256.奴隷商人の、商館。
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文官三人衆に案内され、件の奴隷商人の商館にやってきた。
思ってた以上に立派な商館で三階建てだ。
一階が商談ルームで、二階三階に奴隷を置いているようだ。
俺たちが中に入ると、四十代くらいの太った男が出てきた。
頭頂部が禿げ上がっており、ちょびヒゲを生やしている。
「これはこれは……シンオベロン騎士爵様ではありませんか! お会いできて光栄です。私は、この商館を営んでおりますウリゾンと申します」
奴隷商人の男は、俺の顔を見るなり手もみしながら前かがみで寄ってきた。
復興式典などで俺の顔を見て、覚えていたのだろう。
「どうも、グリムです。こちらには子供の奴隷はいますか?」
俺は単刀直入に尋ねた。
「ええ、もちろんです。今ならまだおります。この時勢ですから、他に売りに行くことも考えていました。さすがシンオベロン閣下、運をお持ちのようです。今なら選び放題です。それに少し変わった奴隷もおりますし」
そう言って奴隷商人は、更に手もみした。
いいお客がやってきたと思っているのだろう。
「では早速、見せてもらえますか?」
「もちろんです。では二階へどうぞ」
俺たちは案内されるままに、二階に上がった。
そして俺は絶句した……
そこには……檻がいくつも並べられていた。
動物を入れておくような檻だ……。
檻に入った奴隷を見て回り、気に入った者を購入するという仕組みのようだ。
確かに子供たちがいる。
一番小さい子は五、六歳じゃないだろうか……。
十代前半と思われる未成年の子供たちが四人ほどいる。
かわいそうに……みんな怯えた表情だ。
そして大人の奴隷が三人いる。
男性一人に女性二人だ。
「みんな最近入荷したばかりの奴隷たちですよ。大人の奴隷は、大きな商人の屋敷で使われていましたが、悪魔の襲撃事件で主人が亡くなり親族が売りにきたのです。よく働くと思います。よろしかったら、子供だけでなく大人の奴隷も如何ですか? お安くしておきますので……」
奴隷商人が、あざとく売り込みをかけてくる。
「子供の奴隷はどうしたのですか?」
俺がそう尋ねると、
「親に捨てられたんですよ。今から仕込めば、なんでもさせられますよ。愛玩用にもいいですし……ヒッヒッ」
……愛玩用だと……
やっぱり殴りたい……。
「これで全部ですか?」
俺は一応確認した。まだ他にいるかもしれないからね。
「はい。通常の者は、これで全てです。ですが今回は特別に……一般にはお見せしない特別な奴隷をご紹介します。どうぞ三階にお上がりください」
奴隷商人はそう言って、階段を指差した。
確認してよかった。他にもいたようだ。
三階に上がると、二階同様に檻が並んでいた。
特別な奴隷は三階に置いているようだ。
そもそも特別な奴隷って……どう特別なんだろう……?
「いやー、実はある人たちに頼まれて、珍しい奴隷を探したんですが……その人たちが犯罪に加担したとかで捕まっちゃいまして……。どうしようかと思っていたんです。いやー、それにしても閣下は運をお持ちですな。こんな奴隷、探しても見つかりませんよ」
奴隷商人が満面の笑みで更に手もみした。
今の話……
犯罪に加担して捕まったというのは……おそらく『正義の爪痕』の構成員たちのことだろう……。
奴らは奴隷商人からも、珍しいスキルを持った者たちを買っていたようだし……。
詳しくは知らないまでも…… こいつも加担していたと言えるかもしれない。
こいつを犯罪組織に協力した罪で、逮捕できる可能性もありそうだ……。
周辺調査をすれば、ほぼ黒認定できるのではないだろうか。
「どう珍しい奴隷なんだい?」
俺が尋ねると、
「はい。それは……珍しいスキルを持っているのですよ。『ステータス偽装』というかなりのレアスキルを持っているのです。なんでも文献なんかでは、スキルレベルが上がると自分のステータスだけではなく、他人のステータスも偽装できるようになるらしいのですよ」
奴隷商人が自慢げな笑みを浮かべた。
鼻高々だ……
……なんかムカつく!
