321.訓練用の、魔法道具。
五日間にわたる迷宮合宿も無事終了し、仲間たちも大幅にレベルアップした。
ステータスも確認し終えたことだし、いよいよ迷宮を旅立つことにした。
俺は最後に、ミノショウさんやミノタウロスの族長に改めてお礼を言った。
今後も定期的に仲間たちが訓練にくるので、引き続き助言してもらえるようにお願いした。
大森林や霊域の仲間たちは、随時訪れることになっている。
そして、トルコーネさんの娘で『虫使い』ロネちゃんを始めとした『使い人』の子たちも、いずれは合宿に連れてきたいと思っている。
ただ、ミノショウさんのアドバイスを受けて、なるべくじっくり育成することにした。
レベル30まではパワーレベリングしてもいいと言っていたが、じっくりレベルを上げる方がいいだろう。
レベル30までのレベル上げも、この迷宮を使わせてもらってもいいかもしれない。
この迷宮を利用させてもらうとすれば、地下十一階層から二十階層が適度な範囲なので、人族の冒険者などがいないときを見計らって、合宿すればいいだろう。
ミノショウさんにお願いすれば、戦闘のアドバイスはもちろん、『使い人』の戦いを見たことがあると言っていたので、その点でもアドバイスをもらえる可能性が高いからね。
最後にミノショウさんが、特別プレゼントと言って面白いアイテムをくれた。
『足枷のアンクレット』という古の魔法道具のようだ。
なんと階級は『極上級』だ。
この『足枷のアンクレット』を足にはめて、魔力を通すことで自分のステータスを引き下げることができるようだ。
一割、二割、三割、四割、五割、六割、七割、八割、九割という段階で、ステータスを引き下げるられるらしい。
最初は、この魔法道具の存在意義がわからなかった。
ステータスを上げるならともかく、下げることになんの意味があるのか……
……と思ったのだが、ミノショウさんの説明によると……
レベルが高い者が、レベルが低い者を相手に訓練をするときに使うと、対等で効果的な訓練ができるということのようだ。
レベルが大きく違うと、技能が上でもレベルが低い者は力負けしてしまう。
そういうことがなくなり、レベルが低い者をも先生にしたり、訓練相手にしたりすることができるようになるということらしい。
それですぐに思いついたのは、リリイとチャッピーのことだ。
リリイとチャッピーには、武術やいろいろなことの基礎をしっかり教えてあげたいと思って、多彩な吟遊詩人のアグネスさんやタマルさんに先生になってもらっている。
だが今回のレベル上げで、完全にリリイたちのほうがレベルが上になってしまった。
見かけのステータスやレベルなどは、俺の『波動』スキルを使った『ステータス偽装』で誤魔化せるが、実際にステータスを下げているわけではないのだ。
リリイたちが本気を出して訓練するのは、厳しくなってしまったと思っていたところだ。
でもこのアイテムを使えば、レベル30程度のステータスに落とすことができるから今まで通り、本気の訓練ができることになる。
これはかなりありがたいし、凄いアイテムだ。
実戦では使えないが、訓練用のアイテムとしては最高だ!
