428.運悪く、遭遇戦。
後半は3人称視点です。
シチミの『サプライズ召喚』で出た『魚使い用の伝説の最強装備セット』の確認が終わったが、なんとなく気になったので箱自体にも『波動鑑定』をかけてみた。
すると……名称が『展開ボードボックス』となっていて、階級が『極上級』のアイテムだった。
内容を確認すると、どうやら箱が展開して十字形の板状になるようだ。
魔力を通すと、波の上を走行出来きるらしい。
まるで自動走行するサーフボードのような感じだ。
ジョージ君に説明して、魔力を通して展開させてもらうと、確かに六面体の箱が展開して板状になった。
そして、その時に棒のような物が落ちた。
どうもまだ箱の中に、武具が残っていたらしい。
色がグレーで目立たなかったので、見落としてしまったようだ。
形状は、神職が持つ笏のような形をした板状の棒だ。
『波動鑑定』をかけると……
『名称』が『魔笏 サメハダ』となっている。
『階級』が『極上級』の打撃武器のようだ。
喝を入れる感じで、叩きつけるのだろうか……。
適度な大きさなので、普段使いの武器としていいのではないだろうか。
二メートルを超える見た目が冷凍マグロな武器は、普段使いの武器としては厳しいものがあるからね。
これでほんとに装備の確認が終わった。
そして、一段落するのを待っていた第一王女で審問官のクリスティアさんから、尋問結果の報告があった。
『強制尋問』スキルを使って、『魔導の博士』からこの領内にある他のアジトの場所を聞き出してもらっていたのだ。
尋問の結果、ここと前に俺が潰したアジト以外に、あと三カ所あるようだ。
俺は早速アジト探索をしている『アメージングシルキー』のサーヤや『アラクネロード』のケニーたちに念話を繋いで、場所の情報を与え、急行してもらうことにした。
場所の見当さえつけば、すぐに壊滅させてしまうだろう。
彼女たちに任せておけば問題ない。
クリスティアさんは、とりあえずアジトに限定して情報を聞き出し報告をあげてくれたらしい。
この後引き続き、重要資料や書類などの隠し場所についての尋問をするそうだ。
◇
『正義の爪痕』アジトの尋問が行われていた部屋。
「おのれ……なんというスキルだ……。あのスキルを使われたら、すべての情報が引き出されてしまう。だが、このままでは終わらんぞ。ワシを殺していないことを後悔させてやる……」
全身を拘束されている『魔導の博士』こと『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』は、不敵な笑みを浮かべた。
彼のもとに、コウモリが何かを運んできて、口の中に入れた。
彼は『種族固有スキル』の『吸血眷属支配』を使って、吸血コウモリを使役したのだった。
コウモリを誘導し、密かに隠していた『死人薬』を運ばせたのだ。
『魔導の博士』はこの窮地を脱出するために、自ら『死人薬』を使って『吸血魔物』になる決断をしたのだった。
————バゴォーンッ、バン、バン、バンッ
体が一気に破裂するように大きくなり、その衝撃で拘束具を全て破壊してしまった。
そして『上級吸血魔物 ヴァンパイアモンスターロード』になったのだった。
『魔導の博士』は、転移で脱出するために、転移の魔法道具の隠し場所に向かった。
そして……隠し通路を出たところで、偶然ふらふらと歩いていた『魚使い』の少年ジョージと出くわしてしまった。
彼は、自分専用として突然現れた装備セットの予想だにしない色物ぶりに衝撃を受け、一人になりたいとみんなのところを抜け出してきて、放心状態で歩いていたのだった。
そんな放心状態のジョージに、上級吸血魔物となった『魔導の博士』はすぐさま蹴りを入れた!
バゴォッ——
ジョージは、防御する間もなく腹に蹴りの直撃を食って、大きく後方に吹っ飛んだ。
ただでさえ強い上級吸血鬼が、上級吸血魔物となって放った一蹴りは、すさまじい威力で通常なら即死している破壊力だった。
だが全力の蹴りでなかったことと、ジョージの装備していた『貝殻ビキニアーマー』の超絶防御力のお陰で、致命傷には至っていなかった。ほぼ無傷だった。
レベル65の『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』だった『魔導の博士』は、『上級吸血魔物 ヴァンパイアモンスターロード』になったことによって、更に強くなっていた。
『上級悪魔』並みの強さになった『魔導の博士』は、グリムの仲間たちでも油断できないほどの存在になってしまっていた。
そんな存在から蹴りをくらったジョージは、レベル18で普通なら間違いなく即死だった。
それを防いだ『貝殻ビキニアーマー』の防御力は、さすが『伝説の秘宝級』といえる強靭さだった。
直接カバーしているのは、胸と腰というごく限られた面積のように見えるが、この『貝殻ビキニアーマー』は、体全体に目に見えないエネルギー場を構成し、物理攻撃、魔法攻撃を強固にしのぐことができるのだった。
やられたと思ったジョージだったが、自分の体を触りながら軽い傷で済んだことに気づき、衝撃を受けていた。
突然の上級吸血魔物の攻撃に激しく動揺し、恐怖を感じたジョージだったが、今までと違って、なぜか感じるのは恐怖だけではなく、立ち向かって倒してやるという強い気持ちも湧き上がっていた。
『貝殻ビキニアーマー』には、気力を高め、“恥じらいや躊躇を捨て自分を解放する”という特殊効果もあるのだった。
潜在的に勇者願望を持っていたジョージは、その願望に従い、勇気を振り絞って立ち向かおうとしていた。
背中に装備していた『炎盾』を左に持ち、右手に『冷刀 真黒』を強く握ると、さらに勇気が溢れ出してくるのだった。
「よし! せっかく手に入れたんだ。ここで試してみよう! もうやけくそだ!」
勇気を振り絞りつつ、半分やけっぱちになったジョージが、『冷刀 真黒』のしっぽ部分をつかみ刀のように構えると、自然と発動真言が頭に思い浮かんだのだった。
「初競り高値!」
頭の中に思い浮かんだ発動真言を唱えると、『冷刀 真黒』が黒光りして、蒸気のようなものを放出した!
この『初競り高値』というコマンドは、『攻撃力』を五倍にするという強化コマンドなのであった。
ただし特別な限定コマンドであり、一年に一度しか使えないという使い所の難しいコマンドなのであった。
効果の持続時間が二十四時間あるので、いいタイミングで使えればかなり有利に戦えるコマンドでもあるのだが……。
本来のレベル差からすれば、ジョージの攻撃では全く太刀打ちできないのだが、『攻撃力』が五倍になったことで戦える状態になっていた。
ジョージは、『冷刀 真黒』を振り上げ『魔導の博士』に襲いかかるが、軽くかわされ、全く当てることができない。
攻撃力は五倍になっているが、他のステータスはそのままな上に、『魔導の博士』は高速移動ができるので、ジョージはまったく触れることができないのだった。
その間、何発も蹴りやパンチを入れられ、吹っ飛ばされていた。
軽くあしらわれ、遊ばれている感じなのであった。
『貝殻ビキニアーマー』の防御力のおかげで大きなダメージは受けていないが、行き詰まっていた……。
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次話の投稿は、22日の予定です。
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