それにしても……『ステータス偽装』とは……
今の話が本当なら、犯罪組織の者なら喉から手が出るほど欲しがるだろう。
レベルが上がると、自分だけでなく他人のステータスも偽装できる可能性があるのか……
俺の固有スキル『波動』の『波動調整』コマンドのサブコマンド『情報偽装』と、ほぼ同じことができてしまうということらしい。
自分や仲間たちに使う分にはいいが、犯罪組織に使われるとかなり厄介な能力だからね。
もっとも『正義の爪痕』は、既にその効果を出せる特別な薬を開発して、実用化しているようだが………。
「まずはご覧ください。見た目もなかなかですよ……ヒッヒッ」
奴隷商人はそう言いながら、檻に掛けてあった布を外した。
中にいたのは……
亜人の少女だった。
耳と尻尾が付いている。犬の亜人だろうか……。
紺色の髪が印象的だ。
震えながら、うつむいている。
俺は密かに『波動鑑定』をしてみる……
お……? ステータス画面にノイズが入る。
そして二つのステータスが、順番に表示される。
俺のスキルで情報偽装した仲間のステータスを確認するときと、同じ状態だ。
つまり偽装したステータスと、本来のステータスが交互に見えるのだ。
普通の『鑑定』では偽装ステータスしか表示されないだろうが、俺の『波動鑑定』では本来のステータスと二つ表示されるのだ。
この子は既に『ステータス偽装』のスキルを使っているようだ。
この子は、犬の亜人ではなく狼の亜人のようだ。
年齢は十三歳、名前はカーラというようだ。
偽装しているのがバレないように、敢えて『ステータス偽装』のスキルの表示は消していないようだ。
そう……もっと隠したいスキルを知られないように……。
彼女は驚くべきスキルを持っていた……。
『石使い』………なんと……彼女は『使い人』スキルを持っていたのだ。
しかも『石使い』スキルは、伝承にある『十二人の使い人』に出てくるスキルでもある。
おそらく彼女は、このスキルを隠すためにステータス偽装をしているのだろう。
「この子は、どのようにして手に入れたんだい?」
俺がこの子に興味を示したので、奴隷商人はほくそえみながら自慢げに話し出した。
「珍しいスキルを持った子供を高く買うという噂を流したら、親を失ったこの子を引き取っていた親戚が売りにきたんですよ」
なんて酷いことを……
親戚に捨てられて、身寄りがなくなったということか……。
「この子はいくらだい?」
俺が奴隷商人にそう尋ねると、ずっとうつむいていた狼亜人の少女は顔を上げた。
怯えた表情を浮かべた少女に、俺はできるだけ優しく微笑んだ。
「そうですね……二百万ゴルで構いませんよ」
奴隷商人が、作り笑顔でそう言った。
「「「二百万! 」」」
一緒に聞いていた文官三人衆が驚きの声を上げた。
「子供の奴隷に二百万なんて、桁が一つ違うんじゃありませんか⁈ 」
女性文官のフルールさんが食ってかかった!
「いやいや、普通の奴隷ではありませんから。今説明した通り特別なスキルを持っておりますので、二百万でも大分サービスしたつもりなんですが……」
奴隷商人はそう言って、一瞬浮かんだ笑みを抑え込んだ。
こいつ……絶対ぼったくってるな……。
「ちなみに、二階にいた子供の奴隷たちはいくらだい?」
比較するためというわけではなく、あの子たちも助けるつもりなので確認した。
「そうですねー………特別におまけしましょう。年齢に関係なく一律一人50万ゴルにしときますよ!」
「「「五十万! 」」」
また文官三人衆が驚いている。
「五十万ゴルは高すぎじゃないですか! 子供の奴隷は二十万から三十万が相場だと思いますが」
マキバンさんが、憤りながらそう言った。
「いえいえ、私どもではいつもこの値段です。もちろんまとめてお買い上げいただければ、勉強させていただきますが……」
悪びれもせずに、奴隷商人はそう言って手もみした。
「仮に子供たち全員と大人の奴隷三人、それにこの子……つまりこの商館にいる奴隷全員購入としたら、いくらにしてくれるんだい?」
俺はそう尋ねた。
どうせなら子供たちだけでなく、大人の奴隷も保護してあげようと思ったのだ。
犯罪を犯していたり、なにか問題があるようなら別だが……そんな風には見えなかった。
「そうですね……特別なスキル持ちが二百万、子供が四人で二百万、大人の奴隷が一人……八十万で三人で二百四十万、全て合わせて六百四十万ゴルになりますが、特別に六百万ゴルにいたしましょう!」
奴隷商人はわざとらしい困り顔を作って、値段を提示した。
コノヤロウ……絶対にぼったくってるわ……。
マキバンさんが、俺に耳打ちしてきた。
「グリム様、どう見てもぼったくりです。普通で考えれば、子供たち四人で百二十万、大人三人で百五十万、特別なスキルを持ってる子が百万だとしても、合わせて三百七十万ゴルがいいとこです」
なるほど……普通に考えれば、それが相場ということか……
倍近くぼったくろうとしてるわけね。
「その値段では、買う気にならないな。せいぜい四百万ゴルってとこだろう。まとめて買うんだから三百五十万くらいにはしてもらわないと…… 」
俺は意図的に……あっさりと興味を失った雰囲気を出しつつ、そう告げた。
「なにをおっしゃいますやら、そんな値段ではとてもお売りできませんよ」
奴隷商人は、完全に俺の反応を探っている感じだ。
俺は無言のまま……首をかしげつつ階段の方に足を向けた。
俺としては救出するために購入しないわけにはいかないのだが、 奴隷商人に必要以上に儲けさせるのは本当に癪なので、ハッタリをかました。
「分りました。それではキリがいいところで五百万にしましょう!」
「五百万……? 四百万までしか出すつもりはない!」
俺は、語気を強めつつ軽く威圧を込めてそう言った。
奴隷商人が、一瞬ブルっと震えたようだ。
「わ、分かりました。それでは四百万ゴルにいたします」
「それでは購入しよう」
こうして俺は、この商館にいる奴隷たち全員を購入した。
チャッピーのときと同じで、購入手続きとして俺の奴隷とする必要があったので、奴隷契約を締結した。
四百万ゴルを即金で出したときには、奴隷商人が驚いていたが、すぐにニヤけ顔になっていた。
値切ったが、本来の相場以上の値段なので、奴としてもホクホクなのだろう……。
奴隷になっていた者たちは、みんなろくな食事も与えられていなかったようだ。
やせ細っているし、汚れている。
奴はあんなに肥太っているというのに……。
俺は奴隷の人たちを、すぐに『フェアリー商会』領都支店本部に連れ帰ることにした。
まずは体を綺麗にしてあげて、なにか美味しい物を食べさせてあげよう!




