436.ヴァンパイアたちの、目的。
ヘルシング伯爵領の今後の方針については、伯爵の希望通りエレナさんが領主になるということでまとまった。
今回の事態の査察官に任命されたクリスティアさんの調査報告の際に、一緒に提案してくれることになった。
その時には、国王や重臣たちを説得するためにクリスティアさんとユーフェミア公爵が直接王都に出向いてくれるということになったのだ。
壊滅させた『正義の爪痕』のアジトについては、メインのアジトはクリスティアさんと王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんを中心に、調査隊を組んで調査することになった。
その他の三つのアジトと俺が最初に訪れた時に潰したアジトの合わせて四つについては、俺の方で報告をあげているが、一応クリスティアさんとドロシーちゃんが簡単な確認だけして、再度封鎖封印することになった。
この四つのアジトについては、ヘルシング伯爵領では特に使うつもりはないらしい。
今回の貢献の報奨の一部として、もし必要なら俺に使ってほしいという申し出があった。
まぁ俺たちとしても特に使用用途はないのだが、他の者に再利用されても困るので、一応頂戴して封印管理することにした。
念のため、周辺のスライムたちを仲間にして、巡回警備するかたちにしようと思っている。
街道からはそれほど離れていないが、市町からはそれなりに離れているので商会で使うには厳しい。
かといって、秘密基地も既にあるので無理に基地化する必要もない。
今のところ保留というか、そのまま封印するしかないのだ。
メインのアジトにあった大量の食材や武器や道具類は、全て俺の『波動収納』に回収していたが、食材は全域の市町で使ってもらうために引き渡した。
武器や道具類も検証のために、『波動収納』から出して提出しておいた。
メインのアジトというものの生産設備とかはなかった。
したがって、これから行うクリスティアさんたちの調査は、隠し通路や隠し部屋などの調査がメインになるだろう。
実際、『魚使い』のジョージが倒した『魔導の博士』は、隠し通路を使っていたからね。
生きたままとらえた『謎の博士』に、クリスティアさんの『強制尋問』スキルを使えば、隠し通路も隠し部屋もすぐに発見できるはずだ。
調査が終わったらメインのアジトも、俺たちに譲渡してくれるとの申し出があった。
他のアジトと同様に、封印して管理しようと思っている。
クリスティアさんは、悪戯っぽく「『妖精女神の使徒』のヘルシング伯爵領内での秘密基地にしたら?」と言っていたが……。
ただ単に、彼女たちの遊び場を増やしたいだけのような気がしてしょうがない……。
大きな森の地下空間になっているので、飛竜たちやシルクキャタピラーたちのように、移住先を探している種族や動物たちがいたら使えるかもしれないけどね。
吸血用に囚われていた四十三名の人たちは、血をとられていただけで普通の状態だった。
前に保護した人たちのように、吸血鬼になる一歩手前の『適応体』状態にはなっていなかった。
したがって、元の生活に戻れるので俺は安心した。
ちなみに全員が女性で、皆この領内の出身のようだ。
クリスティアさんによる簡単な尋問をした後に、領城に連れて行って、エレナさんに引き渡した。
それぞれの家に戻れるように、エレナさんが手配してくれることになっている。
無力化して『ドワーフ銀』により仮死状態にした『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』は、メインのアジトで二十四体、他のアジトで十五体、合わせて三十九体になる。
これらの吸血鬼についても、尋問した後に再度仮死状態にして、俺たちの秘密基地『竜羽基地』に保管することになった。
本来なら『ヴァンパイアハンター』のエレナさんたちに渡した方がいいが、今後再尋問の必要が出るかもしれないので、クリスティアさんの判断でそうなったのだ。
幹部の『謎の博士』については、最優先でクリスティアさんが尋問してくれた。
そして尋問により得られた情報の第一報を報告してくれた。
それによると……
まず組織の幹部『四博士』についてであるが、実際は『道具の博士』『薬の博士』『武器の博士』『血の博士』の四人ではなく、『魔導の博士』と『謎の博士』を入れて六人だったらしい。
ただ博士たちの中で実質的なリーダーだった『血の博士』の情報については、意識的に流さないようにしていて、『魔導の博士』や『謎の博士』については、『血の博士』の別称ということにしていたようだ。
