398.愛の、竹棒。
俺はナビーを『チーム義賊』のみんなに紹介した。
ナビーは俺自身というか、俺の分身みたいな存在なので、俺に起きていることはすべてわかっているのだ。
だが何故か……ナビーに起きていることは、俺には自動的には流れてこない。
俺が情報を得よう思えば、ナビーの情報が流れてくるが、自動的にはこないのだ。
俺の方が上位の存在なはずなのに、俺のことはナビーに筒抜けで、ナビーのことはわざわざ意識を向けないと得られないというのは、おかしいと思う!
誰に抗議していいかわからないが、とにかく俺は抗議したいのだ!
本当に……なにこの切ないシステム……トホホ。
その上ナビーからは、俺が勝手にナビーの情報を吸い上げることは禁じられているし……。
ナビーは、最近、ニアやサーヤや『アラクネロード』のケニーを中心に、女子メンバーと女子会トークをしたり、相談に乗ったりしているらしい。
顕現しているときは、少しでも時間を作っては話をしているようだし、顕現していないときは念話で話しているようなのだ。
それゆえに、俺が勝手にその情報を得ることは、「セクハラ&パワハラです! セクハラ男に死を! パワハラ男に断罪を!」と、きつく言われているのだ。
だから……女子トークに関することは、直接ナビーに訊くしかないのだ。
そして……どうもその関連の情報には、ナビーが簡易的なブロックをかけているらしい……。
なんでそんなことができるのよ……!?
本体の俺ができないのに……ナビー優秀すぎるわ!
まぁ俺が本気を出せば、情報を得ることはできるだろうが……そんなことをしたら……どんな目にあうかわからない……こわっ!
それにしても……ニアとサーヤとケニーとナビーは、どんな話をしているのだろう……?
この四人で話してる時点で……世界が取れてしまうような気もするが……。
俺は蚊帳の外なんだよね……俺っていったい……まぁ卑屈になるのはやめておこう。
呆然としている『チーム義賊』のメンバーを眺めながら、俺が切ない思考を巡らせている間に、ナビーはどんどん進めている。
「これからは、あなたたちはこの皆さんに協力するのです。特にスカイさんの指示に従うのです。それから命に代えても、この子供たちを守るのです」
ナビーがチンピラたちに向かって、淡々と言った。
「「「はい! わかりました! よろしくお願いします、スカイ姐さん!」」」
元チンピラの男たち十六人が、一斉に頭を下げた。
なんか……めっちゃ礼儀正しい感じの人になってるんですけど……。
この短い間に、ナビーさんどんな教育したの?
挨拶をされたスカイさんは、顔に斜線が入った感じで固まっている……。
「スカイさん、この『竹棒』を使ってください。この者たちが道を踏み外しそうになったら『愛の竹棒』を与えてやってください」
ナビーがそう言って、持っていた『魔竹』の『竹棒』を手渡した。
スカイさんは、苦笑いしながら受け取るしかない状態だった。
そしてこの男たち……ナビーが『愛の竹棒』を与えてやってくださいと言った瞬間に……恐怖と喜びが入り混じった顔になっていた……。
なんか……一瞬、『ミノタウロス』のミノ太を思い出したけど……
ナビーさん……この男たちに……変態調教してないよね……?
考えたら負けだな……無視!
ちょっとだけ気になったので、竹棒を『波動鑑定』してみた……
ただの竹の棒にしか見えないが……『名称』が『愛の竹棒』となっていて『階級』が『上級』になっていた……。
そして、『対象に対して、反省と成長を促す付随効果が小程度ある』と説明が記載されている……。
なにそれ……!?
上級って!? ……付随効果って!?
ナビーさん……なに作ったわけ? ……そんな付随効果のある武器なんて、どうやって作るのよ!?
……もうわけわからん !
念のためナビーが作った『魔竹』のリヤカーについても『波動鑑定』した。
『名称』がそのまま『魔竹のリヤカー』となっている。『中級』の『階級』だ。
説明には、『魔力を通すと積荷の重量が軽減できる。乗ると少し楽しい気分になる付随効果がある』と記載されている。
やっぱりだ……付随効果がついている。
ていうか……少し楽しい気分になるって……なによ!?
どういうこと……?
確かに……リヤカーの荷台に乗っていると、楽しい気持ちにはなるけどさ……。
どうして付随効果が出せるわけ……?
