393.チーム、義賊。
デイジーちゃんたちのお姉ちゃんであり、義賊のスカイさんの話によると……
彼女は元衛兵だったそうだ。
一年前に街の守護がダーメン準男爵に変わってから、この街は悲惨な状況になったらしい。
これは『商人ギルド』の受付嬢のジェマさんが言っていたことと、ほぼ同じだった。
スカイさんは、無実の罪を着せられて捕まる直前の衛兵長の計らいで、捕まる前にギリギリ逃げることができたらしい。
しばらくは、身を潜めて暮らしていたらしいが、守護や新しい衛兵長、腐りきった衛兵に絶望して、弱き者を守るために義賊としての活動を始めたらしい。
スカイさんは『ヴァンパイアハンター』の従者を務める家系のサルバ準男爵家の血を引いているらしく、人々を守りたいとの思いで衛兵になったそうなので、街の現状に耐えきれなかったのだろう。
守護に協力している悪徳商人たちから金品を奪い、貧しい人たちや浮浪児たちに配っていたようだ。
この街もピグシード辺境伯領と同じように、かたちだけの『総合教会』という教会はあるが、牧師も逃げ出してしまって、一切機能していないようだ。
それ故に、貧しい人を救うための炊き出しなども、一切行われないらしい。
領全体では、異変は一年半くらい前から始まっていたらしい。
特にこの一年は、貴族でも更迭されたり、謹慎させられたり、事実上の軟禁状態に置かれたりしているそうだ。
由緒正しい貴族や領民思いの評判のいい貴族は、ほとんど第一線から退かされているようだ。
スカイさんも『領都』に訴え出ることも考えたようだが、先に行った文官たちがすべて拘束されたことや、有力貴族でも排除されることを考え諦めてしまったらしい。
そして弱い者、小さな命を守るために、やむを得ず義賊になったそうだ。
「話はわかりました。でも、もう一人で戦う必要はありません、及ばずながら、私が力になります」
俺はスカイさんにそう言って、肩を叩いた。
「おっと……一人じゃないんだよ!」
そう言いながら……ガタイのいい男が出てきた。
え……いか焼き屋台のおじさん?
「そうです。スカイは一人じゃないんです!」
え……ジェマさん? ……『商人ギルド』の受付嬢のジェマさんじゃないか……。
「実は……私も協力しているんですよ」
おお、今度は『アシアラ商会』のアシアさんだ!
なんだ……どういうこと……?
「お初にお目にかかります。私は元『商人ギルド』のギルド長しておりましたレオと申します」
今度は四十代くらいのナイスミドルが現れた。
俺が呆然と立っていると……
『商人ギルド』の受付嬢のジェマさんが、俺ににっこり微笑んだ。
「私たちはチームなんです。チーム義賊なんです!」
ええええっ……なにそれ!? ……なんのカミングアウト……?
「グリムさん、スカイを助けていただき、ありがとうございました。あの状況では、私たちでは助け出せませんでした。やはりバーバラ姉さんが手紙に書いていた通りの人でした。我々一同、心より感謝いたします」
一番年長者の『アシアラ商会』のアシアさんが俺にそう言って跪くと、他のみんなも揃って俺に跪いた。
「いやいや、やめてください。どうか立ってください。それにしても、驚きました。この街で出会った方ばかりなので……」
「そりゃそうだな。俺と兄ちゃんが出会ったのは偶然だけど、ジェマは俺が紹介したわけだし、アシアさんはジェマが紹介したんだからな。レオはタイミングが無かったけどな、ハハハ。俺はマックだ。よろしく!」
イカ焼き屋台のおじさんはそう言うと、豪快に笑った。
「まったく……マック、もっと口の利き方に気を付けろ! こいつはと幼なじみなんですが、元が漁師でガサツなもんですから。グリム様、すみません」
元商人ギルド長だというレオさんが、俺に頭を下げた。
「いえいえ、いいんです。普通にしてもらう方が、私は嬉しいですから」
「ほれみろ! この人はな、貴族だからって、それを振りかざすような人じゃねーんだよ!」
マックさんがそう言って、得意げな顔をした。
俺が貴族だということを知っているようだ。
おそらくここに来るまでに、アシアさんから聞いたのだろう。
「グリムさん、貴族様なの? 貴族様なのに、私たちみたいな子を助けてくれるの?」
