423.中二病の、陸ダコ。
『魔導の博士』を拘束し、ナビーの方を確認すると、なにか……戦いを楽しんでいるようだ。
凶暴な『ヴァンパイアモンスター』たちを弄んでいる……というか、うまく誘導して、ひとかたまりにしたようだ。
「燃やし尽くせ! 上弦の太刀 月華浄炎斬!」
ナビーが『魔力刀 月華』の発動真言を唱えると、綺麗な白銀色の刀身が鮮やかな朱色に変わる!
そして瞬く間に、炎を纏い荒々しく燃え上がった!
ナビーは、その炎の太刀をひとかたまりになった『ヴァンパイアモンスター』たちに振り下ろす!
高速移動で縦横無尽に動きながら、全ての『ヴァンパイアモンスター』を両断し、行動不能にした。
約二十体の『ヴァンパイアモンスター』たちは、あっという間に切り刻まれてしまった。
ナビーは、切り刻まれ肉の山となった『ヴァンパイアモンスター』たちに、月華を突き立ててもう一つの発動真言を発した。
「燃やし尽くせ! 浄化の炎!」
ナビーがそう叫ぶと、突き立てた刀身から肉の山に炎が燃え広がった!
そして瞬く間に、燃やし尽くしてしまった!
灰も残っていない。
ナビーらしい豪快な戦いぶりで、『ヴァンパイアモンスター』たちを殲滅してしまった。
俺より全然すごい気がするんですけど……自分の分身ともいえるナビーにちょっと劣等感……トホホ。
「ナビー、ご苦労様」
俺は、ナビーの方に向かいながら声をかけた。
「はい。でもまだ終りではないようです」
ナビーは、警戒態勢を崩さずに言った。
確かにナビーの言う通りだ。
俺も『波動検知』をかけたので、まだ吸血鬼の気配が残っているのがわかる。
そして、どうもその近くには人の気配がある。
人に絞って『波動検知』をかけると、やはり四十名以上の人間がいるようだ。
俺とナビーは、急いでその気配の方に向かった。
その人たちを救出しなければならないし、残りの吸血鬼も倒してしまわないといけない。
近づきながら、より精密に『波動検知』かけたが、吸血鬼の気配は一体のみだった。
気配の場所は、大きな空間になっていた。
大きな檻がいくつもあり、四十三名の人々が檻の中に閉じ込められていた。
多分だが……吸血用に囚われていたのではないだろうか……。
そして、一人の吸血鬼が現れた。
先程拘束した『魔導の博士』と同じ黒いマントを羽織っている。
奴を『波動鑑定』して、俺は衝撃を受けた。
奴も『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』だった。
そしてなんと『称号』には、『謎の博士』とあった。
『謎の博士』も、情報があまりなく正体がわからない『血の博士』に対して、組織の構成員たちがつけた別称だったはずだが……。
どうも『謎の博士』も別名ではなく、別人として存在していたようだ。
さっき『魔導の博士』が『我々』と言ったのは、もう一人いたからということだったらしい。
まったく……厄介極まりない。
こんな……博士の“おかわり”なんて迷惑この上ない!
もうお腹いっぱいだっちゅうの!
「お二人さん、動くなよ……。私は他の二人とは違う……とても慎重なのだよ。なぜここにいるのか、わかるかな? 教えてやろう……ここにいる吸血用の人間たちには、『死人薬』が仕込んである。この意味がわかるなぁ? 私が装置のスイッチを押した瞬間、こいつらは全員死ぬ。そして魔物となって暴れるということだ。まぁお前たちには、勝てんだろうが。人を死なせないはずの『妖精女神の使徒』が、こいつらを犠牲にはできんだろう?」
奴はそう言うと、ニヤリと笑みを浮かべた。
こいつは、ズル賢いタイプのようだ。
「人質を取ったつもりか? 何が望みだ?」
万が一にもスイッチを押されたらまずいので、ここは慎重に対応するしかない。
「簡単な話だ。お前が作っている転移を防ぐ結界を解除しろ! そうすれば転移で去ってやる。その後、人間たちから、『死人薬』を取り出せばいいだろう。仕込んだ『死人薬』の摘出は出来るのだろう?」
奴は余裕たっぷりに言った。
どうも脱出したいだけのようだが……。
さてどうするか……。
確実にこの人たちを救いたいところだが、こいつを逃すのも癪にさわる。
それに、ここで逃せば、新たな犠牲者が出るだろう……。
こんなことなら、ナビーと一緒に来なければよかった。
どちらかが『隠れ蓑のローブ』で隠れていれば、話は簡単だったのだが……。
「さぁどうする!? 早くしないと、このスイッチを押すぞ!」
奴はマントから手を出し、装置を見せた。
これはチャンスかも知れない!
