392.激怒の、ヴァンパイアハンター。
外のざわつきの中に、殺気のようなものを感じる……
外に出てみると……衛兵たちが盗賊らしき男を広場の一角に追い詰めていた。
「その傷でよく隠れていたなぁ。だがもうおしまいだ!」
衛兵長らしい金髪の男が怒鳴り声を上げている。
盗賊は、全身黒ずくめで頭にフードをかぶり、顔には仮面を付けている。
白い無表情な感じの仮面だ。
盗賊は足を斬られているようだ。
出血が多くて瀕死に近い。
動けなくなって隠れていたところを見つかったのだろう。
衛兵長を中心とした衛兵たちが、じっくりと追い詰めている。
そしてこいつら……ニヤけている……
まるで狩りでも楽しんでいるかのようだ。
「義賊なんて偽善をしても、所詮は盗っ人! 観念するんだな! まずは盗みができないように手から斬ってやろうか?」
衛兵長が舌なめずりしながらそう言った。
こいつ……完全に悪党の振る舞いじゃないか……。
そして……こいつがあの男の子の腕を斬ったに違いない……。
そう思ったら、腹が立ってきた。
こいつは、捕まえるのではなく腕を切り落とすことを楽しむつもりなのだ。
そして殺すのだろう。
このまま盗賊を殺させるわけにはいかない。
それが今評判の義賊なら尚更だ。
「義賊様を殺さないでください。私たちを助けてくれたんです!」
突然、少女が両手を広げて義賊の前に飛び出した!
え……デイジーちゃん!?
あの子は、花売りの少女デイジーちゃんじゃないか!
なぜここに……近くに花束の入ったカゴが落ちている。
また花売りをしていたのか……。しかも今度は、この中央の広場まで足をのばして……。
「そうか! お前はこの義賊の仲間だな! じゃぁお前の手から切り落としてやろう!」
衛兵長はそう言うと、剣を振り上げながらデイジーちゃんに近づいた。
周りの衛兵も止めるところが、嗜虐の笑みを浮かべている。
相手は子供だぞ!
完璧なクズ集団だ!
あーもうダメだ……。
騒ぎを起こさないようにしようと思ったけど、もう無理だわ……。
もう……こいつらぶっ飛ばす!
飛び込んでいって、ボコボコにしたい気持ちになった……だが、限界突破したステータスの力もあってか怒りをなんとか抑えて人混みに近づいた。
そして小石を拾って、速攻のクイックスロー——
シュンッ——
——ボンッ
振り上げた衛兵長の右腕の手首から先が吹き飛んだ!
あれ……力の加減を失敗したようだ……。
いや……細い手首を狙ったのが失敗だったかもしれない……
俺の小石の投擲は、威力がありすぎて手首を粉砕してしまったようだ。
決してわざとではないのだ……決して……。
そして衛兵長が痛みに苦しむかと思ったが、その間もなく————
「馬鹿者! なにをしているか!」
甲高い怒鳴り声が響き、すごい勢いで人影が衛兵長に走り寄った。
——バンッ
——ボンッ
——ボゴンッ
——バンッ、バンッ、バンッ
人影は、背中から衛兵長に蹴りを入れて、吹っ飛ばしたあと、そのまま追いかけ仰向けにして、馬乗りになって顔をボコボコに殴っている!
それを止めようと斬りかかってくる衛兵たちも、ボコボコにしている。
全員顔の原型がなくなっている。
衛兵長を入れて十六人いたようだが、全員無残に転がってしまった。
かろうじて殺してはいないようだが……瀕死の状態だ。
そこに、馬の蹄の音が近づいてきた。
「なにをしとる! こやつを捕まえろ!」
騎乗した貴族らしき男が、応援の衛兵を連れてきたようだ。
「お前は何者だ!」
人影は、貴族らしき男に向かって叫んだ!
そして人影は、女性だった。
黒のレザーのロングコートを着ている、日本人っぽい顔立ちの美人だ。
黒に近い紫髪で、ボブカットにしている。
「あ、あなたは……エ、エレナ様……」
「ふん、私の顔は、わかるようだな。そしてお前は何者だ!?」
「私は、この街の守護しておりますダーメン準男爵です。以前、領城でご挨拶させていただいたことが…… 」
「ダーメン……準男爵……? なんでお前がこの街の守護なのだ! ニニク男爵はどうした?」
「ニニク男爵は、領主様……ヘルシング伯爵様のご不興をかい解任されました。一年前より私が守護でございます」
ダーメン準男爵と名乗った貴族は、慌てて馬から降りて跪きながらそう言った。
「この馬鹿者が! たわけたことを申すな!」
エレナ様と呼ばれた女性は、そう言いながらダーメン準男爵を殴り飛ばした!
