421.大森林の仲間たちの、活躍。
3人称視点です。
ヘルシング伯爵領にある他の市町でも、同じような光景が展開されていた。
グリムたちが最初に訪れた大河沿いの町『サングの街』をそのまま北上した位置にある大河沿いの都市『ハンシング市』では、市民を守る兎耳の少女と赤色の大キツネ、緑色の大タヌキ、青色の大ツバメが数多くの住民に目撃されていた。
この都市を助けていたメインのメンバーは、兎の亜人でミルキーの妹のアッキーと、『スピリット・レッド・フォックス』のオアゲ、『スピリット・グリーン・ラクーン』のオテン、『スピリット・ブルー・スワロー』のヤクルたちだった。
オアゲは、キツネの霊獣なのに、なぜかウサギの浄魔軍団を連れていた。
大森林の『マナ・ホーン・ラビット』がクラスチェンジした『マナ・ツインホーン・ラビット』の軍団だった。
大森林の最初の防衛戦の時には最弱クラスだった彼らも、今ではレベル40を超えた屈強な戦士となっていた。
クラスチェンジによって額の角が二本になり、強力な種族になっているが、なぜか角以外の外見は以前にも増してモフモフでかわいい大ウサギになっていた。
その可愛い外見とは裏腹の強力な攻撃に、見ている者は皆驚きの声を上げたのだった。
オテンも同様に軍団を連れていた。
やはりタヌキの霊獣であるオテンとは関係ない、ネズミの軍団を連れていたのだ。
大森林の『マナ・ラット』という弱すぎて、今まで活躍の場がなかった浄魔が、クラスチェンジして『マナ・アーマー・ラット』となり参戦していたのだ。
彼らもレベル40を超え、圧倒的な強さの肉弾戦軍団になっていた。
全身の毛を硬直させ、全身鎧を纏ったネズミの鎧武者のような姿になって、肉弾戦をする軍団なのである。
ヤクルもツバメの霊獣でありながら、なぜかスズメの軍団を連れていた。
大森林の『マナ・スパロウ』がクラスチェンジした『マナ・ジャック・スパロウ』たちである。
なにか有名な海賊と同じような名前の種族にクラスにチェンジしたからか……最弱クラスだったとは思えない武闘派荒くれ軍団になっていた。
まるでブチ切れたときのヤクルのような荒々しさで、外見のモフモフスズメとは裏腹に滅茶苦茶気の荒いバトルジャンキーな軍団なのであった。
現れた『吸血蝙蝠』と『吸血蚊』たちは、あっという間に全滅した。
そして怪我した大勢の人々もすぐに回復され、死者は一人も出ることがなかった。
特に目立っていた赤色の大キツネ、緑色の大タヌキ、青色の大ツバメは、今後、この都市では崇拝の対象のようになってしまうのであった。
飲み屋などでは、いつもキツネ派、タヌキ派、ツバメ派に別れ、誰が強いかという議論が繰り広げられていくのであった。
そしてキツネの眷属がウサギで、タヌキの眷属がネズミ、ツバメの眷属がスズメという全く出鱈目な説がまことしやかに信じられるようになっていくのであった……。
◇
『ハンシング市』を大河沿いにさらに北上したヘルシング伯爵領北東の端にある『ヨングの街』でも、同じく兎亜人の少女と、人々を救う様々な霊獣の姿が目撃されていた。
この『ヨングの街』を救ったのは、兎亜人の少女で、ミルキー、アッキーの妹であるユッキーと、『スピリット・イエロー・ベア』のプププ、『スピリット・エルク』のメリクリ、『スピリット・シルバー・ウルフ』のギンロ、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラの父と母であるトチチとトハハ、『スピリット・オウル』のフウの姉妹たちと母親のカチョウであった。
ユッキーは、まだ幼い少女であるにもかかわらず、誰よりも冷静に住民たちの避難誘導をした。
兎耳の少女の活躍は、この街の人々の亜人に対する偏見を一掃するものだった。
