386.再び、ヘルシング伯爵領へ。
翌朝になって、俺たちは全員で秘密基地である『竜羽基地』を出る準備をしていた。
昨日子供たちが連れてきた珍しいオケラ型の虫馬『ケラケラ』のケラリンは、この秘密基地の番人として残ってもらうことになった。
子供たちは連れて帰りたそうだったが、吸血鬼を封印している棺の番人が必要だからということで了承してもらった。
ゲンバイン公爵家長女で王立研究所の上級研究員のドロシーちゃんに、転移の魔法道具を渡してあるからいつでも会いに来れるしね。
第一王女で審問官のクリスティアさんは、昨日一日かけて、『下級吸血鬼』たちの尋問を終えてくれた。やはり『下級吸血鬼』たちからは、目新しい情報は引き出せなかったようだ。
全ての吸血鬼は、安全のために再度胸に『ドワーフ銀』の武器を打ち込んで封印した。
そして、司令室ブロックに特別室を作って厳重に保管した。
わずかな時間ではあったが、秘密基地の整備もそれなりに進んだ。
『格納庫ブロック』の中心の円形広場は、予定通り大格納庫になった。
俺はドロシーちゃんの改造用の飛竜船を、『波動収納』から取り出し設置した。
この円形広場というか……大格納庫は天井の岩盤が外され、開閉扉が設置されている。
岩盤の撤去は俺が『魔剣 ネイリング』で切り取ってしまった。
バリ取りや細かな加工は、オケラ型の虫馬のケラリンがやってくれた。
格納庫の天井は開閉扉になっていて、上に向かって観音開きになる構造なのだ。
これは『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんが作ってくれたもので、『ドワーフ銀』の骨組みに、俺というかナビーが大量に倒した蜂魔物の羽を、綺麗に貼り付けた構造になっている。
例えていうなら、和室で使われている障子のような構造なのだ。
障子の桟が『ドワーフ銀』で、それに貼っている障子紙が蜂魔物の羽という感じだ。
その巨大な二枚の扉が、『開けゴマ』という発動真言を唱えると、上方向に観音開きに開くのだ。
そこから飛竜船が飛び立つので、結構秘密基地らしくてなっているのである。
ただ扉の開閉が、『開けゴマ』『閉じろゴマ』という発動真言を唱えなきゃいけないのが、俺的にはすごく微妙だ……。
過去の逸話にも出てくるらしく、それを発動真言にしたようだが……古典的なワードとはいえ……そもそもゴマってなによ!?
多分意味があるんだろうけど……俺は知らないし……。
もっとかっこいい発動真言にしてほしかった……『ゲートオープン』とか『ハッチ開放』とか……雰囲気のあるものにしてほしかった……トホホ。
今度開発してもらうときには、発動真言についても、要望をあげることにしよう……。
この『ドワーフ銀』と蜂魔物の羽を組み合わせた扉はかなりの優れもので、光を通すし適度な通気性もあり空気も通してくれるのだ。
ちなみに地上部分には、動物や人が近づいたりできないように、開閉部分周辺に大岩をいくつも配置した。
周りには木も生えているので、ここに出入口があることはほとんど気づかれないだろう。
周辺のスライムたちも巡回してくれているしね。
作戦指令室は、さすがにただの会議室のままだが、ミネちゃんとドロシーちゃんでいろいろ考えてくれているようなので、今後に期待したい。
ただ映像を映し出すモニター画面や映像を撮ってくるドローンなど、簡単には作れないようだ。
ドローン自体は作れるが、映像を撮って送信するのは難しいらしい。
開発にはそれなりに時間がかかるだろう。
その他、『居住ブロック』の各自の部屋や、『センターサークル』のフードコートのような食堂スペース、『格納庫ブロック』の飛竜たちの厩舎、ドロシーちゃんとミネちゃんの工作室や実験室などは大体作ることができた。
『指令室ブロック』のマジックミラーを配置した尋問室は、まだ未完成だ。
マジックミラーのような鏡を作る技術があるかわからないが、魔法道具として作れないか考えてみたいと思う。
ドロシーちゃんとミネちゃんの研究室は、設置できた。
ただ研究室といっても、机と椅子を置いただけなのだが。
それを言ってしまうと、工作室も実験室もただ場所を確保しただけと言えなくもない。
今後は『格納庫ブロック』に、領城に設置している『正義の爪痕』のアジトから没収した設備などを移設しようと思っている。
転移の魔法道具でいつでも来れるから、こっちに設置した方がいいだろうという話になった。
領城もスッキリするしね。
予定通り、これから飛竜船でセイバーン公爵家三女で代官のミリヤさんを『ナンネの街』に送り、アンナ辺境伯たちを領城に送るつもりだ。
ドロシーちゃんに渡した転移の魔法道具には、領城はまだ転移先として登録してないので、転移できないのだ。
今後は、領城と秘密基地を転移で行き来できるようになるけどね。
◇
無事にみんなを送り届けた俺たちは、すぐに領城を出発しヘルシング伯爵領に入った。
サーヤにきてもらって、前回訪れたヘルシング伯爵領の港町『サングの街』の近くに設置した転移用ログハウスに転移したのだ。
『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんについては、一旦『ドワーフ』の里に帰ってもらった。
さすがにそろそろ帰らないと心配しているだろうからね。
もちろんミネちゃんは、ゴネたわけだが……
俺は秘密兵器を取り出した!
