253.食べるお宝、発見!
『蛇使い』の少女ギュリちゃんが寝付いたのを確認して、俺はサーヤとともに大森林に移動した。
『アラクネ』のケニーたちと、打ち合わせをしたかったからだ。
念話で報告したので、俺が新たに『アイテマー迷宮』のダンジョンマスターになったことはみんな知っている。
それに伴って『アイテマー迷宮』も『テスター迷宮』同様、再起動中の守備防衛をする必要がある。
その責任者の人選の相談にきたのだ。
せっかく充実した大森林の戦力を削ぎたくないので、リンに頼んで『アイテマー迷宮』周辺の領域から野良スライムたちを呼び寄せようと思っている。
いつものように大森林でレベルを上げて、その後戻って巡回警備をしてもらおうと考えているのだ。
基本的にはスライムたちが巡回する体制をとればよいが、緊急事態に即対応ができるように責任者だけはレベルの高い者を置きたかったのだ。
「あるじ殿、『キマイラ』のキーマが適任と思います。キーマなら強さ的にも問題がありません。それに一体に三つの頭脳がありますので、様々な局面にも対応できるかと思います」
ケニーは、キーマを推薦した。
現在の主力級のメンバーなんだけど……
「もちろんキーマなら問題ないと思うけど……。こっちが戦力ダウンになってしまうんじゃないかい?」
「大丈夫です。みんなレベルが上がり、ほとんどの者はレベル30を超えています。以前とは比べ物にならない戦力です」
ケニーがそう言いながら、少し胸を張った。
「わかった。じゃあ、そうしようか。キーマもそれでいいかい?」
俺はそう言って、同席していたキーマに視線を送った。
「はは。身に余る光栄でございます。迷宮守護者として必ずや主様のお役に立ってご覧に入れましょう」
ヘビ頭がそう言って、こうべを垂れた。
「ワレも全力を尽くします!」
「ワタシも必ずや職責を全ういたします!」
ライオン頭とヤギ頭もそれぞれに決意を表明してくれた。
「早速ですが主様、具体的にどのように防衛すればよろしいでしょうか?」
ヘビ頭がそう訊いてきた。
「おい! それはワレが訊こうとしてたのだ!」
「なにをいうの! ワタシが訊こうと思ってたのよ!」
ライオン頭とヤギ頭が急に文句を言い出した。
「これこれ、良いではないか! 誰が訊いたとて同じじゃろ! まったく、いつも喧嘩しおって!」
最後に大蛇がそういって、蛇の体でライオン頭とヤギ頭をパシンッと叩いた。
なんか……デジャブ感が半端ない。
この三人というか……三身一体は相変わらずお笑いトリオのようだ……。
「迷宮の入り口は大きな岩で封鎖してあるから、その封鎖を何者かが解かないように周辺の警戒をしてくれればいい。魔物などが現れた場合には討伐。人族や妖精族が現れた場合は、様子を見て犯罪組織の人間と思われる場合は追い返してほしい。軍の兵士などの場合は攻撃せず様子を見て、俺に念話で報告してくれればいいよ」
「はは。かしこまりました」
ヘビ頭が代表して返事をした。
「あるじ殿、よろしければ迷宮の周辺に『マナ・ホワイト・アント』たちに目立たないように監視用の地下基地を作らせます。キーマやスライムたちの活動拠点として使えると思います」
ケニーがそんな申し出をしてくれたので、その手配を頼んだ。
詳細については、ケニーに任せることにした。
『アイテマー迷宮』のある不可侵領域の南側には、大きな山脈があり、その更に南側がセイバーン公爵領になっている。
そして北側にも大きな山脈があって、その手前が広大な魔物の領域となっているようだ。
大森林からもそれほど遠くないので、ケニーは遊撃部隊を中心にレベル上げを兼ねた実戦訓練として、その魔物の領域に出向くことも考えているようだ。
魔物の領域の魔物の数をある程度減らしておけば、突発的な暴走などが起きても対処しやすくなるからね。
俺はいつものように、ケニーに任せることにした。
それからケニーの報告によると、『ミノタウロス』のミノ太がまた里帰りをしたそうだ。
なんでも『正義の爪痕』のアジトが、迷宮の遺跡のような場所にある可能性が高いという話を聞いて、この近隣にある迷宮や迷宮だった場所の情報を族長に訊きに行きたいと里帰りを申し出たようだ。
ケニーも俺に役立つことなので、すぐに許可を与えたようだ。
確かに迷宮に住んでいる『ミノタウロス』族なら他の迷宮や古い時代のことも知っていたり、伝承されていたりするかもしれないね。
そういえばミノ太が前に『ミノタウロスの小迷宮』に遊びにきてほしいと言っていたけど……すっかり忘れていたな……。
◇
次に俺はリンを連れて、サーヤの転移で『アイテマー迷宮』近くに設置した転移用のログハウスに移動した。
リンに一緒にきてもらったのは、この近隣に住む野良スライムたちを集めてもらうためだ。
リンによれば、北側にある魔物の領域には、スライムたちはあまりいないようだ。
南側の大きな山脈にはそれなりにいるようなので、不可侵領域にいるスライムたちと合わせて結構な数が集まるのではないかとのことだ。
近くにいたスライムたちは、すぐにやってきた。
リンは話をして、早速仲間になってもらったようだ。
そしてリンは、この後やってくるスライムたちのことを、今いる子たちに任せるようだ。
大森林でのレベル上げの手配は、キーマがやってくれるだろう。
用件が済んで、俺は領都に戻ろうと思ったのだが……
なんとなく……この迷宮の南側にある森林が気になった……。
なんだろう……。
少しだけ森の中に入ってみることにした。
嫌な感じの気になり方ではないのだが……
ジャングルのような感じの鬱蒼とした森だ。
少し進むと……果物を見つけた。
これは………もしや………
俺は『波動鑑定』してみる——
おお! 当たりだ!
