表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

373/1442

364.血の博士の、企み。

 『ドワーフ』の天才少女ミネちゃんは、今も俺の『魔力刀 月華(げっか)』を手に取って、まじまじと観察している。


 俺も逆にミネちゃんが使っていたあのバズーカ砲のようなものを、見せてもらうことにした。


 改めて『波動鑑定』をすると……


 名称が『拡散魔砲』となっていて、階級は『極上級(プライム)』となっている。

 圧縮した魔力で実体弾を発射する構造のようだ。


「これもミネちゃんが作ったのかい?」


 俺は改めて尋ねてみた。

 これを発想したのだとしたら、かなりすごいと思うんだよね。


「そうなのです。でもミネが考えたわけではないのです。一族に設計図が伝わっていたのです。古の魔法武器なのです! 魔法機械文明の時代の武器なのです! 再現するのはかなり大変だったのです! 頑張ったのです!」


 おお……古の……魔法機械文明の時代の武器なのか……。

 それにしても……魔法と実体弾を組み合わせるとは……

 しかも……面攻撃できる広範囲殲滅武器だ……。

 小規模ではあるが、マップ兵器のような感じである。

 まさか……転移者とか転生者が関わっているということはないよね……。

 まぁ魔法銃はあるわけだし、敵を殲滅する効率を追求したら、拡散バズーカという発想に行き着く可能性はあるけどね。


 それにしても、吸血鬼の軍団には効果的だった。



 さて、事後処理をしっかりしないとね……


 まずは百五十三人の構成員……『下級吸血鬼 ヴァンパイア』になっている人たちは、『中級吸血鬼 ヴァンパイアナイト』の『種族固有スキル』に『血の命令』で、また『暗示』状態に陥ってしまったのかと思っていたが違った。