それは…… 蜂魔物の巣からナビーが取ってきてくれた極上の蜂蜜だ!
これをみんなにお土産として持って帰ってほしいと頼んで、いっぱい渡したのだ。
もちろんその時に、味見をさせてあげた。
ミネちゃんもニア、リリイ、チャッピーも、極上の蜂蜜の味に……とろけて……ふにゃふにゃになっていた。
アンナ辺境伯たちを送り届けた後の話なので、アンナ様たちには食べさせてあげていないんだよね。
まぁこの蜂蜜を出すのを忘れていたというのが、実際のところなんだが……今度振る舞うとしよう。
ミネちゃんは蜂蜜の美味しさによる放心状態と、俺の「みんなの喜ぶ顔が見たいよね」という甘い囁きにより、笑顔で里に帰っていったのだ。……よかった。
『サングの街』から北西方向に『領都ヘルシング』がある。
馬車で普通に行けば三日ぐらいの距離である。
その領都の南西に大きな森林があって、そこに『血の博士』の急襲部隊『ブラッドワン』のアジトがある。
今回は、領内の様子をじっくり探りながら、『家馬車』で移動しようと思っている。
不可侵領域に作った地下街で『アラクネロード』のケニーたちを手伝っていた、旅のお供メンバーもサーヤの転移で連れてきてもらった。
『エンペラースライム』のリン、『ミミックデラックス』のシチミ、『スピリット・オウル』のフウ、『竜馬』のオリョウ、『ワンダートレント』のレントン、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトルだ。
情報収集という意味では、もう一度港町である『サングの街』に立ち寄った方がいいだろうというニアのアドバイスで、街まで戻ることにした。
なんとなく……ニアさんが街を見て回りたいだけな気がするが……
いや絶対そうだろ!
まぁ俺も見たかったからいいけどね……この前は、ほんとにさっとしか見られなかったからね。
ということで、早速『サングの街』に入ったのだが……
「やっぱ、ヘルシング伯爵領の名物を食べないとね! 」
ニアの呟きを俺は聴き逃さなかった。
やっぱりそれが目的か……。
ニアに突っ込みを入れたところ、どうも第一王女で審問官のクリスティアさんからヘルシング伯爵領の名物を聞き出していたようだ。
そういえば……ヘルシング伯爵家のことなどは尋ねたが、領の特産品とか名物のことは尋ね忘れていた。
ある意味では、ニアのグッジョブだ……。
ニアによると、ヘルシング伯爵領はトマトの種類が豊富なことが有名なようだ。
赤いトマトはもちろんのこと、黒いトマト、紫のトマト、黄色いトマト、オレンジのトマトなど色とりどりで、大きさもかぼちゃくらいのサイズから豆くらいのサイズまでいろいろあるらしい。
もうこの情報だけで……俺が超絶に欲しかった情報だ!
トマト大好き人間の俺としては……既にワクワクが止まらない
さっきのニアへのツッコミを、心からお詫びしたい。
今の俺には、ニアに対する心からの感謝しかないのだ。
それにしても……前に来たときには、屋台にそんな色とりどりのトマトなんて売ってなかったと思うのだが……
もしかしたら、時間帯とかなのかなぁ……。
そしてエールの醸造が盛んで、エールにトマト果汁を入れた『レッドエール』というのが好まれているそうだ。
めっちゃ美味しそうなんですけど……。
元の世界にも、そんな感じのビアカクテルがあった。
もちろん俺は大好きだった!
やばい……早く飲みたい!
あと魚卵の塩漬けも有名らしい。
魚卵系が好きな俺としては、これもどんなものなのか凄く楽しみだ!
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次話の投稿は、11日の予定です。
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