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434.ヘルシング伯爵の、決意。

「クリスティア王女殿下、此度の件、深くお詫びいたします。そしてお力添えに感謝いたします」


 ヘルシング伯爵は、第一王女で審問官、そして今回の事態の査察官を任命されたクリスティアさんに跪いて謝罪した。


「いいのです。事情は把握しています。あまりご自分を責めないでください。過ぎたことよりも、これからの方が大事ですから」


 クリスティアさんはそう言って、ヘルシング伯爵に歩み寄って立たせた。


「ニア様、グリム様、わが領を救っていただき、誠にありがとうございます」


 今度は俺とニアに礼を言ってくれたのだが、様付けなんてされるといたたまれない。

 俺は名誉騎士爵で、伯爵位から比べるとはるかに下だし、歳もはるかに下だからね。

 まぁ心の年齢は、全然上だけどね…… 。


「いいのよ。私たちは『正義の爪痕』を倒すためにこの領にやってきたんだから、当然のことをしただけよ」


 ニアはいつも通り、気軽に答えている。


「ニアの言う通りです。それに私のような者に、様付けはやめてください。普通にグリムと呼んでいただければ大丈夫ですから」


 俺はそう言ったのだが、伯爵は俺たちにまで跪いてしまった。

 実直な人柄がうかがえるけど……。


 その後、俺たちは少し話し込んだ。


 そして伯爵は、国王陛下に詫びを入れなければならないと言って、通信の魔法道具を使い連絡を入れるために通信用の部屋に移動した。



 伯爵は、しばらくして戻ってくると、俺たちに国王陛下に伝えた内容を話してくれた。


 今回の事態の詫びを入れた後に、全ての責任は自分にある、どのような処罰も受けるという話をしたとのことだ。

 そして国王からの沙汰が出るまでの間、自分は謹慎し、その間の領運営を今回の立役者でもある妹のエレナさんに任せたいという申し出をして、許可されたとのことだった。


 現在指揮をとってくれているエレナさんに、そのまま託すということのようだ。


 エレナさんは、伯爵が正気を取り戻した以上、伯爵がやるべきだと固辞していたが、伯爵は自分にはその資格がないとして、エレナさんを説得していた。


 そして第一王女のクリスティアさんも、今はそのほうが良いと説得してくれた。


 これよりエレナさんも承諾して、しばらくの間、領運営を代行することになった。


 俺は、改めて伯爵に同情した。

 もし俺がその立場だったらと考えると……怒りとやるせなさと不甲斐なさと情けなさと……どれほど辛いだろうか……。

『ヴァンパイアハンター』としての矜持も、領主としての矜持も、全て踏みにじられ……。

 取り乱さずに、こうして事後の処理をしていることだけで、大人物だとわかる。

 本当だったら、自分が先頭に立って動きたいだろうに……。





 ◇





 夜になって、驚いたことに……セイバーン公爵領のユーフェミア公爵と長女のシャリアさんがやって来た。

 シャリアさんの飛竜に乗って、駆けつけてくれたようだ。


「ユーフェミア様、誠に申し訳ございません」

「ユーフェミア様、どうか兄をお許し下さい」


 ヘルシング伯爵と、エレナさんがユーフェミア公爵に跪いた。


「二人とも、わかってるよ。今どんな気持ちでいるかもね。私には詫びる必要はない。詫びるべき相手がいるとすれば、それは領民だよ。私が急いでやってきたのは、あんたたちを救うためさね。ヘルシング伯爵家を潰すわけにはいかないからね」


