236.光の、雨。
ジョニーさんを中心に無数の魔法陣が地面に出現し、スケルトン、ゾンビ、火の玉のようなものが出現した!
突然のことに、みんな呆気にとられている……
ジョニーさんは先程までと同じように、にこやかな表情だ……。
これはまさかの演出……
いや違う! 危ない!
アンデッドたちが、一斉に襲ってくる!
兵士たちが一斉に我に帰って、立ち上がった。
すぐに構えをとっている。
ソフィアちゃん、タリアちゃんにスケルトンが襲いかかった——
——ボヨーンッ
——バンッ
よかった……護衛の『マジックスライム』のプヨと『アルマジロ』のマルが盾となって、受けてくれたようだ。
「ソフィアちゃん、タリアちゃんを守れ! 千手盾!」
俺はそう命じながら『波動収納』から『千手盾』を出して、子供たちの方に放り投げた。
そして次の瞬間——
なんだ! ……俺に一斉に念話が届いた!
街を巡回しているスライムたちや『野鳥軍団』『野良軍団』、そして領都近郊を巡回しているスライムたちからだ。
領都内及びその近郊全域に、突然スケルトンを中心としたアンデッドが大量に出現したようだ。
俺は『波動検知』で、アンデッドに焦点を当てる………
…………なんだこれは!
なんて数だ! とても認識できない……
(ナビー、アンデッドの総数はわかるかい?)
俺は即座に『自問自答』スキルの『ナビゲーターコマンド』のナビーに確認した。
(千体以上は確実です。現在も増殖中ですので、おそらく二千にはすぐに届く勢い……更に増える可能性が高いと思われます)
なんてことだ……
圧倒的な物量で襲ってきたということか……
それにしても……ほんとに『死霊使い』スキルを持っているのか……なんてチートスキルなんだ!
俺は吟遊詩人のジョニーに向けて『波動鑑定』をしようと思ったのだが……
……できない。
奴の周りを凄い数のアンデッドが囲んでいて、姿を見ることができない。
とにかく召喚している本体を倒さないと……
俺は奴に向けて鞭を放つ————
ビュウンッ————
————ボン、ボン、ボン、ボン、ボン、ボン、ボン、ボウンッ
スケルトンやゾンビごと打ち貫いたのだが、数が多すぎて奴まで届かない。
そして奴に近いところは、どうも上級のアンデッドたちが守っているようだ。
スケルトンも、ただのスケルトンではない。
上半身が人間で下半身が馬のケンタウロスのようなスケルトンもいる。
ミノタウロスのスケルトンもいるし、動物型の強そうなスケルトンもいる。
奥から順に強そうなのが並んでいる。
見える奴を『波動鑑定』すると……
……やはりただのスケルトンではない。
一番奥はよく見えないが、見える範囲のものだけでも…… 『スケルトンソルジャー』『スケルトンアーミー』『スケルトンジェネラル』『スケルトンロード』
やはり奴の周囲は上級のアンデッドが固め、その次に中級のアンデッドが並んでいるようだ。
更に上空にも、奴を守るようにローブを着た魔術師のようなものが浮遊している。
はっきり見えるので『波動鑑定』すると……
まじか……『リッチ』だ!
しかもレベルが65!
奴の周囲に、魔法の防御壁のようなものを張っているようだ。
他の上級アンデッドたちもレベル50以上、中級アンデッドはレベル30以上だ。
それ以外の通常のアンデッドは、レベル10前後なので大した強さではない。
ほとんどがこの下級のアンデッドたちなので、兵士にとっては敵ではないが……いかんせん数が多い……。
領都内や近郊に現れたのは下級のアンデッドだと思うが、一般市民にとっては対抗できないレベルだ。
このままではまずい!
この物量では……いずれ死者が出てしまう……。
スライムたちや『野鳥軍団』『野良軍団』が頑張ってガードしてくれているとは思うが、数が更に増えていけばいずれ守りきれなくなる……。
兵士たちや仲間たちそしてユーフェミア公爵たちも、怒涛の勢いでアンデッドたちを粉砕しているが、いかんせん数が圧倒的すぎる…… 。
「ニア、リリイ、チャッピーそしてみんな、ここは俺に任せて外の領民たちを助けに行って! 傷ついた人たちを回復して、あとはアンデッドを殲滅してくれ!」
俺は仲間たちにそう指示を出した。
ここには強い兵士がいるから、仲間たちには領民の安全確保を優先してもらうことにした。
急がないと死者がでてしまいかねない……。
「オッケー」
「わかったなのだ!」
「了解なの!」
「「「はい!」」」
みんなすぐに行動に移った。
俺の仲間になっている飛竜たちも同時に出動した。
よし、あとは奴をどうにかしないと……
長期戦に持ち込むつもりだろうが……そうはさせない!
