217.荘園の、構想。
遅めの昼食を食べ終わった後、俺はニアとリリイとチャッピーを連れて出かけた。
飛竜に騎乗し、領都の各街道沿いにある荘園だった場所とその周辺を探索したのだ。
新しく作る荘園の計画を立てるためだ。
領都には大きな川が四つ流れ込んでいて、その他にも小さな川がいくつか流れている。
どのエリアでも、水はある程度確保出来そうだ。
俺の『フェアリー牧場』と『フェアリー農場』の予定地は、北東の街道沿いということになっている。
街道の左右に、それぞれ大きな川がある。
街道からそこまでのエリアを俺の場所にしようと思う。
街道から南東側を『フェアリー農場』、北西側を『フェアリー牧場』にする予定だ。
『フェアリー農場』の南隣にあたる場所から、外壁に沿って円を描くような形でエリアブロックを作る。
そして『フェアリー牧場』に隣接するまでの一周を、七つほどのブロックに分ける。
『フェアリー農場』『野菜第一荘園』『果樹荘園』『野菜第二荘園』『牧場荘園』『穀物第一荘園』『穀物第二荘園』『芋類荘園』『フェアリー牧場』という形で、外壁の周りをぐるっと一周まわるような円形の荘園エリアになる。
『果樹荘園』にしたところは、元々大きな果樹の荘園があった場所で多様な果樹が植わっていた。
その他のエリアにも、小規模な果樹園があり生き残っている果樹もかなりあったので、レントンに協力してもらい『果樹荘園』に移植しようと思っている。
大きな果樹の移植など通常では考えられないことだが、レントンの能力や仲間達のスキルを使えばできてしまうのだ。
生産効率を考えて、数の多い種類を『果樹荘園』に移植し、それ以外の少ない果樹は『フェアリー農場』で引き取ることにした。
果樹で多いのは、ぶどうとオリーブだ。
ぶどう酒とオリーブオイルという生活に欠かせない物を作るためなのだろう。
この領では、この二つは基本セットのようになっているようだ。
リンゴとプラムもセットで作っているようだ。
年間を通して作業が均一になるし、ある程度日持ちがするからね。
ビワやライチが大量に栽培されている。
かなりメジャーな果物のようだ。
その他にもオレンジが大量に栽培されている。
数は少ないがレモンやシークワーサー、夏みかんと思われる種類もいくつかあった。
俺の想像だが、これらはかなり酸っぱいのであまり人気がないのだろう。
植えてある本数が極端に少なかった。
ということで、これらの果樹は『フェアリー農場』で引き取ることにした。
残念ながら温州みかんは無いようだ。
温州みかんを広めたいので、この領都の『フェアリー農場』にも植えようと思う。
また大森林で苗を作ってもらえば、『マナウンシュウ』なら植えられるからね。
もちろん霊果にはならないと思うが、温州みかんとして美味しければそれでいいのだ。
『穀物第一荘園』にした場所には、元々ホップが植わっていて、結構生き残っていた。
ホップはビールの原料なのだ……絶対作るしかないでしょう!
この地方で一般的に作られているのは、上面発酵するエール酵母を使ったエールビールのようだ。
俺はなんとか底面発酵のラガー酵母を見つけて、ラガービールを作りたいと思っている。
切れ味抜群の爽快なビールが飲みたいのだ!
各市町で生き残っていた家畜動物達は移民と一緒に集められ、今は領都の外壁の内側に一時的な区画が設けられて飼育されている。
『牧場荘園』ができれば、すぐに移せる状態だ。
俺達は大体の調査を終えて城に戻った。
リリイとチャッピーが遊びたそうだったので、少しだけ川遊びをして帰った。
少しの時間だったが、小エビが大量に採れた。
料理長に頼んで、夕食に小エビを出してもらおう。
俺は領城に戻ると、荘園の計画の提案のために辺境伯達に会議室に集まってもらった。
普段は別室でソフィアちゃん達と遊んでいるリリイとチャッピーが、お土産を渡したいと言って会議室に入ってきた。
「川辺に綺麗なお花が咲いていたから、持ってきたのだ! 」
「エビさんもいっぱい採ったから後で食べるなの〜」
二人はそう言って、みんなにお花を配って回った。
「え! 川でエビを採ったんですの!?」
「い、いつの間にそんなところに……」
なぜかシャリアさんとユリアさんが絶望の表情になった……。
……そうか……そういえば、この前川遊びで二人は楽しそうに盛り上がっていた……。
……川遊びがしたかったってこと?
絶望するほど好きなんかい!
