278.必勝の、マンツーマンディフェンス。
「なにを……まさか……」
スキンヘッドの男は、そう言って城壁から街の中を見下ろした。
「な、なに…………一体なんだ……なんだあの化け物たちは!? 」
スキンヘッドは、さすがに動揺したようで、呆然としている。
それにしても……化け物とは失礼な!
そんな時だ、俺に念話が入った。
「あるじ殿、街の中の制圧が完了いたしました。構成員は全て確保、住民たちはもう大丈夫です」
念話をくれたのは、『アラクネ』のケニーだ。
ケニー率いる大森林の遊撃部隊を中心とした仲間たちが、街の中の構成員たちを一気に制圧したのだ。
もちろん地下空間も含めてだ。
ナビーの作戦通り、数に数で対抗したのだ。
百人以上いる街の中の構成員たちに対して、こちらも百体以上の仲間を投入したのだ。
マンツーマンディフェンスをしたようなものだ。
というか……攻めてるからオフェンスかもしれないけどね。
ただこれをするためには、一対一の状況を同時多発的に作らなければならない。
そうしないと、人質に危害が加えられるリスクが高まるからだ。
実は、この準備のために時間を要したのだ。
地下に作られた空間と地下道に対して、隣接するかたちで極秘に新たな地下道を作ったのだ。
大森林の『マナ・ホワイト・アント』たちの巨大蟻塚を作る能力を利用し、『正義の爪痕』が作った地下道に隣接するかたちで制圧部隊を配置するための道を張り巡らせたのだ。
本来の『マナ・ホワイト・アント』たちの能力からすれば、さほど時間はかからないのだが、奴らに気づかれないために慎重に進める必要があった。
地下道の位置や人の気配を察知しながらの作業のため、時間がかかったのだ。
奴らに気づかれないように、振動が伝わらない程度の距離をとりながら、新たな地下道を作った。
そして強襲するための接続ポイントを何カ所も作り、密かに隠し扉で繋いでいたのだ。
そして敵の動きを気配で把握し、マンツーマンの状態が作れるように、仲間たちを分散配置していたのだ。
それゆえに俺が作戦決行の合図を出した瞬間、接続ポイントの隠し扉から飛び出し、一気にマンツーマンで押さえ込んだのだ。
住人に対する被害も発生しなかったし、物音を立てることもほとんどなかったようだ。
一瞬での勝利だったのだ。
「もう諦めて投降しろ!」
俺はそう言って、スキンヘッドに詰め寄った。
「ふん、まだまだーーーー! えーい! 辺境伯たちを殺せ! 剣を奪い取れ!」
スキンヘッドがそう言うと、外壁の外でアンナ辺境伯たちを取り囲んでいた構成員たちが、一斉にクロスボウ発射した!
だが、そんなことをしても無駄だ!
そっちの対策もとってある!
アンナ辺境伯たちの近くに潜んでいた『スピリット・タートル』のタトルが、素早く種族固有スキル『亀城』を発動し、防御壁を展開した。
放たれた矢は、全て防御壁に弾かれ力なく地に落ちた。
そして次の瞬間——
左右に展開していた構成員たちが、大きな衝撃音とともに次々に弾き飛ばされた!
片側は『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウが駆け抜けたのだ。
構成員たちは皆弾き飛ばされ、飛ばされた瞬間に発動した『状態異常付与』スキルによって、麻痺状態となっている。
もう片方では、『家馬車』が自走して構成員たちを弾き飛ばしている。
これは『家精霊』こと『付喪神 スピリット・ハウス』のナーナだ。
レベルが上がったナーナは、自分自身である『家馬車』を自力で動かすことができるようになったのだ!
もはや馬車の概念を置き去りにしている…………自動車である!
しかもAI搭載型の自動運転自動車のようなものだ!
ナーナも同じく弾き飛ばす時に、『状態異常付与』スキルを使って構成員たちを麻痺させている。
これでほぼ制圧完了だ。
「馬鹿な……ハハハ……。これで終わりではない……、われらは『正義の爪痕』の強襲部隊だぞ……甘く見るな! 実戦テストに丁度いい!」
スキンヘッドの男はそう言うと、上着のポケットに手を突っ込んだ!
次の瞬間————
バンッ————
ボンッ————
ゴンッ————
「「「ぐがーーー!」」」
なに!