『波動鑑定』で確認してみると、『状態』が『命令による服従状態』となっていた。

『暗示』状態ではないが、それと同等以上の状態のようだ。

 この状態もおそらく……土魔法の『土の癒し』で解除できるとは思うが……。


 今は、魔法の巻物『不可視の牢獄』の空間断絶結界に閉じ込めている。


 一度結界を解いて、みんなで手分けして『共有スキル』にセットしてある『土の癒し』をかけた。


 『命令による服従状態』に対しても、効果があった。

 構成員たちは、正気を取り戻し、落ち着いてくれた。


 しかし……中級や上級の吸血鬼が現れるたびに、再び『暗示』状態や『服従』状態にされるのは困る……

 どうにか防ぐ方法はないものか……。


 ニア、サーヤ、ナビーにも相談してみたが、過去の文献にも記述はなかったようだし、特にいいアイデアも思い浮かばなかった。


 今後の課題にするしかないようだ……。


 あとはこのアジトを探索し、押収できるものは押収してしまおう。


 ヘルシング伯爵領内のアジトなので、本来はヘルシング伯爵に報告するのが筋だが、極秘裏に処理することにした。


 この領の評判を聞く限り、しっかり調査してくれるか怪しいし、今のところアジトを壊滅したことは誰にも知られていない。

 情報が漏れる可能性も少ないので、気づかれずに処理できると考えたのだ。


 もちろんアンナ辺境伯やユーフェミア公爵には報告するつもりでいる。

 多分、今までの感じからして二人とも俺と同じ判断をしてくれると思う。

 さすがに騒動として明るみに出たら、正式に筋を通した方がいいだろうが、明るみになっていなければ極秘裏に処理した方がいろいろと都合がいいはずだからね。



 アジトの中をゆっくり探索する。


 やはりこのアジトは、構成員の戦闘訓練を主目的としたアジトのようだ。


 構成員たちは『暗示』状態だったときの記憶もうっすら残っているようだ。

 俺の質問にも、ある程度答えられる。


 前に聞いていた通りに、吸血鬼化するには、吸血してそれと同量程度の吸血鬼の血を与えるということを三回繰り返す必要があるようだ。

 吸血鬼の血を与えることを『与血』というらしい。

 この『吸血』と『与血』のセットを『儀式』と呼ぶこともあるようで、この『儀式』が三回終了している状態の生物を『適応体』と称しているようだ。

 この『適応体』になった者が、死ぬと吸血鬼に変性し生き返るらしい。


『適応体』になっても、死ぬまでは普通の人間と変わらない状態で、吸血鬼が吸血することも引き続きできるようだ。


 ニアの話では、昔の逸話の中に、血を定期的に供給してくれる協力者として人間を確保し、その代わりに『適応体』にしてあげたというものがあるらしい。

 万が一命を落としても、吸血鬼として復活できるようにしてあげたのだろう。

 人でなくなっても……吸血鬼としてでも、生きたいと思う人にとっては、メリットがある取り引きなのかもしれない。

 一種の“ギブアンドテイク”ということだろう。


 俺としては微妙だが……お互いが納得しているのならば、いいのかもしれない。

 不特定多数が吸血鬼に吸血されるということも防げるし、血の提供者も生き返る保証を得るということだからね。

 ただし普通の人間ではなく、吸血鬼になってしまうわけだけどね……。


 どうも死んで吸血鬼になった直後は、激しい吸血衝動に駆られるらしく、人間を襲ってしまうらしい。

 そのとき、吸血の加減ができなくて、殺してしまうこともあるようだ。


 ここでは、吸血鬼として覚醒させるときには、覚醒後にすぐ吸血できるように捕虜を準備し、かつ殺してしまわないように先輩吸血鬼が監視していたらしい。

 そういうやり方で、吸血鬼を増やしていったようだ。


 もともとは構成員の訓練場所だったのは間違いないだろうが、最近はどちらかというと吸血鬼の量産工場としての側面が強かったのかもしれない。


 捕虜としてつかまっていた百三人は、この三回の『儀式』が完了し『適応体』となっていたが、しばらくは、吸血され続けていたようだ。

 吸血鬼である構成員が百五十八人もいたから、血を供給するために必要だったのだろう。


 それでも少しずつは吸血鬼を増やす必要があり、とりあえず三十人を殺して吸血鬼化させようとしていたようだ。


 それにしても……どうしてそんなに吸血鬼を増やしたかったのだろう……?


 確かに、高速移動できるスピードや、再生能力など、人間とは比べ物にならないが……

 吸血鬼には弱点も多い。

 特に下級の吸血鬼は、ドワーフ銀はもちろん日光の下にも出れない……。

 なにか違和感を感じるが……


 待てよ……


 弱点が多い吸血鬼といっても……さっきの『ヴァンパイアナイト』のように、『死人薬』を飲んで『吸血魔物』になってしまえば……吸血鬼の弱点はなくなる!

 そして『死人魔物』弱点も関係なくなる。

 人間体の頭を破壊されても、倒されることなく再生してしまうのだ!


 もしや……吸血鬼を増やしているのは……最初からあの『死人薬』を飲ませるのが前提なのか……。


 吸血鬼になってから『死人薬』を飲めば、『吸血鬼』と『死人魔物』の双方の弱点を克服できるとともに、意識を保ったまま魔物の力を手に入れることができる!

 超絶パワーアップだ!


 前に『死人魔物』がもし人としての意識を保ったまま、軍隊のように統制が取れた行動をしたら恐ろしいと考えたことがあったが、まさにそれがで実現できてしまうじゃないか……。


 そして『死人薬』は本来の意味では完成品ではないのかもしれないが、吸血鬼に対して使う分には、ほぼ目的を達成しているのではないだろうか……。


 確か……『正義の爪痕』が目指している『魔神である古の機械神の復活』には、人を魔物化させることが必要だったはずだ。

『人が魔物化したとき、導き手としての機械神が復活し、全てを浄化して、魔法機械文明を復活させ、永遠の楽園を作る』という予言があって、その成就を早めるために人を魔物化させようとしていたはずだ。


 厳密には人が魔物化しているとはいえないかもしれないが、吸血鬼化を経由して、魔物になっているともいえるのではないか……。


 もしや……『血の博士』は、初めからこれを狙っていたのか……。


 人間を直接魔物化しつつ、意識を保たせることができれば一番いいのだろうが……そこのクリアが難しくても、一旦吸血鬼にしてから魔物化して意識を保たせるということはできているわけだ……。

 最低限のことは、できているといえるかもしれない……。


 もう嫌な予感しかしない……。

 これは早く『血の博士』を探し出して、倒してしまわないと……。




読んでいただき、誠にありがとうございます。

ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。

評価していただいた方、ありがとうございます。

誤字報告いただいた方、ありがとうございました。助かりました。


次話の投稿は、19日の予定です。


もしよろしければ、下の評価欄から評価をお願いします。励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