花売りの少女デイジーちゃんが、驚いて俺を見つめている。
「一応、貴族だけどね。商人でもあるんだ。困っている人を助けるのに、身分なんて関係ないんだよ」
俺はそう言って、デイジーちゃんの頭を撫でてあげた。
「皆さんはチームとして義賊をやっていたということですか?」
俺の質問に、ジェマさんが一歩前に出た。
「実は、最初に義賊を始めたのはスカイなんです。私はスカイと幼なじみで、義賊がスカイだと知って協力することにしたんです。そして信頼している元ギルド長のレオさんに相談したんです。レオさんは信頼のおける幼なじみのマックさんに話をし、マックさんは兄のように慕っているアシアさんに声をかけてくれてたんです。情報収集や逃走ルートの確保、避難場所の設置などを行なっています。スカイを助けるために集まったのです」
ジェマさんがそう説明してくれた。
「なるほど……一人ではなかったんですね……。よかった。でもみなさん、もう義賊としての活動はやめてくださ……」
「そうよ! もう危ないことは、やめた方がいいわよ! 子供たちが心配するし、また大事な人を失わせるなんてできないでしょ! 今日だって死にかけたんだから!」
俺が言い終わるのにかぶせるように、言葉が響いた。
待機していたニアさんが、出てきてしまった。
登場のタイミングが早すぎるんですけど……。
我慢できなくなったようだ。
「ああ……羽妖精……? 妖精様ですね!」
ジェマさんが、ニアに憧れの眼差しを向けた。
「妖精女神様……ニア様、お目にかかれて光栄です。ピグシード辺境伯領でのご活躍は耳にしております」
アシアさんがニアに跪いた。
そしてみんな……畏敬の念のこもった眼差しをニアに向けている。
毎回毎回……この羽妖精に対する敬い具合……ほんと驚くわ……。
さすがに羽妖精の伝説が残っているピグシード辺境伯領ほどではないが、やはり初代ピグシード辺境伯の逸話は有名なようで、みんな憧れの眼差しをニアに向けている。
「よ、妖精………様……妖精女神様……」
デイジーちゃんがニアを見つめて、胸の前で手を組んだ。
「どうか女神様、この街を助けてください。私たちを、子供たちを、困ってる人たち……を悪い大人から助けてください」
デイジーちゃんが本当の神に祈るように、泣きながらニアに言った。
「あったり前よ! この妖精女神様に任せなさい! 悪い奴なんて、ボコボコのポンポコポーンにしちゃうんだから!」
ニアはドヤ顔で、ピグシード家の家紋と同じポーズ……右手に指鉄砲を作って、左手を腰に当てるという残念な感じのポーズをとった。
せっかくの決め所なのに……ポンポコポーンってなによ!? ……やっぱ残念だわこの人……。
「ニア様、グリム様、ありがとうございます。それでも、なにかしたいです。私たちにできることはありませんか?」
スカイさんが真剣な眼差しで、俺を見つめた。
「もちろんあります。まずはこの街の子供たちを助けたいんです。子供たちを保護するために、屋敷を買いました。そこの運営に協力してもらいたいのです。子供たちが嫌でなければ、ピグシード辺境伯領への移民として受け入れたいと思っているのです。もちろんここに残りたい子供は、その屋敷に残ってもらって構いません。他にも、この領で困っている子供がいるなら助けたいと思っています。その協力をお願いします」
「わかりました。もちろんできる協力は、喜んでさせていただきます。ただ……」
スカイさんは了承してくれつつも、ためらいながら言葉を途切れさせた……
「代官や衛兵たちのことなら、多分もう大丈夫ですよ。この領を救う人が帰ってきてくれたようですから……もう出てきたらどうですか? エレナ=ヘルシング様!」
俺はそう言いながら、ドアのほうに顔を向けた。
俺は途中から、その存在に気づいていた。
彼女はかなり離れた場所から聞いていたようだが、嗚咽する声が耳に入っていたのだ。
おそらく彼女だけは、俺のあとを追跡できたのだろう。
『ヴァンパイアハンター』をしているぐらいだから、並外れた視覚や聴覚、追跡能力を持っているのだろう。
彼女は、ゆっくり歩いてきた。
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