ナビーの特殊技能なのかなぁ…… それとも『魔竹』が持つ特殊性で付加価値がつくのかなあ……。
そんなこんなで……俺たちは子供たち全員とナビーの舎弟のようになった男たちを連れて、もう一度屋敷に戻った。
その後は、もう大忙しだった。
子供たちをお風呂に入れてやったり、着替えさせてやったり、ベッドを設置したり……細かいことも含めいろいろやった。
チンピラ改め舎弟男たちも、ここに住み込みさせることになった。
子どもたちの世話をしてくれる人手になってくれるので、よかったけどね。
使用人棟に、部屋を与えることになった。
舎弟男たちは、全員元チンピラでレベルも10台なので、スカイさんに悪さをするということもないと思う。
ただ、俺と同じ心配をしてくれたのか、いか焼き屋台の店主のマックさんが一緒に住んでくれることになった。
舎弟男たちの取りまとめ役をやると名乗りを上げてくれたのだ。
俺も安心したし、なによりもスカイさんがホッとしたようだ。
いたいけな子供たちならともかく……こんなむさ苦しい男たちを十六人も面倒見なきゃいけないなんて、絶対いやだよね。
「姐さん」と言われるのも、微妙に嫌そうだが……それは我慢しているようだ。
そしてニアさんは……
「なんか……ちょっと羨ましいかも…… 。私もチンピラをテイムしてみようかしら……」
と恐ろしい発言をして、わけのわからないスイッチが入りかけていた……。
それダメなやつだから……本当にやめてほしい……。
この人……本当に人に対してテイムとかしそうだし……。
◇
翌日の早朝、俺はこっそり守護の屋敷に行って、昨日ナビーが捕まえた街のゴロツキたち五十二人を縛り上げたまま置いてきた。
ヘルシング伯爵の妹で『ヴァンパイアハンター』のエレナさん宛の手紙も、一緒に置いてきた。
俺とニアの連名で、街のゴロツキを捕まえたという内容を記してある。
今はエレナさんが、守護の屋敷にいるはずだからうまく対処してくれるだろう。
ついでに、俺たちの屋敷の地図も置いてきたのだ。
俺はすぐに屋敷に戻って、『炊き出し』の準備を始めた。
今日から『炊き出し』を始めるのだ。
イカ焼き屋台の店主で屋台商の胴元の一人でもあるマックさんと相談の結果、『炊き出し』の時間は、午前九時からにすることにした。
屋台を営業している人たちの、朝の営業と昼の営業のピークの邪魔にならない時間に設定したのだ。
俺が『炊き出し』をする倉庫の場所は、南東の角に近い下級エリアにあって、一番近い東門前の広場の屋台エリアからでも結構距離がある。
それゆえに邪魔にはならないと思ったが、一応問題にならないように気を使ったのだ。
今後、毎日朝九時になったら『炊き出し』をすると告知しておけば、親と暮らしていて保護できない貧しい子供たちにもお腹いっぱい食べさせてあげることができる。
もちろん、その親や働けなくて困っている大人たちにも、食べさせてあげるつもりだ。
本当は、自立できるようにしてあげるのが一番だが、お腹が減っていては何をするにも力が出ないので、お腹いっぱい食べることが最初の第一歩だと思うんだよね。
ちなみに、この世界の人たちは、時間だけは自分で把握できるようになっている。
みんな物心がついた頃から、自分のステータスを確認できるのだが、時間だけはステータス画面に表示されるのだ。
年、月、日は表示されないが、時間はステータス画面の右上に表示されるのだ。
時間は、時代や国が変わっても同じだからかもしれない。
ただ、時差があるほど離れた場所に行ったらどうなるかという素朴な疑問はあるが……まぁそれは今考えてもしょうがないだろう。
とにかくこの世界の人は、時計というものはなくても時間だけは共通認識として、みんなわかっているのだ。
国が変わっても、言語が共通だったり、お金の単位が共通だったりとか、この異世界は本当にユーザーフレンドリーで助かる……。
なにかが介入して、そうなっているようにしか考えられないが……今は考えても答えが出ないのでやめておこう。
読んでいただき、誠にありがとうございます。
ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。
評価していただいた方、ありがとうございます。
感想をいただいた方、ありがとうございます。
次話の投稿は、23日の予定です。
もしよろしければ、下の評価欄から評価をお願いします。励みになります。
よろしくお願いします。




