218.一石四鳥の、仕組み。
荘園の構想についての話は、無事に終わった。
俺にはもう一つ、食に関係する提案事項があったので、続けて提案させてもらうことにした。
それは食肉の調達についてである。
俺の元いた世界では、肉は家畜として豚や牛などを飼育し屠殺して食肉にしていた。
だが、この世界では食肉用の家畜を育てる風習はあまりないようだ。
野生の猪や鳥類などが豊富なので、肉は猟師が狩ってくるものとなっているらしい。
逃げ出した家畜の中に豚がいないのが不思議だったが、そもそも飼育されていなかったようだ。
わざわざ餌をやって育てて、それを殺して食べるという考えはないらしい。
薬草をわざわざ育てようと思わないのと同じかもしれない。
これは俺としても非常に都合の良い考え方なのだ。
特に俺の牧場の家畜は全て俺の『使役生物』になってしまうので、その子たちを殺して食べるなんてことはできないからね。
俺の牧場じゃなくても、やはりわざわざ育て殺すというのはイヤだったんだよね。
ただ食肉自体は、安定して供給された方が良いので、その安定供給の仕組みをしっかりと作りたいと思ったのだ。
俺の提案は……『領軍が食肉を調達し供給する』という仕組みである。
魔物退治をして、その肉を食肉として供給するのである。
領軍の実戦訓練として、定期的に魔物狩りに行くのだ。
これには四つのメリットがある。
一、訓練になる。
二、魔物の数が減らせる。
三、肉が調達できる。
四、肉の販売代金が軍の運営資金として入る。
一石四鳥で、我ながらいいアイディアだと思うんだよね。
『フェアリー商会』に食肉販売部門を作る予定なので、領軍は魔物を退治してくるだけでお金になるのである。
これなら平時でも、兵士たちが自分たちの食い扶持をある程度稼いでることになる。
兵士を増員しても、賄っていけるだろう。
兵士の数が多ければ、なにかあったときも安心度が高まる。
定期的に魔物を相手に、実戦を積んでいる熟練の兵士なら尚更だ。
もちろん猟師の狩ってくる野生動物の肉も、魔物肉同様に流通に乗せられるように買取をして、奨励するつもりだ。
ちなみに野生動物を狩って生計を立てている者を『猟師』といい、魔物を狩って生計を立てている者を『ハンター』というらしい。
前にトルコーネさんが言っていたが、迷宮に挑むものは周辺国では『冒険者』といい、この国では『攻略者』というようだ。
この領には、『猟師』はいても『ハンター』はほとんどいないそうだ。
猟師の生活安定と安全な狩猟の為に、情報共有を進めたほうがいいと思う。
そこで、俺は『猟師ギルド』の設立も提案した。
危険な場所の注意喚起や、需要が高まっている野生動物の情報をギルドが窓口になって提供するのである。
買取についてもギルドが窓口になった方が、猟師にとっては便利だろう。
将来的には『ハンターギルド』を設立して、積極的に魔物と戦えるハンターを育成するのもいいと思っている。
何かあったときの予備戦力として、人々の助けになると思うんだよね。
俺が読んでた漫画などには、冒険者たちが協力して街の人たちを守るというシーンはよくあったし。
領軍以外でも、人々を守れる戦力があるというのはいいことだと思う。
俺の一通りの提案が終わると、しばらく静かになった。
そしてユーフェミア公爵がゆっくり立ち上がり、拍手をはじめた。
それに促されるように、アンナ辺境伯やシャリアさんたちが全員立ち上がり、同様に拍手をした。
なぜか……突然のスタンディングオベーション状態になってしまった。
オブザーバーとして参加していたクリスティアさんと護衛のエマさんまで拍手しちゃっている。
……なぜに?
言葉はなく、頷きながら拍手だけが続く。
でもなんかみんな顔が上気している。凄くいい顔している。
男性文官のベジタイルさんに至っては、大量の汗と涙に加え、今度は鼻水もズルズルになっている。
もうビチャビチャになっている……なぜにそこまで……。
「いいねぇ、あんた、ほんとにいいよ! 素晴らしい! 特に軍で訓練を兼ねた肉の調達係をやるっていう発想がもう最高だね! もう笑うしかない! 笑いが止まらないよ! これはセイバーン領でもすぐに取り入れさせてもらう。部隊を分けて交代で魔物狩り……あいつら喜びそうだね。警備や訓練してるよりも、よっぽど生き生きするだろうよ」
ユーフェミア公爵は、ニヤニヤしながらそう言ってくれた。
「もちろんピグシード領でもすぐに取り入れます。肉の安定供給と兵士の精錬ができるんですもの」
アンナ辺境伯も声に力が入っている。
「『猟師ギルド』を作って組織化するのもいいし、ハンターを育てて守りの予備戦力と考えるのも最高だね。ただ『猟師ギルド』はあんたの商会で作ったらどうだい? もちろん領としても協賛等の支援をするだろうが」
ユーフェミア公爵にそう提案されたので、俺は疑問を投げかけてみた。
「一商会がギルドを作ってしまっても構わないのでしょうか?」
「そうさね……本来は同業者が集まってギルドを作る方が好ましいが、猟師のギルドを作ろうなんて考える商会はないだろうし、個人の猟師から出資金を集めるのも現実的ではない。
ギルド運営には金がかかる。半官半民のギルドにすれば、領から支援することもできるが半分はギルド独自で調達なければならない。お金が集めにくい特殊なギルドの場合、後ろ盾となってくれる大きな商会があった方が設立も運営も楽なのさ。
それに『商人ギルド』のギルド長ですら、一商会の会頭が就任することもあるくらいさ。だから全く問題ないさね。むしろ『フェアリー商会』が主導して作ってほしいというのが正直なところさ」
ユーフェミア公爵がそう言って、最後に視線をアンナ辺境伯に向けた。
「その通りです。ギルドの立ち上げと運営を成功させるためには、グリムさんの『フェアリー商会』に主導してもらうのが一番です。領としても運営支援はいたしますので、是非やってください。出来れば『ハンターギルド』もすぐにでも立ち上げてほしいくらいです」
アンナ辺境伯がそう言って、俺に期待の眼差しを向けた。
「わかりました。では『猟師ギルド』『ハンターギルド』を、『フェアリー商会』主導で設立する方向で考えます」
俺がそう答えると、公爵と辺境伯が満足そうに大きく頷いた。
「それにしても、ほんとにいいアイディアですわね。まったく……何者ですの?」
「まったくですわ。感動して少し震えました。やはりうちの人間に……」
少し話が落ち着いたところで、シャリアさんとユリアさんがニヤけながらそんな感想を漏らした。
「お母様やお姉様たちが言っていた意味が本当によくわかります。もう……私のものになりなさい!」
ミリアさんがまたそんなことを言って、俺の方に顔を近づけてきた。
「「ちょっと! ミリア!」」
「ちょっと!そんなの無理に決まってるでしょ!」
シャリアさんとユリアさんが慌ててミリアさんを止め、ニアもミリアさんのおデコを抑えながら抗議してくれた。
その姿を見てユーフェミア公爵とアンナ辺境伯、クリスティアさんがなぜか大笑いをしていた。
そして俺のギルド設立についても、荘園担当チームの文官三人が担当して手助けしてくれることになった。
ギルドは荘園とは関係ないが、食料の安定供給という意味で同じ担当者としてくれたようだ。
俺は早速三人に、猟師を生業としている領民のリストと、ギルド長にふさわしい人材がいないか探すように依頼した。
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