——『カシューの木』だ!
大きな木に、パプリカのような形の赤や黄色の実が沢山付いている!
『カシューナッツ』の木なのだ!
パプリカのような実は、『カシューアップル』と呼ばれ、生でも食べられるフルーツなのだ!
俺の元いた世界では、実は傷みやすく流通していないが、生で食べられるし、ジュースにしても美味しいとなにかで読んだことがある。
ジュースには確か……解熱や胃腸粘膜保護などの薬効もあったはずだ。
この世界でも薬用植物としても、認知されているのではないだろうか。
あとで『フェアリー薬局』に寄って、ハーリーさんに訊いてみよう。
ついでに前に買った薬草辞典なども借りて、『睡眠学習』で頭に入れちゃおう!
それからこの『カシューアップル』のジュースは、発酵させてお酒を作ることができたはずだ。
実際に作っている国もあったと記憶している。
お酒まで造れるなんて……素晴らしすぎる!
『カシューアップル』についている一般的に“種”と言われている部分が、『カシューナッツ』なのだ。
それから樹皮は染料の原料になり、樹脂はゴムの原料にもなるはずだ。
俺は元の世界にいたときに、農業をやっていたわけだが、果樹が好きで、日本で栽培されていない果樹も調べていたのだ。
面白い特徴があって、夢中になって勉強していた。
その中で『カシューの木』は、かなり優秀だったので覚えていたのだ。
実は食べられる、ジュースにもなる、お酒も造れる、薬用効果もある。
種の部分は、カシューナッツとして食べれる。栄養があり栄養バランスもよい。
木も染料やゴムの原料になったり、建築資材としてもかなり優れていると書かれていた。
本当に、素晴らしい植物なのだ!
これは、完全なお宝発見だ!
さっきの……なにか気になる感じ……もしかしたら『財宝発掘』スキルの作用だったのかもしれない。
とりあえず、採れるだけの実を収穫した。
ここは完全に……秘密のお宝スポットになった!
苗木を作って『フェアリー農場』に植えて、特産品にできるかもしれない。
俺のそんな喜びに、更に追加があった!
というか…… 『カシューナッツ』を上回る喜びの発見があった!
なんと! 『カカオ』を見つけたのだ!
『カシューナッツ』の木の群生地を通り抜けると、その日陰になっているところに今度は『カカオ』の木を発見したのだ。
『カカオ』の実が付いていたので、すぐにわかった!
『カカオ』の実の付き方は、かなり特徴的なのだ!
少しイチジクの実の付き方に似ているが、イチジクよりももっとインパクトがある。
イチジクは、枝から突然、葉もなく実が付くのだ。
『カカオ』はこれの更に上をいき、枝だけでなく太い幹から突然実が付いているのだ。
木にオデキができているような感じだ。
太い幹にそれが何個も付いているのだから、初めて見た人はかなりの衝撃を受けるだろう。
というか、果実だとは思わないかもしれないね。
『カカオ』を見つけたということは…… 一つの超絶に素晴らしい事実を意味していた!
そう! チョコレートが作れるのだ!
『カカオ』は、チョコレートの原料だからね。
もう今から、楽しみでしかない!
今回の『正義の爪痕』に対する対処で荒んだ俺の心に、眩い陽光が差した!
『カシューナッツ』と『カカオ』を同時に発見するなんて……もう奇跡としか言いようがない!
『財宝発掘』スキルさん、ありがとう!
元の世界で読んだ本に書いてあったが、『カカオ』は日陰を好むので、栽培国によっては、大きく育つ『カシューナッツ』の日陰で『カカオ』を育てるというセット栽培をしている国もあったはずだ。
まさに最高の組み合わせなのだ。
そしてカシューナッツ入りチョコレート……もうよだれしか出ない……。
俺は『カカオ』も大量にゲットした。
『カカオ』も苗木を作って、『フェアリー農場』に植えよう。
というか……これは領を挙げての事業にした方がいいんじゃないだろうか……。
絶対に特産品になると思う!
新たな特産品候補だ!
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