352.蛇魔物、ゲットだぜ!
俺は檻の中の蛇魔物を使って、『操蛇の笛』の実験をすることにした。
実際『操蛇の笛』を使って、どの程度のことができるのか試してみようと思ったのだ。
先程拘束した『道具の博士』の一番弟子の男から、取り上げた『操蛇の笛』を使ってみる。
それは、リコーダーのような縦笛だった。
だが使い方がよくわからない……。
作りを見る限り……リコーダーのように、いろんな音が出せるというわけではないようだ。
一つの音しか出ない感じだ……。
俺が元の世界で見た犬の訓練をするときに使う犬笛みたいな感じなんだろうか……。
俺はそっと吹いてみる……
あまり大きな音はしない……だがかすかに音がしている……
やはり犬笛のように、蛇魔物にだけはよく聞こえる感じなのかもしれない。
吹いてみたことによって、なんとなく使い方がわかった。
この笛を吹くと、一時的に『操蛇の矢』を埋め込まれた蛇魔物と繋がるようだ。
おそらくだが……『操蛇の矢』のエキスが体に入り込んで、この独特な周波数を受信できるようになるのではないだろうか。
そして、その状態で念を送ることで、指示を出すようだ。
だが、おそらくは「暴れろ!」とか「他の魔物を追い立てろ!」という程度の指示しか出せないのだろう。
複雑な指示は難しそうだ。
簡単な誘導程度しかできないというのは、そういうことなのだろう。
俺は「おとなしくしろ!」と念じてみる。
すると……蛇魔物の瞳がほんの一瞬だけ光り、おとなしくなった。
興奮気味だったが、すっかりおとなしくなってしまった。
単純な誘導とはいうものの、魔物をおとなしくできるなんて……すご過ぎるんじゃないだろうか……。
そう思ってナビーの方に視線を送ると……
(おそらく……マスターの念が強力だというのも影響していると思います。限界を突破したレベルとステータスのマスターは、意識しなくても、普通の人より強力と思われます)
そうなのか……
今までみんなと念話をしていたときにも、なにも問題は感じなかったが……。
限界突破のレベルとステータスから考えれば、普通の人よりも念が強くても不思議ではないが……。
だが念が強いといっても、多少強い程度だろう。
そうでなければ、誰とでも念話ができそうな気がするしね。
まぁ本気で強く念じたこと自体がないから、もしかしたら全力で念じたら、結構強い念が出るかもしれないけどね……。
今度試してみたい気もするが……ただ強い念なんて……なにで試せばいいのか思い浮かばない……。
待てよ……この『操縦の笛』を使って念を送ることで、おとなしくさせられるのなら……
もしかして……この『操蛇の笛』を使えば…… テイムできないだろうか……。
通常は浄化されていない魔物は、テイムすることはできない。
ただ今のこの蛇魔物の状態は、浄化はされていないが、『操蛇の矢』に使われていた『蛇使い』のギュリちゃんの血と『操蛇の笛』の力によって、それに近い状態になっているのではないだろうか。
少なくても通常の状態とは違う……特別な状態であることは間違いない。
なんか……テイムできそうな気がするけど……
ただ浄化されていない魔物をテイムできたとしたら……その魔物はどうなるのだろう?
「ナビー、どう思う?」
俺の考えていることはナビーに筒抜けなので、そのまま尋ねてみた。
「できる可能性は十分あると思います。ただ浄化されていない魔物を『操蛇の矢』と『操蛇の笛』の力で無理矢理テイムするかたちになるので、テイムされた後の魔物がどういう状態になるかは不明です。もしかしたら、浄化された魔物と同じ『浄魔』状態になるかもしれませんが……」
なるほど……
まぁせっかくの機会だから、試してみよう。
俺は『操蛇の笛』を吹いて、強く念じる……
(俺の仲間になれ!)
まず最初は、念で命じてみた。
いきなり『テイム』スキルを使ってもよかったのだが、まずは命じてみて、駄目なら『テイム』スキルを使おうと思ったのだ。
蛇魔物二体は、先ほどと同じように一瞬、目が光った!
だが……その後二体ともガタガタ震えだした。
そしてもう一度、目が光った!
だがその後は、同じようにガタガタ震えている。
やはり無理なのか……
ダメ元でもう一度強く念じてみる……
(仲間になれ!)
これでダメなら、次は『テイム』スキルを発動してみよう。
また蛇魔物二体の目が光った!
だが今度は目が光った途端に、体全体が一瞬発光した!
そして……二体の蛇魔物は意識を失って倒れてしまった……。
死んではいないようだが……
俺は二体に軽く触れてみる……
おお、目覚めたようだ。
(強き王よ、あなた様にお仕えいたします)
(主様、今……目覚めました。ありがとうございます)
二体から念話が届いた。
どうやら仲間にできたようだ!
改めて『波動鑑定』すると……この二体は『浄魔』になっていた。
『種族名』も変わっていた。
事前に『波動鑑定』した時は『イビル・メガスネーク』だったが、今は『マナ・メガスネーク』に変わっている。
二体ともレベル30で、それぞれ三十メートルくらいの全長がある。
一体はピンク色、もう一体は緑色の蛇の『浄魔』だ。
元々の色は、くすんだような色だったが、今は綺麗な発色になっている。
なぜ仲間にできたのか……その原理はよくわからない。
『蛇使い』という特別なスキルを持ったギュリちゃんの血液から作られた『操蛇の矢』と、それに念を送れる『操蛇の』笛があったからこそ、できたことであるのは間違いない。
特別なことだ……。
それにしても、こんなにうまくいくと思わなかった。
そして仲間になった蛇魔物が『浄魔』に変わっていたのも驚きだ。
別に“浄化の光”もなにも出ていないし……浄化されたわけではないと思うのだが……
仲間になったことにより、魔物の状態とは違い、元の生物だったときの冷静な精神状態に近づいたのかもしれない。
それで浄化されたのと類似の状態になり、『浄魔』になったのかもしれない。
通常は、浄化されることによって、冷静な精神状態を取り戻し、仲間にすることができるようになる。
今回は反対に、『操蛇の矢』と『操蛇の笛』と念の力で無理矢理仲間にしたことによって、冷静な精神状態になり、浄化されたのと同じ状態になったのかもしれない……。
もっとも、あくまで予想であって真実はわからない……今はこれ以上考えても意味がないだろう。
俺の仲間になったこの二体が、このままここにいるのはまずい……。
シャリアさんたちが来る前に移動してもらわないと……。
俺は檻を開け、この二体に出口を探し、地上に出るように伝えた。
そして近くの山に待機してもらっているニアに念話をして、事情を説明した。
サーヤの転移で、一旦大森林に連れて帰るのがいいだろう。
それにしても……思わぬ結果だった。
棚からぼたもちというか……
まさか『操蛇の矢』と『操蛇の笛』のおかげで、通常は仲間にできない魔物が仲間にできるとは思わなかった。
この『操蛇の笛』を持っていれば、今後もし『正義の爪痕』が蛇魔物を使って襲ってきたとしても、俺が『操蛇の笛』を吹くことによって、命令を上書きして仲間にすることができるかもしれない。
これは、かなりすごいことではないだろうか。
敵の戦力を削り、そのままこちらの戦力にするわけだからね。
もっとも、『操蛇の矢』なんて使われない方がいいのだが……
『蛇使い』の少女ギュリちゃんは助け出したので、新たに『操蛇の矢』が作られることはないだろうが……今まで何本作られたのか分からない。
どれだけ残っているのかもわからない……。
少ないことを祈るばかりだ。
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