この街を含めこの国の多くの場所では、明確な差別といかないまでも亜人を見下す傾向がある。
だが、霊獣たちを率いて戦う『妖精女神の使徒』を名乗る少女に助けられた住民たちは、亜人に対する偏見を間違っていたと反省し、見方を変えたのである。
街の衛兵たちも最初は訝しげだったが、次々と敵を屠る強さと、人々を守るための的確な指示に、みんな最終的には従っていたし、衛兵長までが指示を仰ぐようになっていたのだった。
ユッキーは、絶大なる指導力とカリスマ性を発揮していたのだ。
街を救ってくれたクマ、シカ、オオカミ、トラ、フクロウは後日、『五福獣』として崇められるようになるのである。
そして『五福獣』を彫った木彫りの小さな人形は、縁起物の『根付』として流行することになる。
若者の間で、腰に五つの根付をぶら下げて、ジャリジャリ音を出しながら歩くことも流行することになる。
この『ヨングの街』をそのまま西に進んだヘルシング伯爵領北西の端の街『イングの街』でも、兎耳の男の子と様々な動物たちの活躍が目撃されていた。
この街を救ったのは兎亜人のミルキーたちの弟のワッキー、『マナ・ダガー・イーグル』のワシシ、ワシミたち、『マナ・ファング・ウルフ』のウルル、ウルミたち、『マナ・ドリル・ボア』のボーア、ボアミたち、『マナ・シールド・ベア』のアベベ、アベミたち、『マナ・ホワイト・ベア』のシロクたち、『マナ・デスサイズ・マンティス』のカママ、『マナ・ボクサー・マンティス』のイーノ、ノーキであった。
『妖精女神の使徒』を名乗る兎耳の少年は、最初うまく伝えられず、衛兵隊に取り囲まれるという危機を迎えたのだが、『マナ・ボクサー・マンティス』のイーノ、ノーキの熱い説得により衛兵たちに信用してもらうことができたのだった。
元々は念話でしか話せなかった彼らだが、マスターであるグルムと直接話したいという強い思いから、『マナ・クイーン・アーミー・アント』のアリリたちと同様に、『絆』スキルの効果で直接会話ができるようになっていたのである。
今では、ほとんどの大森林の仲間たちは話そうと思えば、人族の会話ができるようになっているのである。
イーノとノーキは、どう見てもカマキリの魔物にしか見えないのだが、なぜかその熱い演説により衛兵たちの心を動かしてしまったのだった。
その魂の演説に感動した衛兵たちは、最後には「イーノ・ノーキ、ボンバイエ!」というわけのわからないシュプレヒコールを上げ熱狂してしまったのだった。
この様子をイーノとノーキのマスターであるグリムが見たら、「伝説のプロレスラーの入場シーンじゃないんだから!」とツッコミながら、ニヤニヤしたに違いない。
その後、衛兵たちの心を完全に掴んだイーノとノーキは、なぜか衛兵隊を率いて戦ったのである。
最初の襲撃で大怪我を負い衛兵隊を率いることができなくなった衛兵隊長の代わりに、衛兵隊を指揮することに自然な流れでなってしまっていたのだった。
衛兵隊を率いて戦う二体の巨大なカマキリは、衛兵たちを鼓舞するカリスマ性と敵を屠る圧倒的な攻撃力で、後日、『戦の神』として語り継がれることになる。
『妖精女神の使徒』軍団のカマキリ将軍として語り継がれることになるのである。
実際は……将軍でも何でもないのだが……。
そしてワッキーが、『魔法のボール』を蹴って敵を倒している姿を目撃した住民たちを中心に、動物の皮で作った丸いボールを的に当てて遊ぶ『蹴鞠』が流行することになる。
これは後日、『シュートボール』という名前で人々に定着することになる。
広場などで遊ばれたり、競技大会が行われたり、屋台の射的のような形で楽しまれたりと様々に普及するのだが、その出所がワッキーであることは本人も知る由がなかった。