勝負感をつけたり技能を磨くだけなら、無理にレベルが高い人を探したり、レベルが高い魔物を見つけなくても大丈夫ということになる。
そう気づいた俺は、大喜びでミノショウさんにお礼を言い、握手をした。
もっとも九割までレベルを下げても、俺の場合レベル100くらいあるから、俺にとってはあまり意味がないけどね……。
俺に礼を言われたミノショウさんは、嬉しかったのか少し頬を赤らめている。
「もう……縛りプレイが好きなんて……うふ……私を縛ってもいいのよ……うふん」
そしてなぜか……ミノショウさんは訳が分からないことを口走りながら、アピールするように豊満な胸を大きく揺らした。
俺は見る気は全くなかったのだが……男の性で……視線が向いてしまった……。
ほんの一瞬だけだった……神に誓ってほんの一瞬だったのに……やっぱり見逃してはくれなかったようだ……。
次の瞬間には、ニアの『頭ポカポカ』攻撃とサーヤとミルキーの『お尻ツネツネ』攻撃が俺に炸裂していた……トホホ……。
本当にこの連携攻撃……神業すぎるんですけど……。
それはともかく、いいアイテムをもらったので早速『波動複写』でコピーして、リリイとチャッピーに装備させてあげようと思う。
これでステータスを落とせば、全力の訓練ができるからね。
ちなみにこのアイテムの優れたところは、普段生活する上で能力を落としていたとしても、敵と遭遇して元のステータスに戻したいときは、心で念じれば即時に制限が解除され、元に戻るということだ。
これなら突然敵に襲われても、能力を出せなくて危ない目にあうということもない。
そしてアイテム自体が薄い紙のようなアンクレットなので、普段からつけていても足が痛くなったり邪魔になったりしないという本当に優れた逸品なのだ。
俺たちは改めてミノショウさんや『ミノタウロス』族の族長やみんなに礼を言って、『ミノタウロスの小迷宮』を後にした。
◇
俺たちはサーヤの転移で、『イシード市』の近くにある転移用のログハウスの前にやってきた。
対外的にはこの五日間は、『イシード市』の近くにあるかもしれない遺跡の存在を調査し、『正義の爪痕』のアジトがないか探していることになっていたのだ。
そんなこともあって、実際に『イシード市』を訪れて怪しい場所を探すことにしたのだ。
前からこの近辺を巡回しているスライムたちに依頼しているが、未だに過去の遺跡らしきものや怪しい場所の情報は得られていないのだ。
スライムたちがここまで探しても見つけられないということは、おそらく遺跡やアジトはない可能性が高い。
ユーフェミア公爵が王城にある過去の資料を洗い出し、拾ってきてくれた情報だが、もともと曖昧な情報なのだ。可能性があるという程度の情報だからね。
『イシード市』の中に入ると、当然のことながら人の気配はない。
移民して誰も残っていないので、ゴーストタウンになってるのだ。
俺は『波動検知』で人の気配を探してみた。
………………………………
……………やはり近くに人の気配はないようだ。
もしあったら、スライムたちが見つけているはずだしね。
ただスライムたちも周辺領域の巡回がほとんどで、街の中の巡回はあまりしていないから察知できていない可能性はあるけどね。
特に最近は俺の依頼で怪しい場所の捜索をしてるから、街内はあまり巡回していないはずだ。
俺は街の中央通りを進み、そのまま大河に面した大きな船着場……というよりは港までやってきた。
この川は大河というだけあって、かなり大きな川だ。
向こう岸が全く見えない。
名前は『マナゾン大河』というらしい。
河の流れは、すごく緩やかだ。
ちょうどいい機会なので、俺は前に作った飛竜船を『波動収納』から取り出し大河に浮かべた。
飛竜を使った飛行はテストしたが、水に浮かべての運行はまだやっていなかったのだ。
水の上での試験運航をしようと思う。
水上での運航用に作ってあった帆柱を立て、帆をセットする。
風はあまり吹いてないが、緩やかな運行でちょうどいいだろう。
スピードを出したいときは、リンが持っている魔法の杖で風を起こしてもらえばいいと思っている。
今回ここにきているのは俺とニア、リリイ、チャッピー、『エンペラースライム』のリン、『ミミックデラックス』シチミ、『スピリット・オウル』のフウ、『竜馬』のオリョウ、『ワンダートレント』のレントン、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『スピリット・タートル』のタトルのみだ。
『アメージングシルキー』のサーヤ、『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナ、兎の亜人のミルキー、アッキー、ユッキー、ワッキー、『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウの『マグネの街』居残り組というか商会の主力メンバー組は、仕事をしたいということで別行動になっている。
サーヤは俺たちを転移で連れてきてくれた後、すぐに仕事に戻ってしまったのだ。
帆に緩やかな風を受けて船がゆっくりと進み出す。
水面がキラキラ光って非常に美しい。
大きな川なのに、澄んでいてとても綺麗なのだ。
所々で魚も跳ねているし、水産資源も豊富そうだ。
そんな時だ……
遠くの方からなにかが……水しぶきとバシャバシャという音を立てながら、すごい勢いで近づいてくる。
あれはなんだ……?
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