「豊かないい川でした。エビや魚が大量に採れると思います。今度みんなで行きませんか?」
俺がそう声をかけてみると……
「もちろん行きますわ!」
「明日の朝一にでも行きましょう!」
シャリアさんとユリアさんが、猛烈に、食い気味に、即答した。
ミリアさんや公爵達はキョトンとしている。
そしてなぜか……シャリアさんとユリアさんによる“川遊びの素晴らしさ”の全力プレゼンがはじまってしまい……
……明日の朝、みんなで資源調査という名の川遊びに行くことになってしまった。
ユーフェミア公爵は真面目な顔で、資源の調査が必要だと言っていたが……絶対遊びたいに違いない……。
まぁ食料も大量に確保できるだろうし、実利を兼ねた息抜きだからいいか。
アンナ辺境伯から、俺の構想を一緒に聞かせたいとして荘園を担当する文官三人を紹介された。
今後荘園の運営管理の実務を取り仕切ってくれる文官とのことだ。
俺はアイデアを出したり指導をするだけでよく、実際の実務は全て文官達がやってくれるということなので非常にありがたい。
「私は荘園を担当するチームの取りまとめを行いますマキバンと申します。誠心誠意務めさせていただきます。なんなりとご用命ください」
リーダーのマキバンさんは、ソフトな印象でありつつ、真面目な感じの如何にも文官といった雰囲気だ。
立ち居振る舞いにも卒がない。おそらく四十代だろう。
「わ、私はベジタイルと申します。が、がんばります。よろしくお願いします」
「私はフルールと申します。閣下のお力になれるように、全力を尽くします」
そう挨拶してくれたのは、補佐役の二人だ。
二人共若い。二十代前半だろう。
男性の方は、長身で筋肉マッチョではないがガッチリしている。
人の良さそうな素朴な感じの人だ。
滝のような汗をかいている。
女性の方は、スレンダーでボーイッシュな感じのチャーミングさんだ。
茶髪ショートとそばかすが印象的だ。
挨拶も終わり、俺は新しく作る荘園の構想を説明した。
新しい荘園の場所とブロック割、そしてブロック毎の栽培作物について説明をした。
そして俺の考えた荘園の主力事業についても提案した。
作物の栽培だけでなく、優れた加工品作りも計画しているのだ。
それについて個別に説明したのだ。
まずオリーブについて……
当然オリーブオイルを作るわけだが、今までやっていたような生産量重視の作り方ではなく、特色あるオリーブオイルを作る。
栽培品種に工夫を凝らし、抽出も品種毎に行い、味の違いを鮮明にする。
より上質なオリーブオイルを数種類作るのだ。
上質なオリーブオイルは、パンにかけただけでも美味しいし、野菜にかけて塩を振るだけで上質なドレッシングにもなるのだ。
次にブドウについて……
現状でもブドウ酒すなわちワインを作っているわけだが、より上質で評判を呼ぶようなワイン作りを行う。
やはり栽培品種を工夫する必要があり、ブドウ作りからになるが……。
赤ワイン以外にも白ワインそしてロゼも作れるし、一番作りたいのはスパークリングワインだ。
密閉容器を開発して、二次発酵させられれば炭酸ガスを含んだスパークリングワインが作れるはずである。
スパークリングワインそのものが普及してないようなので、かなりインパクトがあるのではないだろうか。
そして最後にビール作り……
現状でもエールは生産しているようだが、切れ味が良く爽快な飲みごたえのラガービールを作りたいと思っている。
これには底面発酵のラガー酵母を見つけ出さないといけないので、時間が必要かもしれないが。
みんな説明を熱心に聞いてくれたのだが、どうもスパークリングワインやラガービールについてはピンときていないようだ。飲んだことがなかったらピンとこないよね。
ただ俺がやけに力が入っているので、多分凄いのだろうという程度の感じだと思う。
このオリーブオイルやワインやビールは、質の良いものができれば、特産品にできると思う。
紡績品に次ぐ特産品候補としても有望と説明した。
説明を終えて、特に異論がでることもなく俺の荘園構想は満場一致で了承された。
新たな特産品候補のオリーブオイル、ワイン、ビールは、上質な物が出来れば王都はもちろん他領からも注文が入ると公爵が言っていた。
特にワインやビールなどの嗜好品は、美味しければ引く手数多になり、領の財政を支える大きな柱になる可能性があると公爵が念押ししていた。
アンナ辺境伯もユーフェミア公爵の話に、大きく頷きながら目を輝かせていた。
俺の説明を聞いていた文官さん達も、目を輝かせていた。
リーダーのマキバンさんは、「凄い計画です」をなぜか連呼しているし……
女性文官のフルールさんは俺をじっと見つめてくるし……
男性文官のベジタイルさんに至っては、なぜか泣いている。
もう大量の汗と涙でぐちゃぐちゃの顔になってますけど……
まぁ三人ともそれぞれの表現方法で、感動してくれたようなのでよかった。
ただそんなに感動するような話をした覚えはないのだが……。
移民の意向調査で農業を希望している者や農業経験者のリストは大体できているそうで、早速採用面接を始めると言ってくれた。
細かい打ち合わせはこれからだが、人がいないと始まらないので、採用は荘園担当文官チームに丸投げして進めてもらうことにした。
丸投げできる人がいてよかった……。
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次話の投稿は、25日の予定です。
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