247.迷宮遺跡、発見。
夜になって『キマイラ』のキーマから念話が入った。
どうやら目当ての迷宮遺跡の場所が、特定できたようだ。
人の出入りは確認できないが、中から人の気配がしているそうだ。
俺はキーマに転移用のログハウスを、目立たない場所に設置するように指示した。
サーヤの転移用に登録してあるログハウスを、『アイテムボックス』で持って行かせていたのだ。
ログハウス設置の完了を確認し、俺は早速『ロイヤルスライム』のリンを連れてサーヤの転移で移動した。
「お待ちしておりました、主様。この先に見えます大岩の下に、迷宮遺跡への入り口がございます」
キマイラの尻尾の大蛇が、そう教えてくれた。
意外と近いが、岩陰にログハウスを設置してあるので、迷宮遺跡の周囲からは見えないだろう。
「ありがとう、キーマ。よく見つけてくれたね。少し調べてくるから、ここで待機していてくれ」
「「「はは! 」」」
俺の労いの言葉に、大蛇頭、ライオン頭、ヤギ頭が一斉にこうべを垂れた。
俺は『隠密』スキルを使って、もう少し迷宮遺跡に近づいてみる。
地上部分にはいくつかの岩が積み重なっていて、塔の構造にはなっていない。
以前はあったのかもしれないが、現在は地上部分はないようだ。
地下に降りる傾斜がついた通路があるので、迷宮遺跡は地下に広がっているようだ。
いつものように、リンに『隠密』スキルと体色変化によるステルス機能を使っての潜入調査を頼んだ。
◇
数時間後、リンが戻ってきた。
「あるじ、悪い奴いっぱいいる。捕まってる女の子いた。『正義の爪痕』のアジトに間違いない」
よし! ドンピシャだったようだ!
キーマのお手柄だ!
リンに詳しい状況を確認すると……
全部で五階層に及ぶようだ。
構造的には『テスター迷宮』や白衣の男が潜伏している迷宮に、非常に似ているらしい。
一つのフロアが、ドーム球場一つ分ぐらいの大きさがあり、垂直の階層構造になっているという点が共通しているようだ。
各フロアの状態は……
地下一階層ーーー広い空間
地下二階層ーーー食料庫、家畜飼育場、養殖池
地下三階層ーーー構成員の宿舎
地下四階層ーーー色々な設備、少女が囚われている
地下五階層ーーー研究施設のようなもの、幹部らしき者の宿舎
現在の時刻が真夜中ということもあり、構成員のほとんどは寝ているようだ。
どうも百人以上はいるらしい。
そして囚われているのは、少女が一人だけのようである。
さてどうするか……
最優先すべきは、少女の救出だ。
………このまま救出してしまうか……。
ちょうど寝てる時間だし、見張りを一気に制圧できれば、全体を短時間に無力化することもできそうだ。
『共有スキル』に『暗視』スキルをセットしてあるので、仲間たちは暗闇でもある程度活動できるのだ。
サーヤに転移で、寝ている子供たち以外のメンバーを連れてきてもらった。
リリイ、チャッピー、アッキー、ユッキー、ワッキーは寝ているので、無理に起こさないようにした。
今回の作戦に参加するメンバーは、俺、ニア、リン、『ミミック』のシチミ、『スピリット・オウル』のフウ、『竜馬』のオリョウ、サーヤ、ミルキー、『トレント』のレントン、『スピリット・ブラック・タイガー』のトーラ、『 スピリット・タートル』のタトル、『スピリット・ブロンド・ホース』のフォウ、そして『キマイラ』のキーマだ。
『家精霊』のナーナは、『家馬車』の周囲十メートル程度でしか実体化できないので、今回は子供たちと一緒に留守番してもらうことにした。
作戦は……
俺が少女の救出に向かい、ニア、リン、シチミが幹部の捕縛に向かう。
その他のメンバーは、各フロアに散在する構成員を無力化するというものだ。
『共有スキル』にセットしてある『状態異常付与』で、『眠り』を付与し縄で縛りあげる。
そのときに危険な物や『死人薬』を使われないように、身ぐるみ剥いでしまうように指示した。
「よし! 全員『隠密』スキルと『暗視』スキルを発動させて、潜入開始だ!」
俺の静かな掛け声とともに、ミッションがスタートした————
中に入ると……各フロア薄明かりがついている。
固定式の松明が、一定間隔で設置されているようだ。
俺は地下四階まで駆け下り、少女を探す————
——いた!
