児院のシスターや子供たちにも話を聞きたいはずなのに、食事に集中させるために、「話は後でするから、今は食べることに集中して、いっぱい食べな」と優しく声をかけていた。
そんなところにまで気が回るなんて……。
俺には到底できないことだ。
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