310.やっかいな、魔物。
『世界樹』と『命の樹』というすごい情報が飛び出して、話が少し脱線してしまったが……ミノショウさんは、続けて他のメンバーにもアドバイスをしてくれた。
「トーラちゃんもいい攻撃だったわね。あの『イビル・ロブスター』の一番硬い部分に傷をつけたんだから。あのハサミ爪は、攻撃のメイン武器でもあるし一番硬いのよ。『種族固有スキル』にさらに体術を加えて強化したのよね? 発想自体はすごくいいと思うわ。あとは熟練度ね。あの回転した状態で、軌道を変えたりできたら、回避不能の強力な攻撃になると思うのよね。『立体機動』スキルも組み合わせるといいんじゃないかしら。『共有スキル』にあるわよね。あとは『空中殺法』スキルがあるといいんだけどね」
ミノショウさんが、トーラの工夫を評価してくれたようだ。
『空中殺法』というスキルは、確か吟遊詩人チームのタマルさんが持っていたが……彼女は『心の仲間』メンバーにはなっていないので、『共有スキル』にはセットできないんだよね。
誰か身に付けないかなぁ……。
「わかった! 私がんばる! 主様やみんなのために強くなる!」
トーラが力強くそう言った。
「タトルちゃんの『種族固有スキル』を使ったドーム状の防御障壁は、かなり強力で使い勝手もいいわね。やはりあの素晴らしい防御障壁を張ってもらうのが一番いいとは思うけど……他になにもできなくなるのがもったいないよね。まぁあの特殊な防御障壁を維持するってだけで、かなりの大仕事なんだろうけどね……。あれを維持しながら、なにかできたら更に戦力アップになるんだけど……。魔法の同時発動のようなイメージで、魔法道具かなにかが使えるといいんだけど……」
ミノショウさんは、タトルにそんな指摘をしてくれた。
確かに俺もそう思っていた。
あの強力な防御障壁を張っている間、タトルは他のことができなくなるから、もったいないと思っていたんだよね。
あの『種族固有スキル』は、防御に専念するスキルなのだろう。亀が手足や首を甲羅の中に引っ込めて、防御に専念している状態と同じなのかもしれない。
ミノショウさんが言う通り、特殊な防御障壁が張れているだけで充分すぎる貢献だから、そのままでもいいと思っていたのだが……
なにか考えてやった方が、いいかもしれない。
「私もそう感じておりました! 皆を守ることが第一とはいえ、少し歯がゆかったのですわ。マスター、なにか私に使えそうな魔法道具はありませんか?」
タトルも同じように考えていたようだ。
タトルも『共有スキル』にセットされている『風魔法』や『雷魔法』が使えるのだが、どうも『種族固有スキル』の『亀城』を展開しているときは、同時発動が難しいようだ。
やろうと思うと、維持する力が弱まって防御障壁が弱くなってしまうらしい。
それでもタトルは、継続して練習して使えるようになりたいと言っていたが、やはりもっと使いやすい魔法道具のようなものがあった方がいいと思う。
同じように魔力を消費するとしても、スキルを二つ同時に発動するよりは魔法道具の方がやりやすいようなんだよね。
なにか……タトルに使える魔法道具があるといいんだが……。
『魔法の杖』なら口でくわえて使うこともできるだろうが……微妙だな……集中力が削がれそうだし……。
集中力が削がれない負担の少ないもの……そして防御障壁を張りながらの行動だから、遠距離攻撃武器がいいとは思うが……
今のところ……タトルに適したものは思いつかない。
武器を作るスキルはあるけど、魔法道具を作るスキルは持っていないんだよね……。
ただ『魔法の巻物』の基礎的なものは、作製できるようになったから『魔法の巻物』を応用した装置を作ればいいかもしれない……。
オリジナルのものを作る方向で考えてみよう。
「今すぐ使えそうな魔法道具は無いけど、なにか作れないか考えてみるよ」
「わかりました。ぜひお願いいたしますわ。私も魔法スキルを同時発動できるように、精進いたしますわ!」
タトルがそう言って、目を輝かせた。
「大体の感じはわかったから、今度は最初に決めたポジションに沿うかたちでやってみましょう!」
ミノショウさんのその言葉に従い、リリイたち『仲良しチーム』は次の戦闘に突入した。
しばらくして……何回かの戦闘を終えたリリイたち『仲良しチーム』は、チームとしての連携がよくなりいい状態になってきた。
あとは実戦練習あるのみだろう。
ということで、次のサーヤたち『お仕事頑張ってるチーム』に交代することにした。
壁役の『タンク』に適したメンバーがいない感じだが、サーヤが立候補してくれた。
『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナが、『固有スキル』の『人馬車一体』を使って『馬車タウロス』状態になれば、大きくなるし十分『タンク』もできると思うが、常に『固有スキル』を発動しているのは大変だから見送ったのだろう。
あの技は、『魔力』もそうだが『スタミナ力』などの消費も激しいようだからね。
ナーナは、得意の槍を活かして『アタッカー』を担当するようだ。
『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウは、『斥候』と『サブアタッカー』のポジションを担当する。
ミルキーは、『魔法の弓』を活かして『ロングアタッカー』を担当するようだ。
アッキー、ユッキー、ワッキーは、『アタッカー』と『ロングアタッカー』を担当するようだ。
このチームは、『魔法使い』ポジションがいない変則的なチームになる。
アッキーたち三人は、敵の特性に応じて『アタッカー』と『ロングアタッカー』を使い分けるようだ。
チームとしてのバランスは悪いかもしれないが、このチームが意外に一番面白いかもしれない。
今回も最初の一戦は、一旦決めたポジションに関係なく自由に戦うという方式になった。
現れた魔物は……
うお……ゴキブリ?
