240.吟遊詩人の、手紙。
吟遊詩人ジョニーの所持品を捜索したところ、楽器のリュートのケースに隠しポケットがあり手紙が入っていたとのことだ。
クリスティアさんの護衛のエマさんが発見してくれたそうだ。
普通では見つけられないような場所に、隠しポケットがあったらしい。
その手紙には驚くべき内容が書いてあったとのことで、クリスティアさんが手紙を読んでくれた。
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この手紙を誰かが読んでいるということは、私は死んでいるということでしょう。
誰かが私の行いを止めてくれたと祈りたい。
私にはもう時間がない。
私が私でなくなってしまう。
もう私でいられる時間は、一日に一時間程度しかなくなってしまった。
それすらも、じきになくなるだろう。
私は『正義の爪痕』という組織に捕まり、なにかの術をかけられているようだ。
薬も飲まされている。
何度かスキルを使って抵抗を試みたが、発動前に気を失わされてしまう。
途中からは妹弟たちを殺すと脅され、抵抗することもやめてしまった。
私の体を使った実験もしているようだ。
何度も切りつけられ、血を採取されている。
私の『死霊使い』というスキルは、極めて特殊なスキルのようだ。
十年程前に魔物に襲われたとき、突然発現したスキルだった。
妹弟たちを守りたいと強く思ったら、アンデッドを召喚し魔物を倒していたのだ。
二年ほど前に再び魔物に襲われたときにスキルを使ってしまい、その時に組織に目をつけられたようだ。
その後しばらくして、私は組織に拉致されてしまったのだ。
私を担当しているのは、『道具の博士』と呼ばれる者だ。
奴はほんとうに恐ろしい。
狂った奴だ。
とても人間の所業とは思えないことをする。
組織は、『使い人』と呼ばれるスキルを所持する者を見つけ出し、拐ってきているようだ。
少し前に『蛇使い』というスキルを持った少女を見たことがある。
彼女は私とは別の階で監禁されているが、同じ場所にいる。
『道具の博士』の実験棟と呼ばれている場所だ。
どうも迷宮の遺跡のようだ。
おそらく組織の秘密のアジトで、人目につかないような場所にあるのだろう。
助けを期待するのは、無理のようだ。
少女は体を切り刻まれ、血を採取されている。
その血を使い、蛇の魔物を誘導する道具を作り出したと饒舌に博士が語ったことがある。
少女は、その道具作りの原料として扱われているようだ。
逆に私の血からは、アンデッドを操る道具が上手くできていないようだ。
道具作りの素材ではなく、洗脳して手駒にする方針に切り替えたようだ。
その為に、私の人格を消そうとしているわけだ。
おそらく『蛇使い』の少女は、酷い目にあい続けるだろう。
毎日のように体を切り刻まれ、血を抜かれては薬で強制的に回復させられる。
その連続のはずだ。
もし私を倒してくれた強者がいるなら、頼みたい。
どうか『蛇使い』の少女を助けてほしい。
他にも『使い人』のスキルを持った人が捕らえられているかもしれないし、私のように人格を書き換えられ道具として利用されているかもしれない。
どうか、その人たちも救ってほしい。
そしてできれば、私の妹弟たちも救ってほしい。
どうか、どうか、救って下さい。
そしてもう一つ、大事なことがある。
にわかには信じがたいことだが、『道具の博士』が言っていたことだ。
どうも私は『死霊使い』スキルに、選ばれたようだ。
信じられない話だが、『使い人』のスキルは意志を持つスキルらしい。
スキルが所持者を選ぶらしいのだ。
もしその話が本当なら、私が死んでも『死霊使い』のスキルは、私の元を離れ新たな宿主に宿る可能性が高い。
私の死を知れば、組織が躍起になって新たなスキルの所持者を探すことだろう。
どうかその人が奴らの手に落ちないように、探し出して守ってほしい。
この手紙を、正しい心を持った強者が手にしてくれたことを祈るのみだ。
そして私でなくなった私がしてしまった行いを詫びるとともに、止めていただいたことに深く感謝する。
最後に
どうか組織を止めてほしい。
組織は『使い人』の力を集めて何かを企んでいる。
そして『使い人』は実験動物のように切り刻まれるか、人格を変えられて手駒にされる。
『使い人』以外にも特殊なスキルを持っている人たちを探し出し、拉致する活動をしているようだ。
そして迷宮の遺跡や、新たな迷宮を探し出し、貴重なアイテムを取得したりアジトとして利用しているようだ。
一刻も早く、囚われた人たちの救出を心よりお願いしたい。
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この手紙の内容を聞いて、みんなしばらく声が出なかった。
あの吟遊詩人ジョニーは、なにかの手段で人格を書き換えられていたようだ。
俺たちを襲っているときでも現実味がないような雰囲気だったのは、それ故だったのかもしれない。
それにしても組織の非道な行いには、本当に虫酸が走る。
蛇魔物を操る道具は、『蛇使い』の少女の血を使って作っていたようだ。反吐が出る。
こんな内容を知ってしまったら、吟遊詩人に頼まれるまでもなく早く救出してあげたい。
特に『蛇使い』の少女や吟遊詩人の妹弟たちが危険だ。
そして特殊なスキルを持っている人や『使い人』スキルを持っている人が狙われている……
『虫使い』スキルを持っているロネちゃんは、俺のスキルでステータス偽装してあるから通常の『鑑定』では見破れないと思うが……。
虫たちとのコミニケーションで感づかれる可能性もゼロではない。
ロネちゃんについては、重点的に警戒をした方がいい。
『フェアリー亭』を中心とする東エリアを担当している『マジックスライム』のリキュウのチームを、増員した方がいいかもしれない。
リーダーのリキュウにはしばらくの間、ロネちゃんに張り付いてもらうことにしよう。
どうにかして、『蛇使い』の少女が囚われている場所を見つけ出さないと……
手紙に書かれていた手がかりは、迷宮遺跡らしいということだけだ。
しかも人目に触れない迷宮遺跡……。
そんなもの……どうやって探せばいいのか……
「セイバーン領に戻るのはやめだ。私は再度王都に行ってくる。王城の中にある門外不出の秘蔵書物を漁ってくるよ。過去の迷宮及びその遺跡の資料を全て洗い出してくる。奴らの本格的なアジトは、一つではないはずだ。ほとんどは防衛しやすい迷宮遺跡のような場所に作っているに違いない。しかもほとんど知られていない、もしくは忘れ去られているような場所に違いない。そして奴らの行動範囲からして、少なくとも『蛇使い』の少女が囚われている場所は、おそらくセイバーン領に近いところに絞られるはずだ」
ユーフェミア公爵はそう言って、すぐに出発の準備を始めた。
これからすぐ王都に向かってくれるようだ。
俺の飛竜を貸し出して、シャリアさんとともに王都に向かってもらうことになった。
護衛の飛竜騎士を入れても六人の少人数だが、空を短時間で移動した方が危険が少ないと思う。
まぁ今の公爵なら『固有スキル』を得てパワーアップしているし、少人数でも大丈夫だろう。
ユーフェミア公爵と一緒に、『ナンネの街』まで行く予定だったミリアさんと、元々公爵と一緒にセイバーン領に帰る予定だった兵士たちも、今日の出発は取りやめた。
もう数日領都の様子を見ることになった。
もう襲撃はないと思うのだが、念のためということだ。
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