この街ではワシ、オオカミ、イノシシ、クマ、カマキリが『五強獣』として崇められることになる。
『五強獣』の『絵札』が作られて、お守りのようなかたちで普及するのだった。
いつしか、この『絵札』を五枚揃え、『ヨングの街』の『五福獣』の五つの『根付』と合わせ十個揃えると、災難を逃れ幸せになれるというまことしやかな伝説まで作られることになるのである。
これにより『ヨングの街』と『イングの街』では、『根付』と『絵札』がある種の名物、特産品のようになるのであった。
『イングの街』を南に下った『ニングの街』では、『アメイジングシルキー』のサーヤ、『ミミック』のイチミ、ニーミ、サンミ、ヨンミ、ゴーミ、ロクミ、『マナ・クイーン・アーミー・アント』のアリリ率いるアリ軍団が人々を救っていた。
この街でも最初は、アリリ率いるアリ軍団は、魔物と思われ衛兵たちに取り囲まれることになったが、サーヤの説明で、事なきを得ていた。
そして、懸命に人々を救うアリ軍団の姿に、次第に恐れを抱くものはいなくなり、最終的には涙を流しながら拝む者が続出するという状態になったのだった。
街中を駆け回りながら人々を救う宝箱についても、大きな話題となるのである。
後日、宝箱の蓋に目がついて、箱の部分に可愛い手足がついているカラフルな『デザイン宝箱』というのが発売され、大きな話題を呼ぶことになる。
そして、それを改良小型化しハンドバッグにしたものが発売され、女性たちに大人気の商品になるのであった。
カラフルで綺麗で可愛い宝箱や、ミニ宝箱型のハンドバックは、この街の特産品になるのである。
そして女王アリを含めた十体のアリ人形のセットも作られ、幸せの置物として特産品になるのであった。
このアリ人形のセットは『ありがとう人形』と呼ばれ、この人形に向かって、一日一度、「ありがとう」と十回言うと、気持ちが晴れやかになって、幸せを呼ぶという話が広がり、招福人形として有名になるのだった。
子供や大切な人への贈り物としても、定着するのである。
しばらくすると、これが発展し……段飾りにアリ人形を配置した、『雛人形』ならぬ『アリ人形』を年に一回飾るという風習までできるようになるのである。
飾ることによって、子供たちが健やかに育ち、「ありがとうございます」と感謝したくなるような出来事がその家に訪れると言い伝えられるようになるのである。
こうしてヘルシング伯爵領は、全域の市町で突然『吸血蝙蝠』と『吸血蚊』たちに襲撃を受けたにもかかわらず、なんと死者を出さずに乗り切ってしまったのだった。
幸運だったのは、最初に領都に現れたときから、時間をおいて各市町に『吸血蝙蝠』と『吸血蚊』たちが出現したことだった。
そのために、グリムたちの対応がギリギリ間に合って、負傷者は出したものの死者を出さずに済んだのだった。
もしリアルタイムで同時発生していたら、さすがに死者0人という結果にはならなかっただろう。
『正義の爪痕』の何カ所かの秘密施設で育てられていた『吸血蝙蝠』と『吸血蚊』たちが、そこから各市町に襲撃に行ったために時間差が発生したのだった。
この前代未聞の防衛戦は、後日詳しい調査が進み、王国全土を揺るがすニュースとなるのであった。
ある者は『妖精女神とその使徒』たちを神の使いと全面的に喜び、ある者はその強大な軍事力に恐れ警戒するという事態を必然的に招くのであった。
周辺国にまで、この防衛戦の話は広がり、英雄譚として語り継がれる伝説の一つになるのである。
そして、ヘルシング伯爵領を救った妖精女神が守護妖精を務めるピグシード辺境伯領も、国内外から大きな注目を集めることになるのであった。
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