388.花売りの、少女。
屋台が並ぶ広場だが、屋台を出さずにカゴに入れた商品を売っている人たちもいる。
花束を売っている小さな子供がいる。
リリイ、チャッピーと同じくらいの年齢のようだ。
こういう小さな子がものを売っていると……おじさんの胸は張り裂けそうになってしまう……。
「お花を買ってください。摘みたてのお花です。 五十ゴルです」
俺がじっと見ていたからだろうか……花売りの女の子が俺にそう言いながら近寄ってきた。
植物の弦で編んだカゴに、ブーケのような可愛い花束がいくつも入っている。
リリイとチャッピーが、花束を買ってあげてほしいと訴えかけるような目で俺を見上げている。
俺は二人に首肯して、しゃがみ込んで花売りの女の子に話しかけた。
「綺麗なお花だね。買わせてもらうよ。全部でいくつあるの?」
「十束あります」
少女は首をかしげながら答えた。
花束の数など聞かれたことはないのだろう。
「じゃあ、全部もらうよ」
「え……い、いいの……?」
予想外の答えだったようで、少女がすごく驚いている。
「もちろんだよ。このお花が気に入ったんだ。お父さんとお母さんのお手伝いをしてるのかな?」
「……お父さんもお母さんもいない。死んじゃったの……」
少女は屈託のない笑顔でそう答えた。
逆に胸が痛い……。
「じゃあどこに住んでるの? 孤児院に住んでるのかい?」
「孤児院なんてないよ。助けてくれたお姉ちゃんと住んでるの。あたしよりちっちゃい子がいっぱいいるから、お姉ちゃんの助けになりたくて、お花を摘んで売ってるの」
なんかちょっと話しただけなのに……やばい感じだ……おじさんの涙腺が……今にも決壊しそうです……。
俺は、花束を十個もらい少女に銅貨を十枚渡した。
本当は十束で五百ゴルなので、銅貨五枚なのだが十枚渡してあげたくなったのだ。
「あの……銅貨五枚です」
「いいよ、この花束はすごく綺麗だし、私にとっては一束百ゴルの価値があるんだよ」
「で、でも……こんなにもらえません。お姉ちゃんに怒られます」
おじさんの気持ちなのだけど……どうしよう……。
「わかった。じゃぁお花の代金は銅貨五枚で、残りの五枚はこれからお願いすることのお礼として、払うってことでどうだい?」
「お願いごと?」
少女ながらに変なことを言う大人だと思ったのだろう、少し訝しげな表情になった。
「この街に来たばかりで知らないことが多いから、この街のことをいろいろ教えてほしいんだけど」
「いいけど……この街のことって?」
「そうだねぇ……この街の子供たちのことを教えてくれるかい? 君みたいに親を亡くした子供たちは結構いるの?」
「いっぱいいるよ。親が盗賊に殺されたり、突然いなくなっちゃったり……」
少女が沈んだ表情になった。
「そんな子たちは、どうしてるんだい? 孤児院がないっていっていたけど」
「前は孤児院があったけど、今はなくなっちゃったみたい。お姉ちゃんが怒ってた。私はお姉ちゃんが助けてくれたからいいけど、おうちがなくて道で寝ている子もいる」
少女はさらに悲しげな表情になった。
なんと……浮浪児になっているということか……
「そういう子たちは、どこにいるんだい?」
「えーっとね……あっち」
少女が指差したのは、メイン通りから見て南側の下町エリアのさらに奥のようだ。
リリイとチャッピーが俺の手を引いた。
幼女状態のリンとシチミも俺を見つめている。
みんな助けに行きたいようだ。
「そこに案内してくれるかい?」
「いいよ。ついてきて」
俺たちは、少女の後について行った。
メイン通りからかなり奥まで進むと、治安が悪そうな汚い感じの場所に出た。
そして、そのさらに奥の路地裏にしゃがみ込んでいる子供たちがいる。
みんなガリガリだ……
なんてことだ……
ここにいるだけで十三人いる。
なにかを食べさせないと……
でも、いきなりしっかりした食事では、お腹が受け付けないかもしれない。
そうだ……こんなときは……気力回復効果もある霊果『スピピーチ』がいいだろう!
俺は『波動収納』から『スピピーチ』とナイフを出して、小さなサイズに切って子供たちに食べさせた。
子供たちは最初は力なく口に運ぶだけだったが、だんだん元気になって俺の周りに集まりおかわりをするようになった。
俺は『スピピーチ』をあげながら、子供たちから話を聞いた。
みんな身寄りがなく、行くところが無くてここに集まってきたとのことだった。
食べ物は、街の人が余り物をくれたり、最近は『義賊様』という覆面の男が食べ物や服を置いていってくれるとのことだ。
お腹が減ったときは、道の草を食べている子もいるようだ。
もうこの時点で……俺としては耐えられない……。
今回ヘルシング伯爵領に来た目的とは関係ないが、知ってしまった以上……この子たちを放っておくことなどできない!
さて、どうするか……
困った時のナビー頼み、俺は『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーを顕現させた。
もちろん人目のない路地裏に行ってだ。
ナビーの姿は、タイトなスカートのキャリアウーマンスタイルなので、そのままでは目立ってしまう。
そこでナビーには、俺の持っている魔法のローブを羽織ってもらった。
「ナビー、この子たちどうしようか?」
ナビーは俺の中で全ての状況を把握しているし、俺の気持ちも当然わかっているのでこんな訊き方でも通じるのだ。
「そうですね……このままにはしておけませんが、ここは他領になりますので浮浪児とはいえ勝手に連れ出すことは避けた方がいいですね。この街の様子も把握できていませんから、慎重になった方がいいと思われます。“人拐い”と間違えられて逮捕されても困りますし……」
「じゃぁ……しばらくはこの街の中で、この子たちを保護するかい?」
「そうですね。様子が分かるまでは、その方がいいと思います。子供たちを保護する場所が必要になりますので、『商人ギルド』に行って大きな倉庫か屋敷を購入してはどうでしょう。商人ということでこの街に入っていますので、商品を置くための物件を購入するということなら、怪しまれることもないと思います。そして対外的には、この子たちを下働きとして雇うというのはどうでしょう?」
なるほど……さすがナビー……
思ったよりも大がかりになるが、それが一番いいだろう。
なにかあったときに、筋が通る話だしね……。
この街の守護がどんな人かわからないが、万が一目をつけられたときに、筋が通るストーリーにしといた方がいいからね。
ということで俺は、『商人ギルド』を目指すことにした。
ナビーには、そのままこの街の浮浪児たちがどのぐらいいるのか、探ってもらうことにした。
もちろん目立たないように食事を与えることも含めてだ。
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