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347.薬の、秘密。

 引き続き、第一王女で審問官のクリスティアさんからの報告が続いている。


 次の報告は、『薬の博士』の作っている各種の薬についてだ。


 我々が『死人薬』と呼んでいる薬についての製造の仕組みが、おぼろげながらわかったようだ。


 驚いたことに、この『死人薬』製造の技術の核心部分は、四人目の博士である『血の博士』が担っているらしい。


 製造の仕組みを簡単にいうと……


 まず魔物から血と生命エネルギーを抽出して凝縮し固定化したものを作り出すらしい。

 血も生命エネルギーも元を正せば、万物の素である霊素ということになるはずだが、その魔物の血や生命エネルギーには、魔物としての特徴などの情報が固定化されているのだそうだ。

 生命エネルギーが、漠然としていてわかりにくいが……

 多分……体を巡っている気のことなのではないだろうか……。

 元の世界でも『気功』というものがあったし、俺自身も左右の手をそっと近づけると、気の感覚を感じ取ることぐらいはできた。

 生命エネルギーとは、おそらく……それに近いようなものなのだろう。


 この魔物の血と生命エネルギーを抽出、凝縮、固定化したものは、『魔物錬成物』と呼ばれていたらしく、『血の博士』から提供されていたようだ。

 したがって『薬の博士』は、詳しい製法については把握していないらしい。


 なんとなくだが……『血の博士』は上級吸血鬼『ヴァンパイアロード』らしいので、吸血鬼としての能力を使って作っているではないだろうか。

 血を操ったりできそうな感じだし…… 。


『薬の博士』は、提供された『魔物錬成物』に人間の若い女性の血を混ぜて、更に圧縮して固定化するという工程を担当していたようだ。

 いわば半製品を仕入れて、完成品に加工するといったところだろう。


 人間の血を混ぜて完成品にするのは、薬を使用したときに人間の体と融合させるためらしい。

 なぜ若い女性なのかということは、厳密にはわからないようだ。

 実験の結果、一番親和性が高く完成度も高くなるからということらしい。


 こうして作ったのが、『死人薬』の丸薬ということのようだ。


 それをさらに改良し、より凝縮して小型化したものをカプセルにしたのが、改良型の『死人薬』らしい。

 カプセルの素材には、一種の磁気信号のようなものを受信できる素材を練り込んであるようだ。

 この薬を皮下組織に埋め込んで、信号送信装置を起動させると、カプセルが振動して破壊されるという仕組みのようだ。


 この改良薬は、『薬の博士』が主導して作ったらしい。

 やはり『薬の博士』自体も、恐ろしい技術力を持っているのは間違いないようだ。


 そしてクリスティアさんの引き出した情報によれば、もっと恐ろしい改良薬の製作が進行していたようだ。


 彼らも、『死人薬』を使って構成員が死んで魔物になるということ自体を、よしとしていたわけではないようだ。

 魔物に変わることはやむを得ないとしても、意識を残したままにできないかという研究を進めていたらしい。


 薬を使って、死んで勝手に暴れる魔物ができるのではなく、意識を保ったままにして戦闘軍団を作ることを考えていたようだ。


 まったく恐ろしい話だ……。

 そして試作薬を作る段階にまで進んでいたらしい。


 この話が本当なら……かなりまずい……。

『薬の博士』を捕まえたから、『薬の博士』の手で完成することはないだろうが……話を聞く限り……『血の博士』なら十分完成させてしまいそうだ。


 早く『血の博士』を見つけ出して、捕まえてしまわないと……。



『認識阻害薬』については、完全に『血の博士』が作っていたようだ。

 やはり、押収したドーナツ型のトローチのような見た目の薬が『認識阻害薬』だったようだ。

 色が白色、水色、茶色、黄色、オレンジ色の五色あったが、それは五種類の人間の偽装情報なのだそうだ。


 つまり各個人に合わせた偽装をするということではないようだ。

 五種類の基本パターンの中から一つを選んで、薬を飲んで偽装情報を取り込むということらしい。


