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227.来ちゃった、二人。

 冒険者パーティ『炎武(えんぶ)』のローレルさんたちとの話を終え、彼女たちにもお茶を勧めた。


 そんな時だ、突然羽音が聞こえてきた————


 あれは……見覚えのある黒い飛竜が二騎こちらに迫ってくる。


 どうして……


 瞬く間に近づくと、目の前に降り立った。


「リリイはやっぱりグリムと一緒にいたいのだ!」

「チャッピーもご主人様と一緒がいいなの!」


 なんとリリイとチャッピーが、飛竜に乗ってやってきたのだ。

 飛竜に乗ったふりをしてサーヤの転移できた俺と違って、本当に飛竜を全開で飛ばしてきたようだ。


 今日はすぐ帰るから留守番するように言っておいたのだが……


「どうして……留守番してるように……」


「いいじゃない! 私が引率してきたんだし。二人ともロネちゃんや養護院の子たちと会いたいんだって!」


 俺の言葉を途中で遮るようにニアが言った。

 ニアもついて来ていたようだ。


  二人が満面の笑みで俺に飛び込んでくる。

 怒られるとか全然思わなかったのかなあ……。


 まぁもう怒る気もなくなったけどね。

 やっぱり俺って甘いんだろうか……。


 そんなことより、中庭にいたみんなが驚いてる。

 代官さん、衛兵長、クレアさん、そして商会のサリイさんと冒険者『炎武』の皆さんが衝撃を受けている。


 そりゃそうだよね。

 八歳の子が飛竜に乗って、領都から猛スピードで飛んできちゃうんだからね。


 サリイさんもローレルさんたちも、あまりの衝撃に言葉を失い呆然としている。

 涙ぐんでいるようにさえ見える。

 それだけ衝撃的だったのだろう。

 凄腕の冒険者にまで衝撃を与えるこの子たちって……やっぱり天才かしら……親バカですいません。


 サリイさんは前に会っているが、ローレルさんたちは初めてなのでリリイとチャッピーを改めて紹介した。


 みんなリリイとチャッピーの可愛さに衝撃を受けたのか、登場が衝撃的すぎたからか、なぜか全員二人を順番にハグしている。


 リリイとチャッピーは少しびっくりしていたが、なんだか嬉しそうだ。


 本当は用件だけ済まして、すぐに領都にとんぼ返りするつもりでいたが……。


 予定を変更して、トルコーネさんたちや『ぽかぽか養護院』の子たちに会いに行くことにしよう。



 俺はもう少しだけ今後のことを代官さんたちと話したかったので、リリイとチャッピーとニアには待っててくれるように頼んだ。


 サーヤやサリイさんと、お茶休憩をしてもらうことにした。

 冒険者のローレルさんたちもニアと会えたのが嬉しいらしく、話をしたそうだったので一緒にお茶を勧めた。


 リリイとチャッピーはサリイさんが元冒険者だったことも知らなかったし、ローレルさんたちが冒険者ということにも驚いていた。

 そしてニアとともに、目をキラキラさせていた。


 前にニアやサーヤが話していた冒険者の話に興味を持っていたようだ。


 ローレルさんたちが凄腕の冒険者と知り、更に目を輝かせていた。


 ローレルさんたちも子供が好きなようで、二人の質問に優しく答えてくれている。




 さて要件を片付けてしまおう。


 俺は先程の打ち合わせの中で、どうしても引っかかっていることがあった。


 人口が増えたために『マグネの街』にはもう余分な土地がなく、住民が新規に土地を持てない可能性が高いということにひっかかっているのだ。


 今後の経済発展を考えても、人々のモチベーションを考えてもなにか対策を打った方がいい。


 お茶をしながらずっと考えていたが、土地を増やすにはやはり街を大きくする以外にない。

 俺は街を拡張しようと思いついた。


 半円形になっている『マグネの街』の北の外壁は、国の境界線にもなっていて広範囲にわたって東西に伸びている。

 街を越えても更に長く伸びているのだ。


 その外壁を利用し東側に街を拡張しようと思う。


 街の南門から出た街道の東側と西側には、『フェアリー農場』を作ってある。

 だが、東側農場の北の外壁に近いエリアはほとんど手つかずで残っている。


 そこなら問題なく街のエリアとして使えそうなのだ。

 もちろん多少の地盤整備は必要だが。


 俺の構想している形で拡張すると、半円形の街の東側に細長く拡張することになり円錐を横倒しにしたような歪な形の街になる。とんがり帽子やメガホンを横倒しにしたような感じなのだ。

