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249.救援で、脱出。

 まさか……避難誘導がトラップなんて考えもしなかった。

 避難する時間が三分あると信じ込んでしまっていた。


 証拠とともに侵入者を消し去るための罠なのだろう。

 こんな罠を考えるとは……

 悪知恵だけは働くようだ。

 どこまでもふざけた奴らだ!


 俺はまだ三階の居住設備を回収している途中だ……


 うわ! 天井にある無数の突起から炎が吹き出した!


  動物たちが危ない!


 俺は急いで地下一階層に向かおうと思ったのだが、予想もしない仲間から念話が入った。


(オーナー! もう大丈夫だし! うちたちが助けに来たし! まじまんじ!)


 おお! 『ライジングカープ』のキンちゃんたちが、助けに来てくれたようだ。


(キンちゃん、ありがとう! 今どこだい?)


(今、入り口の扉を突き破ったとこだし! うちたちにかかったら、こんな防壁、無いのと同じだし! 壁なんて勘弁だし! ダジャレじゃないし! オーナー、残りの仕事やっちゃって! うちたちが全部消火しちゃうし! 動物たちも助けるし!)


(わかった。ありがとう! キンちゃん、頼むよ!)


 俺は急いで三階の残りの宿舎設備を回収し、地下二階に移った。

 ここは基本的に食料だけなので無理に回収する必要はないが、奴らが実験や製造に使っていた素材があるかもしれないので、燃えていない物は全て回収することにした。


 ここにもすぐに、キンちゃんたちが来てくれた。

 種族固有スキル『水芸』による放水で消火すると共に、火炎の噴出口も破壊しているようだ。


 カープ騎士たち凄い!


「オーナー、うちらに声をかけないなんて、マジ水臭いし。一緒に働くとマジ最高っしょ! うちらいつでも準備できてるし! 遠慮はいらないし。うちらのペナントレースはもう始まってるし! 先発でも抑えでもどっちでもいけるし! なんならバッターでもピッチャーでも、“二刀流”みんなオーケーだし! みんなトリプルスリーだし!」


 キンちゃんが俺を見つけて近づきながら、口をパクパクさせている。


「あ、ありがとう! ほんとに助かったよ……」


 いいタイミングで救援に来てくれて、本当に嬉しかったのだが………

 途中からなにを言っているのか……よくわからなかった……。

 あえて突っ込む気にはなれなかったが……

 ペナントレースってなによ?!

 ……先発とか抑えとか……二刀流とか……

 全員トリプルスリーってどういう意味なの?!

 なんか前にもニアがそんなことを口走ってたが、なにがトリプルで、なにがスリーなのよ?!


 うーん、ダメだ……考えたら負けだ!

 こんなことを考えている場合ではないのだ!




  ◇




 少しして、全フロアの消火活動を終えた。

 もちろん俺も手伝ったのだ。


 そんなときだ……それは突然現れた!


「私は『アイテマー迷宮』管理システムです。『テスター迷宮』ダンジョンマスター様にお願いがございます」


 なんと……突然立体映像が現れた!


 まるで俺がダンジョンマスターをしている『テスター迷宮』のダリーじゃないか……


 黒髪だったダリーと違って茶髪だが、顔立ちが似ている。

 やはり日本人ぽい顔立ちの美人だ。

 そしてダリーと同様に、全身を白いマントのようなもので包んだ装いだ。

 立体映像であることはわかるが、相変わらずどこから照射されているのかわからない。


「これは……どういうことだい? この迷宮は生きているのかい?」


 俺がそう問いかけると立体映像の彼女は、ノイズが入ったように揺らいだ。


「機能は、ほぼ凍結されています。長い休眠状態にありました。限定的な情報収集機能のみが稼働していた状態です。その機能で、姉妹迷宮である『テスター迷宮』のダンジョンマスターのコードを、確認することができました」


