452.移住者の、受け入れ準備。
翌朝、俺は大森林を訪れ、『土使い』のエリンさんとその家族に『イシード市』の復興の件を話した。
アンナ辺境伯と打ち合わせた通り、父親のハンクさんに代官をお願いし、母親のトルーディさんには、当面役所の仕事を手伝ってもらい、ゆくゆくは『ギルド会館』を仕切る総ギルド長になってもらいたいという話をした。
エリンさんにも、以前と同様に文官として力を発揮してもらい、次女のキムさんも以前と同じく『イシード市』の衛兵になってもらいたいと話した。
弟のケビンくんは十四歳で未成年だが、希望するなら以前のように衛兵隊の下働きとして雇用できると話した。
「あ、ありがとうございます。私で力になれるかわかりませんが、恩返しのつもりで務めさせていただきます。ただ……エリンは……大丈夫でしょうか? この大森林の方が安全だと思いますが……」
ハンクさんは、神妙な表情で俺の話を受けてくれたが、やはり娘のエリンさんのことが気がかりなようだ。
「確かに大森林にいるのが一番安全ではありますが、皆さんは以前よりも強くなっています。それに、『正義の爪痕』も壊滅には至っていませんが、大打撃を与えていますので、大丈夫と思います。特に皆さんの周りには、護衛のスライムたちをつける予定ですので、安心してください。『虫使い』のロネちゃんや『植物使い』のデイジーちゃんが、自宅から大森林に通って訓練しているのと同じ感覚で考えてもらえばいいと思います」
俺はそう説明し、安心するように言った。
当然のことながら、スライムたちを護衛として近くに配置する予定だし、『イシード市』にも『野鳥軍団』『野良軍団』『爬虫類軍団』は組織しようと思ってる。
そして何よりも、この一家は今までの特訓の成果で全員レベル30超えてるから、よほどの相手でない限り危険な状況にはならないだろう。
俺の『心の仲間』チームメンバーにもなっているから、『共有スキル』も使えるしね。
ちなみに、他の『使い人』の子たちも、全員レベル30は超えているのだ。
『使い人』の子たちは、今までも比較的ゆっくりレベル上げをして、なるべく本当の実力がつくようにしてきた。
今後もじっくり育てていきたいと思っている。
『ミノタウロスの小迷宮』のミノショウさんのアドバイスを取り入れ、実戦訓練をやりつつ少しずつレベルを上げて、なるべく強く育ててあげたいのだ。
この子たちは、特別なスキルのせいで、争いに巻き込まれる可能性が常にあるからね。
もっとも、急激に育っちゃったリリイとチャッピーを見ていると、パワーレベリングで一気に育っても全く問題ないような感じもするが……。
ただあの子たちが、天才すぎるだけかもしれないからね。
『使い人』の子たちは、安全確実に育ててあげたほうがいいだろう。
パワーレベリングは、やろうと思えばいつでもできるからね。
ハンクさんも安心して引き受けてくれた。
この一家に、『イシード市』の復興の中心を担ってもらうことになる。
非常に重要な役割なのである。
母親のトルーディさんも、エリンさんも妹のキムさんも弟のケビン君も、皆喜んで引き受けてくれた。
ただエリンさんは、最初は受け入れ準備の仕事を手伝うが、落ち着いたら文官ではなく『フェアリー商会』の仕事をしたいと申し出てくれた。
前にサーヤからもそんな話を聞いていたので、俺は喜んで了承した。
それから弟のケビン君は、普通の衛兵よりもはるかに強いのだが、一応未成年ということで下働きとして入ってもらうことにした。
特例として衛兵に採用してもよかったのだが……一応規則通りにした。
状況を見て、必要性が高ければ特例採用しようと思っている。
◇
俺は早速、エリンさん一家を連れて『イシード市』を訪れ、予定通り各種の建物を一気に建築した。
住人がいないので、人目を気にすることなくサクサク作ってしまった。
まぁ初めて見るエリンさん一家は、目が点になって固まっていたけどね。
本格的な市街の整備はこれからだが、主要な建物は建築し終えた。
そこで早速『ピア街道地下街』に保護している吸血鬼一歩手前の人たち百三人を、転移の魔法道具を使って連れてきた。
