399.恩、送り。
今日の『炊き出し』は、子供たちも総出で手伝うことになっている。
浮浪児だった大勢の子供たちも、なにかをするのは楽しいようで、みんな張り切っている。
朝食の準備をしているときに、ちょうど『野鳥軍団』の鵜たちが帰ってきた。
朝の漁に出かけて、魚を獲ってきてくれたのだ。
アユのような魚を、いっぱい出してくれた。
魚を口からリバースで出すのは、いいのだが……魚以外のものを出すと、微妙だということがわかった……。
俺は子供たちに小エビの素揚げを食べさせてあげたくて、川エビを獲ってきてくれるように念話で頼んでいたのだ。
だが……さすがに口から大量の小エビを出されると……ゲロにしか見えない……。
かなり食欲を減退させる感じだ……。
そんな俺の気持ちが伝わったのか……小エビを大量に獲ってきてくれた鵜が悲しそうに下を向いた……。
「あ、ありがとう! 助かったよ。みんな喜ぶからまた頼むよ!」
俺は、精一杯明るい感じでお礼を言った。
鵜は嬉しそうに翼を広げ、港のほうに飛び去ってしまった……。
あの子は、また小エビを獲りに行ってしまったようだ……。
そんなこともありながら……作った朝食は、『魚の塩焼き』『小エビの素揚げ』『卵焼き』『鮭おにぎり』だ。
こういうときは、やっぱり味噌汁が飲みたいところだが……今のところ味噌を発見できていない。
もしやと思い『アシアラ商会』のアシアさんに尋ねてみたが、味噌はないようだ。
ただ種麹を手に入れることができれば、米麹を作って味噌を作ることができる。
『豆醤』を作っている麹が手に入りそうだし、本格的に大豆製品を作り出そうと思っている。『醤油』『味噌』『豆腐』『納豆』だ。
考えてみたら『納豆』はいつでも作れたんだよね。
稲ワラがあるからね。
納豆菌は枯草菌の一種で稲ワラについているからね。
夢は膨らむばかりだ!
人数が多いから、朝食作りは大変だった。
子供たちの中で十歳くらいの比較的年嵩の子たちと、元チンピラの舎弟男たちにも作り方も教えながら調理した。
今後のこともあるからね。
簡単な料理は覚えてほしかったのだ。
『魚の塩焼き』『小エビの素揚げ』『卵焼き』は、すぐに覚えられるだろう。
まぁほんとに美味しい『卵焼き』を作るには、熟練の技が必要だけどね。
みんなで『いただきます』をした。
子供たちは満面の笑顔で、そして泣き笑いという感じで楽しく食べていた。
やっぱり美味しさに感動してくれたようだ。
びっくりしたのは、舎弟男たちだ。
ぽろぽろと涙を流しながら、おにぎりを食べていた。
そして何故か……俺のことを『親分』と呼び出してしまった。
俺に対してなんて……さっきまで、ほとんど興味を示していなかったのに……。
『親分』とか……絶対にやめてほしいんですけど……。
俺は、この舎弟男たちにチーム名をつけてやることにした。
呼び名がないと不便だからね。
チーム名は……十六人組漢気ユニット『舎弟ズ』とした。
朝食が終わって後片付けをしていると、『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーが帰ってきた。
ナビーは、朝から出かけていたのだ。
サーヤを呼んで、一緒に『アラクネロード』のケニーのところに行っていたらしい。
最近のナビーって、ほんと自由過ぎる……。
そのうち顕現も、自分で勝手にできるようになりそうで怖い……トホホ。
「あなたたちの見た目では、住民の方たちが怖がって『炊き出し』に来ないかもしれません。全員これを着なさい」
ナビーはそう言って、『舎弟ズ』に純白のローブを渡した。
どうも『アラクネーロード』のケニーの『種族固有スキル』の『糸織錬金』で作ってもらったようだ。
『波動鑑定』してみると……
『名称』が『特殊剛糸のローブ』になっていて、『階級』が『上級』のアイテムになっている。
ナビーによると、ケニーがさっと作ったものらしい。
本気で作るともっとすごいアイテムになってしまって、逆に使いづらくなるので『中級』か『上級』程度のものというリクエストで作ってもらったようだ。
軽いのに抜群の防御力があり、通気性、防汚性、防臭性もあるらしい。
そこまではいいのだが……『舎弟ズ』が着てみると……前を閉じないで着ているせいもあるが……特攻服にしか見えない……。
そして何故か背中に……紫で『夜露死苦』と書いてある……なんのこっちゃ!
もう完全にそのものじゃないか!? ……どうしてそうなった!?
