268.孵化した、卵。
「ガーネちゃんかわいい、抱っこしてもいい?」
ロネちゃんがそう言うと、『カーバンクル』のガーネを抱き上げた。
ぱっと見は、ほんとにフェネックのようにしか見えない。
「わ、私も抱っこ……いいですか?」
『蛇使い』の少女ギュリちゃんが目を細めながらそうお願いすると、『カーバンクル』のガーネはギュリちゃんに飛び移り、肩に止まった。
いやー……本当に可愛い!
俺も……モフモフさせてもらいたいが……ここは自重しよう……。
この可愛くも頼もしい仲間は、きっとカーラちゃんを守ってくれることだろう。
ちなみに『虫使い』のロネちゃんの使い魔であるだん吉やその他の虫馬たちも、定期的に大森林で特訓をすることになっている。
彼らは、ロネちゃん以上の特訓をしてもらう予定だ。
ロネちゃんの虫馬たちは、俺の『フェアリー運行』の荷引き動物として働いてもらっている。
だが、正式にロネちゃんが仲間に加わったことによって、当初から考えていた虫馬たちの強化に本腰を入れられるので、『フェアリー運行』の仕事は当面お休みしてもらうことにした。
他にも荷引き動物はいるので、大きな支障はないと思う。
その分彼らには、大森林でのレベルアップに励んでもらいたいと思っている。
ロネちゃんを守れる強い軍団になってもらいたいからね。
『蛇使い』のギュリちゃんには『使い魔』はいないのだが、今までの感じからすると……存在していてもおかしくない気がする。
そうだ! 『ミノタウロスの小迷宮』であるミノショウさんに訊いてみよう!
『使い人』の戦いを見たことがあると言っていた。
なにか知っているんじゃないだろうか……。
ちなみに俺が『ミノタウロスの小迷宮』のダンジョンオーナーになったからか、ミノショウさんとも念話ができるようになったのだ。
試しに『絆』スキルの『絆登録』コマンドの『心の仲間』登録をしてみたところ、登録できてしまった。
これによってミノショウさんとも『絆通信』による一斉念話などもできるようになった。
(ミノショウさん、『蛇使い』に強い仲間がいたかどうかご存知ありませんか?)
(まぁグリムさん、話ができて嬉しいわ……うふふ。もちろん『蛇使い』にも仲間がいましたよ。『蛇使い』は、蛇だけでなく爬虫類全般を使役できる能力を持っています。私が知っている『蛇使い』には、常に側に控えている白蛇と、陸、海、空を統べる三体の『使い魔』がいました。その者たちがどこかに生きているのか、それとも代を重ねて使命を伝えているのか、または封印されているのかについては分かりません。いずれにしろ『蛇使い』にも強力な仲間がいるはずです)
なるほど……やはりいるようだ。
俺は礼を言って、念話を切った。
さて……問題はどうやって探すかだ……。
ロネちゃんのときは、だん吉が気配を察知して自分から来た……
カーラちゃんの『カーバンクル』は、運良く手に入れることができた……。
もし、だん吉のように気配を察知してくれるなら、とっくに来ているだろうし、囚われていたギュリちゃんを助けに来たはずだ……。
(ナビー、探すいい方法はないかな?)
やはり困ったときのナビー頼み……『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに訊いてみた。
(可能性の問題として……『蛇使い』スキルを発動し、広く仲間になるように呼びかけてみることで引き寄せることが考えられます。ただ爬虫類全般が引き寄せられて、その影響で居場所が組織に気づかれる可能性もあります。一種の賭けのようになりますので、お勧めはできません。それ以外の方法は、現時点では思いつきません。直接的な手段ではありませんが、『使い人』のことが書いてある資料や知っている者に当たって、情報を集めるというのも一つの手です……)
なるほど……さすがナビー……鋭い指摘だ。
まだスキルレベルが低いとはいえ、スキルを発動して呼びかければ、それに気づいて現れるかもしれない。
かなりいい案に思えたが、確かにそんな強いエネルギーを発したら居場所を組織に察知されるかもしれない。
迂闊にはできない。
「オーナー、オーナー、ちょっと話があるし! うち、面白い卵見つけてあるし! 多分霊獣の卵だし! ギュリちゃんが来た日に、突然現れた卵だし! ビリビリ予感するし! マジ意味あると思うし! 偶然じゃなく必然っしょ! まじまんじ!」
俺の様子を見ていた『ライジングカープ』のキンちゃんが、突然閃めいたようでそんな話をしてきた。
最初はなにを言っているのか意味がわからなかったが…………
もしかすると…………
「キンちゃん、それ霊域にあるの? なんの卵かわかる?」
「そこまで詳しく見なかったし。オーナーの『波動鑑定』なら、すぐわかるっしょ! 今もってくるし! ちょっと待ってるし!」
キンちゃんはそう言うと、凄まじいスピードで空を泳いで行った!