「さてさて、シンオベロン閣下、どういたしますか? あなたや妖精のニア様が強いのは存じておりますが……自分の身は守れても、領民全てを守ることなどできますか? “死なせない伝説”など今日で終わりです。あなたは、ただの偽善者ですよ。ハハ……ハハハハハ」
吟遊詩人ジョニーの声が大きく響いた。
なんなんだこいつは……
さっきまでの弾き語りのときと、まったく変わらない感じだ。
こいつに攻撃をされている現実味を感じないほどだ……。
異常者なのか……?
いやそんなことは、どうでもいい。
とにかく早くアンデッドの召喚を止めさせないと……
こうなったら『魔法銃』を使うしかない。
あれなら確実に届く。
そのかわり背後の城も吹っ飛ぶだろうが……。
迷ってる暇はないな……。
……………………いや……冷静にならないと……。
最小限の被害で、最大限の効果を出せるものはないか……
そうだ! ナビーなら!
「ナビー、現時点で最善策は?」
(一気に形成を逆転できる可能性がある手段があります。『魔法の巻物』の中に、光魔法系『聖なる光の雨』の巻物があります。アンデッドに特効の魔法です。これをマスターが使えば威力が激増して、一気に殲滅できる可能性があります)
それだ!
その手があった! さすがナビーだ!
戦いの局面こそ、常に冷静な判断を下せるナビーを頼るべきだった。
強力な相棒なのだから……。
俺はすぐに『魔法の巻物』を取り出した。
『テスター迷宮』の宝物庫で手に入れていたものだ。
全力で空中にジャンプした!
空中で体の向きを変え、巻物を下に向ける。
これでかなり広範囲に効果を及ぼせるはずだ!
「清めよ! 光の雨」
——シャッ
俺がコマンドワードを唱えると、領城周辺に大量の光の雨が降り注いだ!
まばゆい光に、一瞬視界を奪われる……。
スケルトンを中心としたアンデッドたちは、その一瞬で浄化され崩れ落ちていた!
アンデッドに対する特効は伊達じゃないようだ。
ただ高さがそれほど高くなかったので、領城周辺にしか効果は及んでいない。
俺は『浮遊』スキルを使いその場に留まり、念話で飛竜のフジを呼んだ。
そして騎乗して、更に上へと舞い上がった。
もう一度下に向けて、俺は全力で巻物を発動させる!
「清めよ! 光の雨」
——シャーンッ
すると領都内だけでなく、その周辺も含めた超広範囲にまばゆい光の雨が降り注いだ!
その光の豪雨の衝撃は、環状の残光となって更に周囲に広がった!
『波動検知』をかけると、先程までいた大量のアンデッドたちは浄化され不活化したようだ。
ただその召喚者である吟遊詩人が健在なので、新しいアンデッドが出現している。
俺はすぐに地上に降り立ち、吟遊詩人ジョニーを捕まえようとしたが……
浄化されて崩れていた上級スケルトンが、何体か再度組み上がった!
「なぜだ!? 光魔法の巻物ごときで……下級ならいざ知らず、中級や上級のアンデッドが浄化されるなんて……ありえない!」
吟遊詩人ジョニーは、先程までとは別人のように、感情をあらわにし叫んだ!
だがすぐに元の雰囲気に戻ってしまった。
「ですが……最強の『使い人』と誉れ高い『死霊使い』を甘く見てもらっては困りますよ。スケルトンやゾンビなどの実体のあるアンデッドは、スキルの力で操ることができるのです。浄化されて怨念が消えても、その骸は私の操り人形なのです。ハハ……ハハハハハハ」
奴はそう言って、上級スケルトンだったものを再度組み上げてしまった。
これが『死霊使い』の特別な力なのか……。
ただ組み上げたのは、二十体程度だ。
召喚のように無尽蔵に再構築することは、できないようだ。
これなら十分倒せる。
そう思ったときだ——
突然巨大な魔法陣が地面に浮かび上がった!
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