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411.戦いの、始まり。

 『ヴァンパイアハンター』のエレナさんの親友で、吸血鬼にされてしまった元『ヴァンパイアハンター』のキャロラインさんの話によれば、捕縛するように命じられたのはエレナさんについてだけらしい。

 俺についての指示は、なかったようだ。

 おそらく俺については、情報を把握できていないのだろう。


 そこで俺たちは、スムーズに『領都ヘルシング』に入り込むための作戦を考えた。


 まずエレナさんについては、キャロラインさんに捕まったかたちにして、領城に連行してもらうことにした。

 もちろんキャロラインさんと、一緒に来た兵士たちには『暗示』にかかったままのふりをしてもらうのだ。


 これがおそらく、エレナさんが一番スムーズに領城に入る方法だろう。


 そして俺たちは別行動し、あくまで普通の商人として領都に入り、密かに領城に潜入することにした。


 最初はキャロラインさんから領城に潜入することは不可能だと言われ、エレナさんからも疑問視されていたが、“妖精女神の御業”でどうにかなるという内容の無い説明をして、無理矢理納得してもらった。


 監禁されている可能性のある場所をキャロラインさんが教えてくれたので、俺たちが二人の親友で領主夫人のボニーさんとその子供たちを救出することにした。


 ここまでの間に捕まえた盗賊たちについては、エレナさんが捕まったふりをする以上『領都』に連れて行くわけにはいかないので、『サングの街』に連れて行くことにした。

 これは俺たちが引き受けて、顕現している『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに担当してもらうことにした。

 ここまで来た六頭引きの大型馬車をナビーに託して、連れて行ってもらうのだ。


『連結車両』に保護している更生可能な盗賊たちも、一緒に『サングの街』に連れて行くことにした。

『連結車両』は、切り離して別の馬に引かせることにしたのだ。

 昨日襲ってきた盗賊の中には、馬に乗っていた者もいるので、馬も八頭ほど保護していた。

 その馬たちに、引いてもらうことにしたのだ。


 そしてナビーは、キャロラインさんたちと離れてしまえば、サーヤを呼んで一瞬にして『サングの街』に戻ることができる。

 連結車両も、サーヤの転移先として登録してあるから、サーヤは転移ですぐに来れるのだ。

 もちろん転移を使うときは、捕まえた盗賊たちと更生させる者たちは『状態異常付与』で『眠り』を付与して眠らせておくことになる。

 それが終われば、今度は『家馬車』の方に転移してくれば、俺たちにもすぐ合流できるのである。



 エレナさんは捕まったかたちを装うので、キャロラインさんの軍馬に同乗するかたちにするようだ。


 俺たちは、キャロラインさんたちとは別に、『家馬車』で『領都』に向かうことになっている。







  ◇







 昼過ぎになって『領都ヘルシング』に到着した。


 結構スピードを出したので、夕方にならずに着くことができた。

 キャロラインさんとエレナさんたちは、俺たちより少し後に着くように調整してもらっているので、まだ『領都』には入っていないだろう。


 先に俺たちが商人として入って、『領城』に忍び込んで救出のスタンバイをする段取りだからね。


『領都ヘルシング』の関所門で少しだけ止められたが、紹介状のある商人ということで何とか事なきを得た。

 ここでも、ピグシード辺境伯領の『領都ピグシード』の『商業ギルド』のギルド長ウインさんから貰った紹介状が、役に立った。


 俺たちは、すぐに領城に向かった。


 領城に正面から入っていくことはできないので、近くのあまり目立たない場所を探して『家馬車』を止めた。


 ここで『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナと『竜馬(りゅうま)』のオリョウ、『ミミックデラックス』のシチミ、『ワンダートレント』のレントン、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトル、リリイ、チャッピーには、待機をしてもらうことにした。


 そして潜入するのは、俺、ニア、『エンペラースライム』のリン、『スピリット・オウル』のフウだ。


 俺は『闇の掃除人』装備で、『隠れ蓑のローブ』を装着して侵入する。

 リンもいつも通り、『隠密』スキルと体色変化によるステルス機能の合わせ技で侵入する。

 ニアとフウは、上空からの侵入だ。



 少しして、俺たちは領城の中の北側にある尖塔に、領主夫人のボニーさんとその子供たちが軟禁されているのを見つけた。


 牢獄ではなく、ある程度の広いスペースで普通に暮らしてはいるようだが、兵士が張り付いていて別のフロアには行けないようになっているようだ。まさに軟禁状態だ。


 ちょうど俺たちが場所を特定し、救出の準備ができた頃、領城の中にキャロラインさんがエレナさんを連行したという報告が念話で入った。

 ギリギリ領城の正門が見える位置に『家馬車』を止めていたので、オリョウが知らせてくれたのだ。


 俺は、キャロラインさんとエレナさんの様子を把握するために、『使い魔人形(ファミリアドール)』の蜂を起動し、彼女たちを追わせていた。


 こちらの救出作戦は、キャロラインさんとエレナさんの状況を見て決行する予定なので、俺は彼女たちの状況を把握するために、蜂の『使い魔人形(ファミリアドール)』に感覚共有した。


