408.道中で、盗賊退治。
翌朝、俺たちはいよいよ『サングの街』を旅立つことになった。
再び『サングの街』にやってきたのが四日前の朝で、丸三日いたことになるが三日とは思えない濃さだった。
そんな感慨にふけっていると、ヘルシング伯爵の妹で『ヴァンパイアハンター』でもあるエレナさんがやってきた。
エレナさんは、大きな六頭引きの馬車に乗ってきた。
衛兵隊で、衛兵を運ぶときに使うような大人数の乗れる馬車だ。
ただ乗っているのは、御者とエレナさんだけだ。
「皆様、おはようございます。では早速参りましょうか」
エレナさんは、もう出発する気満々のようだ。
「あの……エレナさん、この馬車は……?」
「この馬車は、盗賊を運ぶためのものです。街道には盗賊がかなり増えるようですので、領都に行く途中で盗賊も捕まえようと思っているのです」
エレナさんは、澄まし顔でそう言った。
なるほどね……盗賊退治しながら行く予定なわけね。
俺たちは『闇影の義人団』の人たち、保護した子供たち、『舎弟ズ』と『二代目舎弟ズ』のみんな、『フェアリー商会』の幹部サリイさんに見送られながら出発した。
『舎弟ズ』は、別れる前に気合を注入してほしいと言って、ナビーに『愛の竹棒』をせがんでいた。
ナビーはやむなく『愛の竹棒』で頭をコツンとしてやっていた……。
そしてあいつらは……喜んで、完全に変態な目をしていた。
まぁ最後だと思うので、大目に見てやろう。
ちなみに、昨日午後から遊びに来ていた『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんは、昨日無事にラスボスと言っていた『いか焼き』を、満足いくまで食べて、戻っていった。
戻ったといっても、『ドワーフ』の里ではなく秘密基地に行ったようだけどね。
秘密基地でいろいろ作っているようで、人族の天才少女ゲンバイン公爵家長女で王立研究所上級研究員のドロシーちゃんを手伝いに行ったようだ。
街を出ると、街道沿いに村が二つある。
俺はエレナさんと話をするために、エレナさんの大型馬車に乗せてもらっている。
エレナさんの話では、二年前は村が四つあったようだ。
この二年の間に、村人になにかがあったのだろう。
本当は村にも立ち寄って、様子を確認したい気持ちもあったようだが、領都に着くことを優先したようだ。
村は素通りした。
しばらく行くと、確かに盗賊が寄ってきた。
そして……俺は盗賊に同情した……。
もちろん俺たちの出番はない。
すべてエレナさん一人で、ボコりまくっていた……憂さ晴らしじゃないよね……?
殺してはいないが……かなりの怪我になっている。
必然的に俺たちが回復役になっていた……。
回復させた後もボコられた盗賊たちは、みんな怯えた目をしていた……。
ここまで体に恐怖が刻み込まれると……もう悪いことをしようとは思わないかもしれない。
まぁそんなやり方がいいとは思わないけどね。
エレナさんは領民思いでいい人だと思うが、悪には容赦しないようだ。
エレナさんと相談し、俺たちが尋問して更生可能と判断できる者は、身柄を預けてもらうことにした。
ナビーのおかげで、俺も少し見方が変わった。
盗賊やゴロツキといっても、本当に悪い奴から、環境的に流されてなってしまった者までいて、一概には判断できないのだ。
弱い人のために活動していたスカイさんたちだって、盗賊として悪とされていたわけだからね。
当たり前だが、更生してやり直すことができる人もいるのだ。
『舎弟ズ』のお陰で、よくわかったのだ。
特に、今のこの領の現状を考えると、やむを得ず盗賊に身を落とした者もいると思うんだよね。
もちろん殺人などを犯しているような者は無条件で許すわけにはいかないが、生活のために物を盗んでいた程度なら、情状酌量して更生させた方がいいと思う。
この分だと……俺の嫌な予感が当たり……『三代目舎弟ズ』ができてしまいそうだ……。
そのうち……ナビーによって魂を入れ換えられた兄弟たちということで……ダンスボーカルユニット『三代目ナビーソウルブラザーズ』とかできそうで……凄く嫌だ……。
ちなみに『舎弟ズ』は、『炊き出し』の後に食後の体操として『護身柔術体操』を歌いながら披露して、みんなの手本になっているので、まんざらダンスボーカルユニットというのも、はずしてはいないのだ……。
まぁ正確には、体操ボーカルユニットだけどね……。