『波動鑑定』すると……
『種族名』が『イビル・コックローチ』となっている……やっぱりゴキブリか……
レベルが53だ……レベル53のゴキブリってなによ!?
『種族固有スキル』で『恐怖の飛行』というものを持っている……。
想像しただけで……ゾッとするわ……。
大きさがやばい……高さは二メートルくらいで、全長が五、六メートルもある。
ガサガサ動いていて……気持ち悪い……。
俺苦手だわ……。
『タンク』のサーヤが前面に出る。
「来なさい! このゴキブリ! 踏み潰してあげます!」
おお……サーヤが『イビル・コックローチ』を挑発している。
頑張って『挑発』スキルを身に付けてくれるといいんだが……。
それにしてもサーヤって……意外とドS?
サーヤは、細長い五角形の盾を左右に一つずつ装備している。
野球のホームベースを細長く伸ばしたような形で、五角形の尖った部分が下にきている。
これは、『ミミック』のシチミの『宝物召喚』で出た『魔法の盾』なのだ。
ほぼ毎日やっている『宝物召喚』で、たまに出る優れた逸品の一つなのだ。
今まで『宝物召喚』で出た品の中でも、かなり上位の逸品なのである。
『階級』が『極上級』で、『魔盾 双極の盾』という『名称』だ。
今は左右に一つずつ装備してる状態だが、一つに合体させて使うこともできる。
しかも、横にも縦にも自由に合体させられるのだ。
魔力の調整で、盾サイズを大きくすることもできる。
今回サーヤが『タンク』をやるということになったので、使ってもらうことにしたのだ。
『イビル・コックローチ』は高さよりも横幅があるので、サーヤは二枚の盾を五角形の上の部分同士で合体させ、横長の一枚の盾を作りだした。
左右にホームベースの尖った部分がくる六角形の横長の盾になったのだ。
それにサーヤは魔力を通して大きくし、突進してくる『イビル・コックローチ』を正面から受け止める!
バゴォーンッ————
————ズズズズズッ
勢いを増した『イビル・コックローチ』の突撃を受け止めたサーヤだが、その勢いに押されそのまま後方に押し下げられた。
サーヤはなんとか踏ん張って踏みとどまったが、かなり後方に押し下げられてしまった。
サーヤの足でできた二本のレールのような線が、地面に刻まれている。
「私がやる!」
ビュイーンッ————
ミルキーの叫び声とともに、動きが止まった『イビル・コックローチ』に、魔力で作られた矢が連続で襲いかかる!
——ビュルンッ、ビュルンッ、ビュルンッ
矢は見事に命中しているが……『イビル・コックローチ』の体表面の油で滑るように弾かれてしまった。
昆虫系の魔物の硬い外殻に、油がコーティングされている状態でかなり厄介だ。
「はい!」
今度はナーナが『魔法の銃剣』から、魔力弾を発射した!
——ベルンッ
やはり体表面の油で滑るように弾かれた。
しかしナーナは、気にすることなく『イビル・コックローチ』に向けて突進する!
先程の銃撃は、牽制だったようだ。
素早く近づいたナーナは、得意の槍さばきで『イビル・コックローチ』の体を突き刺さした!
さすがナーナ! 滑らないように、下から突き上げたのだ。
だがダメージは小さく、すぐに『イビル・コックローチ』に弾き飛ばされてしまった。
もっともナーナもすぐに立ち上がったので、ダメージはほとんどないようだ。
それにしても……ゴキブリは……異世界でもまったく以て厄介な存在だ……。
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