……どういうことだ!
麻痺していたはずの構成員たちが、突然『死人魔物』に変化してしまった!
変化していないのは、スキンヘッドの男とその周辺の幹部らしき男たち数人だけだ。
それ以外の一般の構成員は全て『死人魔物』になってしまった。
ありえない……
麻痺していて『死人薬』を飲むことはできなかったはずだ…………
まさか……
事前に、体のどこかに仕込んでいたのか…………
それをあのスキンヘッドの男が強制的に起動させたのか……
ポケットの中に起動装置のようなものがあったのか…………
仲間を捨て駒にするなんて……
だが今は考えている場合ではない!
全域で二百体近い『死人魔物』が発生してしまったのだ。
急いで倒さないと住民に被害が出てしまう!
俺は『絆通信』のオープン回線を通じて、仲間たちに即時殲滅の指示を出す!
いくら『死人魔物』になったところで、無駄な足掻きというものだ。
俺の仲間たちが、マンツーマンディフェンスできる人数で布陣しているのだ。
『死人魔物』になったところで、仲間たちが“一人一殺”の対応をすればそれで終わりだ!
「グリム様、この者たちの処置は我らにお任せください。やられっぱなしでは、ユーフェミア様に合わせる顔がありません。なにとぞ!」
近衛隊長のゴルディオンさんが、片膝をついて俺に訴えてきた。
彼らにも近衛兵としてのプライドがあるのだろう。
『死人魔物』は強いが、彼らもセイバーン公爵軍の精鋭だ。問題ないだろう。
俺は、ゴルディオン隊長に向かって首肯した。
「よし、ここのみんなは、ニアたちを追ってくれ! ここの戦いは俺がフォローする!」
俺はそう言って、ここにいるメンバーと飛竜たちをニアたちへの応援に向かわせた。
実はニア、リリイ、チャッピー、『竜馬』のオリョウには、極秘の任務を任せてあったのだ。
この『ナンネの街』の地下まで続く地下道を逆にたどり、セイバーン公爵領内にある『正義の爪痕』のアジトまで辿り着き殲滅することだ。
地下道はかなり広いので、飛竜たちが飛ぶこともできるはずだ。
飛竜たちに乗って地下道を追いかければ、それほど時間をかけずにニアたちに追いつけるだろう。
みんながニアたちを追いかける前に、俺はサーヤから偽装用の魔法カバンを受け取った。
そしてその魔法カバンから出す体で、『波動収納』から俺の作った『蛇牙裂剣』と『猪牙槍』を約三十人分取り出した。
兵士たちに使わせるためだ。
彼らは武装解除されていて、丸腰だからね。
ゴルディオンさんは、どうにかして武器を手に入れるつもりだったようだが、俺が出した方が早いからね。
兵士たちは、すぐにその武器を手に取り戦闘の構えをとる。
「私も戦います。今までの鬱憤を晴らさせていただきますわ!」
そう言うと、セイバーン公爵家三女のミリアさんも槍を取り、構えをとった。
俺はスキンヘッドの男と、『死人魔物』となっていない幹部連中を無力化するために動き出した。
奴らはクロスボウを連続して発射してくる!
だが、俺には当たらない!
ただ並みのクロスボウではないようだ。
奴らが持っているのは、連続発射できるクロスボウだ。
前に押収した連続発射型の吹き矢と同じように、クロスボウの矢が連続で発射されている。
どうも、はめ込み式のマガジンに短矢が詰まっているようで、自動で装填されるようだ。
相変わらず……武器の開発力も尋常ではないようだ。
俺だから避けられるが、普通の兵士だったらかなり厳しいだろう。
俺は、矢の雨を掻い潜り素早く近づくと、連続で『状態異常付与』スキルを使い、幹部男たちを眠らせた。
最後に残ったスキンヘッドの男も、死なない程度に殴り意識を刈り取った。
こいつだけは、一発ぶん殴りたかったんだよね。
そして服のポケットを探す……
なにやらスイッチのような魔法道具が入っていた。
やはりこの魔法道具で、あらかじめ何らかの方法で仕込んでいた『死人薬』を強制的に発動させたのだろう。
念のため、拘束した全員を丸裸にした。
これ以上、隠し道具などがあると不味いからね……。
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