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214.廃村と、新しい仕組み。

 式典が終わり、一息つく間もなく、俺たちは会議室に集まった。

 今朝未明にかけて行った救出劇の顛末を報告するためだ。


 最初に三カ所のアジトを急襲して、女性たちを救出したことを報告した。


 報告を聞いたアンナ辺境伯は、すぐに女性たちを迎えに行く手配をしてくれた。


 次に俺が構成員たちから聞き出した内容を報告した。


 俺の報告により、『死人薬』が相当数製造された可能性があることと、暗殺にも使える『連射吹き矢』が量産されていることが判明し、ユーフェミア公爵の顔が曇った。


「もはや……一つや二つの領の問題じゃない。国全体を揺るがす問題だ。国に本腰を入れて動いてもらう必要があるね…… 」


 ユーフェミア公爵は、国全体を上げて『正義の爪痕』の壊滅に取り組むように、国王に進言すると言って通信の魔法道具の準備をさせていた。


 国王から貸与されているという通信の魔法道具は、各領に一つだけあるのだそうだ。


『魔芯核』をエネルギーとして大量に消費するために、特別な時以外は使えないらしい。


 通信の魔法道具は『伝説の秘宝級(レジェンズ)』で、普段は厳重に保管されているとのことだ。


 最後に俺は、押収品を魔法カバンから出した。


 大した資料は残っていなかったが、構成員たちが使用する武器は全て押収した。

 もちろんあの『連射吹き矢』も入っている。


 ちなみに今回押収した『連射吹き矢』は、十五本であり全て提出した。

 出来れば、武器作りの参考にしたいので少し貰えないか尋ねたところ、十本貰うことができた。

 押収品としては、保管と分析のために五本あれば十分とのことだった。

 十本は俺の方で使うなり分解するなり、好きにしてよいと言ってくれた。


 今のところ、どう解体していいかもわからないが、将来的にこういう武器も作れるようになりたいと思っている。


 あと仲間たちに少し渡して、飛び道具として活用してもいいかもしれない。

 特に悪人を捕縛するとき、麻痺の吹き矢を使えば中距離攻撃として役立ちそうだ。


 俺の方から、もう一つお願いことをした。

 今回のアジトを破壊しないように頼んだのだ。


 慎重な『正義の爪痕』が再利用する可能性は低いだろうが、万が一また現れれば捕縛はもちろん手がかりを得るチャンスになる。

 そんな説明をして、スライムたちが時々巡回することを告げ、残してもらうことにしたのだ。


 実際既に俺の別荘扱いにして、サーヤのスロットに登録出来るようにしてあるので、いつでも転移で訪れることができるからね。



 報告やそれに伴う対応が終わり解散するかと思ったが、公爵は別の案件で話があるようだ。


「さて、式典も終わってこれから本格的に『領都』と『ナンネの街』の復興に取り掛かるわけだが、グリム、あんたはどこから取り掛かるつもりだい? もちろんしばらく領都にいてくれるんだろう?」


 公爵が期待のこもった笑みを俺に向ける。ただ最後の方は……ちょっと圧がかかってる感じだが……。


「はい。しばらくは領都で復興に力を尽くすつもりです。すぐ出来るのは牧場ですね。既に領都に作る二号牧場用の動物は確保しています。場所さえ決まればすぐに牧場を作れます。領都に来る途中に場所を見てきました」


「もう候補地を決めたってわけかい。どこにするんだい? 」


「マグネの街に続く北東の街道沿いの六つの村を超えた先に作ろうと思っています」


 俺がそう言うと、公爵が腕を組んだ。


「普通ならそれでいいんだけどね……この前の話でも荘園の村を復活させて、あんたには村とは別に独自に牧場やってもらうということになっていた。必然的に荘園の外側ってことになるわけだね。ただ今の状況じゃ荘園の村の復活が難しいんだよ……」


 公爵の眉間に少しシワが寄った。


「何か問題でもあるのでしょうか? 」


 俺が質問すると、公爵は紅茶を飲んで一呼吸してから話しだした。


「移民たちに意向調査をしているんだが、みんな外壁の外で暮らすのを怖がっているのさ。元々荘園の村で働いていた者ですら領都の中で新しい仕事に就きたいと思っているようだ。魔物が出た時に最初に壊滅したのが、外壁の外にある荘園の村だったらね。ほとんどの市町では兵士や衛兵が助けに行く間もなく、やられてしまったからね。何かあったときには、見捨てられると思っているのさ」


 なるほど……確かにそうかもしれない。

 俺がその立場でも危険な荘園の村で暮らすよりも、外壁の内側で暮らしたいと思うだろう。

 そう思うのは人情だな……。


 この領都に続く街道は、『マグネの街』に続く『北東の街道』と、『チュウネの街』その先の『タシード市』『トウネの街』に続く『東の街道』、『ナンネの街』に続く『南の街道』、『イシード市』に続く『西の街道』、『テシード市』に続く『北西の街道』の五つがある。


 それぞれに六つずつ荘園の村があり、合計三十の村を抱えているのである。


 仮に村を全て復活させたとして、今の領軍では十分に巡回することは出来ない。

 確かに、何かあった時にすぐに対応できるとは言いきれない。


 基本的にはスライムたちが巡回してくれているから、以前に比べれば段違いに安全なのだが、それでも完璧ではない……。


 この状況では、希望しろといっても無理があるかもしれない。

 かといって強制するのは、アンナ辺境伯もユーフェミア公爵も避けたいはずだ。


 これは……考え方を抜本的に変える必要があるかもしれない……


「確かにおっしゃる通りですね。領民の立場に立てば……安全な壁の中で暮らしたいと考えるのは当然だと思います。そこまで深く考えていませんでした。ここは考え方を根本的に変えた方がいいかもしれません……」