 立体映像が力なくそう答えた。


「ここは『テスター迷宮』の姉妹迷宮なのかい? 『マシマグナ第四帝国』が作った人造迷宮ということかい? 」


「ご推察の通りです。この『アイテマー迷宮』は、人造の『錬金迷宮(アルケミイダンジョン)』です。テスト用迷宮の第三号迷宮です。第一号迷宮である『テスター迷宮』は、現在稼働しているのでしょうか?」


「いや『テスター迷宮』も、この前まで休眠状態だったようだ。長い休眠の間にかなりシステムが損傷していて、現在はシステムの再起動復旧モードに入っている。遮断状態になっているよ」


「そうですか…… この迷宮と同様の状態だったのですね。この『アイテマー迷宮』も二千年に及ぶ休眠の間に、かなりのシステムが損傷しています。『テスター迷宮』ダンジョンマスターのあなた様にお願いいたします。我が『アイテマー迷宮』のダンジョンマスターにも就任してください。再起動のご協力をお願いしたいのです」


 そういうと立体映像は懇願するような眼差しを向け、その後深々と頭を下げた。


 相変わらずこの立体映像技術……感情表現が凄すぎる……。


 どうも『テスター迷宮』と同様の完全停止寸前の危ない状態らしい。


「つまり俺がダンジョンマスターに就任して、再起動復旧モードを発動しないと迷宮のシステムが近いうちに修復不能になるということかい?」


「その通りです。『テスター迷宮』は私の姉のような存在です。どうかお力をお貸しください!」


 立体映像の彼女は、跪き胸の前で手を組むと、涙ぐみながら懇願してきた。


「わかった。いいよ。協力するよ」


 俺はすぐに返事をした。

 ダリーを助けたのに、この子を助けない理由がないからね。

 確かにダリーの妹のような存在のようだし……。

 失われた古代文明の貴重な遺産だからね。


「ありがとうございます。それではあなた様を、ダンジョンマスタールームに転送させていただきます」


 立体映像の彼女がそう言った途端、俺はすでに転送されていた。


 ダンジョンマスタールーム………『テスター迷宮』と非常に似た作りになっている。

 まぁ同じシリーズということだから、それも当然だろうけど……。


「ちなみに再起動と復旧には、どのぐらい時間がかかりそうなんだい?」


 俺がそう尋ねると、立体映像の彼女は首をかしげた。


「正確には……分りません。復旧にどのぐらい時間がかかるか……今の限定された機能では、正確に算出できませんので……。敢えて言うなら……数ヶ月もしくは一年程度と思われます」


「そうか……『テスター迷宮』と同じで、やってみないとわからないということだね」


「そうなります。再起動モードに入ると、完全に復旧するまでマスターと連絡できなくなります」


「それはいいけど……一応確認するけど、俺はダンジョンマスターになっても、なんの義務も発生しないんだよね。『テスター迷宮』でも、そういう約束でマスターになったんだけど」


「はい、大丈夫です。ただ再稼働後は『アイテマー迷宮』のマスターとして、迷宮の維持と防衛にご協力お願いします。実際の運営は、私の機能で実施いたしますが……」


「わかった。それならいいよ」


 まぁ丸投げできるなら、問題ない。


「この『アイテマー迷宮』は、迷宮内に出現する宝箱にセットされるアイテムの自動生成、および宝箱への設置・転送機能の改善検証をするためのテスト用迷宮なのです。ダンジョンマスターは、迷宮で作成可能なアイテムを、任意に作成し取得することが可能です。今の限定された機能では、作成可能アイテムのラインナップを提示することができません。ただ、お渡しできる特別なアイテムがございます。お礼としてお受け取りください。本来であれば、宝物庫の財宝やアイテムも提供できるのですが、現在はロックされており復旧後でないとお渡しできません。申し訳ありません」