奴が押すよりも先に腕を切断できれば……
確実ではないが、全力を出せば可能な気がする……。
そんな時だ、奴の上にピンクの物体が落下してきた!
「タコ殴り百烈拳! アタタタタタタタタタター!」
落下してきた物体から叫び声が聞こえ、装置を持っていた『謎の博士』の右腕に、ピンクの腕のようなものが雨のように降り注いだ!
そして、『謎の博士』の右腕から装置が落下し、床に落ちる瞬間、ピンクの腕が拾い上げた!
このチャンスを俺とナビーを逃さなかった。
高速で近づいて、俺とナビーはそれぞれに奴の手足を粉砕した。
ナビーがすぐ『ドワーフ銀』の杭を、胸に突き刺した。
だが『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』は『ドワーフ銀』にもある程度の耐性があるようで、完全な仮死状態にはならず意識が残っていた。
俺は『状態異常付与』スキルで『眠り』を付与し、無力化した。
そして、突然現れたピンクの物体に目をやると……
なんと、ピンク色の可愛いタコだった!
タコと言っても、俺が知っているリアルな生物としてのタコではなく、デフォルメされたぬいぐるみのようなかわいい姿なのだ。
そして、スライムのようにビーチボールくらいのサイズで、左目に黒い眼帯をしている。
『波動鑑定』すると……
『種族』が『スピリット・グラウンドオクトパス』となっていた。
どうも陸ダコの霊獣のようだ。
この世界には、陸に住む陸ダコという生き物がいるらしい。
それが霊獣となったようだ。
名前はオクティというらしい。
え! ……『状態』が……『魚使いの使い魔』となっている。
……魚使い!?
それは『十二人の使い人』の話に出てくる使い人だった。
十二人の中には入っていないが、かなりユニークで抜群に面白いキャラだった。
吟遊詩人ジョニーさんの弾き語りを聞いたときに、実は俺が一番気に入ったキャラクターだったのだ。
その『魚使い』が、存在しているらしい。
それにしても……『魚使い』の『使い魔』がタコって……魚類じゃねーし! しかも、陸ダコだし!
でも確かに……弾き語りの中でも、タコの使い魔がいた気はするが……。
「よくぞこの上級吸血鬼を倒した! ワレの僕にしてやってもいいぞ! この左目の魔眼が疼く……。そなたらとは、何やら縁がありそうじゃ……。 我が漆黒の眷属となりたければ、血の契約を結ぶがいい!」
黒の眼帯付きの可愛いピンクの陸ダコは、恍惚の表情で言い放った……。
この人もしかして……中二病じゃないよね……?
「えっと……君はどこから来たんだい? 君のお陰で助かったよ。ありがとう。俺はグリム、そしてこっちはナビー、よろしくね」
「眷属の話は無視かい!? まぁよかろう……。ワレはオクティ、魔を統べる漆黒のグラウンドオクトパスだ!」
また悦に入った表情で、オクティが言った。
全然漆黒じゃなくて、可愛いピンク色だと思うんですけど……
レベルも25だし、霊獣としてはそこそこだろうけど、とても魔を統べる感じではないと思う……。
絶対この人……中二病だわ……。
確信してしまった。
ここはあえてスルーしておこう……。
「君が奪ってくれたその装置なんだけど、よかったら預からせてもらえないかな? 今からここの人たちに埋め込まれた危険な薬を除去するんだけど、安全のために預かりたいんだ」
「なに!? それは……魔の統率者たるワレを信じられぬということか? ……まぁいいわ! こんなものに興味は無い! そういえば、ワレにはやることがあったのだ!」
少しムッとしていたオクティだが、何かを思い出したのか、素直に装置を俺に渡して、奥の方に行ってしまった。
俺は少し気になったので、オクティの後を追うことにした。
ここの人たちの『死人薬』の除去と回復は、ナビーに任せることにした。
俺は『隠れ蓑のローブ』を装備し、姿と気配を消してオクティを追跡することにした。
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