326.薬の博士の、狂気。
体の破裂する炸裂音とともに、麻痺させていた工作員たちが次々に 『死人魔物』に変わっていく……
サメの『死人魔物』が多いようだ……。
『ナンネの街』の襲撃事件のときと同じだ……。
事前に仕込んでいた『死人薬』を、強制的に発動させたようだ。
『武器の博士』は、拘束したから大丈夫と思ったが……
やはり右の部屋にいるもう一人も、幹部のようだ。
強制的に発動させる道具を持っていたのだろう。
そう考えると、今回は『武器の博士』は道具を持っていなかったのではないだろうか。
もし持っていたら、時間稼ぎのためにも使ったような気がするが……。
まぁ俺に対する恐怖で、発動する余裕がなかっただけかもしれないが。
ただそう考えると、残る一人は『武器の博士』と同等もしくはそれ以上の力を持った幹部かもしれない……。
もしかしたらこのアジトは、『武器の博士』のアジトではなく他の幹部のアジトなのかもしれない。
『武器の博士』に従わされていた『土使い』のエリンさんも、『武器の博士』がこれほど大掛かりなアジトを持っていることは知らなかったようだし……。
むしろ他の幹部のアジトに、『武器の博士』が身を寄せていると考える方が自然かもしれない。
まさか……『薬の博士』のアジトなのか……?
まぁ今はそんなことを考えてもしょうがないか……。
(ナビー、状況はわかるかい?)
(はい。継続発動している『波動検知』の情報からすれば、おそらく仲間たちが拘束した他の場所の構造員たちも全て『死人魔物』に変わったようです)
なに……この数が全て『死人魔物』に……
二百人くらいいたはずだ……。
すべてを捨て駒に使ったというのか……
虫酸が走る……。
(ナビー、レベル50を超えている『死人魔物』はいるかい?)
(はい。五十体ほどおります。そのうち四十体は、この場所にいます)
ということは、仲間たちのところにいるのは十体程度……その数なら大丈夫か……。
みんな迷宮合宿でレベルも戦闘技術も向上しているから……やられるようなことはないと思うが……。
(はい。おそらく今のメンバーの力なら、まず負けることはないと思います。ただ……数が多いのが少し気になりますが……。なるべく早く合流するように誘導いたします)
おお……さすがナビーだ。
(じゃあ頼むよナビー、なにか異常を感じたら、すぐに教えて!)
(かしこまりました)
俺は、四十体の『死人魔物』をまず倒してしまうことにした。
そして『波動収納』から、『魔力刀 月華』を取り出した。
俺はすぐに鞘から抜いて、魔力を流す……
というよりも……この刀は自動で使用者の魔力を吸い上げるのだ。
刀身は相変わらず綺麗な白銀で、魔力が十分に通ると更に輝きを増し鏡面のような感じになる。
光を反射する水面のような煌めきだ。
妖艶な雰囲気もありつつ、澄んだ淀みのない波動に満ちている不思議な刀なのだ……。
俺は両手で柄を持ち……切っ先を下にして構える。
「 無明を晴らせ! 下弦の太刀 月華無明斬り!」
発動真言を唱えると、刀身が煌めきを増し、強烈な光を発した!
同時に下から斬りあげる斬撃が、前方向の『死人魔物』全てを両断した!