 北にある国境線にもなっている外壁は、東西に伸びているが完全に平行に伸びているわけではなく少しずつ南東に下がってくる構造になっている。

 したがって南門の横から拡張するように真横に壁を作っても、右肩下がりのようになっている北側の壁とぶつかり三角形のような形になるのだ。


 だがこの際、形は大きな問題ではないと思う。

 普通はありえない形の街になるが、個性ということでいいんじゃないだろうか……。


 ということで代官さん、衛兵長、クレアさんに相談し了承を得た。


「守護としての最初の仕事が街の拡張とは、いつもながら予想の斜め上でした。流石です。すぐに計画の詳細を立案します」


 代官さんはそう言って、少し笑いながら目を輝かせた。


 ちなみに拡張部分の外壁については、妖精族に伝わる『魔法の巻物』を使って作ると言っておいた。

 前に手に入れた土魔法系の巻物『土壁瞬造(グランドウォール)』を使うつもりだ。

 これは戦闘の時の防御壁となる土壁を、瞬時に作るものだ。

 魔力調整が上手くできない俺が使うと……戦闘陣地用の土壁が、どデカい外壁になってしまうのだ。

 今回はあえて、その無茶苦茶な効果を利用することにした。


 細かな整備などは公共事業として行った方が、雇用対策になるので計画の立案を代官さんにお願いした。


 ただ代官さんからは、今後発生する公共事業なども発注したいので、できれば『フェアリー商会』の方で仕事を受けて人の雇用をしてくれないかと頼まれた。


 確かに役所の人材で公共事業の現場仕事をするのは大変だし、他の仕事に人員を回した方がいいかもしれない。


 ということで、俺は『フェアリー商会』の中に『フェアリー建設』を作ることにした。

 公共事業もそうだが、住宅やお店の建築なども受けてもいいかもしれない。

 街が拡張するということは、そういう仕事が増えるということだからね。


 新たな外壁については、数日のうちにサーヤの転移でやってきて、夜のうちに密かに作ってしまおうと思っている。


 そして既存のアーチ状の外壁の一部をくり抜いて、大きな通路も作ろうと思っている。

 切れ味抜群の『魔剣 ネイリング』を使えば、簡単にできそうだ。


 こうして俺の守護としての大仕事の第一号は『街の拡張』になった。



 これで、とりあえずの案件の打ち合わせは終わった。


 そしてお茶をしているはずのリリイたちの様子を見ると……


 なぜか『タンク』役のディグさん相手に、実戦訓練みたいな感じになっていた。

 なんかすごく楽しそうにしてるけど……


 リリイには『アタッカー』サラさんが、チャッピーには『斥候』のフェリスさんがマンツーマンで指導に当たっている。


 ほんとにこの子たちは、どこに行っても会う人たちに可愛がられ、そしてなぜか教えてもらっている。

 このまま成長したら一体どうなっちゃうんだろう……末恐ろしい……。





  ◇





 俺たちはトルコーネさんの『フェアリー亭』を久しぶりに訪れ、少し早い昼食をとることにした。


 相変わらずの大盛況だ。


 いつもなら二階の個室に通してもらうのだが、なんと今は宿泊客が多く二階の宿部分が全て埋まっているそうなのだ。

 宿屋としても、大繁盛になったらしい。


 他国から訪れる商人と冒険者が増えてるお陰のようだ。

 街の宿屋はどこも満室のようだ。

 逆に泊まる場所が足りなくて困っている旅人もいるらしい。


 少し待つと席が空いたので、すぐに案内してくれた。


 先程中庭にいた全員が一緒にきているので、かなりの大人数なのだ。

 冒険者パーティの一行も、リリイたちが誘ってくれて一緒にきたのだ。


「グリム殿、守護に就任されて驚きました。本当におめでとうございます」

「素晴らしい方が守護になってくれたと、街のみんなも喜んでいるんですよ」

「私も養護院のみんなもグリムさんが大好きだから、凄く嬉しいです!」


 トルコーネさん、ネコルさん、ロネちゃんが、そんな言葉をくれた。

 この一家は俺が貴族になっても、今まで通り普通に接してくれるので少しほっとする。


「皆さん、お元気そうでなによりです。守護といっても名前だけですから、なにも変わりませんよ。それにしてもすごいですね。宿の方も満室なんですね」


「ええ、そうなんです。追加でもう二人養護院の子たちに手伝いをお願いしているんですよ。どこも満室で、旅人たちが宿に泊まれなくて困っているようなんです。もし『フェアリー商会』で宿屋をやるなら、私に遠慮せずにやってください」


 トルコーネさんはニコッと微笑むと、競合となるはずの宿屋の開業を勧めてきた。

 俺としては『フェアリー亭』とダイレクトに競合するような事業は、近くではやりたくないのだが……。


 ただせっかく人が訪れているのに、宿泊できないのはよくない……。


「トルコーネさんは、二号店をやらないのですか?」


 こんなに盛況なら、普通は二号店の出店を考えるのではないだろうか。

 俺はそう思って尋ねたのだ。

 オープン以来の絶好調を考えたら結構稼げてるはずだし、二号店の開業資金も既にあるじゃないかと思う。


「はい。考えなくはないのですが……。隣に作るならまだしも、離れた場所だと目も行き届かなくなります。それに……そもそも好立地の場所に空き物件もありませんし……。無理に二号店を出店するよりも、ここに集中した方がいいような気もしているんですよね」


 なるほど……確かにそうかもしれない。

 そもそも条件のよい空き物件はないよね……。

 十分稼げてるわけだから、無理に広げる必要はない。

 雇用を創出するとかそういう目的がないなら、コンパクトに集中して質を高めた方が確実だね。



 今の街には宿屋が必要なのは間違いない…… さてどうするかなぁ……






 

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次話の投稿は、5日の予定です。


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