 そう言って立体映像の彼女は、大きなテーブルに置いてあるアタッシュケースのような物を指差した。


 俺はケースを開いてみた。


「これは……」


 中には……ハチとネズミとスズメとメダカの等身大のリアルな人形が入っていた。


「それは『使い魔人形(ファミリアドール)』という名称の魔法のアイテムです。人形に魔力を通すと人造の『使い魔』となります。念による指示で、自由自在に動かせます。感覚共有機能で、視覚や聴覚などが共有できます。またオートモードも完備しておりますので、指示を出して自律行動させることもできます。元になっている生物の行動パターンが組み込んであります。自律行動中も、任意に感覚共有で情報を取得することが可能です」


 おお! なんか凄いのきた!


「わかった。じゃぁ、ありがたく貰っておくよ!」


「はい、ご自由にお使いください。それからこの迷宮の地上塔は完全破壊されております。そして地下の第一階層から第五階層までは、階層封鎖が解けオープンな状態となっております。再起動復旧モードが完了し、システムが復活するまでは階層封鎖ができません。今回のように部外者に利用されないように、入口を物理的に封鎖していただけると助かるのですが……」


「わかった。ただしばらくは、ここを使っていた犯罪組織の調査をするために、兵士が出入りするかもしれないが、調査が終わったら俺の方で対策をとるよ」


「はい。それで構いません。それでは早速、再起動復旧モードに入りたいと思います」


「最後に一つだけ質問させてほしい。この迷宮のように、他にも休眠状態で壊れかけているテスト用迷宮は残っているのかい?」


「可能性はあります」


「全部でいくつあるのかな? 場所もわかれば教えてほしい」


「テスト用迷宮の数や場所は、機密性の高い重要情報になりますので、現在の限定した機能ではアクセスできません。システム復旧後には、アクセスできると思いますが……。ただ情報自体が存在するかは分かりません。機密保持のために、あえて位置情報は取得されていない可能性もあります……」


 立体映像の彼女は、申し訳なさそうな表情でそう答えた。


 テスト用シリーズの迷宮全体を危険に晒させないための措置だろう。当然と言えば当然か……。


 俺としては悪魔の襲撃事件の元凶である白衣の男が潜伏してる迷宮も、この迷宮と同じ人造迷宮なのではないかと思ったのだ。

 作りがかなり似ているからね。


 それを確かめたかったのだが……まぁしょうがない。


 ただ十中八九……このテスト用迷宮の姉妹迷宮だと思う。

 完全に機能が損壊した遺跡かもしれないし、ここと同じく休眠状態なだけかもしれない……。

 この迷宮がテスト用の三号迷宮と言っていたから、少なくとも二号迷宮はあるはずだし……。

 なんとなく……もう少しありそうな気もする。



 俺は彼女の指示に従いダンジョンマスターとしての操作を行い、再起動復旧モードの手順を手伝った。


 ちなみに名前がないと不便なので、彼女にはダリスリーという名前をつけてあげた。


 名前をつけてあげたら、立体映像が少し揺れて、なんとなく嬉しそうな雰囲気を出していた。


 俺は転送で、地下一階層に送ってもらった。


 この後本格的な再起動復旧モードに入るようだが、再起動復旧モード中も調査で出入りしても特には問題ないようだ。


『テスター迷宮』のダリーのときもそうだったが、今回も迷宮自体が全部で何階層あるのか尋ねるのを忘れてしまった。

 二つの迷宮とも階層封鎖が解けているというような表現をしていたので、逆に言えば階層封鎖が解けていない階層があるということだと思うのだが……


 まぁ今更悔やんでもしょうがないし……

 階層の数を知ったところで、特になにかが変わるわけもないしね。

 単なる興味だから……気にするのはやめよう。



 一応、<称号> を確認したら『アイテマー迷宮ダンジョンマスター』が増えていた。




読んでいただき、誠にありがとうございます。

ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。

評価していただいた方、ありがとうございます。

感想をいただいた方、ありがとうございます。


次話の投稿は、27日の予定です。


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