この技は、直接的な斬撃だけでなく、魔力による衝撃波の刃を同時に発することもできるのだ。
これにより、射線上にいる奥の敵をも同時に両断してしまったのだ。
残りの『死人魔物』は、刀の鍔の下のリング状の銃パーツから魔力弾を乱射して掃討した。
俺の魔力を十分に吸い上げているからか……一発の破壊力が凄い。
そして魔力弾なので、俺の膨大な魔力すればいくらでも連射できるのだ。
これで残るは一人……
俺は個室の扉を斬りつけ破壊した。
中には……白髪白髭の鷲鼻の老人がいた。
白衣を着ている。
そして目がギロリと異様な光を放っている。
細身でかなりの高身長だ。
「貴様がグリム=シンオベロンか……ことごとく我々の邪魔をしよって……まさか転移を封じる結界まで張れるとは……」
男はやけに落ち着いた口調で、そう言った。
「もう観念するんだな。どこにも逃げることはできないぞ! 変な動きをしたら……両腕を切り落とす!」
俺は男を見据え、刀を構えた。
「ハハハハハハッ、わかっておるわい。こんなかたちで奇襲されたのでは勝ち目はないのぉ……。なぜここがわかった?」
男は長いあご髭を指で挟みながらニヤついている……。
だが……目は笑っていない。
「はっきり言っちゃえば偶然だよ。ところであなたは『薬の博士』かな?」
「なに?! ぐ、偶然だと……ハハハハハハ! 確かに……偶然でなければ見つけられるはずはないか……まぁいいだろう。教えてやろう……確かに私が『薬の博士』だ!」
やはり『薬の博士』だったのか……
俺は密かに『波動鑑定』をした。
レベルは49……『武器の博士』と違って戦闘するようには見えないが、その割にはかなりの高レベルだ。
「お前があの『死人薬』を作ったのか? ここの『死人魔物』もお前が……なぜ仲間を『死人魔物』にした!」
「『死人薬』……ほほう……面白い! そういう名前をつけてくれたのか……。いいねえ……採用しよう! 儂に仲間などおらぬ。あやつらは、目的達成のための手駒に過ぎない。奴らとて、とうに我々に命を捧げておるわ! まぁ中には洗脳されている奴もいたがなぁ……」
『薬の博士』は、愉快そうに言い放った。
コノヤロウ……
「おっと……まだ話は終わってない……そのまま聞いた方がいいよ!」
拘束しようとする俺の動きを察知したかのように、『薬の博士』が手を前に出しながらそう言った。
どういうことだ……
それにこいつのこの余裕は……
「察しているかもしれないが、このアジトは私のアジトなんだよ。君が『死人薬』と呼んだ薬の生産をしているのだ。フフフ……感のいい君ならわかるだろう……材料がいっぱいあるんだよ! 材料……女たちが何人いると思うんだ、この施設に……。まぁ既に君の仲間が解放しているかもしれないが……。それでも関係ないのだよ! 君の言う『死人薬』……まぁ正確には……改良版だが……あらかじめ仕込んでおくことができる。特別な信号で、薬が溶け出すんだ。さて……どれだけの女たちが死ぬかな……。さすがに全員に仕込むことはできていないが、かなりの人数に仕込んでる。為政者なら、必要な犠牲として見殺しにするかもしれないが……“殺さずの伝説”の君に、それができるかな……?」
『薬の博士』は、目を爛々と輝かせ嗜虐の笑みを浮かべた。
コノヤロウ……
なんてことを……
完全にイカレてる……
女性たちを拐って、薬を作る道具として血を抜くだけでなく、『死人薬』まで仕込んでいるというのか……
「おうっと、まだ話は終わってないよ。私を殺したら……解除する方法がわからなくなるし……もしかしたらそれを契機に発動するかもしれないねぇ……クックック。拘束して意識を奪ってもいいが……あまりお勧めしないな……」
『薬の博士』は、余裕の笑みを浮かべた。
コノヤロウ……ほんとにムカつく!
「なにが望みだ!」
「望み……そうだねえ……この結界を解いてもらおうか。私には、まだやりたいことがあるんだ。あと……本当はどうでもいいんだが……『武器の博士』も解放してくれるかな?」
『薬の博士』は、茶化すような笑みを浮かべた。
本当にムカつく野郎だ……こいつ……
「薬を解除する保証がどこにあるんだ?」
「ハハハ、私が転移で移動すれば、もう発動の信号が届かない。それで十分だろ!」
「馬鹿な……薬は体内にあるんじゃないのか? どうやったら排除できるんだ?」
「ハハハ……それは企業秘密だよ!」
『薬の博士』は、蔑むような表情で人差し指を立て、左右に振った。
とことんムカつく野郎だ……
そして話にならない……
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