『血の博士』とは別に『魔導の博士』や『謎の博士』がいることや、『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』だということは秘密にしていたようだ。
したがって、『道具の博士』『薬の博士』『武器の博士』たちですら、『血の博士』の存在しか知らなかったらしい。
なぜ『ヴァンパイア』たちが『正義の爪痕』という犯罪組織に加担したのかということについては、始めは首領と思われる謎の人物に勧誘されたのだそうだ。
『マシマグナ第五帝国』を築くという目的に賛同し、成し遂げたあかつきには、中心的な種族として支配するとことが条件になっているらしい。
『ヴァンパイア』という種族は、昔から集団化することを嫌い、せいぜい一族という単位でしか集団にはならなかったそうだ。
それゆえに、あちこちに散在的に存在し、好き勝手に暮らしているらしい。
大体は目立たない程度に人間を吸血していて、中には人間と契約のようなものを交わし、双方合意の上で血の提供を受けている小集団もあるとのことだ。
一言に『ヴァンパイア』といっても、見境なく人を襲う凶悪な者たちから、共存しようとする平和的な者たちまで幅広いのだそうだ。
ただそれゆえに、人族よりもはるかに優れていながら、『ヴァンパイア』の国を作るということは今までなかったらしい。
目立った吸血行動をすると、すぐに『ヴァンパイアハンター』に見つかり、危険にさらされるということも影響しているようだが。
特に『ヴァンパイアハンター』が、この世に出現した千年くらい前からは、ひっそりと生きるというのが『ヴァンパイア』たちの暗黙のルールになっていたらしい。
最初の『ヴァンパイアハンター』は、おそらく初代ヘルシング伯爵のことだろう。
ヘルシング伯爵家は、千年くらい前から続いている名家らしいからね。
そんな状態に不満を持っていた『血の博士』『魔導の博士』『謎の博士』の三人の『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』たちは、密かに『ヴァンパイア』を組織化して『ヴァンパイア』の帝国を作ろうと思っていたらしい。
そんなときに、首領とおぼしき人物から勧誘を受け、『マシマグナ第五帝国』の構想に賛同したらしいのだ。
そして、『正義の爪痕』の真の目的である『魔神である古の機械神の復活』と『古の魔法機械文明を再興しマシマグナ第五帝国を作る』ということを実現するカギは、『人の魔物化』らしい。
『人が魔物化したとき、導き手としての機械神が復活し、全てを浄化して、魔法機械文明を復活させ、永遠の楽園を作る』という予言を本気で信じていて、人を魔物化させれる研究に力を入れていたようだ。
古の機械神が現れれば、失われた『マシマグナ第四帝国』の遺産や技術が与えられると本気で信じているらしい。
そして首領の本当の思惑はわからないが、少なくとも『血の博士』『魔導の博士』『謎の博士』たちは『マシマグナ第五帝国』の建国に中心的な役割を果たし、事実上『ヴァンパイア』中心の帝国を築こうと考えていたようだ。
『人の魔物化』については、まだ目処が立っていないらしい。
その過程でできた『死人薬』はあるが、『人の魔物化』とは、人としての意識を保ったまま魔物に変化するもしくは融合するという状態のことのようだ。
『死人魔物』は死んでしまって自我を失って魔物になっているので、ここでいう『人の魔物化』とは違うのだろう。
また吸血鬼が『死人薬』を使えば、自我を保ったまま『吸血魔物』になるが、それも『人の魔物化』とは違うからね。
予言の記された『福音書』と呼ばれるものには、『人を魔物化させるのは、負の感情が引き金となる』と記されているらしいが、どのように影響し、どのように必要なのかは、まだ解明できていないらしい。
わからないなりに、何か影響があるはずと考えて、あちこちで騒乱を起こしていたらしい。
そういう意味では、『正義の爪痕』とは関係なく発生したピグシード辺境伯領での白衣の男と悪魔による襲撃での大惨事は、かなり人々に負の感情を発生させたはずだ。
だが、『人の魔物化』には影響してないというか……それが引き金で何かが起きたということはないようだ。
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