話を聞くと『ライジングカープ』のキンちゃんの提案らしい。
この文字を入れると気合いが入り、勇気が出る効果があるとキンちゃんが言っていたらしい。
『固有スキル』の『ランダムチャンネル』で仕入れた別世界の情報だろうが……キンちゃんそれ間違ってますから!
確かに今までの服装では、住民に怖がられるというのはわかるが……俺的にはむしろ特攻服のようなこの服装の方が、怖いんじゃないかと思うんですけど……。
ただ『舎弟ズ』は泣きながら喜んでいて……俺は苦笑いしながら見守るしかなかった……。
「今まで……人にこんなによくしてもらったことなんか……ありゃせん!」
「こんなに美味いものを食べさせてもらったこともない……」
「褒めてもらったり……」
「頼りにしてもらったり……」
「この恩をどうやって返したらいいか……」
『舎弟ズ』みんなが号泣しだした……こいつら……ナビーが拘束しないで連れてきただけに、実はいい奴らなのかもしれない。
昨日は、ナビーに変態調教されたやばい奴らかと思ったが……。
「この恩を返す方法が一つあります。それは『恩送り』です。自分が受けた恩を、受けた相手ではなく困っている人に対して返すのです。つまり困っているときに受けた恩を、困っている別の誰かに送ってあげるのです。これから困っている人を見たら、自分のできる範囲でいいから助けてあげるのです。それがこの恩を返す方法です」
ナビーは、子供を諭すような感じで『舎弟ズ』に言った。
ナビーめっちゃいいこと言うわ……この人、俺より全然いいこと言うわ……。
「「「わかりました! 姐さん!」」」
『舎弟ズ』は、感動と気合いの入り混じった声を上げた!
そして男たちの涙に、朝の光が眩しく煌めいた……ってなんのこっちゃ!
なんの青春ドラマよ……!? まぁいいけど……俺もちょっと感動しちゃったわ!
俺からも『舎弟ズ』に、装備品をプレゼントした。
『マグネ一式標準装備』の『インナー装備』をプレゼントして、肌着がわりに着てもらうことにしたのだ。
これでより安全性が上がったと思う。
余程のことがなければ、即死するようなことにはならないだろう。
この『インナー装備』は、『フェアリー商会』の従業員や養護院の子供たちにも配っているものである。
もちろん、ここの子供たちや『チーム義賊』の皆さんにもプレゼントした。
『インナー装備』は、肌着感覚でつけれるからすごく便利なんだよね。
『炊き出し』の準備を進めていると、屋敷に訪問者が訪れた。
領城からの使いだった。
ヘルシング伯爵の妹で『ヴァンパイアハンター』でもあるエレナ=ヘルシングさんからの使いで、手紙と箱を渡された。
手紙には、街のゴロツキを捕まえてくれた礼と、無実で捕まっている者たちを今日の夕方までに釈放するとの内容が記されていた。
よかった。ゴロツキたちは、エレナさんの方で対応してくれるようだ。
そして、ゴロツキを捕まえた礼金として五百二十万ゴル支払うと書かれていた。
置いていった箱には、金貨、銀貨、銅貨の組み合わせで、その金額が入っているらしい。
多分だけど……俺に渡せば、ここの子供たちのために使ってくれると思って、金貨だけでなく使いやすい銀貨や銅貨を混ぜてくれたのだろう。
一人十万ゴルという計算なのだろう。
盗賊退治の報償金に比べるとかなり安いが、チンピラみたいなやつもいたから妥当な金額かもしれない。
それに元々報償金がついていたわけではなく、あくまで礼金だからね。
特別に礼金を出す権限は、エレナさんではなく守護である準男爵にあるはずだから、エレナさんが無理矢理出させたのだろう。
強烈な物理力で従わせたのは、間違いないだろうけどね……。
きっとあのポンコツ準男爵には、死ぬよりもつらい恐怖が体に刻み込まれているに違いない……まぁ自業自得だな……。
『商人ギルド』にお休みをもらって、朝から駆けつけてくれている受付嬢のジェマさんが言っていたが、伯爵の妹で『ヴァンパイアハンター』、そしてこの領の英雄としても尊敬されているエレナさんの帰還は、瞬く間に町中に広がり、住民は大喜びしているとのことだ。
ちょっとしたお祭り騒ぎのような雰囲気になっているらしい。
彼女なら、この街の不正を正してくれると期待が膨らんでいるそうだ。
俺は、この屋敷を取り仕切ってもらう元衛兵で義賊だったスカイさんに、このお金を全て渡した。
最初は固辞していたスカイさんだったが、子供たちのために使うお金ということで受け取ってくれた。
彼女は義賊をしていただけあって、魔法カバンを持っているので、渡しても大丈夫と判断したのだ。
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