 ユーフェミア公爵はそう言って、二人を立たせた。


「ユーフェミア伯母様、早かったですわね。いらっしゃると思っていました」


 クリスティアさんは、少しおどけながらそう言って、護衛官のエマさんは黙って頭を下げた。


「ご苦労だったね、クリスティア。あんたが査察官になってくれたことは大きいよ。これからが大事だからね」


 ユーフェミア公爵はニヤッとした後に、クリスティアさんに微笑んだ。


「もちろんわかっていますわ、伯母様」


 クリスティアさんも少し悪い笑みを浮かべた。


 何か以心伝心で、この二人には考えていることがあるようだ。


「ニア様、グリム、またあんたたちに助けられたようだね。それにしても、またド派手なことをやってくれたね。全市町に現れた化け物を撃退し、また死者を一人も出していなんて……。ありがたいことだけど、あんたたちを守るこっちの身にもなってくれよ……。爵位を上げたくないとか、面倒ごとはやだとか言っておいて、こんなに目立たれたらたまったもんじゃないよ……」


 珍しくユーフェミア公爵が、ボヤいている。


「私たちは、ただ人を助けただけだもん! 後のことはお願い!」


 ニアが悪戯っぽく、甘えるように言った。


「すみません。ピグシード辺境伯領の二の舞にはしたくなかったので、ニアに頼んで妖精族の仲間を動員してもらいました」


 俺は苦笑いしつつ謝った。


「まったく……ある意味、国を滅ぼせるほどの戦力を持ってるって見せつけたようなもんだからね。元々畏怖されている妖精族だからいいけど……そうでなければ、危険視される可能性の方が高いんだよ。まぁ……今更だけどね。あんたたちのことは、この際二の次だ。まずはヘルシング家を救わないと」


 ユーフェミア公爵はそう言うと、ヘルシング伯爵家が置かれている状況を説明してくれた。


 王国を揺るがせ始めている犯罪組織『正義の爪痕』に、事実上領を乗っ取られていた。

 そして、その活動の拠点になっていたこと。

『ヴァンパイアハンター』でありながら『ヴァンパイア』でもある『正義の爪痕』の幹部に、領主自ら操られていたこと。

 多くの領民が苦しめられ、命を落としたり、行方不明になっていること。

 これらを考えると、普通であればヘルシング伯爵家は、爵位を没収されるし、最悪の場合、罪人として処断されることも考えられる状況だそうだ。


 特にヘルシング伯爵家は『ヴァンパイアハンター』の家系ということもあり、『ヴァンパイアハンター』としての活動の自由を保障されたり、その活動資金のために税が軽減されていたりと優遇されているらしい。

 そんなこともあり、他の領主や重臣たちの中には、快く思っていない者もいるとのことだ。


 そんなこともあり、ヘルシング家に対して厳しい意見が出される可能性が高く、ユーフェミア公爵の見立てでは、今回の事態の責任を取って廃爵される危険がかなりあるようだ。


 ただ……ユーフェミア公爵がこの話をしたときに、当の伯爵は、それも当然のことで覚悟しているし、ヘルシング家を無理に救わないでほしいと話していた。


 だがこの発言に、なんとユーフェミア公爵は激怒してしまった!


「甘ったれるんじゃないよ! あんた、このままで終わるつもりかい!? これから罪滅ぼしをしなきゃいけないんじゃないのかい!? しっかりおし!」


 ユーフェミア公爵の強烈な喝で、ヘルシング伯爵は我に帰ったように頷き、涙を滲ませた。


「はい。わかりました。確かにこのままでは、領民に対して罪滅ぼしもできません。であれば……ユーフェミア様にお願いしたいことがございます。処断の沙汰を待つ身であり国王陛下には申し上げることはできませんでしたが、考えていることがございます……」


 気を取り直したヘルシング伯爵は、意を決してユーフェミア公爵にお願い事をするようだ。


「なんだい? 助けるために来たんだから、遠慮はいらないよ!」


「はい。それは……今回の事態の責任を取って、私が領主の座から退き、一人の『ヴァンパイアハンター』として人々に尽くします。そして、エレナに爵位を継いで領主になってもらいたいのです。起きたことの責任を取り、かつこれからの領民に対する責任……勤めを果たすには、これしかないと考えています」


 ヘルシング伯爵の言葉には、決意が滲んでいた。





読んでいただき、誠にありがとうございます。

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次話の投稿は、28日の予定です。


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