なんか面白いかも……体操ボーカルユニット『三代目ナビーソウルブラザーズ』……
そしてなぜか……街のお年寄りに大人気みたいな……
……ダメだ……俺まで壊れてしまった……これ以上考えるのはよそう。
盗賊退治の合間に、俺はエレナさんにいくつか質問をした。
このヘルシング伯爵領内にあった『正義の爪痕』のアジトの一つを壊滅させたときに、無理矢理吸血鬼にさせられた人たちと吸血鬼一歩手前の状態にされた人たちを保護しているという話をし、吸血鬼や一歩手前の状態を元に戻す方法がないか質問したのだ。
俺がヘルシング伯爵に直接会いたい理由の一つは、この情報を得たいからだ。
同じヘルシング家のエレナさんなら、知っているのではないかと思い訊いてみたのだ。
だが吸血鬼になった者を人間に戻す方法は、エレナさんも知らないらしい。
長い歴史を持つヘルシング家にも、伝わっていないようだ。
吸血鬼一歩手前の状態についても、解消する方法は明確にはわからないらしい。
ただ伝承では、まだ吸血鬼に変性していないので、その状態を浄化できれば元に戻れる可能性があると記されていたらしい。
浄化できる可能性がある方法として、レベルが高く生命エネルギーが高い人の血液を大量に摂取して、実質的に血液を入れ替えてしまうという方法が記されていたらしい。
特別な浄化の魔法や浄化の光などでも、できる可能性があるという記載もあったそうだ。
ただ具体的にどのような魔法やスキルなのかは、明示されていなかったようだ。
情報としては、なかなか厳しいが……
一つだけ簡単に試せそうなものがある。
それは血液の入れ替えだ。
レベルが高く生命エネルギーの高い者の血と入れ替えるという手段は試せそうだ。
俺の血が使えないかと考えているのだ。
レベルは限界を突破しているから、高いのは間違いない。
生命エネルギーが高いかどうかはわからないが……限界突破ステータスから考えれば、普通の人よりは高いのではないだろうか……。
そんな俺の血なら、可能性があるかもしれない。
一人分の血液を丸ごと入れ替えるとなると、俺でもかなり大変だが、回復スピードも早いし、調整を誤らなければ失血死することもないだろう。
安全策を取るなら、時間はかかるが毎日負担にならない程度に血液をストックしておく手もある。
あとやってみないとわからないが……おそらく血液も『波動収納』に収納できると思うので、それが可能なら『波動複写』でコピーすることもできるはずだ。
今度、ダメ元で試してみようと思う。
◇
翌朝になった。
『領都ヘルシング』までは、馬車で普通に行けば三日の行程だが、昨日の夜の時点で半分以上進んでいた。
かなりのスピードで馬車を走らせたので、盗賊を捕まえながらだったにもかかわらず移動距離を稼ぐことができた。
エレナさんの馬車を引いていた馬たちは、俺の仲間というわけではないので、かなりヘロヘロになっていたが、回復薬を与えて元気になってもらったのだ。
お陰で、今日中には領都に入れるだろう。
ちなみに昨日の時点でエレナさんが捕まえた盗賊で、大型馬車はほぼいっぱいになってしまっている。
更生可能と判断した盗賊は、俺の方で引き取っているので、それを除いてだ。
俺が引き取った盗賊は、『家馬車』に『連結車両』を繋げて、そちらに乗せているのだ。
この『連結車両』は、前にサーヤの手配で『マグネの街』の家具工房の親方のモコザイグさんが作ったものだ。
ほぼ『家馬車』と同じくらいの大きさなので、それなりの人数が入るのだが、こちらももう限界に近い。
ちなみに、この元盗賊たちは、移動の道中、馬車の中でナビーによる矯正教育が既に行われているのだ。
簡単な朝食を終え、出発準備をしていた俺たちのところに、騎馬の集団が近づいてきた。
先頭は一際大きな白馬で、おそらく『軍馬』だろう。
その強そうな白馬に騎乗しているのは、金髪がウェーブした美人だ。
白い全身鎧を着込んでいる。
他の騎馬は『軍馬』ではないようだが、騎乗している兵士たちは銀色の全身甲冑を着けている。
兵士というよりも騎士という感じだ。
おそらくヘルシング軍の兵士だろう。
「キャ、キャロライン……」
エレナさんが少し嬉しそうな雰囲気で、女性の方に歩み始めた。
ところが……そのキャロラインと呼ばれた女性は、おもむろに剣を抜いた!
え……
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