これで『イシード市』の復興準備というか、移住者の受け入れ準備がすぐに整うだろう。
俺は『イシード市』周辺を巡回していたスライムたちを呼び寄せ、三分の一を市内の人たちの護衛に当て、残りは今まで通り周辺を巡回してもらうことにした。
そして事前に頼んでいた『スピリット・オウル』のフウの『野鳥軍団』と『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラの『野良軍団』と『スピリット・タートル』のタトルの『爬虫類軍団』も無事に結成できたようだ。
これで『イシード市』の情報網と防衛網は、かなり厚くなった。
ちなみに『野鳥軍団』は百二十一体、『野良軍団』は七十六体、『爬虫類軍団』は百九十四体となった。
無人の街になっていたので、動物たちは増えていたのかもしれない。
◇
次に俺は、ヘルシング伯爵領の港町『サングの街』に転移した。
ここには俺の仲間たちとともに、『魚使い』のジョージたちも一緒に連れてきた。
屋敷で出迎えてくれたのは、『植物使い』のデイジーちゃんと子供たちだった。
そして、ここの責任者で『闇影の義人団』メンバーのスカイさんと、『フェアリー商会』幹部で『フェアリーパン』の立ち上げ指導に来てくれているサリイさんも出迎えてくれた。
「みんな、大丈夫だったかい? 」
俺は、集まってきた子供たちに声をかけた。
「大丈夫! デイジーが助けてくれた!」
「アルラウネのソラちゃんがすごかった!」
「うん、かわいいのに強かった!」
「舎弟ズのおじさんたちも、がんばってくれた」
子供たちが口々に、自分の自慢のように報告してくれた。
「デイジーちゃん、よくがんばったね」
俺はデイジーちゃんに声をかけ、頭を撫でてあげた。
「はい。アルラウネのソラちゃんが助けてくれたんです!」
デイジーちゃんは、嬉しそうに、少し誇らしげに言った。
『使い魔』として、『アルラウネ』が出現したと報告を受けたときは驚いたが、いいタイミングで助けになってくれてホントによかったと思う。
「『アルラウネ』は、どこにいるの?」
「はい、今畑で眠っています」
デイジーちゃんは、花壇を指差した。
すると……花壇の土の中から、なにかが飛び出した!
どうやら、『アルラウネ』が飛び出したらしい。
報告通り、見た目は可愛い五歳くらいの幼女だ。
緑色の肌で黄緑の髪の幼女は、ふわふわとした白いワンピースを着ている。
ボブカットにした髪には、赤、青、黄、緑、ピンク、白、紫など色とりどりの花が冠にように咲いている。
「私は、花の聖獣『アルラウネ』! 名前はソラよ! ご主人ちゃんのことは、任せて! ご主人ちゃんの親方ちゃん、今後ともよろしく!」
俺に挨拶してくれた『アルラウネ』のソラちゃんは、幼女の外見とは打って変わって、大人びた表情と口調だ。
「俺はグリム、よろしくね」
俺は挨拶しながら思わず頭を撫でてしまった。
可愛い子を見ると、頭を撫でたくなっちゃうんだよね。
「まぁ……すごいバイブス……いいわ……。ご主人ちゃんの親方ちゃん、ご主人ちゃんが大人になるまで待てなかったら、いつでも私が相手をしてあげるわ。こう見えても、中身は熟れっ熟れのお姉さんだから、色々と期待していいわよ!」
ソラちゃんが、幼女の姿には似つかわしくない妖艶な表情で、そんなことを言った。
……なんかやばいキャラが来てしまったのか……。
この子も、『見た目は子供、中身は大人』的な感じなのか……。
幼女の姿で色っぽく言われても……微妙でしかない……。
俺は苦笑いするしかなかった。
子供たちもそれぞれに挨拶をした。
その中でも、『ワンダートレント』のレントンと、『アルラウネ』のソラちゃんは、すぐに仲良くなっていた。
やはり同じ植物系ということで、通じるものがあるのだろうか。
ここに『ドライアド』のフラニーも加わったら、もっとすごそうだけどね。
三人の力を合わせたら、一瞬で森とかが作れちゃいそうだ。
この三人の力合わせて、砂漠を森に変えたりとかできないのかなあ……。
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