あっという間に見えなくなった!
てか、どんだけ速いねん!
レベルアップの効果なのか……。
少しして、キンちゃんは戻ってきた。
帰りは『ドライアド』のフラニーに、転移させてもらったようだ。
キンちゃんが口を開けると、メロンくらいの大きさの銀色の卵が出てきた。
マスクメロンのように、細かい筋がいっぱい入っている。
おお……ほんとだ……なんか予感が走る……独特のオーラがあるな……
そう思っていると……ギュリちゃんが卵の方にそっと近づいていく……
「え、なに…………私……うん……」
そう言いながら、ギュリちゃんが卵を抱き上げた。
さっき『バンクルストーン』と会話をしていたカーラちゃんと、同じような状態だ……。
ギュリちゃんが卵を抱き上げた途端、卵は暖かく柔らかな光を発した!
これは……
どうもギュリちゃんから、魔力と生命エネルギーのようなものが卵に流れているようだ。
もしかして……吸い取られているのか?
危なくないのかな……
俺は慌てて『波動鑑定』でギュリちゃんの状態を確認する……
…………確かにギュリちゃんの魔力が吸い取られているようだ……
だが、命の危険はなさそうだ……。
そして、すぐに光はおさまった。
——ガリッ、バリッ、バリバリッ
卵に横方向の亀裂が入った。
次の瞬間、卵の上半分が後ろに飛んだ!
卵の中から、まっ白な蛇が姿を現した!
少しずんぐりしている。
なんとなく……ツチノコっぽい感じだ……。
「ご主人様、お会いできて嬉しいです。私は『スピリット・ホワイト・スネーク』です。ご主人様をお守りするために、古き時代の『白蛇王』の『分け御霊』として転生いたしました。どうぞ私に名前をつけください」
生まれたての蛇が、突然そんなことを言い出した。
霊獣は、みんな霊獣になったときに、普通に話せるようになるらしいので、話すこと自体は問題ないのだが……
話の内容が衝撃的すぎる……
古き時代の『白蛇王』? ……『分け御霊』? ……転生?
「こ、こんにちは、生まれてくれて、ありがとう。わ、私はギュリです。よろしくお願いします。名前は……綺麗だし、可愛いから……白ちゃんでいいかな?」
ギュリちゃんが戸惑いながらも、すぐに名前をつけたようだ。
「ご主人様、ありがとうございます。必ずやあなた様をお守りいたします。あなた様をお守りする三体の僕たちもいずれ転生してくるはずです。既に転生している可能性もありますが……。『黒地王』『赤海王』『青天王』の『分け御霊』がいずれあなたの下に集います」
白ちゃんと名付けられた白蛇がそう告げた。
先程のミノショウさんの話と符合する。
やはり白蛇の他に、三体の僕という存在がいるようだ。
話を聞く限り、その者たちも白ちゃんと同じように、転生してくるということか…………。
「僕はグリム、よろしく。ギュリちゃんの友達なんだ。今話に出てた三体の僕を探す方法はあるのかい?」
俺は思わず訊いてしまった。
やはり情報を集めないとね。
「強き王よ、すみません。探し出す術は、私にもわかりません。転生すれば、いずれ現れるはずですが……。ただ皆卵として転生してくるはずです。ご主人様の力無くしては、孵化するのに相当の時間を要するはずです。……不思議な気配を持つ卵を探せればいいかもしれませんが……、その方法も、残念ながらわかりません」
申し訳なさそうに、白ちゃんがそう答えた。
なるほど……そう簡単にはいかないわけね。
まぁいずれ集まってくるような気はするが…………。
とりあえず不思議な気配を持つ卵とかを見つけたら、すぐに確保するという程度のことしかできないが……。
まぁでも良かった。
三人それぞれに、味方として守ってくれる存在が現れてくれた。
今後の訓練はこの子たちも含めて行い、強く鍛えればより安全性が高まるだろう。
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