239.別グループの、目的。
ニアたちが拘束してくれた『正義の爪痕』の構成員に対する尋問を行なった審問官のクリスティアさんから、新たに判明した事柄の報告が行われた。
やはり今回街中で動いた構成員たちは、前回捕まえた者たちとは別グループだった。
そしてあの吟遊詩人ジョニーも『正義の爪痕』の構成員だったようだ。
『死霊使い』という特別なスキルを持っているので、普段は単独行動のようだが今回はチームを組んで計画を練っていたようだ。
死人が大量に出たこの領を訪れて、スキルの力で召喚する手駒を増やしていたようだ。
初めから大量のアンデッドを使った物量作戦を、仕掛けるつもりだったらしい。
いかに妖精女神や凄腕テイマー及び使徒たちが強くても、圧倒的な物量で攻め続ければ勝てるという作戦だったようだ。
普通なら力押しの無謀な作戦といえるが、あの無尽蔵に召喚できるチートスキルなら有効な作戦といえる。
戦っている中で死人が出れば、そのまま戦力として補充するという恐ろしい作戦でもあったようだ。
それができるなら、本当に無尽蔵に戦力を送り出せることになる。
『死霊使い』スキルは、死んだ直後の死体なら、魂が昇華されて怨念がなくても、少しでも負の念の残滓があればアンデッドとして使役することが可能らしい。
『死霊使い』のジョニーが、作戦説明のときにそう言っていたそうだ。
本当に恐ろしいスキルだ。
行動目的の一つは、特別な戦力である『死霊使い』の使役するアンデッドを増やすことだったようだ。
このグループにとっては、ユーフェミア公爵やアンナ辺境伯は必ずしも第一ターゲットではなかったらしい。
そして、もう一つの目的があったようだ。
大きな混乱に乗じて、女性や子供を誘拐する作戦を立てていたようだ。
別グループにもかかわらず、また女性や子供を拉致しようとするなんて……
組織にとっては、それだけ利用価値があるということなのか……。
ニアたちが拘束した構成員は、全部で十二名だったようだ。
ニアたちは十三体の『死人魔物』を倒したとのことなので、全部で二十五人潜んでいたことになる。
やはり『認識阻害薬』を飲んでいたようだ。
『認識阻害薬』は、通常の『鑑定』スキルでは見破れない程度の偽装ができるようだ。
俺のスキルレベル10の『波動鑑定』を使えば、見破れたかもしれないが……。
会う人全てに『波動鑑定』をするのは大変だし、個人情報だから基本的には勝手に『波動鑑定』をしないように自主規制していたのだが……。
だが……そのせいで取り返しのつかない事態になったら、後悔してもしきれない。
今後は個人情報なんて言ってないで、『波動鑑定』をある程度まめに行った方がいいかもしれない。
全員とは言わないまでも、初見の人で城を訪れた者などに『波動鑑定』を実施しようと思う。
他にも尋問により領都内でアジトにしていた場所が判明したので、守備隊で突入したようだ。
構成員は他にはいなかったが、女性や子供たちが十五名捕まっていたとのことだ。
無事助け出され、この後クリスティアさんが知ってることがないか聞き取りをするようだ。
それにしても、助け出すことができてよかった。
女性や子供を狙っているということが明確になったので、取れる対策をとらないといけない。
特に子供を狙った人拐いは、一瞬のうちにやられてしまうことが多い。
『マグネの街』で、子供たちが拐われたときもそうだった。
いくらスライムの巡回警備や『野鳥軍団』『野良軍団』の監視網があっても、全てを完璧に見れているわけではない。
一瞬の隙でやられる可能性は、常にあるんだよね。
さて……どうしたものか……
おそらく拐われていた人たちは、『野鳥軍団』『野良軍団』が結成される前に拐われていた人たちだろうから、異常に気づくことができなかったのだと思う。
今後は二つの軍団の監視網があるから、異常を知らせる叫び声などがあればすぐに気づけるとは思うが……。
なにかいい対策はないか……俺は『自問自答』スキルの『ナビゲーター』コマンドのナビーに確認してみた。
……だが、さすがのナビーも画期的な案はでなかった。
『野鳥軍団』『野良軍団』『スライム軍団』を増員し、ネットワークの充実を図るしかないのではとのことだった。
ただ危険を全部拾えるほどの数となると……恐ろしい数になるし……。
誘拐されるときとかに、叫び声でも上げてくれれば、高確率で監視網に引っかかると思うんだが……。
待てよ……叫び声……
そうか! それだ!
『防犯ブザー』! そんな感じのものが作れないかな……。
まぁ『防犯ブザー』があっても、一瞬のうちに拐われたら無理かもしれないが……
それでも無いよりは全然マシだし、一瞬の隙があれば危険を訴えることができる。
よし! 俺は『防犯ブザー』のようなものを、開発することにした。
そこで、そんな提案を会議室にいる皆さんにしてみた。
「なるほど……なにか異常を知らせるものがあれば、巡回している兵士たちにも伝わりやすいし、周りの大人が気づくかもしれない。それはいい!」
ユーフェミア公爵が大きく頷いてくれた。
「そうですわね。それにしても……なにがいいのかしら……笛のような物かしら……」
アンナ辺境伯が、腕組みしながら首をかしげている。
「そうですね。笛のような物は一番作りやすいですし、誰にでも使えるとは思うんですが……」
俺も最初に考えたのは笛なのだが……
笛だと……手に持って、口に当てて吹くという二つの動作が必要なんだよね……。
できれば、手に持ったときにすぐに音が鳴るもの……一つの動作で音を発する物がいいんだが……
「そうね。失くさないように首から下げられる物がいいから、やっぱり笛が一番いいんじゃないかしら。
とりあえず笛を作って、後からより良い物ができたら交換すればいいんじゃない!」
ニアがそう言いながら、俺に視線を送った。
どうやら俺の悩みをお見通しのようだ……。
確かにニアが言うように、できることをまずやって、後から良い物ができたら交換すればいいかもね。
ということで、とりあえず笛の方向で考えることにした。
ちょっと吹いただけで、凄い音がでる笛を作ればいいかもしれないね。
その方向で考えてみるか……。
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