 俺がそう言うと、ユーフェミア公爵とアンナ辺境伯が目を輝かせながらニヤリとした。


「ほほう、もう何か浮かんだのかい? もったいぶらずに言ってみな!」


 ユーフェミア公爵が先を促す。


「はい。この際荘園の村を復活させないで廃止させてはどうでしょうか……」


  二人がキョトンとした顔をしている。


 シャリアさんとユリアさんはニヤニヤしているが、ミリアさんとクリスティアさんは公爵たちと同様にキョトンとしている。


「で、でも……それでは領民の食料が賄えません……」


 アンナ辺境伯は、我に返って顔を曇らせた。


「まぁいいじゃないか。最後まで聞いてみよう。どうせその先があるんだろ? 」


 ユーフェミア公爵は我に返った後、シャリアさんたちのようにニヤけ顔になった。

 何かを期待してくれているような表情なので、嫌な感じでは無いのだが……


「はい。村を全て廃し、栽培作物を見直しつつ領都に近いエリアに畑を集中させます。

 主要な街道だけじゃなく外壁と同心円状に道も整備して、外壁の周囲全体に荘園を作り直します。

 そして領都内から壁外の畑に、毎日通勤して仕事をするかたちにします。

 新荘園は全て領主の直営農園にします。年貢を納めさせるのではなく、労働者として雇用して作物を作らせるのです。出来た作物は領主が全て販売し、労働者には賃金を支払うかたちにするのです。

 ちなみに通勤については、私が『フェアリー運行』の支店を作り、乗合馬車の交通網を整備をします。

 これで無理に壁外に住まわせなくても、食料を生産することが出来ます」


 少し長い説明だったが、みんな頷きながら聞いてくれていた。


 俺の説明が終わっても、皆黙っている。


 ただ悪い反応ではなかったので、頭の中を整理しているというか、考えている感じだ。


 俺は黙って言葉が出るのを待つ……。


「なるほどですわ! 素晴らしいアイディアです! それでいきましょう! 」


 最初に言葉を発したのは、アンナ辺境伯だった。


「うん……そうだね。まったく……あんたってやつは……。廃村の先に、こんないいアイディアがあるとは思わなかったよ。ぶっ壊して新しく作り直す……まさに今のこの領にぴったりの施策だね。ただ問題は……ピグシード家で荘園を直接経営するっていっても、栽培の経験も商売の経験もないしね……」


 公爵が賛成してくれた。そして直ぐに問題点を指摘するのはさすがだ。


「ユーフェミア姉様、大丈夫ですわ。その点は私に考えがあります。

 全ての直営農園の指導と管理をグリムさんにお願いします。もちろん出来高に応じて報酬を払います。運営顧問というかたちにしますが、実質はグリムさんの農園と思ってもらってもかまいません。

 ピグシード家が全く荘園を持っていないのは、領運営を考えると問題ですし、グリムさんもその点を考慮に入れて提案してくれたのでしょう。

 ただ逆に言えば、形式上ピグシード家が荘園を所有していることになっていれば、全てグリムさんにお任せして、全体を統括してもらっても何の問題もありません。

 もちろんグリムさん独自の牧場や農場も予定通り作ってもらって構いません。ただ早い復興のためにも、全体の統括をお願いしたいのです。どうでしょう? 」


 アンナ辺境伯がそう提案してきた。

 公爵を始め他のみんなも大きく頷いている。


 うーん……まぁ協力してもいいか……。

 今でも『マグネの街』では自分の農場や牧場以外に、各村にも協力しているつもりだし。

 今後も協力するつもりだから、それとあまり変わらない感じだし……。


「そうですね。私でよければ、協力させていただきます。『マグネの街』でも各荘園の村に協力していますので、そんな感じでよければ…… 」


 俺がそう答えると、アンナ辺境伯を始め全員が首肯してくれた。


「よし! これで決まりだね。アンナもいいアイディアだよ! 頼むよグリム! 」


 公爵が破顔しながら、俺の肩を叩いた。


 そして荘園の配置や栽培作物の提案を一任された。


 公爵が俺に気を遣ってくれたようで、『マグネの街』に通じる北東の街道沿いについては、俺の個人的な牧場や農場を作るエリアにするようにと言ってくれた。

 公爵曰く、「最初に言っとかないと、遠慮して良い場所に自分の農場を作らない可能性があるからね」とのことだ。

 便の良い場所に『フェアリー牧場』を作って、出来るだけ多くの人を雇用してもらいたい。

 だから遠慮せずに使うようにとのことだった。


 まぁ確かに多くの人を雇用するには、外壁から近いエリアで面積を確保する必要があるからね。


 俺は厚意を受けて、そのエリアに自分の牧場を作ることにした。


 領都全体の荘園についても、早く着手しないといけない。


 さて、どういう作りにするかなぁ……


 ………ちょっとワクワクしてきた!







読んでいただき、誠にありがとうございます。

ブックマークしていただいた方、ありがとうございます。

評価していただいた方、ありがとうございます。

感想をいただいた方、ありがとうございます。

誤字報告いただいた方、ありがとうございました。助かりました。


次話の投稿は、22日の予定です。


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