大きな檻の中にベッドがあって、両手両足を器具で固定されている。
……酷い……。
両手両足が何カ所も切られ、血が滴り落ちている。
その下に受け皿のような器具があり、血を集めているようだ。
少女はピクリとも動かない。
俺はそっと檻に近ずき、少女に声をかける。
「大丈夫かい? 今助けるからね」
少女は顔を向ける力もないようで、上を向いたまま小さく呟いた。
「た、たす、け、て……」
そして少女は、振り絞るように声を出した。
早く助けてあげないと!
……檻の鍵が見当たらない……。
ええい、面倒だ!
俺は檻についている錠前を力任せに引き千切った。
———— ブーーン、ブーーン、ブーーン、ブーーンッ
しまった!
警報装置が付いていたようだ!
だが今更悔やんでもしょうがない。
まずはこの少女を助けないと!
檻を開けようと扉に手をかけたとき————
————ビビビビビッ
うう、痛い!
強烈な電撃が体を駆け巡った。
だが俺は限界突破の高ステータスと『雷耐性』スキルのお陰で、少し痛む程度だ。
逆にいえば、そんな俺でも痛みを感じるのだから、普通の人間なら確実に即死だろう。
警報が作動すると、檻全体に電撃が流れる仕組みなのだろう。
俺は鉄格子の扉を、力任せに引き千切って破壊した。
そして中に入って少女に『癒しの風』をかける。
「俺はグリム、君を助けにきたんだ。今助けるからね」
「あ、あう、あうが、う、うう……」
俺の言葉に少女はうまく返すことができなかった。
目からは大粒の涙が流れていた。
え……これは……『隷属の首輪』……
なんてことを……
飛竜たちがはめられ支配されていた『隷属の首輪』と、同じ物が付けられている。
これをはめて、スキルでの抵抗を封じていたのか……。
俺は『隷属の首輪』をやさしく外してあげる……
……よし! 問題なく外れた。
これで大丈夫だろう。
あとは少女を連れて脱出するだけだが……
万が一にも扉をくぐる時に、少女に電流が流れてしまったら即死してしまう。
そもそも電流なのかも定かではないが……
この世界に電気の技術は多分ないはずだからね。
なんだったにしろ……危険を避けなければならない。
俺は元になっていると思われる装置を破壊しようと思ったのだが……
ダメ元で『波動収納』に回収してみた。
果たして稼働状態のまま、しかも床に固定されている物を回収できるかわからなかったが、回収できてしまった。
床と一体扱いには、ならなかったようだ。
装置と接続されていた檻は一体扱いになったようで、一緒に回収されてしまった。
檻の中にいた俺と少女は、檻が床部分まではなかったために影響しなかったのかもしれない。
まぁそもそも魂のあるものは『波動収納』に回収できないから、回収物の中に生物がいた場合はその生物だけが取り残されるかたちになるんだけどね。
このフロアにあるなにかの製造装置のようなものも、回収してしまおうかと思ったのだが……
なにもなくなると後からセイバーン軍とかが来たときに、なんの調査もできなくなってしまう……。
でもこの技術は俺としても調査してみたい。
(ナビー、なにかいい方法ないかな?)
困ったときのナビー頼み……俺は『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに訊いてみた。
(一旦全て『波動収納』に回収した後に、元に戻せばよいと思われます。『波動収納』に回収した時点で、対象物の波動情報を取得したことになりますので、その波動情報を元にあとで『波動複写』することも可能と考えられます。ただ現物がなくデータのみの状態からの複写ですので、100%成功するかはやってみないと分かりませんが……)
なるほど……そうか……。
現物があるなら確実に『波動複写』できるが、データだけで複写できるかはわからないというわけか……。
とすれば現物をこの場で『波動複写』するのが一番確実だが……
これだけ大掛かりで複雑な装置を複写している時間はない……。
『波動収納』で回収するだけなら、時間はかからない。
ナビーに提案された通り、一旦『波動収納』に回収してすぐに元に戻す方法にしよう。
もし余裕があれば、後で引き返してきて現物を元に『波動複写』でコピーしてしまえばいいか。
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