怒りが収まらないようで……めちゃめちゃバイオレンスな感じだ……。
殴り飛ばされた準男爵は、ガタガタ震えて口から泡を吹いている。
そして……お漏らしもしてしまったようだ……残念なやつ……でもざまあみろだ!
俺は、この女性を『波動鑑定』をさせてもらった。
やはり……『名称』がエレナ=ヘルシングとなっている。
彼女は、このヘルシング伯爵領の領主の妹のようだ。
アンナ辺境伯たちから聞いていた……領外に出て人々のためにヴァンパイアを狩っている『ヴァンパイアハンター』だ。
この領に戻って来たのだろう。
そしてこの状態を見て、激昂したというところだろうか……。
まぁ人々を守るために『ヴァンパイアハンター』をしているという人なら、こんな衛兵たちを見たらブチ切れるよね。
しかしこのままだと……あの義賊がやばい……
義賊に対しても『波動鑑定』をしてみると……女性のようだ。
男性かと思ったが、違ったようだ。
フルフェイスの仮面をつけていたのでわからなかった。
名前はスカイというらしい。
そしてこの女性がおそらく……デイジーちゃんが言っていた“お姉ちゃん”だろう。
デイジーちゃんが駆け寄って、小さな声でお姉ちゃんというの聴力強化した聴覚が拾ったのだ。
俺は急いで人目のないところに行って、『闇の仕事人』仕様に装備チェンジした。
そして『隠れ蓑のローブ』を起動し、姿と気配を消した。
そしてデイジーちゃんと義賊のスカイさんに近づいて、 抱きかかえ『ハイジャンプベルト』を噴射させ一気に上空に舞い上がった。
周りの人たちには、この二人が急に空に浮かび上がったように見えただろう。
そして俺は、一気にマナゾン大河の方向に飛んだ。
だがこれはあくまで偽装で、途中でこっそり引き返し、さっきの『アシアラ商会』の駐車場に止めてある『家馬車』に向かった。
すぐに手当てしないとまずいからね。
俺は二人を『家馬車』の中に入れ、スカイさんに回復魔法の『癒しの風』をかけて回復させた。
意識もなくかなり危険な状態だったが、もう大丈夫だろう。
俺は『隠れ蓑ローブ』のフードを下げて、仮面を外してデイジーちゃんに顔を見せた。
「グ、グリムさん……お姉ちゃんを助けてくれてありがとう」
デイジーちゃんは俺の顔を見て安心したのか、目に涙を浮かべながら俺に抱きついてきた。
「もう大丈夫だよ。回復させたからね。お姉ちゃんは、義賊だったのかい?」
「うん。お姉ちゃんは内緒にしてたけど……私はたぶんそうだと思ってた」
「そうだったの。とりあえずみんなのところに戻ろうか」
「うん。みんな心配してると思う」
俺は一度『アシアラ商会』に戻って、明日また訪れる旨を告げてすぐに出てきた。
そして『家馬車』を出して、デイジーちゃんたちの家に向かった。
……家について、スカイさんをベッドに運んであげたところで、目を覚ましたようだ。
暗めの茶髪をショートカットにしたボーイッシュな女性だ。
部活少女のような、健康的なかわいい感じの人だ。
ショートカット好きの俺としては……結構タイプかもしれない……
まぁ今はそんなことを考えている場合ではなかった……。
「あ、あなたは……」
「お姉ちゃん、この人はグリムさん、私とお姉ちゃんを助けてくれたの!」
「そ、そういえば……あの時いたのは……やっぱりデイジーだったの!? 意識が朦朧として、幻覚を見てるのかと思ってたけど……なんできたの!?」
「だって、お姉ちゃんが殺されちゃうと思って!」
「あ、あんた……私が義賊だって知ってたのかい?」
「うん。知ってたよ。お姉ちゃんがみんなのために頑張ってること……戦ってること……」
デイジーちゃんは、言いながら泣き出してしまった。
心配そうに周りで見ていた他の子供たちも、釣られたように一斉に泣き出した。
リリイとチャッピーがオロオロしながら、小さな子たちをなだめている。
「みんな……心配かけてごめんね」
スカイさんも、ぽろぽろと涙をこぼした。
「「お姉ちゃん」」
デイジーちゃんと足の怪我を治してあげた女の子が、同時にスカイさんに抱きついた。
男の子たちは、泣きながら見守っている。
小さな子たちは、リリイとチャッピーに抱きついている。
「あ、あの、本当に……私とこの子を助けていただいて、ありがとうございました。申し遅れましたスカイと申します。あなた様はいったい……」
「私はグリムです。ピグシード辺境伯領から来ました。この街がひどい状況なのは、大体わかりましたが……なぜあなたは義賊をされているんですか?」
俺の質問に、スカイさんはこの街で今まで起きたことを、かいつまんで説明してくれた。
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