 ……今のところ、キャロラインさんが『暗示』状態でないことは、気づかれていないようだ。

 スムーズに城内を進んでいる。


 そして、奥の大きな広間……領主との謁見の間の一つのようだが、そこにエレナさんを連行した。


 領主が座る豪奢な椅子に、肩まで伸びた黒髪がウェーブしているワイルドな感じの三十代の男性が座っている。

 おそらく……ヘルシング伯爵その人だろう。


 そしてその隣には、五十代くらいの金髪でヒゲを蓄えたがっしりした筋肉質の男が立っている。

 奴が、執政官のクルース子爵になりすました『血の博士』こと『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』だろう。


「エレナ様を語る不届き者を、連行いたしました」


 ヘルシング伯爵の前で片膝をつきながら、キャロラインさんが報告した。


「馬鹿なことを……私はエレナだ! 兄様! エレナです! 帰って参りました! 私はエレナです!」


「ふふふ……何を戯けたことを言っている! お前は、我が妹のエレナではないわ! 妹を騙るとは許せん!」


「兄様、私です! ほんとに、わからないのですか! それにこの領の混乱ぶりはなんですか!?」


 エレナさんの本気の叫びだった。


「何を戯けたことを……。私を愚弄するというのか、私自ら成敗してくれる!」


 ヘルシング伯爵は、椅子から立ち上がり剣を抜いた!


 やはり、こういう展開になるわけね……。


 ヘルシング伯爵が、エレナさんに斬りかかろうと動き出したその瞬間——


 エレナさんを縛っていたロープが解け、彼女は一直線に加速しヘルシング伯爵の横にいた執政官になりすました『血の博士』に拳を見舞った!


 だが奴も『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』、瞬時の反応でエレナさんの拳が届くのと同時に、後ろに飛び、拳のダメージを最小限に食い止めた。


「ふふ……さすが『ヴァンパイアハンター』……気づいていたのですね」


 執政官は、不敵な笑みを浮かべた。


「貴様だけは許さん! 覚悟しろ!」


 今度は、キャロラインさんが斬りかかる!

 執政官は、降り下された剣を手刀で横に弾きながら、再度距離をとった。


「私の『暗示』を解くとはなぁ……どうやったのか……信じられん……。だが残念だったな、お前は既に吸血鬼、何度でも『暗示』をかければいいだけのことだ!」


 奴の目が一瞬光ったが、ほぼ同じタイミングでエレナさんの蹴りが入って、奴の『暗示』を妨害したようだ。


「鬱陶しい奴め! やれ! こいつらを殺せ!」


 執政官が命じると、その場にいた近衛兵がエレナさんたちに襲いかかった。


「エレナ、こいつらは私に任せて!」


 キャロラインさんがそう言って、近衛兵たちを引きつけた。

 エレナさんの方に向かっていた近衛兵に斬りかかり、うまく誘導したようだ。


 エレナさんは、腰に下げていた二本の短棍持ち、執政官に襲いかかる!


 だが奴も『上級吸血鬼 ヴァンパイアロード』だけあって、すごい動きだ。

 本来の俺ならともかく、蜂の『使い魔人形(ファミリアドール)』を通して、二人の動きを追いかけるのは、結構大変だ。

 それほど、すごい動きなのだ。


 執政官に加えて、ヘルシング伯爵まで本気でエレナさんに斬りかかっている。

 彼も『ヴァンパイアハンター』の超加速の動きができるようだ。


  二対一では、いかにエレナさんでも……不利だ……


 だがそんな心配も杞憂に終わる。


 ハイスピードで、一羽の鳥が飛んできた!

 そう……それはフウだ。

 そしてフウの背中には、ニアが乗っている!


 救出チームに配置していたニアとフウだが、領主夫人と子供たちの居場所を確定した時点で、上空に待機してもらっていたのだ。

 そして状況を察知して、突入してくれたようだ。


 これで戦力は、互角以上になったはずだ。




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次話の投稿は、5日の予定です。


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