 さすがに、個人に合わせた薬までは作れていないようだ。

 ただ考えようによっては……この種類を増やせば、それだけバリエーションに富んだ偽装情報を纏えるということになるのではないだろうか……。

 まぁ作り方が分からないから、簡単に種類を増やせるのかどうかはわからないが……。


『薬の博士』の予想では、魔物の血と生命エネルギーを凝縮する技術の応用で、特定の人間の血などを使って情報を凝縮しているのではないかとのことだ。

 なんらかの処置をして、薬の元になった人間になってしまうのではなく、その情報だけを纏う状態にしているのだろうか……。


 考えてもよくわからないが、すごい技術であることは間違いないようだ。


 そしておそらく……死んだ『道具の博士』が作っていた『操蛇の矢』の製造技術も『血の博士』からもたらされたものだろう。

『蛇使い』の少女ギュリちゃんから血をとっていたし、それを凝縮させたようなものを矢尻に使っていたからね。


 この技術を発展させたら、『固有スキル』や『種族固有スキル』なども抽出して、使えるようなものが作れてしまうかもしれない……。

 蛇魔物を“ある程度”しか誘導できないという『操蛇の矢』の性能からすれば、まだそこまでの技術にはなっていないようだが……危険な技術だ。


 俺の固有スキルの『絆』スキルで、『通常スキル』は『絆』メンバーには『共有スキル』として共有しているわけだが、それと似たようなことが薬や道具でできて、悪の組織に使われたら……大変なことになってしまう……。


 やはり早く『正義の爪痕』を潰してしまわないと、まずい……。



 他にも洗脳のときに使う『洗脳薬』と呼ばれている薬があったようだ。


 これも『血の博士』によって、提供されていたらしい。


 この薬を飲まされると朦朧とした状態になるらしく、そのときに繰り返し暗示をかけて特定の思考を植え付けるのだそうだ。

 洗脳状態になって、本人は無自覚のまま、組織の目的に沿った考えや行動をとるようになってしまうらしい。


 通常は数回の使用で、完全に暗示が効いて洗脳状態にできてしまうらしいので、それ以降は使われないようだ。


 ただそれを長期にわたって繰り返すことによって、人格そのものも書き換えることができてしまうらしい。

 死んだ『死霊使い』のジョニーさんが、人格を書き換えられてしまったのは、これをやられたのだろう。


 これまた恐ろしい薬だ……。


 また『薬の博士』は、煙を発生するタイプの薬というか……装置も作っていたようだ。

 装置といっても小型で、対象に投げると煙を発生する構造のようだ。

 まるで元の世界の特殊部隊などが、敵を鎮圧するときに使う催涙弾のような感じだ。

 装置は、眠り薬タイプと麻痺薬タイプの二種類が開発されたようだ。

 俺や仲間たちのように『状態異常耐性』がなければ、すぐに意識を失ってしまう恐ろしい装置だ。

 装置の現物は、押収したものの中にあったが、既にかなりの数が他のアジトに運ばれてしまっていたようだ。



 これらの各種薬に関する情報には、アンナ辺境伯をはじめみんな驚愕していた。


 第一王女でもあるクリスティアさんは、すぐに国王にも報告を入れると言っていた。

 国王から各領主に情報を流してもらい、注意を喚起するためだ。


 そしてクリスティアさんは、今後更に詳しい情報を聞き出して、これらの薬に対する対策や、対抗薬が作れないかなどを王立研究所の上級研究員であるドロシーちゃんと検討すると言ってくれた。


 俺も、もちろんできることは協力するつもりだ。

 もっとも対策の検討は、クリスティアさんやドロシーちゃんに任せれば大丈夫だろう。


 俺はなによりもまず『血の博士』を見つけ出して、捕まえることを優先しようと思う。



読んでいただき、誠にありがとうございます。

ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。

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次話の投稿は、2日の予定です。


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