252.蛇使いの、少女。
俺たちは会議室から大広間に移動した。
俺が回収してきた物を確認してもらうためだ。
広場に置かれた物量を見て、全員が口をあんぐりとさせていた。
魔法のカバンを使ったにしても、あまりにも常識外れな物量に驚いたようだ。
だが……なんの質問も出なかった。
訊いても無駄だと思ってくれたようだ。
大きな装置については、王立研究所の研究員が調べないと詳しく解析できないのではないか、とのことだった。
クリスティアさんの話では、研究員が派遣されてきて、ここで解析するかたちになるだろうとのことだ。
この装置を王都にある王立研究所まで運ぶことは、襲撃などのリスクを伴うからのようだ。
それらの調整も含めてクリスティアさんの方で、王都に連絡をしてくれるらしい。
アイテムなどについては、『操蛇の矢』『操蛇の笛』『死人薬』といった明らかに『正義の爪痕』で作られている物は、調査対象物として王立研究所に事実上没収されるかたちになるだろうとのことだ。
それ以外の魔法道具や武具、回復薬などについては、アンナ辺境伯の判断で俺に報酬として与えると言ってくれた。
『正義の爪痕』の大きなアジトの殲滅及び構成員の捕縛、幹部の一人である『道具の博士』の討伐及び証拠品の確保などの報酬という名目のようだ。
討伐者やその功労者に戦利品を分け与えることは当然のことで、その判断も一次的にはアンナ辺境伯に権利があるとのことだった。
成果の大きさを考えると、この程度では全く足りない報酬であり、他にも報酬を考えるとアンナ辺境伯は言っていたが、別に無理にもらう必要はないと思っている。
審問官のクリスティアさん的にも、戦利品として俺に与えるというアンナ辺境伯の判断は当然のことのようだ。
クリスティアさんは、成果の重大性に鑑みれば、王国から別途報酬があるはずだと言っていた。
王国からの報酬って……なんかちょっと怖い気がするので……
クリスティアさんに、報告を上げるときに俺に対する報酬は必要ない旨、付け加えてもらうようにお願いした。
アンナ辺境伯から十分報酬が出ていると書き添えてもらえばいいと思う。
クリスティアさんは、ニヤっと笑っていたが………ちゃんと書いてくれるよね……。
まぁそれはともかく、俺はありがたく頂戴することにした。
魔法のローブや変身ベルトのような魔法道具や日本刀のような武器は、是非とも使ってみたかったからね。
魔法のカバンや魔法の水筒も、俺の仲間たちや商会の幹部たちに使ってもらえばいいと思う。
この二つのアイテムについては、『テスター迷宮』の『第一宝物庫』から入手した魔法道具の中にあったので、元々俺は持っていた。
それを『波動複写』すればいくらでも数を増やせるのだが、違うバージョンの現物が手に入るのはバリエーションが増えてとても助かるのだ。
現に『テスター迷宮』で手に入れた物については、階級も品質も高すぎて普通には配布しにくかったんだよね。
今回の物ならそれほど階級も高くないので、比較的配りやすいのだ。
武具については『中級』『下級』ばかりなので、あまり使い道はないのだが……
商会の武具販売店で、商品として販売してもいいかもしれないね。
回復薬については、これから始まる『ハンター育成学校』で使ってもらえばいいと思っている。
没収した馬車については、『ナンネの街』で商会の事業を始めるときに使用するのにちょうどいいので、有効活用できそうだ。
記録や資料については、クリスティアさんと、今後訪れるであろう王立研究所の研究員が分析に当たることになるようだ。
捕縛した構成員たちは守備隊の隊舎近くにある収容施設に収監され、順次クリスティアさんによる尋問を受けることになるようだ。
残念ながら『道具の博士』は生け捕りにできなかったが、その助手たちは生け捕りにできたのでそれなりの情報が引き出せるだろう。
『死人魔物』の死骸の検分と処理については、守備隊に任せることになった。
◇
領城での報告と打ち合わせが済んだので、俺はサーヤの転移で霊域にやってきた。
救出した『蛇使い』の少女ギュリちゃんの様子を見るためである。
霊域の俺の家に入ると………ギュリちゃんは目を覚ましていた。
今は『ドライアド』のフラニーが、つきっきりで面倒をみてくれている。
「あ、あなたは……」
入ってきた俺を見て、ギュリちゃんが口を開いた。
「俺の名前はグリム。もう大丈夫だよ。君は安全だからね」
俺はベッドの脇にしゃがみ、そっと話しかけた。
「お、覚えています。あ、あなたが助けてくれたのですね。ありがとうございます」
ギュリちゃんは目に涙を浮かべながら、お礼を言ってくれた。
ちゃんとお礼が言えるしっかりした子のようだ。
フラニーの話では、少し前に目覚めたとのことだ。
フラニーの方から救出した経緯と、ここが安全であることは伝えてくれたらしい。
『スタミナ回復薬』を飲んで、気力回復効果のある『スピピーチ』も半分くらい食べれたようだ。
あまり負担をかけたくなかったので、いろいろ訊き出すつもりはなかったのだが……
なんとなく間が持たず……少し質問してしまった。
彼女は答えてくれた。
十二歳ながら、かなりしっかりした子のようだ。
ギュリちゃんは捕まって一年以上経つらしいが、実際の月日は本人にもよくわからないようだ。
過酷な状況で、日にちの感覚も時間の感覚もなくなったのだろう。
『霊域』から東にある『アポロニア公国』という小国に住んでいたようだ。
住んでいた小さな村が魔物の襲撃で、ほぼ全滅してしまったのだそうだ。
その時に『蛇使い』スキルを得て、蛇や爬虫類を使って魔物からなんとか逃げることができたらしい。
小さな子供数人を救ったが、力尽きて倒れたところを何者かに拐われたそうだ。
その後『正義の爪痕』に引き渡されたらしい。
長い監禁生活のためか、その当時のショックのせいか、記憶が一部曖昧なようで、住んでいた村の名前などは思い出せないようだ。
本人ははっきりと言わないが、おそらく家族はみんな亡くなっている可能性が高い。
話を聞いてるだけで、涙が流れてしまう。
過酷な運命に翻弄されたようだ。
魔物に襲われ家族を失い、その後は悪の組織に監禁され道具としてしか扱われてこなかった……
心に深い傷を負っているに違いない。
『道具の博士』については、少しだけ情報を得ることができた。
毎日のように体を切り刻まれ、血を採取されていたそうだ。
そして死なないように、強制的に回復薬で回復させられるということを一年以上繰り返されたようだ。
試行錯誤の末、血とともに生命力のようなものを抽出することに成功し、それを凝縮してスキルの力を限定的に再現できるようになったらしい。
『道具の博士』がそんな話をしていたの覚えているそうだ。
『隷属の首輪』をはめられていたので、スキルの力で戦うことも、命令に逆らうこともできなかったそうだ。
自殺も考えたが、それすらも禁じられてできなかったようだ。
『正義の爪痕』……毎度毎度……聞けば聞くほど……虫酸が走る……。
絶対にこの『正義の爪痕』という組織は、壊滅させなければならない。
俺は改めて固く決意した。
そしてギュリちゃんに、ゆっくり静養しながら『霊域』で暮らすように言って、休ませた。
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